【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話021「Z世代」

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以前、執筆ルールに関して「これまで敷いてきたルール」を記したけど、その後に「でもルールは変わっていくよ」という意味のコラムも書いた。

時代は変わり、価値観は変わり、正義まで変わる。今振り返ると、自分で自分を「うわー、ありえないなあ」と驚愕する事実もたくさんある。そのときは当時の常識・感覚で生活していたのだけど、昔のCMや漫画、アニメなどにさらっと登場する表現やセリフなどにも時代の色は色濃く刻まれていて、今では放送できない一発レッドカードな表現が続々飛び出してくる。過去を否定するつもりは1ミリもないけど、「時代は変わった」と言わざるを得ない。溜息を付いただけでハラスメントになっちゃうと言われる時代だし。はぁ~(←これ、フキハラってやつ)。

アーティストの発言にも、時代性を強く感じたことがある。例えば、BARKSでも記事にしたビリー・アイリッシュの「3時間の公演なんてやらないよ」という発言だ。

彼女はここで、「私は3時間の公演なんてやらないよ。マジ、やばい。誰もそんなもの望んでない。あなた達もそうでしょ。ファンとしての私だってそう。世界1好きなアーティストでも3時間聴こうなんて思わない。長すぎ」と発言している。今最も成功しているZ世代を代表する最尖端アーティストの本音だ。これを読んでいるZ世代の皆さん、全く同じ感覚ですか?同意…なのかな。なのでしょう。

一方で、世界で1番の興行成績を叩き出し、今もなお世界TOPの人気をひた走るテイラー・スウィフトは、2月の東京ドーム公演でも全45曲3時間20分を敢行した。欧米ではオープニングアクトも含めると開演時間は5時間というボリュームを誇り、アミューズメントパークのような多幸感を演出するスタイルでオーディエンスを巻き込んでいる。

ふたりの年齢差は、ビリー・アイリッシュ(2001年12月18日生まれ 22歳)/テイラー・スウィフト(1989年12月13日生まれ 34歳)と、ちょうど巳年の干支一回り。さて、どちらが現在の世界基準なんでしょうか。

同じ2024年の音楽シーン最先端を走るふたりの女性アーティストが、12歳違うだけで(12歳も違うと)、これだけの価値観の差異が生まれている。そもそも音楽の質感も伝え方もファン層も違うし、ジェネレーションだけがファクターではないのは重々分かってはいるけれど、音楽の聴かれ方がここ12年で大きく変貌してきた事実を踏まえると、サブスク世代なのかパッケージ世代なのかによって、背中合わせのように全く違う景色を見ているのかもしれないとも思う。同じ音楽エンターテイメント、ライブ・エンターテイメントだけど、求める世界観は全く違うのであれば、多様化と最適化はまだまだ進化続けるんだろうなとしみじみ感じた。

音楽の趣味嗜好がはっきりしている人にはコンセプトやテーマがしっかりしたフェスが喜ばれると思うけど、すべての音楽がオムニバス的に聴かれセグメントの感覚も持たないZ世代には、いろんなアーティストが参戦してくれるノンジャンルなフェスが喜ばれるような気がする…という意味でも、昨今のフェスは活況なんでしょうね。

<フジロック>の生みの親の日高さんも「俺の夢はね、「お客さんがどのステージも観なかった」っていうものなんだよ。ビールを呑んで草っぱらで寝っ転がってたらあっちこっちから音が聴こえてきて、いい天気で…それで楽しかったって思ってもらえたら成功だと思っているんだ」(SMASH日高正博インタビュー(2016年7月)より)と語っていたし、<LuckyFes>の堀総合プロデューサーも<LuckyFes>をテーマパークと捉え、「世代によって楽しみ方や見るステージがバラバラでおもしろい」(堀義人インタビュー(2024年5月)より)と語っている。音楽というキーワードを真ん中に据えながら、エンターテイメントとしての広がりをいかにプロデュースするかが、今後の音楽エンターテイメントの鍵になるのでしょうね。

SNSをみても、音楽が自己表現や楽しみ方の1パーツとして愛されているのは疑う余地のない事実だから、音楽を披露するライブやフェスやイベントのような場においても、音楽だけに特化させた既存のスタイルは、意外と危なっかしいのかなとも感じたりして。



文◎BARKS 烏丸哲也

◆【コラム】BARKS烏丸哲也の音楽業界裏話まとめ
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