【インタビュー】DEZERT、メジャーデビューという通過点からその先へ「一番認めたくなかった“ありがとう”という気持ちが出てきちゃった」

■ステージという土に心を埋めに来ている
■きっとそれは木になるだろう

──インタビューの最初のほうで「人間は心だよ」という話がありましたが、“The Heart Tree”という言葉にはどういったイメージがあったんですか？

千秋：ハートから始まって、そこにツリーがついたという感じ。ずっとテーマがハートだったんです。でもなんかハートだけじゃな…っていうなかで木が出てきたんですね。

──心が根付いていくようなイメージですかね？

千秋：根付くというよりも、土に埋まっているっていう表現。オーディエンスとライヴを作っていくなかで、“この人たちは、なんで高い金を出して、ここを選んでくれてるんだろう”と思うことがあって。たとえばそれが若い子だったら、“頭振りたいだけなのかな”とか。でも暴れたいだけならもっと他に暴れられる場所はある。俺たちのライヴってダイヴやリフトはないし、あれは心をぶつけにいくようなものだと思うんですけど、そういう感じでもないんですよね。歌ものを聴きたいなら、他にそういう音楽はいっぱいある。“じゃあ、なんなんだろう”っていうのがすごいあって。で、来てくれる人からしたら、“そんなことねえよ”ってなるかもしれないですけど、僕には心を埋めに来てるっていうのがしっくりきたんです。

──前回インタビューで「自分たちは土なんです」という発言もありました。

千秋：そう。ステージが土だとして、そこに心を埋めに来ている。きっとそれは木になるだろうと。草だとなんかダサイし、花だとちょっと叙情的すぎる。“これは木だな。きた！”と思って。で、メンバーに「アルバムは『The Heart Tree』です」って言ったら、「うーん」って感じで反応が薄く。シバいたろかなと思いましたけど。

──ははははは。

千秋：もう12年もやってるとね、反応が薄いんですよ。でも僕的には、「この「The Heart Tree」って曲、嫌い」って言ったやつは俺も嫌い。勝手に、将来はアンコールの2曲目にやるんだろうなと思ってて。それくらい大事な曲になるんだろうなと思ったので、アルバムタイトルにしたんです。


──先ごろ会場限定リリースされた「僕等の夜について」もそうですが、拠り所とか居場所みたいなものを歌った大事な位置づけの曲になっていきそうです。SORAさんは、今回のアルバムレコーディングで印象的だった曲などありますか？

SORA：それが、特にないんですよね。千秋もさっき言ってましたけど、メジャーデビューだからといっても、なにも変わらないので。千秋が原曲を作って、狭い部屋で「これをどう広げますか」「これは違う」とか、みんなでああだこうだ文句とか言いながら作る制作スタイルも変わらないし。もともと千秋が作っていた昔からの曲もあるから、“これはアレンジで大きく変わったな”というのはないです。でも、今やるからこそ、もっと届くだろうなというのはたくさんありますね。すごくバンドらしいアルバムになったんじゃないかなと思う。

──その「今やるからもっと届く」というのは、やりたいと思っていたことが濁りなく表現できるようになったみたいなことですか？

SORA：そういうわけでもないんです…なんか面倒臭くて申し訳ないですけど（笑）。やりたいことが完璧にできたらいいかもしれないですけど、もっと苦労しないといけないというのがあるから。

千秋：やりたいことが再現できたら、終わりですよね。僕個人的には、やりたいことって2ndアルバムでできたんですよ。でも、今聴くとスーパー気持ち悪くて、スーパー嫌なんです。

SORA：2ndアルバムって？

千秋：『「最高の食卓」』( 2016年1月発表)。あのアルバムは、俺のやりたいことをギリギリまでメンバーが詰めてくれたもので。僕が作って、僕が歌って、メンバーで演っているものだから言ってもいいと思うんですけど、今聴くと、聴くに耐えないところがいっぱいあるんです。“気持ちいいことってよくないな”って思いましたね。ライヴもそうで、“めっちゃ気持ちよかった”と思ったときって、思い返すとなんかよくないんですよ。「やりたいことが全部できた」って今後メンバーが口にしたら、もう終わりな気がします。

SORA：それはメンバー全員、根底に持ってると思う。

千秋：“このアルバムを出したら、もう一回、次のアルバムを作りたい”とか、“ライヴをしたら、もっと次はいいライヴをしたい”とか、僕らはそう思っていかないとやってられないので。だから、ある意味不完全で、できることの限界まで持っていきたいけど、納得しないところもある…「納得しないもの出すなよ」って言われたらそれまでですけど、「出すけどね」っていう。


