【インタビュー】DEZERT、メジャーデビューという通過点からその先へ「一番認めたくなかった“ありがとう”という気持ちが出てきちゃった」

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■意味なんてない
■その先に行くしかない


──サウンド的にも、中盤のラウドでプログレッシヴなアレンジから、後半に行くに従ってエモーショナルになるというドラマティックな流れもあって。

SORA:サブスク時代となった現在は、1曲目から最後まで通してアルバムを聴いてくれる人って、あまりいないとも思うんですよね。もちろん、ファンはそうやって聴いてくれると信じていますけど。たとえば“MVの曲を聴いてみよう”とか1曲ずつ選べるわけだし、そういう感じでみんな曲を聴いていくと思うので。サブスク自体は、素敵な時代になったとは思うんですけど。だから、DEZERTのすごくカッコいい名刺代わりのアルバムができたから聴いてくださいっていう。俺としては、目次みたいにきれいな曲順だなって思うんですけどね。

千秋:素敵な時代だと思うの?

SORA:まあ、便利ではあるからね、サブスクは。

千秋:俺も聴けて嬉しいけど。でも、クソやなとかしか思わないな。正直、音楽ってそんなもんか?っていうか、俺からしたらBGMじゃないんだよね、音楽は。

SORA:たしかに昨今は、BGMとして音を流してるだけの人も多いよね。

──簡単に聴けるようになった分、音楽の捉え方や価値観の変化はあるかもしれません。

千秋:CDを買わないと聴けなかった当時に比べると、サブスクによって再生数はもちろん多くなった。でも、たぶん聴くパワーは落ちているんですよ。「ギターソロは聴かない」とかSNSでよくあったじゃないですか。俺からするとそれは、そのギターソロが良くないだけなんじゃないかと思う。でも、たとえギターソロが良くなくても、この新譜クソだなと思っても、お金を出して買ったり借りたものって、せっかく借りたからいいところを探そうってなるんですよ。それはCDのほうがいいということではなくて。音楽を無料で聴けることに関して違和感を覚えるんです。だから僕は、ライヴってすごくいいと思う。ライヴのチケット代が上がってしまっていることにはいろんな要素があるけど、みんな上げたくて上げているわけじゃないんですよね。音楽が安くなった分、パワーが増えているのがライヴだから。そうなると自然と上がっていくという。


▲SORA(Dr)

──生のライヴ体験はますます音楽にとって貴重なものになっていくでしょうね。

千秋:この間、“あいみょんの「マリーゴールド」をスピッツのボーカルの人が歌ってみた”という生成AIが出たんですよ。これが、マジでわからない。聴いたときに“もう、終わったな”と思ったくらい。

SORA:本当は生成AIで作曲してるけど、「AIは使ってないよ」って言う人も出てくると思うし。

千秋:俺はね、「音源は俺が歌わなくていいっていうふうにならない?」と提案したことがあるんですよ。「音源はもはやカタログだし、ライヴは俺が歌うから、別にそれでよくない?」って。もちろん、そんなのダメだからやらないけどね。でももしそうなったとき、生で伝えるからこそ共感を得られるライヴは、絶対にAIにできないもので。人生においてこれを大事にしようっていう再確認ができた。ニューアルバムはライヴへ向けたアプローチが詰め込まれているんです。

──だからこそ、言葉や音楽をまっすぐ届ける作品が大前提となったんでしょうか?

千秋:ずっとそうだったんですけど、そこに特化したのが今回。本来、日本武道館ワンマンとかメジャーデビューとなったら、逆なんですけどね。大海に出ることになるし、不特定多数の人に向けるわけだから。今も昔もそういう気持ちはあるけど、今回はかなり逆。今、ライヴに来ている人にどう伝わるのか。それがこの1年で見えた部分もあったんです。

──ヒットチューンを作ろうというアプローチではないと。

千秋:ヒットするなら、それはそれでいいですけどね。“ヒットしろ!”って思いながら続けて、もう12年。ヒットしなかったんだから、“好きにやるぜ、思ったことやるぜ”って、それってかなり強いですよね。今、心は一番インディーズですよ。

──挑戦がないと、意味がないですから。

千秋:心がインディーズのほうが、メジャーっぽいんですよ。そういうふうに思ってる自分も嫌なんですけどね。染まってるなって思うから。


▲千秋(Vo)

──では、改めて収録曲について聞かせてください。1曲目の「Hopeless」は最近作った新曲ということですが。

千秋:本当は1曲目と最後に置きたかったんです、「Hopeless」は。1曲目か最後か、じゃなくて。

──「Hopeless」でアルバムを挟みたかったということですか?

