【インタビュー】「忘れじの言の葉」はなぜネット発のフォークロアになったのか?未来古代楽団・砂守岳央が語る

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未来古代楽団の「忘れじの言の葉」という楽曲がネット発の新たな“現象”となっている。

この曲は、もともと2016年にサービスを開始したスクウェア・エニックスによるスマホ・ゲーム『グリムノーツ』の主題歌として作られた楽曲だ。未来古代楽団は砂守岳央と松岡美弥子を中心とする音楽ユニットで、ゲームのサウンドトラックも手掛け、「忘れじの言の葉」のボーカルは安次嶺希和子が務めている。

そして今、リリースから8年が経ちゲームもすでにサービスを終了となった2024年において、この曲がじわじわと反響を巻き起こしているのである。YouTubeやTikTokには多数の「歌ってみた」動画が並び、なかでも歌い手・ダズビーによるカバーはすでに5980万回再生を突破し、もともとゲームを知らなかった層にも広く聴かれる曲となっている。

こうした動きを経て、未来古代楽団の活動も活発化。2023年夏にはミニアルバム『バベルの幼生』をリリースし、9月に初の主催ライブを開催、同年12月30日にはEP『フタハ/さよなら、光』をリリースし、2024年4月20日には2度目の主催ライブを予定している。


なぜ「忘れじの言の葉」がここまで注目を集めたのか。そもそも未来古代楽団とはどういうユニットなのか。首謀者の砂守岳央にインタビューを行った。


砂守岳央

──今、「忘れじの言の葉」という曲がリリースからしばらく経って一人歩きをしている状況になっているわけですが、ご自身としてはこの状況をどう捉えていますか?

砂守岳央:そもそも、しばらく忘れてたんですよ。ゲームの主題歌で、サービスが終わってしまい、その後も仕事として別の曲を書く日々の中で。ただ、知り合いから「ダズビーさんの「忘れじの言の葉」カバー動画がめちゃくちゃ伸びてますよ」みたいな話を聞いて。その時は1000万回再生くらいだったんですけど「すごいな、なんでこんな伸びてるんだろう、一体誰が聴いてるんだろう?」と思って検索してみたら、「歌ってみた」とかの動画が沢山出てきた。そこで思い出した感じです。


──そもそも曲を作った時はこういうことになるとは思っていなかった。

砂守岳央:全く想定してなかったです。ただ、当初からすごく反応の良かった曲で。『グリムノーツ』というゲームの主題歌なんですけど、もともとはスクウェア・エニックス側から注文されてなかった曲なんですね。子供の頃から好きだったスクエニ(子供の頃はスクウェアとエニックスは別ですが)のゲームのサントラをやれるぞっていうので気合いが入りすぎて、僕からプロデューサー側に「予算いらないんで主題歌作っていいですか?」と言って作った曲だったんです。で、『グリムノーツ』は期待を超えてはるかにヒットしたゲームだったので、スクエニのプロデューサーからもプロモーションのときに楽曲が引っ張ってくれたと言われて。テレビCMで流れたのもあって、想定を超えて広がった実感もあった。単なるゲーム主題歌というより特別な曲だった感触は当初からありました。

──ただ、あくまでゲームの主題歌なので、サービスが終了したら忘れられていくというのが通例だと思うんです。そうならなかったのは何故なんでしょう?

砂守岳央:僕も気付いたのが遅かったので解析できてないんですけど、ひとつは最初にゲームが出た時の盛り上がりがあって。それこそダズビーさんはその時にいい曲だなと思って歌ってくれたんだと思います。そこからしばらく経った後に、TikTokでホラー系のジャンルの動画なんかによく使われていたそうなんです。それで10代とか小学生くらいから動画を見ている層が曲を知った。で、あの曲は歌いやすい曲ではないので「歌唱力があるんだったらこれも歌えるでしょ?」みたいな定番曲になったみたいなんです。ネットで歌い手をやっている人が、ちょっと自信がついたら「忘れじの言の葉」を歌ってみるという。そういう定番曲の中にいつの間にか入り込んでいた。その辺が相互作用して伸びた印象です。

──これって現象としてすごく面白いですよね。つまり「歌ってみた」を投稿している人の多くは、未来古代楽団というアーティスト名も、なんなら『グリムノーツ』というゲームも知らない人である。

砂守岳央:かなりの率でそうだと思います。

──つまり、曲だけが歌い継がれるという現象が起こっている。

砂守岳央:そうですね。現代のフォークロアというか、TikTok時代のフォークロアになっているみたいな感じですね。

──そもそも未来古代楽団はどういう風に始まったユニットなんでしょうか?



