インディロックの世界から飛び出したクラシックポップの名手

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インディロックの世界から飛び出したクラシックポップの名手
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「僕はまったく即物的な人間だからね。CMに出ることに罪悪感など感じないよ」

最新 Album

The Coast Is Never Clear
parco クアトロ-042
2001年08月13日発売 2625(tax in)

1 Hello Resolven
2 A Good Man Is Easy To Kill
3 What Will You Do When Your Suntan Fades
4 Gene Autry
5 Silver Lining
6 Popular Mechanics For Lovers
7 Gravity 's Briging Us Down
8 Hey Brother
9 I'll Be Your Lampshade
10 Cruel Minor Change
11 Burned By The Sun
12 Night Is the day Turned Inside Out

これは517かい?

Beulahの中心人物であるMiles Kuroskyはシャツの後ろをまくり上げてお尻を突き出しながら尋ねた。そのとおりだと答えると、彼は「501みたいな感触だよ」と言って自分のLevi'sを見下ろしながら鼻をすすった。

3枚目のフルアルバム『The Coast Is Never Clear』をリリースしたばかりのサンフランシスコ出身のBeulahにとって、デニムは救世主となるかもしれない。GAPがミュージシャンを起用した広告キャンペーンの一環として、彼らを使うという話が進められているのだ。

本当はLevi'sのほうがふさわしいんだけどね」とKuroskyは言う。「いちばん多く着ているのはそっちだからさ

だが、彼はBeulahがテレビに登場する手段を選ぶつもりなどない。

だって僕はまったく即物的な人間だからね」。Kuroskyは現実的なそぶりで断言した。「CMに出ることに罪悪感などまったく感じないよ。できるときに売り出しておくべきだ。人生は一度きりさ。ウィンストン・チャーチルだって、若いときにリベラルでない人間にはハートがないし、歳をとってから保守的にならない人間には知能が欠けている、って言ってる。僕もそのとおりだと思うな。まだまだ金もうけはしたいからね

厚顔無恥なくらい陽光に満ちた『The Coast Is Never Clear』におけるクラシックポップのサウンド(古き良き時代のBeach Boysを思わせる)は、Beulahにいくばくかのお金をもたらしてくれる要因かもしれない。さわやかなアコースティックベースのサウンドに、荘厳なストリングスと高揚感のあるホーンがハッピーに溶け込み、軽快なギターリフがハイスクールバンドのようなドラムスの上で楽しそうに飛び跳ね、シンプルだが効果的な賛歌調のハーモニーが浮遊感のあるメロディの傍らを駆け抜けるのだ。

『The Coast Is Never Clear』は以前のBeulahのアルバム('97年の『Handsome Western States』、'99年の『When Your Heartstrings Break』)から大きなステップを踏み出しており、ローファイ的な美学をよりフィーチャーしたものとなっている。Kuroskyは精密なBBCスタジオでのセッションを経て、ハイファイ志向でいくのは結局のところ、まったくスリリングじゃないと認識したのだという。

以前のレコードを聴いていると、昔の自分の写真を見てるような気分になることがあるんだ。“どうしてこんな服を着てるんだ? どうしてこんな髪形なんだ”ってね」とKuroskyはこれまでのアルバムについて語る。

新作はもっと自分の感じているものに近いよ。つまり、よりエモーショナルで、よりオーガニックなんだ。刺激的で、興味深く、拡張性があるという点で、時の試練に耐えるようなずっと“リアル”なレコードに仕上がっている。以前のアルバムでは、自分の音楽的な環境やインディロックなどの状況に何がフィットするか、みたいなことに影響を受けていたのさ。自分が何をやっているのか、それがどのように受けとめられるか、どんなふうに作品が聴かれるのかということに極めて自覚的だったよ。でも、今回の作品ではそんなことはまったく意識していないんだ

Kuroskyは『The Coast Is Never Clear』の最初のデモを日本にいるときに1人で制作し、そのテープを他の5人のバンドメンバー(キーボーディストのBill EvansとPatrick Noel、ベーシストのSteve La Follette、ドラマーのDanny Sullivan、ギタリスト/トランペッターのBill Swan)に送り届けた。メンバーはそれに各自で手を加え、作業プロセスのいちばん最後に全員が集合したのである。こうしたKuroskyの、以前にはなかった成り行き任せのアプローチのおかげで、彼自身も成長できたし、自分の職業をより快適に思えるようになったという。だが、Beulahがビッグになりすぎて自身の殻に閉じこもったり、柔軟性を失ったりするようなことは、彼もまったく望んではいない。

僕らはある意味で一部の若者たちと同じ場所にいるけど、その半面、もうそこには属していないということを心に留めておくんだ。それこそが自分自身に帰属し、自分がコントロールしている自身の自律的な実体がどこにあるかを理解する明確なラインなんだ。僕らのレベルじゃなくてマイナーなインディでの成功であっても、ある程度の成功を収めてしまうと、その後の自分の人生の間ずっとやらなくてはいけないことを規定してしまうようなところがあるのさ。

僕はRadioheadのような人たちを尊敬しているんだけど、彼らは自分たちが過去にやってきたことを完全に解体することができるんだ。過去を破壊するんじゃなくて、その上に新しいものを再構築するのさ。Beulahは僕が作り上げたものだから、自分のやりたいようにできるんだ。もしも、まったくのガラクタに変えてしまいたければ、その権限は僕にある


傑作『The Coast Is Never Clear』に何らかの予兆があるとすれば、Kuroskyがそのような愚行に及ぶことをBeulahファンが心配する必要は当面なさそうだということだろう。

By Lily Moayeri/LAUNCH.com

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