【インタビュー】音楽分野における、AIの最新事情とその可能性[前編]

世界に注目されている日本の音楽やアーティストを番組独自の目線でピックアップし紹介していく、interfmの『TOKYO MUSIC RADAR』(毎週火曜日よる9:30~10:00)は、パーソナリティを務めるNagie Laneのmikakoとゲストアーティストとの音楽トークが魅力のミュージックプログラムだ。
今回は、音楽プロデューサーであり編曲家・マニピュレーターとしても活躍する石川鉄男氏を迎え、MRDLab(エムアールディーラボ)合同会社の代表/データサイエンティストとして、AIの現状と未来を語っていただいた。
音楽にとってミュージシャンにとって、AIは何者なのか。仲間なのか敵なのか、敵対するのか友好な相手なのか。どんな問題を抱え、何をクリアすべきなのか。そして未来はどうなっていくのだろうか。話は多岐に及んだ。

石川鉄男氏、mikako(Nagie Lane)
──(mikako)普段私はアーティストとして活動していますけれど、海外の音楽シーンでもAIは注目を集めている状況ですよね?
石川鉄男:そうですね。音楽シーンもあるんですけど、1番早かったのは映画の世界、動画関連ですね。例えばNetflixなどでは自分たちで映画を作っていますけど、昔みたいに脚本はあるんですが、シーンを何コマで割って、どこで何人登場させて…みたいな明確な指示をAIで作っているんですね。いわゆるヒットの法則を分析して、それに則っているんです。
──(mikako)え?そうなんですか?
石川鉄男:このくらいの人数を登場させると飽きないとか、このシーンは何秒以上やってはいけないみたいな。最初は監督さんも「こんなのやってらんねえよ」ってなったんですけど、だけどやっぱり結果が出るんで。
──(mikako)法則があるんですね。
石川鉄男:スポーツの世界もデータですよね。なかでも印象的だったのは、大谷翔平選手へのインタビューなんですが、ちょっと調子悪くて久々にヒットが出たところで「ヒットが出ましたね。調子が戻ってきたということですか?」みたいな質問をしたら、「いや、説明のできるヒットが欲しいんです」と答えるわけです。要するに、ヒットはたまたま当たるんじゃなくて、データで分かると。イチロー選手も昔同じようなことを言っていて、「僕はヒットを打った理由を説明できる」って。
──(mikako)ちゃんとトリガーがあり、環境とかいろんな条件が一致して出る必然であると。
石川鉄男:あそこまで行くと「たまたまなんてものではない」ということですね。そういう意味では、音楽の世界のAIってまだまだ遅れているんです。曲がヒットしたら「じゃあ次も同じようなものを作ろう」ってなりますけど、「同じようなものってなんだよ」って話ですよね。
──(mikako)ええ。
石川鉄男:逆にヒットしないと「ちょっとこれはダメなのかな」「ちょっとクリエイターの方と自分探しの旅に出ます」みたいになっちゃう。そうじゃないんですよ。ヒットしなかったこともデータで、「ヒットした理由を知る」ということがAIの使い方のひとつです。音楽制作ってスピリチュアルなもので、富士山を見に行くといい音楽ができるとか、そういう話もいいんですけど、やっぱり音楽業界はデータというものをしっかりと使っていく必要があると思うんですよね。
──(mikako)そもそも石川さんがAIに関心を持ち始めたのはどんなきっかけだったんですか?