砂守岳央:簡単に言うと、僕が小説家としてデビューすることが決まった時に、もう今ではそんなことは気にしないんですけど、音楽と文筆のクレジットを分けようと考えた時があって。それと、芸大の時からずっと松岡美弥子とコンビでやっていたので、このチームに名前を付けようと考えたんです。

──『グリムノーツ』のサウンドトラック制作だけでなく、アーティスト活動としてのビジョンもありましたか?

砂守岳央:いや、当初はアーティスト活動は考えていなかったです。とにかく名前を付けてみたら面白いんじゃないかという思いつきだったんで、始めた後もクレジットに「砂守岳央(未来古代楽団)」とか「松岡美弥子(未来古代楽団)」って表記する以外のことはやっていなかったんです。「アーティスト写真を撮ってウェブを作ったりしたらアーティストっぽく見えるかな」みたいなことをして、放置してたんですよ。

──砂守さん自身としても、基本的には職業としての音楽作家業をメインに考えていた。

砂守岳央:そうですね。作詞家・作曲家業のときに、ただ自分の名前があるよりはグループ名があった方が覚えてもらいやすいんじゃないかという発想。8年前はそれくらいの感じでした。

──では、アーティストとしての未来古代楽団のプロジェクトを本格的に立ち上げたのはいつぐらいだったんでしょうか?

砂守岳央:一昨年ですね、2022年の年末なんで、実質的には2023年からです。これも「忘れじの言の葉」きっかけなんですが、「忘れじの言の葉」は楽曲利用のお問合せも多く、スクエニさんがみんなが使いやすいようにとJASRACに登録することになったんです。それを機にセルフカバーするようになったんです。

──なるほど。それまではゲームのサントラに収録された一曲にすぎなかった。

砂守岳央:そうです。その記念でCDを出してみようと言って。その時のいつものメンバー、ほぼオリジナルメンバーで、2022年版を作り直したんですよね。 ボーカルも安次嶺希和子さんに改めて声をかけて歌っていただいた。それを2曲入りのCDとしてコミケで頒布したんです。それが思ったより反響があって「次は何を出してくれますか」と言われるようになった。「次出さないといけないんだ」っていう意識になった時に、未来古代楽団を改めてアーティストとして捉え直して、これをゼロイチで育成してみようかなって思いついたのが2022年末ぐらいです。そこからとにかく新人アーティストとして、オフィシャルのウェブを作り、SNSを運用し、YouTubeのチャンネルにMVを上げて、あとはライブをやるというのを目標にして、とにかくやっていこうと。それが皆さんのおかげで全部できたんですよね。


松岡美弥子


豊田耕三


吉田篤貴


吉田和人


砂守岳央

──砂守さんは作曲家としてのキャリアが長いし、プロデューサーや裏方の仕事もやっていきたわけですよね。ただ、未来古代楽団というのはコンセプトと世界観が非常に重要なユニットである。そこについてはどうでしょうか。

砂守岳央:コンセプトと世界観については当初からできていました。小説家としてフィクションを書く脳が動いて、いつもすぐに世界観を作っちゃうので。でもそこは深掘りしないまま置いていたんですよね。おっしゃる通り僕は裏方からキャリアが始まっているので、どっちかというと、職人的に世の中のニーズとか、クライアントのニーズとか、そういうところに合わせにいくタイプだったんですよ。それでずっとやっていたんですけど、ある時から、仕事が来るときにあらゆる人が「『忘れじの言の葉』っぽい曲がいいです」って言うようになったんです。参考曲にそれを挙げるようになった。要は「忘れじの言の葉」が好きな人が仕事をくれるようになった。で、あるとき、頼まれて書いた曲に洋楽みたいなキャッチーな横文字タイトルをつけたら、先方から「これは未来古代楽団っぽくないですね」と言われて。「あれ? 自分が書いたのに未来古代楽団っぽくないんだ」って思って。自分の想像していないところで実体を持ち始めてるんだと思った。そこから「未来古代楽団らしさとはなんぞや?」みたいなことをちょくちょく考えるようになって。そうして考えているうちに結晶化していった感じがありますね。

──考えたことってどういうことだったんでしょうか?

