マンチェスターの親玉2人が戯れる“ねじれ”ポップ

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マンチェスターの親玉2人が戯れる“ねじれ”ポップ

 

彼の声はソフトで、受け答えは思索に富んでいる。だが、Bernard Sumnerは素晴らしいノイズを作りだす力を持っている。ポスト・パンクの中でも名状しがたいほど重要なJoy Division、そしてオルタナティヴの首謀者であるNew Orderのメンバーとして、ロックギタリストの役割をエレクトロニックなアクセサリーとして再定義するのに貢献してきた。今度は元SmithのJohnny Marrとチームを組んで、オルタナのスーパーグループの名にふさわしい数少ないバンドの1つ、Electronicをスタート。いうまでもなく、Johnny Marrは素晴らしいアルペジオの指さばきを持って一時代を築いた。Doveのベーシスト、Jimmy GoodwinとBlack Grapeのドラマー、Jed Lynchという素晴らしいバックに囲まれて、2人のギタリストはまるで達人のごとくフューチャリスト的で、メロディックなノイズポップを演奏している。

だが、Electronicの動きはゆっくりとしたものである。それはバンドの労働がきついからということではなく、関与しているメンバーの生活が信じられないくらい複雑なためだ。年令を重ねるということ(ロッカーの基準であって、実生活とは違うのだが)は家族とそれに伴う義務を意味するし、突然の活動休止は待っている間に別の何かを追求することにつながる。すると、今度はそれが将来のスケジュールとぶつかることになってしまう。つまりNew Orderが実際にレコーディングを再開してしまえば、Marrにとっては彼のバンド、Healersで何かアクションを起こすきっかけになるということだ。そうなればさらに1年が過ぎてしまう。こうしてElectronicのサードアルバムはついに完成したものの、リリースされたのはヨーロッパのみであり、アメリカでの発売にはまた1年を要してしまうのだ。

したがって、Electronicが10年近い歳月(バンドが最初に結成されたのが'89年だということを計算に入れれば11年)に、わずか3枚のアルバムしかリリースしなかったのは怠慢によるものではない。多少はあったとしても、それはハードワークに問題があるためだ。だが、長らく待たれていた『Twisted Tenderness』でのElectronicはヘルシーかつハッピーで、「Vivid」「Late At Night」「Make It Happen」といった作品を産み出したクリエイティヴなプロセスに大いに満足しているようだ。とりわけ「Make It Happen 」はアルバム中になんと2回も登場するのだから!

Johnnyが“Make It Happen”のトラックを持ち込んだんだけど、まるでフォークソングみたいな感じだったよ」とSumnerが説明する。「とってもソフトな曲で、そのトラックに合わせて僕がヴォーカル部分を書いたけど、Johnnyはバックの音楽を変えてしまったんだ。それにロンドンのエンジニアもトラックを変化させたので、まったく違った曲にヴォーカルが乗っているんだ。ヴォーカルの背景にあるサウンドを変えるというのはとても面白いよ

Sumnerはこのベーシックな曲を作ってから、スタジオのテクノロジーで加工するという方法が気に入ったようだ。

いつでも改善できると思えるからね。創造者というよりも構築者になって、より良い構造に組み立て直せるというわけさ。これをやるかやらないかは、非常に面白い問題になっている。僕たちがこの方法をやったからには、より良いサウンドになっているはずだよ。音楽はまるで浮き砂のようなものだし、僕らの音楽は形を変える砂のようなものなんだ。自分たちがやっているのが正しいことかどうか見極めるのは難しいけどね

だが、このところのSumnerが正しいことをやってきたのは明白だ。彼は自分のことを吹聴する性格ではないが、Primal ScreamChemical Brothersとの共同作業は、他のミュージシャンたちが彼の輝かしい経歴に対して抱くある種の敬意を明らかに示している。

Chemical Brothersにとって僕はヒーローの1人だったらしく、畏敬の念を持って接してくれたけど、ちょっと緊張してるみたいだった」とSumnerは認めている。「彼らとの仕事は楽しかった。素晴らしい連中だよ。彼らの音楽はアクション映画みたいだと僕はずっと思っていた。目の前で何かが爆発するような、素晴らしいビートとサンプルはまさしく映画的だね

このうえなく民主的なNew Orderで何年も仕事をしてきたため、Sumnerは他のメンバーのインプットに敬意を払うようになっていた。そのこともあって、Electronicでの作業はずっと楽しいものだという。

New Orderでは他人の領域に踏み込まないように注意しなくちゃいけないし、たとえ作品が完成したとしても全員が曲にOKを出さなければならないのさ。でもElectronicではもっと偏執狂的なやり方もできる。もしJohnnyの書いたトラックに僕が参加しなかったり、その逆のケースがあったりしても、それは別にかまわないんだ

そのプロセスはカジュアルなものだ。「僕たちはホームスタジオの設備を持っていて、そこで曲のデモを制作する。Johnnyのスタジオは僕のより設備が揃っているから、彼の家でバンドのレコーディングをやるんだ。それからバースにあるPeter Gabrielのスタジオかロンドンのスタジオへ出向いて、ベーシックなバンドのトラックにテクノロジーを加え始めるのさ。僕たちは曲をもっと抽象的なものに仕上げたいんだ。曲をさらに強力なものにするために、僕たちはArther Bakerとの共同作業を行なっている

New Orderは現在、'93以来という次のスタジオアルバムの仕上げを行なっており、その後でツアーに出る予定だという。だが、Electronicがどうなってしまうのかを心配する必要はないようだ。何も具体的なことは決まっていないし、何事も常に宙に浮いたままだが、Electronicの未来に対するSumnerの姿勢は前向きな意味で“禅”的なものである。「僕たちはただ待っていて、何が起きるか様子を見るのさ

 

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