【インタビュー】音楽分野における、AIが抱える問題と危険性・可能性[後編]

ポスト


世界からも注目されている日本の音楽やアーティストを番組独自の目線でピックアップし紹介していくinterfmの『TOKYO MUSIC RADAR』(毎週火曜日よる9:30~10:00)は、パーソナリティを務めるNagie Laneのmikakoとゲストアーティストとの音楽トークが魅力のミュージックプログラムだ。

今回は、前回(【インタビュー】音楽分野における、AIの最新事情とその可能性[前編])に引き続き、音楽プロデューサーであり編曲家・マニピュレーターとしても活躍する石川鉄男氏から、音楽にまつわる最新のAI事情を伺おう。


石川鉄男氏、mikako(Nagie Lane)

──(mikako)前回では、AIができること、活用すべきポイントなど、ワクワクするような話を多岐にわたっていただきましたが、音楽分野にとってAIが及ぼす問題点というのはいかがですか?

石川鉄男:これもたくさんありますね。「進化が激しすぎて課題が追いついていかない」というのも大きな問題なんですが、中でも一番大きな問題は生成AIだと思います。これまでアーティストが作ったものをコンピュータが分析してパターン化して、引用しながら混ぜて、いわばコラボしちゃうんです。作っちゃうんですね。これにはやっぱりすごく大きな問題があって、1番大きいのは著作権の問題です。誰のものなんだ?ってことですよね。

──(mikako)ええ。

石川鉄男:背景にある問題に著作権法第30条の4というものがありまして、複製権に関するものなんですが、例えば「ストリーミングで音楽をスムーズに聴くために、一時的にスマホに音源がダウンロードされる」ようなことは許されるんです。一時的に複製しているわけですけどね。そして47条の7という「音楽データを新たなプロダクトのために解析していいですよ」という法律が、日本のみならず海外でも緩くなってきたんですけど、ここが1番大きな問題なんです。クリエイターと販売する人とは立場と考え方が違っていて、クリエイターの人は、「未来を作る」という点では賛同しているものの、自分の作品が分析されて作られた楽曲であれば、分け前は欲しいと思いますよね。

──(mikako)当然そうですよね。

石川鉄男:もうひとつ、今後大きくなってくるのが人格権というもので、(パブリックドメインを除けば)著作物というのは誰かのものなわけで、それは人であることが前提なんです。

──(mikako)生成AIで作詞や作曲をおこなった場合、それって誰の曲って言えるんだろうって思っていました。

石川鉄男:ここがまだ全然決まっていないんです。色んな国で言われていますが、AIが作ったものには人格権がないんです。AIには人格権が与えられてないんですね。AIは人ではないということです。そこが大きな問題ですね。他にも問題点は色々あって、AIってのはいろんな楽曲を学習しているんですけど、これが進んでいくとAIが学習して作ったものをまた学習しちゃうという、音楽でいうハウリングが起こっちゃうんですね。

──(mikako)確かに。

石川鉄男:ハルシネーションと言われる間違った情報を吸収する。自分たちでいっぱい作っちゃったものをいいものとしてどんどん取り込んじゃう。AIの作り方としては、ここも大きな問題なんです。

──(mikako)「AIは0→1(ゼロイチ)はできない」という話も聞きますが、それはどうなんですか?

石川鉄男:ゼロイチもできないことはないんです。音楽ってものすごく数学的で、音程も12音階、タイミングもグループの話を別にすれば16分音符ぐらいで分けられるでしょう?あとはマトリックスの中に置くということをランダムにやれば、どうでもいい曲ですけどできちゃう。それはもう数十年前からある話なんです。ただ今はそれとはレベルが違って、例えば「SunoAI」などはすごいですよ。

──(mikako)どういうものですか?