砂守岳央:「忘れじの言の葉」を起点に捉え直すというか、未来古代楽団としてやるときは自分が作る曲を全部その延長線上に置いた方がいいのかなって。そこからの距離感として、近いときもあれば、全然違う曲なんだけど、音や楽器の使い方にその要素があったりもする。あとは、生音にこだわるというのはもともと未来古代楽団のコンセプトなんです。『グリムノーツ』の時に、世界観を作るために、僕は電子楽器を全部禁止したんですよね。ピアノだけはしょうがないけど、なるべく近代の楽器は禁止にして、ドラムセットも禁止にした。それを今回の曲はどれくらい守ろうかなみたいなところをルールとして考えていくと、なんとなく方向性ができていって、そこに歌詞の世界観が合わさったときにそれが人格を持ち始めた。それがちょうどコロナの間の感じですね。コロナの間はこもってたし、その前の時期は海外でよくDJをしてたんですけど、そのステージが全部飛んだんで、考える時間がいきなり増えて。その時に悶々と考えた結果な気はします。

──「忘れじの言の葉」は『グリムノーツ』の世界観にあわせる形で制約が生まれたわけですが、その結果としてのノスタルジーとファンタジーの要素っていうのは、確実に未来古代楽団の記名性になっていったのではないかと思います。

砂守岳央:そうですね。あともうひとつ重要な要素があって、これは本当にパーソナルな話になるんですけど、子供が3年前に生まれたんですよね。僕、それまで人類はどうせ滅びるし、滅びてもしょうがないなと思ってたんですよ。それが、子供が生まれると未来について考えるようになる。僕が死んだ後も、こいつは生きていかなきゃいけないんだなって考えた時に、世界は続いてもらわなきゃ困るんだなって、改めて考えるようになって。この未来古代楽団というクレジットは実は深刻かもしれないみたいなことを思うようになったんですよね。未来まで世界が続いてくれないと困るんです。ノスタルジーとファンタジーは確かにそうなんですけど、僕らの曲を聞いている人の現実にも寄りそいたいと思った。ネットを見ても、テレビをつけても、ニュースを見ても、ここ数年、加速度的に何かがおかしくなっている感覚がある。しかもそんな中に子供を作ってしまったので、そんなこと許されるんだろうかみたいなことを考えるようになり。延々とそういうことを考えて、さらに世界が鬱々と深まっていった感じがあって。そういういろいろなことが一致して、一昨年くらいから、結晶みたいな感じで未来古代楽団が生まれ直した感じがあります。

──初ライブについてはどうでしょうか。やってみて、どうでした?

砂守岳央:ようやくできた、無事にできたなというのは大きかったです。あとは、僕らからすると「忘れじの言の葉」を聴いてくれているオーディエンスって、まるで顔の見えない不思議な存在だったんですけど、 実体として聴いてくれている人がいるんだなっていう驚き。ネット越しで実感がなかったのが、少し具体化したかなみたいな感じはしました。昔から音楽の仕事を一緒にやってきた友人が来てくれて「未来古代楽団ってこういうことだったんですね」と言っていたのが印象的でした。僕自身も似たようなことを感じていました。





──未来古代楽団としてのアーティスト活動が軌道に乗ったことによって、自分のアイデンティティーに変化が生じたというのはありましたか?

砂守岳央:それはありますね。とにかくこれを頑張らなきゃダメなんだ、みたいな意識に変わりました。職業作曲家というのは、いろんなチャンネルのアンテナを立てて、頼まれたジャンルの曲は全部書けなきゃいけないような仕事なんです。自分もそういう動き方をずっとしてきたんですけど。それをするよりは、自分のアーティストとしての掘り下げ、自分の中に音楽を求めていく方が、結果的にはいいと思った。初めてアーティストとしてのアイデンティティが生まれたみたいな感じですね。

──では、職業作家的な目線で、なぜ「忘れじの言の葉」がここまでスペシャルな曲になったのかということを分析するとどうでしょう? もちろん思い入れは強いし、作る時も力は入ってたと思うんですけど、経緯としては職業作家的に作った曲のワンオブゼムだった。でも今はこの曲がアイデンティティの核になっている。そのことに関してはどう思いますか?

