トリッキーを魅了した歌姫が初の米国ツアーで見せた存在感

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トリッキーを魅了した歌姫が初の米国ツアーで見せた存在感
 
「姿を現したAlison Goldfrappは、まるで現代のマリーネ・ディートリッヒだ」

1st Album

Felt Mountain
Mute CDSTUMM188(輸入盤)
2000年9月19日発売

1 Lovely Head
2 Paper Bag
3 Human
4 Pilots
5 Deer Stop
6 Felt Mountain
7 Oompa Radar
8 Utopia
9 Horse Tears

英国の歌姫、Alison GoldfrappがTrickyOrbitalの作品でその歌声を披露して以来、評論家たちは彼女のことを大絶賛し、レコード会社はこぞって契約を申し出た。ところが彼女は“チヤホヤされているうちに契約しろ”という原則など無視するかのように、そうしたまわりの騒ぎに背を向け、クリエイティヴのパートナーであるWill Gregoryとともに曲作りのために5カ月間も人里離れた田舎小屋にこもってしまった。 この外部からの隔離された状態で生まれてきたのが、幻想的できらびやかなグリム童話のようなデビューアルバム『Felt Mountain』(Mute)だ。Gregoryの映画音楽のコンポーザーとしての手腕に、Alisonの驚異的な声域が組み合わさってできた雰囲気たっぷりの実験的な作品である。荘厳なキーボードの響きや流れるヴァイオリンの音色の詰まった『Felt Mountain』には、明らかな影響(007シリーズのテーマ曲、フィルムノアール、ワイマール文化の頃のベルリン)の影も見えるとはいえ、それに留まらない未知の領域へ足を踏み出している。官能的であると同時に奇妙な雰囲気を漂わせながら、このアルバムはリスナーを豪華絢爛な細工で複雑に入り組んだ世界へと誘う。

初の米国ツアーでロサンゼルスのEl Reyに登場したGoldfrappは、新人の不安さなど微塵も見せずに貫禄あるステージを繰り広げた。非の打ちどころのな無いインストゥルメンタルからショウはスタート。そのサウンドを作り上げているのは第一級のヴァイオリニスト(Goldfrappらしいチロル帽姿)、キーボード・プレイヤーとドラマー、そしてGregoryがその他のあらゆる隙間(キーボード、ギター、サンプラーなど)を埋める。

最近は確かに驚くような作品を世に送り出すバンドも多々いるが、それをスタジオからステージに持ってくるという冒険を犯してもなお、アルバムの魅力を維持できるバンドはそうはいないだろう。たいていは、ライヴになると威厳ある曲が平凡なものに成り下がったり、ステージ上でのカリスマ性の希薄さに、曲は良くてもつまらないというショウになってしまうものだ。ところが一方では、もともと“素晴らしいもの”を“偉大なもの”に変えてしまうこのGoldfrappのようなバンドが存在するのだ。

ドラマチックなインストゥルメンタルのオープニング(ズン、タッタ、というジプシーのサーカス音楽のようなよろめいたサウンド)に続いてAlison Goldfrappが姿を現す。後光が射すような金色に輝くカールした髪に、透けるような青白い肌をした官能的な生き物は、まるで現代のマリーネ・ディートリッヒだ。エキゾチックでエロティック、呪文にかかったように人は惹きつけられてしまう。バンドは、雄大な“Human”から緊張感と殺伐さが後をひく“Horse Tears”まで『Felt Mountain』収録の9曲ほぼ全曲を披露した。

Goldfrappのメンバー全員に観客の心からの賞賛が向けられたが、やはり人々を魅了してやまなかったのは、銀色のラメのドレスに身を包んだ魅惑的なAlisonだ。ステージを自由に飛びまわりながらボコーダーを使ってみたり、ハーモニックスを繰り出すマイクを操る。アルバムではコントロールされ完璧なピッチが保たれていた彼女の声は、ステージ上では解き放たれ、かすれた叫びから少女のような囁きへと自由自在に変化してみせた。

バックを支えるバンドの多才ぶりが、Alisonの生まれ持ったカリスマ性をより一層輝かせる。ドラマーは時に立ち上がってヴァイオリンに合流し、Gregoryはベースからキーボード、キーボードからサンプラー、サンプラーからギターへと動く。ヴァイオリニストは全曲で完璧なフレット上の妙技を披露しながら、予想もしていないような心を打つ美しいメロディーを弓の先から紡ぎ出していく。

アンコールに入り、Goldfrappの高尚なドラマーは彼らの乾いたユーモアセンスに取って代わられた。Olivia Newton-Johnの“Physical”のカヴァーをビートボックスの伴奏によるスカスカのヴァージョンで披露。Goldfrappの手にかかると、普通なら陳腐になりそうなものがなんとも魅力的なものに変身してしまう。Newton-Johnが健康的なセクシーさで聴かせていた曲を、Alisonは笑ってしまうくらいあからさまな挑発に仕立て上げてしまった。彼らのShirley Basseyへの敬意、大衆キャバレーへの愛着の根底には、ゆるぎない情熱と奇妙に困惑した孤独感が漂っている。

ロサンゼルスの観客たちの頭上に再び明かりが灯ったときには、Goldfrappは決して無視できない存在であることを証明していた。観せるだけではなく、魅せることができる貴重な才能を授かっているバンドであることを知らしめたのだ。

Jessica Hudley/LAUNCH.com

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