石川鉄男:例えば、「春の日で失恋しちゃって、でも未練があって…」みたいなことを書くんです。これをプロンプト(指示や命令文)というんですけど、すると数秒で超ハイクオリティなそういう音楽が出てくるんです。実はここが今大きな問題になっていて、いわゆる大手3大レベルが訴えていたりします。原盤権という権利を侵害しているということでね。ただ、やはり未来を作っていくことを考えると、だから「勝手に原盤(音源)を使わないでくださいよ」という裁判なんですね。営利目的であろうとなかろうと。

──(mikako)いろんな問題がたくさんありますね。

石川鉄男:進歩が速すぎて、解決が追いついていないんです。それこそ5年前とかはね「こんなのどうでもいいよ」と無視しちゃうクオリティだったけど、ここ数年で、とてつもないスピードでクオリティが上がる…というか、クオリティが激変したんですね。もうね、「これでいいじゃん」くらいに(笑)。

──(mikako)私も、ChatGPTに「Nagie Lane「wink and thumbs up」の歌詞を教えて」と訊いてみたら、同タイトルの全然違う歌詞が返ってきまして(笑)、でもなんかちょっといいんですよ。ちょっぴり励ましソングになってるんですよね。

石川鉄男:僕も含めて、まだ理解が追いついていないです。いいものはいい…悪いとは言いたくないじゃない? いいと判断したのは自分だから、そこに自分の人格はあるんだけど、でも、それで儲けちゃっていいの?って思いますよね。そんなところも今の大きな問題点です。

──(mikako)AIで作ったかどうかなんて、私たちにはわからないし。

石川鉄男:ただやっぱりね、色んなところでAI制作を見ていると、クオリティはものすごい高いんだけど、どこか頭打ちがあってそれ以上良くならないという線がある。やっぱり素材がなくなっちゃうんですよ。前回触れましたけど、人間って急にとんでもないことをやり出したりとか、想像もつかないアーティストが出てきたりとかするんだけど、AIではそういうことがあまり起こらないんですね。起きないので、平均的な88点ぐらいのものがいっぱいできて全部88点になっちゃって、みんな同じだから88点が0点になっちゃうんですよ。そんなことが起こりやすい。

──(mikako)経験していないことは作れないから、ですね。

石川鉄男:クオリティがみんな同じになると面白くなくなっちゃうんです。みんな、まあまあの歌詞を書くし、まあまあの曲を作る。つまらない。AIは避けて通れないものですから、権利も大事だけど、どうやって付き合っていくかってことを話して考えていかなきゃいけない。

──(mikako)グラミー賞では「AIは受賞できない」と新ルールが明文化されたそうですが、その理由にはそういうところもあるんでしょうか。

石川鉄男:グラミー賞は人…アーティストというものをすごく大事にしていますから、ザ・レコーディング・アカデミーからの声明ということは、やはり「人を守る」ということだと思いますね。先程の人格権にかかってきますけど、人でないものに受賞させられないという。ただ、おそらくこのあたりも考え直さなきゃいけないタイミングはあるんだろうなと思います。AIが作ったものを後から編集したり、自分でハーモニーをつけたりとかしますと、これはもう人が参加してますよね。

──(mikako)そうですね。

石川鉄男:そもそも生成AIで作るときのプロンプト…歌詞とかタイトルとか中身のキーワードなど、それを指示するのは人間ですから、そのプロンプトに権利があるとも考えられる。そういうところを決めていかなきゃいけないわけです。

──(mikako)なかなか難しい線引きですね。

石川鉄男:著作権の考え方としては、プロンプトといった要素が加わったものはAIの自動生成ではないとするという見解もあるんです。

──(mikako)生成AIによって減収になった音楽制作者も出てきているという話もあるそうで、そのためにもそういう線引きを作ってくのは大事なことですね。

石川鉄男:こんな時代で激しく変わっていますからやむを得ないところとも思います。ただ減収しているところもあれば、どこかは増収しているんですよ。業界として考えれば、秩序とバランスを作っていくことを考えていかないと、問題提起だけしてても解決策には結びつかない。僕も音楽を作る方なので切実な問題だと思ってます。ただ、減収したからやばいという考えよりも、減収した原因を考え、増収する方法もあるんだってことを考えていくことが大事かなと思います。

──(mikako)新しいものを生むための大きなステップにしていくことが大事ですね。

石川鉄男:映画の世界でも、たくさんのSE(サウンドエフェクト)とかBGMを使用しますけど、AIでできればコストが削減できますよね。コスト削減=増収という考えもできるわけですから、そこはもっと慎重に話していけばいいかなと思いますね。

──(mikako)単に芸術的な観点で見た時に「AIでの音楽生成は邪道だ」という意見も耳にしますけど、そのあたりはどう思われますか?