砂守岳央:ひとつ絶対あるなと思っているのは、あの曲のベースになっているのは、昔のゲーム音楽なんですよね。スーパーファミコンくらいのゲーム音楽。それが僕の一番強いルーツなんです。『グリムノーツ』って、全曲そういう曲の作り方をわざとやっていて。僕の中でのスクウェアはこうだったぜというのを、存分にやらせてもらったんです。わざとリッチじゃない作り方みたいなのを試行したんですよね。トラック数も少ないし、音数も少なく、かつ、民族楽器を使ったというところもあって、耳にトゲトゲ刺さるような音もあえて選んだ。ゲーム音楽的なものって、直接ゲームをやってない人でも今となっては当たり前になっていて。無意識に生きていると思うんですよ。そこがたぶん良かった、多くの人に響いたんじゃないかなという気はします。


──砂守さんのルーツとしてゲーム音楽があるということですが、改めて思春期の頃の自分に強い影響を与えた作家は?

砂守岳央:植松伸夫さんとか光田康典さんとか下村陽子さんとか、かつてのスクウェアの音楽制作陣には、本当に強烈に影響を受けてると思います。当時サントラばっかり聴いてたし。MDにサントラを入れて、再生しながら旅に行くのがすごい好きだったんです。ロールプレイングですよね。高校生の時から耳コピをしてDTMでそれっぽい曲を作ったりもしていた。ミュージシャンになる気は全然なかったですけれど、後から思うとこういうものが作りたいなと思ってたんでしょうね。

──未来古代楽団のこの先についての話も聞かせてください。まずは4月20日にライブが決まっているということですが。そこに向けてはどんなことを考えていますか?

砂守岳央:実は東京スクールオブミュージックさんが今回バックアップについてくれて。ライブハウスが専門学校内にあるんですけど、ご縁があって貸していただけることになったんです。せっかく学校という場を使えるので「未来古代楽団×学校」という組み合わせでできる物語を作ろうかなと思っています。ライブでは朗読もあって、一冊の絵本を読み終わったみたいな感じになるライブを目指してるんです。今回はそこに学校というキーワードが入ってくるというのを今考えています。前回のヴォーカル陣に加えて、今回はゲストでVALSHEさんという素晴らしい歌声を迎えることができるので、そこのコラボも楽しみにしています。

──その先に関しては?

砂守岳央:とにかく周りから、ライブは定期的にやらなきゃダメだよ、年に1回だと少ないよと言われてるので、今年中にもう一回やりたいですね。とにかくやるということを決めて計画しています。あとは、当然音源は作っていくし、YouTubeの動画もどんどん上げていく。年間に1枚アルバムを出すくらいの流れがいいのかなと思っていて、それを準備している感じです。

──砂守さん個人としては、職業作曲家としての自分、アーティストとしての自分のバランスは、この先どうなっていきそうな感じがありますか?

砂守岳央:今、ほとんどそうなっているのですが、職業作家としても、「未来古代楽団はこういうアーティストだ」というイメージを持ってもらって楽曲を求められるというのが一番いいのかと思っています。今までの職業作家的なキャリアを、アーティストとしての自分の上に載せ直す、みたいな形。そのためにも、アーティスト活動をさらに頑張るのがいいのかなと。音楽以外に文筆の仕事もあるので、音楽が1、ストーリー作りが1、その他が1という、3分の1ずつくらいが理想です。で、これはだいぶ先にはなると思うんですけど、いつかミュージカルをやりたいなと思ってて、音楽と文筆と企画みたいなのがそこで一致する。それでライブに朗読を入れてみたり、そういうところから始めてみようかなみたいな。せっかく本も音楽もどっちも書く人間なので、折り重なっている部分を作っていきたいなと思っていますね。まずは4月のライブを是非見てもらいたいです。



写真◎Myra Shimada
取材・文◎柴 那典

<未来古代楽団LIVE「追奏のニシュカサル~祝祭あるいは断章7~」>



2024年4月20日(土)
14:30 / 18:00開演
@東京スクールオブミュージック&ダンス専門学校9Fホール
〒134-0088 東京都江戸川区西葛西3丁目14-8
VOCAL GUEST:VALSHE、Lucia、botan
料金:6,000円(税込、全席指定)
2024年2月14日10:00よりlivepocketにて販売開始
ihttps://t.livepocket.jp/t/miraikodai

◆未来古代楽団オフィシャルサイト
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