千秋:この曲で始まってほしいし、終わってほしい。アルバムの1曲目ってライヴの1曲目にやることになる…僕の世代はそういうパターンが多かったんですね。でもこの曲が持つテーマはどちらかというと、最後だったんです。問題提起ではなくて、小説でいうあとがきのイメージ。ストーリーには入ってこないけど、作者の言いたかったこと。僕はあとがきがめっちゃ好きで。「Hopeless」の歌詞は、まさにそれだったんです。曲調的に最初かなっていうのがあったので、1曲目になったんですけどね。このサブスク時代なかなか曲順通りに聴く人もいないとは思いつつも、できれば最後の「ともだちの詩」まで聴いて、そのままループさせて「Hopeless」を聴いてから一回終わってほしい。

──わかります。

千秋:「Hopeless」は一見暗そうな内容だけど、僕的にはまったくもって憂鬱を描いたわけじゃなくて。わりと本音の曲なんです。今、人生のなかで、その先を探してる最中なんです、僕は。人間って、調子がいいときはいろいろテンション上がったりするじゃないですか。SORAくんは今、まさに調子がいいと思っているんです。ドラマーとしてだけじゃなくて、自分がやりたかったことがどんどんできるようになってきている最中で、いろんなことを吸収しているスポンジ状態なんですよ。

SORA:たしかにそう。


千秋:僕は逆に、その感じが終わって、今その先を考えている…もちろんSORAくんの今を否定しているわけじゃなくてね。生きるために何が必要かとか、そういうことを考えることはなくなったんですよね、僕は。そこに意味はないんだと思うことにしたんです。僕の中でそういう宗教が確立されたんですよ…あ、なんで、「「宗教」」(2016年発表/アルバム『「最高の食卓」』収録)出しちゃったんだろう、今「「宗教」」って曲を作りたかったな。

SORA:ははは!

千秋:「宗教2」を作ってリリースするか…っていうくらい、僕のメンタルは一定だし、落ち着いているんです。

SORA:いいじゃん。いただきだよ、「宗教2」。

千秋:SORAは最近、そうやってプロデューサー気質になってるからなー。ストーリーばっかり。昔はもっとエモいやつだったのに。でもいいんですよ、こうして考えてくれる人がいるから、俺はあまり考えずに“意味なんてない”っていう状態でいられるわけで。その先に行くしかないじゃないですか、ここで終わりたいわけじゃないし。それを今、探しているというか、探すぞーっていう状態。だから「Hopeless」で終わるイメージが僕があるんです。“希望なし”って意味合いではなくてね。

──「Hopeless」のアウトロ部分は、不穏であり、幻影的でもあり、という余韻が印象的ですが。

千秋:そうなんです。「Hopeless」のテンポがBPM200くらいで、次の「きみの脊髄が踊る頃に」がBPM183なんですよ。「Hopeless」の最後はBPMを200から183まで落としてるんです。どれくらいの人がそれに気づくかな…あ、でもここで言ったらみんな気づくか(笑)。不穏ですけど、そんなもんじゃないですか、人の心って。僕は、晴れやかな心を信じてないし、“今、楽しい”っていうときも自問自答しているんです。“これは脳が作ってるまやかしだ”って。このアウトロは僕の今の心情というか。でもすごくマイナスではなくて…うまく表現するのが難しいですけど、“この音の中で生きていくんだ”みたいなイメージでしたね。Sacchanがピアノを入れちゃったので、僕の心にもうひとり入ってきちゃったという感じですけど。

──このピアノがあるからこその雰囲気だとも思うんです。アウトロが味わわせてくれる不思議な余韻って。

千秋:だからシャクなんですけどね(笑)。俺の心に誰か入ってきたという感じは、でもまあそれも人生かみたいな。



──それと、デモとしてずっとあったという「延命ピエロ」ですが、この“延命ピエロ”という言葉は2022年にリリースした「再教育」の歌詞にも出てきますよね。象徴的なものというか、テーマとして強いものだったのでしょうか?

千秋:“延命ピエロ”という言葉は、もともと僕のなかにずっとあったものだったんです。それにどう対処していこうかなって。「再教育」だけじゃちょっとわかりづらいかなというのもあったし。今回のアルバムに「再教育」も収録するので、もう1曲、このテーマでわかりやすいものを作ろうかなと。だから本当は順番が逆なんです。「延命ピエロ」の後の「再教育」だから。

──“延命ピエロ”は自分を映した言葉でもあるんですか?

千秋:すごく俯瞰で見た自分ですかね。こんなことを人から言われたら俺はムカつくけど、客観的に見たらこんな感じかなっていうイメージ。昨今、自分に対しての曲を作っていなかったし、ちょっと逃げてたなっていうのがあったので。「再教育」は、自分に対して言ってるのか、世間に対して言ってるのかっていうのが、際どいラインなんです。もっと主観的な曲を歌いたいというのがあって。今回、唯一なんじゃないかな、僕はすごく気に入ってますね。ツアー<DEZERT LIVE TOUR 2024 “The Heart Tree”【PHASE_1】-延命ピエロ編->のサブタイトルに入れたのは、気に入ってるからです。

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