3年ぶりの来日に見た、オサリバン節の普遍性。

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3年ぶりの来日に見た、オサリバン節の普遍性。

Gilbert O'Sullivan /ギルバート・オサリバンが'97年の来日以来3年ぶりにライブをおこなった。場所はスィート・ベイジル139。客席に漂うのはやはり30代、40代の大人の雰囲気。会社帰りのサラリーマンが1人で来ていたりもする。青春のあの曲を聴きにふらっと立ち寄ったという感じだ。

あの曲というのはもちろん「Alone Again」である。しかし O'Sullivan は他にも英米でたくさんのヒット曲を放った70年代を代表するシンガー・ソングライターだ。日本でも'92年に彼の名曲がドラマの主題歌やCMに使われるなどして再評価が起こり、初の来日公演が実現、往年のファンを喜ばせた。今回は今年の6月に出したニュー・アルバム『Irlish』を引っさげての来日公演である。

O'Sullivan がステージに現れて中央のキーボードの前に座る。サポート・メンバーはシンセサイザー1人、バック・ヴォーカルの女性2人の計3人である。1曲目は何と'67年CBSからの記念すべきデビュー・シングルである「Disappear」。その独特のキーボード・タッチと、相変わらず繊細で優しい歌声を聴いた途端、青春時代に浸った瑞々しい感覚が甦る。MAMからの初ヒットとなった「Nothing Rhymed」、日本でもシングル・カットされた「No Matter How I Try」(邦題:「さよならがいえない」)など懐かしい曲が続く。7曲目の「Have It」は新作からだが、これぞ O'Sullivan 節といえる佳曲で、30年近く前の曲と全く違和感なく並ぶ。続く「Miss My Love Today」ではキーボードを変え、エコーの効いた幻想的な音色でこの曲の持つ孤独感を上手く再現してみせた。全英1位、全米2位の大ヒット「Clair」では観客のコーラスも入り、中盤最も盛り上がった曲となった。"結婚の曲"と言って紹介された「The Marriage Machine」はポップな曲だが、同じ結婚をテーマにした曲で'92年の来日公演でも演奏された「Matrimony」の方が聴きたかったというのは個人的な感想。

14曲目「Water Music」にいく前、通訳を介してこの曲に関する解説があった。その昔、洗濯する女達は単純作業を楽しくこなすためリズムをつけてウォッシュ・ボードをこすったという。そんな衣服を洗う音のみをバックにアカペラで歌うこの曲は新作からの選曲だが、なにかアイリッシュの古い民謡を聴いているような趣の、彼のルーツが感じられる曲であった。続く「Who Was It」では間奏でサンプリングした動物の鳴き声を入れたり、新作 からの「Say Goodbye」では歌詞に日本語の挨拶を入れたり、原曲ではゆったりしたバラードだった「What Cound Be Nicer (Mum the kettle's boiling)」をレゲエ調にアレンジして演奏するなど、後半は遊び心溢れるステージで大いに盛り上げてくれた。

そして「Alone Again」である。もう何百回と聴いたであろうこの曲が始まった瞬間にやはり胸が切なくなった。悲壮感溢れる大バラードでもなく、能天気なポップスとも言えない、妙に淡々とした孤独感が漂うこの曲がなぜこんなにまで長く人に愛されるのか。そんな事を考えながら聴いてるうちに、この "ちょっと切ない" 微妙なニュアンスがこの人の音楽の秘密ではないかと思えてきた。どの曲にも根底に流れるこのニュアンスに会いたいために、何度もレコードに針を置くし、ライブにも足を運ぶのだ。

アンコールの「Get Down」でライブは終了した。全19曲、1時間15分。ちょっと物足りない気がしたのも事実。新作を聴いても感じたことだが、打ち込みやサンプリングを多用した冷たい印象のアレンジが目立つ。本人の声と曲の持つ暖かさはそれを補っていたと思うが、やはり昔のジャケットに写っていたようなアップライト・ピアノと、アコースティック・ギター、ウッド・ベースなんていう構成で聴きたかったな。秋風が冷たい中、ふとそんな思いがよぎった帰り道だった。


『Irlish』
取材協力:スイートベイジル
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