僕はポップ現象の一部であるということだけで満足なんだ

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僕はポップ現象の一部であるということだけで満足なんだ

 ロンドン出身のデュオEverything But The Girl(EBTG)は、『Temperamental』のリリースで、'94年の『Amplified Heart』、'96年の『Walking Wounded』に続く三部作を完結させた。『Amplified Heart』からの世界的なハウスヒット「Missing」で、Tracey ThornとBen Wattは、芸術家風のトーチソング・スタイルを、ビートあふれるエレクトロニカのすばらしい新世界に、エレガントに適応させた。

「Missing」は、拒絶された恋人の悲しみと心臓の鼓動のようなビートを催眠術的にブレンドしたもので、これはSam & Daveの「Goldie」を知らなかった人々の耳をとらえた。『Walking Wounded』では、ハウス、トリップ・ホップ、そしてジャングルによってこのデュオの魅力がさらに広がり、そして『Temperamental』はその路線を踏襲したものだ。しかし、このふたりがタイミングよく時流に乗ったに過ぎないと考えたら、本質を見失ってしまう。
 
僕らは昔からテクノロジーには関心を持っている」と、Wattはロンドン西部の自分のスタジオで語る。

初期のアルバム『Eden』でもドラムマシンをいくらか使っている。僕らの試金石となったアコースティック・アルバム『Idlewild』も全編ドラムマシンだ。最近ではテクノロジーは僕らの使用するメインツールになっている。テクノロジーにとらわれてばかりではないけど、この頃は朝ギターを手にするよりサンプラーのスイッチを入れることの方が多い

Wattは、テクノのコツをHowie B.、Todd Terry、Spring Heel JackのJohn Coxonといった革新的なテクニシャンたちから学んだのだが、今ではスタジオでのすべてをコントロールするようになっている。そこにThornが作品やボーカルパートに最終的な意見を加えるという具合だ。

Wattは満足げに言う。

Traceyは、今の僕の作曲方法にイライラしている。巧妙なハイハットの編集なんかには夢中になれないんだ。ソウルや少しばかりハートがあるものには反応するんだけどね。彼女はあまりスタジオにいない。僕がカセットを回して、彼女が詞とメロディのアイデアを考えるんだ

彼らはかなりの数のカルトな支持者とレコードセールスを獲得していたが、そのような以前のスタイルを捨てるきっかけとなったのは何なのだろうか。

Wattはこう答える。

飽きてしまったんだ。ああいう音楽が、意義がなくて時代遅れで閉所恐怖症のようなものに思えた。'92年に僕は病気になったんだけど(チャウグ・シュトラウス症候群。自己免疫障害で小腸の相当部分が破壊され、10数kg体重が減った)、その後、僕らはキャリアの再構築を始め、『Amplified Heart』の制作にかかった。このアルバムの半分は、まったく従来どおりのフォークロック的アプローチで仕上げた。しかしこのレコードには、Spring Heel JackのJohn Coxonと一緒にやった作品も4曲ある。ブレイクビートでドライブするアコースティック曲が欲しかったんだ。彼はブレイクを刻み始め、僕は彼のやり方をじっと見ていた。「Get Me」と「Trouble Mind」そして「Missing」はすべてテクノロジーがクロスオーバーされてできあがった。一方がサンプラーとブレイクビート、一方はアコースティック・ギターと従来の曲だ。あれこそが、おそらくは変化の瞬間だ。Todd Terryが「Missing」をリミックスし、僕は徐々にそうした技術への関心を高めていった

チャウグ・シュトラウス症候群のために体が弱ってツアーに出られない間、Wattにとって、他人に干渉されないレコーディング・スタジオでの生活は慰めにも逃避にもなり、またそこは回復と音楽作りの場ともなった。しかし、Thornはまさに火がついた状態となった。ブリストルのトリップ・ホップ・マスター、Massive Attackのアルバム『Protection』('94年)に参加したことにより触発されたThornは、演奏中ただ座ってじっと見ているだけの丸顔の客たちを相手にしている時間はもうないことに気づいたのだ。

Traceyはますます触発されていった」Wattは回想する。

彼女は、従来のやり方で仕事をすることにはかなり限界があるってことがわかってしまった。僕らはアルバム『Acoustic』を作ったけど、収録曲の大半はカバーバージョンだった。それは曲作りにうんざりしていたからだ! そのすぐ後にTraceyはMassive Attackから曲を受け取ってぶっ飛んだ。彼女はこれまでとは違うものに歌を乗せてみようという気になったんだ。送ってもらったのは6曲のまったく骨組みだけのバッキング・トラックで、思いっきりスローなブレイクビートに背景的なノイズが乗っていた。Traceyは完全に取り憑かれて、その音楽に歌を乗せてみるとどうなるかを探ってみたくなったんだ。それは僕の直感ともあいまって、僕はそれまでやっていたことから離れ、なにか新しいものに挑戦してみたくなった

『Temperamental』は、ゴージャスなまでにダークという点では、それまでのEBTGのアルバムと変わらないが、ハウスミュージックのドライブするビートと華やかさに覆われた背景音に焦点を当てている。Wattはしばらくの間、ノッティングヒルのクラブLazy DogでのDJスロットの仕事を不定期に続けていて、この経験のおかげでロンドンで起こっている爆発的なハウス再革命による最新のサウンドに触れることができた。Basement JaxxやSasha & Digweedといったアーティストがスポットライトを浴びており、MadonnaCherがニューハウスに手を出すのも遠いことではないようだ。

Wattはきつい口調で言い放つ。

Madonnaには無理じゃないかな。彼女のダンスミュージックはこれまでずっとかなり先駆的だった。名作といえるようなクロスオーバー・ダンスレコードも何曲か作っている。あの時期はヒップそのものといえる存在だった。でも確かなことは、どのアーティストもそうだけど、ある時期に時代の先を行っていた人が、別の時期には時代に取り残されてしまう。道のりは長いんだ

長い道のりと言えば、WattとThornは、過去を振り返って、どうすれば「Missing」の世界的成功を再現できるのか思い悩むことはないのだろうか。

ない

彼は語気鋭く言い返した。

過去の実績にこだわっていたら、後でがっかりしてしまうよ。僕はポップ現象の一部であるということだけで満足なんだ。「Missing」は、実際僕らよりも大きなものになってしまった。あれを繰り返す必要なんて感じていない。そうするつもりもないし、できないよ。もう少しの間、ナンバーワンになるまで必死になるってこと?そんなことは考えてないね。あの曲が'90年代の僕らにとって、いささかの起爆剤になったというだけで感謝してるよ

もし『Temperamental』から「Missing」並みのヒットが生まれたら、彼の調子も変わるのだろうか。

彼は笑い飛ばす。

さあね。3か月後にまた聞いてくれよ

by Ken_Micallef

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