次世代に受け継がれるアンチ・ヒーロー

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次世代に受け継がれるアンチ・ヒーロー

2001年11月6日、俳優松田優作の13回忌が三鷹市法専寺で営まれました。

“松田優作イズム”とでも言うべき、その演技に対する情熱、ストイックさ、観る者を 魅了してやまないそのカリスマ性で熱狂的ファンを獲得した彼も、没後10余年。 リアルタイムで作品に影響を受けた世代から、新たに“銀幕のヒーロ”として認知する世代を迎える時代になりました。

そこで、バークスでは松田優作の人物の魅力を改めて振り返ると共に、13回忌メモリアル・プロジェクト<Y.M.PROJECT 松田優作プロジェクト>の記者会見の模様、関連CD作品の紹介をまとめてお届けします。

文●竹中吉人

松田優作の魅力とは?

<松田優作プロジェクト>
記者会見


写真左:黒沢満氏
写真右:松田美由紀氏

去る10月3日、渋谷のQ FRONTにて<Y.M.PROJECT 松田優作プロジェクト>の記者会見が行なわれ、亡き優作の妻である松田美由紀夫人と、東映ビデオの専務取締役の黒沢満氏が壇上に上がった。

このプロジェクトは、今年2001年11月6日で松田優作13回忌を迎えるにあたり、彼の魅力を再確認しつつ新しい優作を創出するというもの。

俳優として出演した映画やTV番組のDVD、その周辺サントラや優作自身が歌っているCDをはじめとするリバイバル作品、そして美由紀夫人執筆の書き下ろし本、優作をキャラクタ・ーモデルにしたゲームソフトなどの新たな作品を、この冬、順次発表していくようだ。

美由紀夫人は記者会見上、 「13回忌はひとつの節目として考えていました。優作を支えてきてくれたスタッフたちもそれなりの歳になったため、ご協力を得られるのもこれが最後と思いました。 そして若い人たちに優作を感じてもらっていることを実感し、今回、大きなプロジェクトにしようと決心しました」と語った。

今あらためて優作の魅力はどこだと思うかという質問には 「アンチ・ヒーローだったところが支持されているのだと思います」と答えた。

美由紀夫人は39歳で死んだ優作と同い年になったことに感慨をもっているようで 「ちゃんと生きてこられたという自信、そして報告ができる」 とも語っていた。

そして、優作映画を手がけたのと同時に、彼の父親的な存在でもあった東映ビデオの黒澤満氏は 「優作がどこに力を入れ、どう成長していったか。常に前を向いて戦いつづけた彼の姿を改めて見て欲しい」 とコメントした。

なお、11/6の13回忌には優作が眠る三鷹市法専寺にて俳優仲間、スタッフに加え、一般の人の弔問も受けつけるとのこと。

2001年10月3日 渋谷Q FRONTにて

松田優作が伝説として語られるきっかけになった出来事といえば、数年前に「SMAP×SMAP」の中で木村拓哉が松田優作へのオマージュを捧げた「探偵物語」のパロディ、そしてそれに続いて作られた松田優作をキャラクターに使用したコーヒーのテレビCMが思い出される。

このCMは、実際のドラマ「探偵物語」のシーンをフィーチャーしたことで話題となり、松田優作リバイバルを後押しする大きな要因となったことは記憶に新しい。と言いたいところだが、これがすでに'98年頃のことだから、3年が経とうとしている。

その後も折に触れ、松田優作は語られてはいるが、今年はちょうど彼の13回忌ということもあり、再度、新しい価値観による松田優作リバイバルが大きなうねりを見せている。

松田優作の魅力とは? 

これは、いろんなところで語られてきたことだが、簡単に言えば「カッコいいシルエット」につきる。

生前を知る人も知らない人もグッと感じてしまう、得体の知れない存在感というのかカリスマ性というのか。そんな彼の一挙手一投足から発せられる説明不要の異質な輝きが我々を魅了してやまないのだ。

わたしが最初に松田優作の存在を知ったのは、彼の出世作として知られるテレビドラマ「太陽にほえろ!」の刑事役(ジーパン)。本放送ではなく何年か経ってからの夕方4時からの再放送であったが、松田優作のカッコよさと個性にまだ小学生だったわたしは圧倒された。長身の細身で手足の長いシルエット。そしてクールな佇まいが、当時の他の俳優がもっていた雰囲気(それは汗臭く男気にあふれる)とは全く異質であったことは小学生のわたしにも分かったし、それが強烈なインパクトになっていたのだ。

また、シルエットの他に、実際の演技の面においても、驚かされる点が多かった。「なんじゃあ、コリャあ!」の殉職シーンを出すまでもなく、彼が出たシーンのどれもが、異様ともいえるテンションであった。脚本通りなのだろうけど、ほとんどアドリブ感覚で演じている表現力が他を圧倒していた。単なる自己主張旺盛な目立ちたがり屋ではなく、カリスマ的存在感が彼に漲っていたのだ。