石川鉄男:僕自身は元々シンセサイザープログラマーだったんです。20~30年前の話ですけども。いまではポチッと押すだけでベルの音とかトランペットの音とか出ますけど、昔はひとつひとつ音を作っていたんですね。パッチするみたいな。
──(mikako)タンスと言われてたあれですか?(編集部註:モジュラーシンセのこと)

モジュラーシンセ
石川鉄男:そうです。どんな音を作るのかをオーダーするのはプロデューサーだったんです。でもプロデューサーは「空が…」とか「星がキラキラするような音」みたいな曖昧な言葉で言うんです。あげく「ヒットする音をちょうだい」なんて(笑)。でも「曖昧な言葉を音に変換する」ということは面白いなと思ったんですね。その後、音楽プロデュースとかもやっていたんですが、1990年後半ぐらいだったかな…音楽がつまんなくなっちゃったんです。敢えて言いますけど、ヒットチャートに乗る顔ぶれが同じ人ばっかりで。それが悪いわけじゃないんですけど、音楽に多様性がなくなってきたことにつまらなさを感じたんですね。
──(mikako)そうなんですね。
石川鉄男:周りには才能のある人っていっぱいいるんです。でも全く日の目は浴びていない。今であれば検索すればネットで情報を得られるんですけど、2000年頃なんてネット上にデータがないから情報はゼロですよ。誰からも知られない。でも伝えたいし、みんなに知ってもらいたい。それでデータベースを作ろうって急に思い立って4~5年かけて数十万人の人物データベースを作って、その人達にひとつひとつ点数をつけたんですね。
──点数?
石川鉄男:地道にきちんと活動している人にはちゃんと点数をあげようよという「業界貢献度」みたいなものです。売れることも業界への貢献ですけど、パッと売れてサッとやめちゃったら業界にはあまり貢献してないよねみたいな、そんなデータが欲しいと思って、そのあたりからデータ、AIというものを意識し始めました。
──(mikako)敢えての質問ですが、そもそもAIってどういうものですか?
石川鉄男:固い話でいうと、LLM(大規模言語モデル)というものがあってですね、ネット上で拾える全ての文章を吸収して解析していくのがAIなんですけど、ここ100年の歴史の中では1番脅威なものだと思ってます。最大の発明でもあるし1番脅威なもの。というのも進化が速すぎるんですね。これが単なるデータなのか、もしくは意識を持つようになっていくのかとか、そこにもついて行けないんです。なのでAIってまだ定義がわかんないんですね。今の段階だと、いろんなものを学習して人間のように振る舞っている…そういう見せ方をしているだけ。もしかしたら、変わっていくかもしれない。
──(mikako)意思を持つかもしれない…
石川鉄男:人間もね、生まれて5歳になって10歳になって、どんどん経験値を積んでいくわけですが、AIはこれもできるんですね。そういうことを想像していくと怖いなとも思いますし、まだ未知のものでもあります。ただものすごく可能性があるものです。
──(mikako)最近、映画『ロボット・ドリームズ』を観たんですけど、ああいうロボットも来る日があるかもしれないっていうことですよね。昔からドラえもんとか鉄腕アトムみたいな存在もありますけれども。
石川鉄男:AIを生物として扱うあたりは、もう呑まないと話せない(笑)。ただ、すごく大事なポイントとして、AIって使おうとしないと単なる数字の塊なんです。使おうと思えばAIになる。人間がいないと存在できないのがAIであるし、あるべきであるかなと。
──(mikako)AIが音楽の分野に取り入れられるようになったのはいつ頃なんですか?
石川鉄男:AIという言葉に縛られなければ、1980年代のヒップホップを中心にサンプリングっていうのがありますよね、考え方としては、このあたりが生成AIへの最初のきっかけかなと思います。音楽でいうサンプリングを使うようになったというのが、今のAIの使い方に一番近いものかなと思いますね。
──(mikako)今、実際にAIによって作られたものとかってどういうものがあるんですか?