石川鉄男:確かに邪道ですよね(笑)。特にAIによる完全100%生成は邪道だと言えるかもしれない。ただね、AIがなかった時代もいろんな人の音楽にリスペクトしたりインスパイアされたり、それを引用したりしていますよね。そこを考えると一緒かなと思うんですよ。ただ速いだけ。網羅的なだけ。大きいだけ。

──いわば手段ということですね。

石川鉄男:一言で言うと「ただ速いだけ」であって、AIが何か新しいものを作り出しているわけではないと思いますね。人って、ちょっと間違って解釈することがあるじゃないですか。ラジオで聞いて「あの曲いいな」と思うんだけど、間違った聞き取り方をしていて、それがその人のオリジナリティになっていったりする。そのミスの連鎖が音楽文化になっていくみたいなとこもある。なので邪道というか使い方次第なのかな。

──(mikako)いいところも悪いところもAIと一緒に歩んでいく必要がありそうですね。

石川鉄男:いろんな立場がありますが、ぼくはやっぱりすごく期待しているんですよ。音楽はもう何十年も同じでちょっと退屈なんですね。1980年代は録音技術がものすごく進化して、それまでは一発録音だったのがマルチトラックになって、この進化が音楽を変えていった。だけどそれも完成してデジタル化して、もう20年間変わってないんですよね。ここが退屈なところで、なにか音楽にも進化が欲しい。新ジャンルというか、例えばいっぱいありますよ。もしかしたらリアルタイムに変化する楽曲があってもいいんじゃないの?とか。「今日彼女と一緒にデートなんで、そんな曲を○○○さん、聴かせて」みたいな、データを与えることで内容が変化していくような楽曲があってもいいですよね。

──(mikako)ほう。

石川鉄男:自分のために作ってくれるような曲。「音楽というものを形にする」という今までの考え方とは違うんだけれど、可能性としてはそういうこともできる。AIでパーソナライズされる。最近のBlu-rayとかでは、ディズニー作品もそうですけど、国のリージョンを変えると吹き替えの文字が変わるだけじゃなくて、映像に入っている文字がその国の言語に変わったりするんですよね。リアルタイム・レンダリングって言うんだけど、そういう進化をしようとしているんです。だから音楽も進化しようとしていいんじゃないかと思って。

──(mikako)パーソナライズが面白いですね。その時の気分を伝えれば、それに最適化された曲が作られる。

石川鉄男:そう。「油っこいものを食べて胸焼けしてる」といえば、そういう効能がある曲を聴かせてくれるとかね(笑)。それとか、逆に、生成AIを使った音楽を対象にしたグラミー賞があってもいいかなと思うんですよね。

──(mikako)AI部門みたいな。

石川鉄男:ボカロPだってボカロを使うという前提ですから、AIを使ってどれだけいいものを作れるかっていうのも、次の新ジャンルというか、ちゃんとそれをやっていけば「単にAI生成は邪道」という話じゃなくなるとも思うしね。

──(mikako)やっぱり可能性を潰さないで自分たちで広げていくことが大事ですね。

石川鉄男:想像力ですね。やっぱり変えていきたい。リフレッシュしていくっていう気持ちですね。聴く側としては、もうこれはリアルな話なんですが、Apple MusicとかSpotifyといったサブスクで聴くのって、今みんなプレイリストで聴きますよね。今や音楽が流通される1番大きな枠がプレイリストですけど、いよいよ2025年から欧米ではAIプレイリストのテストが始まっています。用意されたプレイリストを選ぶのではなく、「今、何をしたいのか」をプロンプトとして動的に作るものですね。