──アルバムが完成した今、手応えはどうなんですか？

千秋：手応えって、人生で感じたことがないですね。

──そういうものですか？

千秋：手応えを感じたことがあるのは、学生時代、とある大学を受験したときの国語。あれは人生で唯一、手応えがありましたね。その時の“これが手応えか！”っていう以外、僕は感じたことがない。ずっと不安なままここまできて、その不安を解消するためにいろいろやってきて。この不安を飼い慣らさないといけないというミッションに入っている。もしかして、他の人からしたら手応えなのかもしれないですけど、僕はすべてにおいてまったくそれがないし、手応えの正体を明かしたい。ちなみに、手応えを感じたというその大学受験は落ちたんです（笑）。

──ははははは。SORAさんは？

SORA：手応えという言葉を拾うのであれば、もちろん完成した時は、“やっとできたね”ってなるんですけど。家に帰って聴いたときに、納得いかない部分って制作面では絶対にあるんです。できた瞬間と、持って帰って聴いた瞬間、その時々で“今”は異なるから。常に今を更新していってる感じがあるので、結局手応えはずっとないっていう。生きている以上、常に今の繰り返しで。こうしてアルバムのことを聞いていただいて、振り返ることができる機会はありがたいことなんですけど、一週間前のインタビューと今日では、いい意味でまた違うんですよ。だから手応えがないというのは、全然悪い意味ではない。常に先を目指しているから、手応えを感じたくないし、今に満足もしたくない、ということなんでしょうね。それはこの12年、DEZERTというバンドの根底にあるんだろうな。

──なるほど。

SORA：今回、ありがたいことに取材していただく機会が多いんですね。“昔は俺、なに言ってたっけ？”と思って、自分の昔を振り返ったら、「ひとつのゴールがあって、そのゴールをくぐっても、またゴールが出てくるようなことをしたい」ってずっと言っていたんです。千秋も同じようなことを言ってたんですけど、今の話もそうなんだろうなって感じますね。


──そして2月からは＜DEZERT LIVE TOUR 2024 “The Heart Tree”＞がスタートします。【PHASE_1】【PHASE_2】と約半年間にわたる長いツアーになりますね。

千秋：そこに気づいちゃいましたか。

SORA：でも、ライヴが多いに越したことはないです。

千秋：それにしてもちょっと多くない（笑）？ まぁ、せっかく4年ぶりのフルアルバムなので、本当は47都道府県まわったろうかなと思ったんですよ。俺とSORAくんは“行ったれ！”っていう感じだったんですけど。

SORA：Sacchanがすごく止めてきましたね。

千秋：「絶対バンドがダメになる」って。「昔、30ヵ所回ってダメになったじゃん」って（笑）。でも、アルバムを出したんだから、そのくらいライヴしようよっていう気持ちがありました。行ったことのないところもあるし、楽しくまわれたら、楽しく曲ができたら、いいなと思いますけどね。ちょうど今、スタジオでツアーリハをやってみてますけど、ツアー中、ワンチャン新曲がほしくなるかもしれんなという予感が出てきてるんです。

SORA：ワンチャンっていうか、確実にそうなると思うよ。

千秋：出そうと思ったら出せるんですけど、あんまり曲がいっぱいあったら“どれを聴いたらいいかわからない”とかになっちゃうかもっていう、その狭間にいて。でもツアーに関しては、不安はないですよ。【PHASE_2】が終わる6月までは楽しいでしょうね。6月からはまたこの“ストーリーお化け”(←SORA)が、新たなストーリーを作ってくれると思うので。僕はその主演アーティストとして演じようと思います（笑）。


──ツアーの先となる2024年末には日本武道館ワンマンが控えていますからね。このツアーで培ったもの、芽生える思いもストーリーに加えられていくと思いますし。

SORA：すでにいろいろ考えてますから、むしろツアー中では遅いくらいですよ。ストーリーおじさんの僕はずっと、“ストーリー”とか“バンドの物語性を”とか言ってますけど。12年やってきて、少なからずいてくれるファンの人たちと僕らで、なにか大きな物語を作ることで誰かが感動してくれる…そういうことを生きがいに感じ始めているのかもしれないです。一旦、目標として日本武道館というところに旗を立てたので。そこに向かってじゃあどうする？っていうのは、ツアー中に動いていたら遅い。だから、ずっといろいろ考えてますよ。

千秋：“出会えてよかった”と思われたいんです、僕らは。関わってくれる人が増えたことによって、感謝という気持ちが出てきちゃったわけですよね。僕が一番認めたくなかった“ありがとう”という気持ちが出てきちゃった。ファンやスタッフや友だち、いろんな人からそう思われたいよなっていう。でも、バンドだけでそれはやれない。昨今、日本ロックシーンは亡くなる人が増えていて、2023年は特に多すぎるなと思いましたけど。長く続いてきたロック史だから、これから先もそうした喪失は増えていくと思うんです。そのなかで、“この人に出会えて、この人の音楽に出会えてよかった”って思ってくれてるだろうなって、そう感じながら死にたいわけですよ。DEZERTに出会えてよかったと思ってくれたら、それでいい。そういうツアーにしたいんです。

取材・文◎吉羽さおり







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