石川鉄男:生成AIで作られた楽曲って、実はわからないですね。AIの技術という点では、歌だけを抜き出して、歌のないカラオケ音源を作ったりすることができます。昔はね、ボーカルってだいたい中域くらいだから、トーンコントロールみたいなもので中域を落とせば歌が小さくなるよね、みたいなものだったんですけど、今は違うんです。計算して、歌というものをAIが理解して歌だけを抜き出せます。最近ではザ・ビートルズの話がありましたね。
──(mikako)新曲「Now and Then」ですね
石川鉄男:デモテープからジョン・レノンの歌を抜き出して作ったものです。ステム技術というものなんですが、ひとつの音源からドラムだけ抜き出したりとかギターだけ抜いたりとかは、最近よく使われている技術です。
──(mikako)AIは音楽にまつわるデータ解析に使えるとのことですけど、どのようなメリットがあるんでしょうか。
石川鉄男:音楽って形がないですよね。もちろん耳に聞こえるものですけど、重さもなく無味無臭なもので、簡単に言っちゃえば「どんな曲でも単に0と1のデータ」なんですよ。マシンリーダブル(機械判読可能)と言うんですけど、音楽をコンピュータに入れて理解させることができる。音楽ファイルをコンピュータで分析すると、数万~数十万のデータが取れるんです。人間の指紋みたいなものですね。
──(mikako)なるほど、わかりやすい。
石川鉄男:それを集約するというか分析することによって、その曲の特徴を割り出してくるんですね。この曲は「この曲と似てる」とか、もっと突き進めると「この曲のジャンルって○○○だよね」みたいな。
──(mikako)ジャンルって難しいですもんね。
石川鉄男:ここがとても大事なところなんですが、いわゆるこれまでのジャンルって、CDなどのパッケージをどこに置くかという仕分けのためのもので、これはクラシックです、これはロックですみたいな、ね。でも今やジャンルってそんな簡単じゃないですよね。ロックの中にもクラシックの要素はあるしオペラの要素もあるし、フォークの中にもメタルの要素があったりするわけで、それがAIに入れると分かるんです。「この曲にはロックの成分が2.8%、ジャズの要素が15.8%…」みたいに、どんな曲を入れてもその要素が分かるんです。600ジャンルぐらいの要素で分析できます。あとは歌詞とか。面白いのはコード進行ですね。
──(mikako)ほお。
石川鉄男:黄金のコード進行ってあるじゃないですか。「丸サ(丸ノ内サディスティック)進行」とか名前がついているのもありますけど、そのものズバリじゃなくても、その要素が何%入っているかって分かるんです。そうすると、何ができるか…想像できますよね?
──(mikako)ニヤニヤしちゃいますけど(笑)、それはすごい。
石川鉄男:あとね、楽器の成分も分析できるんですね。どんな楽器が使われてるか。実はある人に「この曲好き?」「あんま好きじゃないんだよね」「なんで好きじゃなの?」「いや…なんかわかんないけど」って話をしていて。
──(mikako)難しいですよね。自分の好き嫌いの判断基準ってよくわからない。
石川鉄男:でね、「この曲は好き」「なんで好きなの?」「わかんない」って言うわけです。それをAIで分析すると、「あなたは、後ろで小さな音で12弦ギターをストロークしている曲が嫌いですね」って分かるんです。
──ええー、それすごいです。私の好き嫌いも教えて欲しい(笑)。
石川鉄男:その人の趣向…潜在意識が出てくるんですね。今の話は聞き手の話ですけど、曲を作る人にとっては、コード進行に関しても「あなたが行きたい音はここなんだけど、行きたい楽曲の成分とあなたが作っている曲はこれだけ違うんですよ。だから、ここに行けばいいんじゃない?」と分析してくれる。それでも自分では辿り着けないのであれば、「じゃあ、誰かと組みなさいよ。コラボレーションしましょう」と、そういった可能性がものすごくあるんです。それがマシンリーダブルというもので、楽曲を解析してその楽曲を公平に扱う。だから、売れるか売れないかなんて聞いていなくて、「この曲、売れますかね?」なんて聞いても、それはわからない。
──(mikako)なるほど、であれば、今と似たような世界情勢とか時代性のときにヒットした曲を分析すれば、今ヒットする曲が作れるかもしれない…とか。
石川鉄男:株価予測と同じですね。ファッションでも株価でもどんなものでも波になっているわけで、バイオグラフみたいにちょっとずれたりはするんだけども…。
──(mikako)そういう予測ができますね(笑)。
石川鉄男:って思うでしょ?実はそうじゃないということも見えているんです。やっぱりね、突然出てくる人っているでしょ?