──(mikako)すごい。

石川鉄男:多分もう近い将来の話です。動的なプレイリストになると、音楽の聞き方が大きく変わります。それが主流になると、逆にそれ以外で音楽は広がっていかないということもありえます。であればこそ、前回お話に出たマシンリーダブル…楽曲を1曲1曲を解析してデータ化して、最大の音楽の広げ方を模索するというのも大事なことですよね。それがAIができることのひとつとして、次代の音楽の流通の仕方に目を向ける。CDなどのパッケージは魅力的なコンテンツですけど、やっぱりそこでは普及できないので。

──(mikako)曲単位での流通となれば、アルバムという考えもなくなってしまうのでしょうか。

石川鉄男:仕組みから逆算すると少なくなりそうですね。ただ、昔プリンスが、曲をバラバラにされるのが嫌で全部を1曲扱いにしちゃった事がありました。つまり、そうしたければどうすればいいかってことを考えることが大事で、アルバムで聴かせたいという意図をもう少し明確にしていくと、逆に新しいものになる可能性がある。例えば映像と組み合わせるとかね。だから、できなくなるという考えよりも、なんでもできるようになるんだよっていう考え方ですね。「こうしたい」「ああしたい」っていうのがクリエイターの本質なので。

──(mikako)なるほど、そのとおりですね。AIプレイリストが普及すれば、今まで日の目を浴びてなかった作品が、にわかにヒットする可能性も高まりますね。

石川鉄男:過去には売れた曲はあるけど、売れなかった曲というのもいっぱいアーカイブにありますよね。時代によっては再評価される可能性があるんですけど、でも、全部はチェックしていられない。これをAIによって分析して、再リリースするといいですね。アーカイブは人類の宝物なので、これをどんどん出していくということもAIにできる大事なことかなと思います。

──(mikako)ステキです。

石川鉄男:そんな中で、実は自分が今1番怖いのは、AIが売れそうな曲をマーケティングして、AIが自分で勝手に曲を作って勝手にアップロードして、AIが自分で勝手にプレビューして儲けちゃって人間不在でレーベル化していくこと。簡単にそういうことができちゃうんですよ。

──(mikako)できちゃう…んですか。

石川鉄男:これ、止められないんです。実は、著作権収入の点でいうと、例えば野菜の歌…「トマトって美味しいよね♪」とか「きゅうりって長細いよね♪」みたいな曲を何万曲も出してる人がいたりするんです。これ、ダメとは言えないんです。ですけど普通はいきなり何万曲も作れないですよね。著作権収入というのはもちろん聴かれた人にその分だけ分配されるんですけど、包括契約という面からすると曲をいっぱい登録している人が有利な側面があるんですね。面を取ってしまうとでもいいますか、野菜の歌を1日に1000曲というペースで何日も登録するとと、あっという間に面を取って結構な著作権収入を得てしまう事が起こりまして、ミュージックビジネスに何か大きな崩壊を招いてしまう…それが一番怖いです。

──(mikako)…。

石川鉄男:止めようがないんです。2024年にJASRACが「クリエイティビティがないものは登録できません」みたいなことを言ったんですが、それもちょっと曖昧ですよね。

──(mikako)クリエイティビティってなんなんだろう、ってなりますね。

石川鉄男:こういった問題もAIとの普及と一緒に、真正面から考えていくことがすごく大事と思います。とにかく前に進むしかないですね。

──(mikako)面白いお話をたくさんありがとうございました。売れていないアーティストにも光が届く時代になるといいですね。

石川鉄男:クラウドファンディングってあるでしょ?ファンとかお友達に参加をお願いしているけど、実はお金を持っていて投資をしたい人って、世の中にいっぱいいるんですよ。でも市場がないから投資できないんです。だから楽曲をAIでデータ分析して、デモテープの段階でものすごい可能性があることを数字で示せば、「音楽のことはよくわかんないけど、ちょっと入れとくかな」って投資する人が出てくるんですよ。そういう投資家っていっぱいいますから、その人達へのアピールにAIの力を借りるんです。

──(mikako)なるほど、そういうことも可能なんですね。すごく面白かったです。ありがとうございました。

▲石川氏が「AIかかってこい」「AIがこれを作ったら負けを認める」と語る、人類の傑作。

取材◎mikako(Nagie Lane)
文・編集◎烏丸哲也(BARKS)
この記事をポスト

この記事の関連情報