ジーパン刑事役で人気を確かなものにした松田優作は「遊戯」シリーズなどのハードボイルド映画、歌手、テレビと活躍の場を広げていく。そして'79年、彼のイメージになったテレビドラマ「探偵物語」に辿り着く。ハードボイルドかつシリアスでありながら、コミカルでユーモラス、という主人公・工藤俊作の設定が松田優作の魅力と一致し、予想以上の相乗効果を作り上げることになる。また、このドラマは設定やロケ場所、小道具、セリフ選び、音楽など至る面でのこだわり貫かれておりそこが、今なお根強い人気を得ている理由のひとつになっている。

「探偵物語」以後、'80年代の松田優作は、それまでのハードボイルド路線から一転して「家族ゲーム」「それから」「探偵物語」などの映画に出演し、演技派としての一面を見せるようになる。ルックスも全く別人のように変身している。

そして、'89年には事実上最後の大舞台となるアメリカ映画「ブラック・レイン」に凶悪な殺人者として出演することになる。鬼気迫るような演技で国際的に高い評価を得、世界進出を果たす…はずだった。しかし、皮肉にもこの映画は彼の遺作となってしまう。『ブラック・レイン』は、病魔と闘いながらギリギリの状況の中で撮影されたものだったのだ。

'89年11月6日、膀胱ガンのため死去。享年39歳。

カリスマ性をもった人ほど夭逝なのは世の常であるが、松田優作も確実にそのひとりに挙げられるだろう。そして、その後に残した影響力の大きさは、今後永遠に続くものと思われる。
松田優作関連作品──松田優作13回忌にちなんで新リリースされた関連CD

『探偵物語 Remix~これにて一件落着~』

SME Records MHCL-44
3,059(tax in) 発売中


ソニーからリリースされた『探偵物語Remix~これにて一件落着~』。

これはタイトル通り、テレビドラマ『探偵物語』で使用された3曲、(オープニングテーマ「Bad City」とエンディングテーマ「Lonely Man」、そして挿入曲「As Easy As You Make It」)をリミックスした9曲入りのアルバムで、リミキサーには小西康陽、池田正典、須永辰雄、サワサキヨシヒロといったお馴染みの面々にスケボーキングのシゲオやSmorgasのアニイが参加している。

顔ぶれおよび、ドラマ内で使用された松田優作演じる・工藤俊介のセリフもフィーチャーしているという点では、数年前にヒットした「ルパン三世」のリミックスアルバム『PUNCH THE MONKEY』を思わせる。


『COMPLETE SHOGUN』

SHOGUN
SME Records 発売中
MHCL-45~46 3,059(tax in)


上記『探偵物語Remix~これにて一件落着~』同様、ソニーからリリースされたSHOGUNのベストアルバム『SHOGUN COMPLETE』。

ドラマ「探偵物語」の音楽を手掛けたことで知られる彼らの軌跡を2枚組にまとめたもので、前述のリミックスアルバムに収録された3曲のオリジナルのほか、テレビドラマ「俺たちは天使だ!」の主題歌「男達のメロディー」など全34曲が収められている。

ほとんどテレビ絡みでしか認知されていない彼らだが、実は3rdアルバム『You're the one』(名盤!!しかし現在廃盤)で聴かれるように世界に通用するスケール感の大きい、優れた音楽を作り出していたバンドであったことを再確認する上でも格好のベストである。


『太陽にほえろ!~ジーパン刑事MUSIC FILE~』

徳間ジャパン 発売中
VPCD-81396 2,000(tax in)

こちらは、バップからリリースされているお馴染みのサウンドトラック・シリーズ「ミュージックファイル」から松田優作の出世作となったドラマ「太陽にほえろ!」でジーパン刑事のテーマとして使われた「青春のテーマ」を20バージョンまとめて収録したこだわりの1作。

「ミュージックファイル」シリーズから出ている松田優作関連作は「松田優作サウンドメリアル」と名づけられ、すでに数多くの作品がリリースされている(中でもベスト的な内容の『松田優作クロニクル'73~'89』がお薦め)が、これもジーパン刑事ファンには堪らないアルバムといえる。

無性に走りたくなること受けあいだ。

「ミュージックファイルシリーズ」プロデューサー'sコメント

自分にとって松田優作はひとつのジャンルです。

小学校三年の時に見たジーパン刑事の原体験から始まって、その後は「俺たちの勲章」「大都会PART II」と続いて今に至っています。

魅力をひと言でいうのは難しいですが、まずは見た目のインパクトですね。

また、格好良いだけじゃなくて、いつも何に対しても真剣であったところも魅力を感じます。スタッフを殴った、とかいう話も伝説として一人歩きしていますが、それは松田優作が何に対しても妥協ができなかったからだと思うんです。そういう精神的な所は自分が仕事をする上でも影響を受けていますね。自分が殴っちゃうと傷害罪になっちゃうので、それはしないようにしてますが(笑)。
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▲バップ「ミュージックファイルシリーズ」プロデューサー:高島幹雄氏
自分の目標年齢として、松田優作が死んだ39歳がいつも心にありま
す。その時の自分がどうなっているか、そして39歳を越えて生き続けたいという気持ちが強くなっています。松田優作は自分の生きる指針となっているんです。

まさか自分が仕事で松田優作の作品に関わるとは思っていませんでしたから、ドラマのビデオ化や「ミュージックファイル」の制作はとても不思議な気持ちがしますね。
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