──(mikako)いますいます。
石川鉄男:あれは分析の世界で「突然変異」と言うんだけども、ずっと波のように流れていた中で、急にとんでもない人が現れて音楽のムーブメントを持っていっちゃうんだよね。そういうことも起きる。それが起きる可能性はもちろん見れるんだけど、売れているところだけを見てもそれは結果でしかなくて、トレンドが見えるだけ。売れていないところってどうなってんの?って分析していくと、そこに種が埋まってたりとかするのね。そういうのをAIマーケティングっていうんだけど、人間がやると一生懸命売れているものを追っちゃうんだけど、そうじゃない。売れてないとこってなんなんだろって。
──(mikako)そこが大事ですね。とあるアーティストが急に売れて、一気にその人の時代になったりしますけど、そこに辿るまでの苦悩とかアプローチとか、いろいろな軌跡が絶対あるわけで、そこに注目しなきゃいけないということでもありますし、それを助けてくれるのがAIでもあるんですね。
石川鉄男:そうですね。重みのある話になりましたね(笑)。
──(mikako)いくら頑張っても売れない、もしかしたら自分はダメなのか、才能がないのか…と自分を攻めてしまいそうなときに、助けてくれる存在になるかもしれない。
石川鉄男:それが、さっきお話したヒットの理由です。ヒットの理由を知らなければヒットが出ないし、売れなかった理由を知らなければ、復活はできない。
──(mikako)売れたとしても、その後続けていくのが大事ですから、そうなった時にまた大きなヒントをくれる存在になるかもしれない。
石川鉄男:もっともっといろんなことがありますよ。いわゆる人材発掘とかもできますね。送られてきたデモテープを聴くのも人間なので、やっぱりDAWソフトでばっちり作り上げている人の音楽が目立つんですよ。あとSNSの発信力があると上位に上がって目につくんですね。でも、1万とか2万番目といった下の方に行くと、楽器も弾けなくて、机を叩いてリズムを取りながら鼻歌を歌っているようなものもあるんですけど、でもそこに種が埋まってたりするんです。
──そうなんですね。
石川鉄男:あいみょんもそうですよ。発掘されたときは、楽器もないような音源なんですけど、でも当時のワーナーミュージックの敏腕プロデューサーがその才能を見抜いた。音源は整っていなくても自分のやりたいことは表現されていたんですね。そういうプロデューサーもどんどん居なくなっているので、それをAIがとって変わろうという構想ですね。
──(mikako)才能はあるのに、世に出るきっかけとして欠かせないSNSが苦手とか、色んな人がいる中で、そういう人にもスポットを当てられるきっかけになり得るんですね。
石川鉄男:自分にどういう可能性があるかわかんないし、だからもっと音楽を作ってほしい。そのためにもマシンリーダブルによる公平な指標っていうのが大事なんです。自分で曲を作って、自分ではいいと思っているんだけど、人に聴かせたらどう思うかすごい不安ですよね。そこを毎回きちんと公平に答えてくれたらやりがいがあるよね。
──(mikako)そうですね。辛い部分もあるかもしれない…けど、やっぱり自分が作った曲に対して無反応が一番辛いから、ここはこうだここはこうだよと全部言ってほしい。
石川鉄男:自分が作ったものに対して、全て公平に返してくれたら、やっぱもっと頑張ろう、やってみようってなりますよね。ですから、投げたらそういう評価を返してくれるようなサイトも、AIの使い方のひとつですよね。
──(mikako)すごいワクワクしますね。
石川鉄男:そういうのは昔からあったんですよ。今まで人間がやっていたの。でも人ができなくなってきたから、AIに置き換えているだけで、AIが新しいことを行っているわけじゃないの。人間を補っているだけなんですよ。
▲Nulbarichの全楽曲をAIで分析し、そのデータをもとに曲作りの方向性を試行した「Neon Sign」
⇨【インタビュー】音楽分野における、AIが抱える問題と危険性・可能性[後編]
取材◎mikako(Nagie Lane)
文・編集◎烏丸哲也(BARKS)
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