【BARKS編集部レビュー】ULTRASONE edition 8が世界最高峰のワケ

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どこぞの歌じゃないけれど、世の中には「オンリーワンでもありナンバーワンでもある」という、どうにも出来過ぎた奴はいるもんで、間違いなくULTRASONE edition 8もそんな突き抜けた一品のひとつだ。

◆ULTRASONE edition 8

▲ULTRASONE edition 8。ハウジング表面は希少金属のルテニウムが使用されており、濡れているように滑らかな鏡面仕上げ。ピカピカだが非常に上質な輝きで、質感は非常に高い。

▲デザインも極めてシンプルな機能美にあふれている。剛性も高く使い心地は極上だ。

▲現在販売されているのはこのルテニウムモデル(edition8 RT)と、マットなサテン仕上げのパラディウムモデル(edition8 PD)。マットフィニッシュ・ルテニウムにアメリカン・ナットウッド材を組み合わせた限定モデルedition8 Ltd.は、生産終了となっている。

というか、かれこれ発売されてから3年もの年月を経るedition 8のサウンドを、今さらに鼻息荒く語るのも相当おマヌケなのだけど、このサウンドに真正面から出会ったら冷静でいられるわけもないので、百戦錬磨の貴兄にはちょっとばかし目をつぶって…というかつぶらなくとも生暖かい目で見守っていただきたい。これからの若いリスナーへ素晴らしいアイテムをひとつずつ紹介するのがBARKSの立ち位置でもあるので、ここでは厚顔無恥ながらもedition 8の圧倒的な素晴らしさの一端をお伝えしたいという心づもりだ。

現在販売されているモデルにおいて名実ともに密閉型の最高峰と誉れ高きULTRASONE edition 8だが、まず最初に言っておきたいのは、edition 8は「不可能を可能にしてしまっているような不思議ちゃんですよ」という点だ。

前を見れば後ろが見えず、左を見れば右が見えないように、物事には常に二律背反の摂理がつきまとうわけで、ヘッドホンサウンドに関してもどこもかしこもトレードオフだらけなのが常である。濃密になれば見通しが悪くなるし、豪快さが前へ出ると繊細さを失う。粘りや重さはキレやスピードを相殺し、開放感は親密度を失うことを意味する。マラソン選手と100mアスリートがひとつの肉体に同居できるはずもなく、どちらも求めようとするのが土台無理な話というのが常識なのだけど、edition 8は不思議ちゃんなので、100mを10秒で走り抜ける肉体を持ちながらフルマラソンを2時間強で完走してしまうみたいな、ちょっとあり得ないサウンドを叩き出してしまうのだ。

密閉型なので高い遮音性と音漏れの少なさ、みちっと側頭に密着する絶品の装着感を持つが、音には広がりがあり、ヘッドホン特有の脳内定位を感じない。メリハリがありまくりド派手なワイルド・サウンドにもかかわらず、音の輪郭は非常に繊細でガラスのような微細な描写を行なっている。温度の高い肉厚な低域を大量に叩き出すくせに、ひとつひとつは非常にタイトで引き際が非常にシャープなため、飛び出したサウンドが休符と共に瞬時に消えるマジックのような鮮やかさだけが残る。

熱さとクールさの両立…みたいな、もはや日本語として機能しない表現すら引っ張り出してしまいそうな状況だが、edition 8は、めっちゃ知能指数の高い暴れん坊というか、空気の読める破天荒野郎とでもいうべきキャラクターだ。決して無難ではなく全帯域イケイケのかなり攻撃性の高いサウンドだと思うが、臨界点を超えてしまうデリカシーの欠如のような心配はいらない。激しいパワーをぶちまけるものの、そこは持って生まれた家柄の良さで下品さは皆無である。かのAKG K701やSHURE SRH1840までもが普通のヘッドホンに聞こえてしまうほどの遠慮ない主張っぷりだが、これだけ高域が出ているのに歯擦音に悩まされることがないのも不思議を超えて奇跡だ。

実は、このキャラ、edition 8に限った話ではなく、ULTRASONEというお家柄の話でもある。彼らに惚れるとえらいこっちゃで、代わりが効かないのでとんでもない散財に見舞われる。ヘッドホン界のセレブリティである所以でもあるし、カリスマ的に魅力を放つブランド力の源泉でもあろう。このぶん殴られるような低域に惚れると普通のヘッドホンでは刺激が足りなくなってしまい、魅惑のULTRASONEゾーンにずぶずぶと引きずり込まれる強烈な求心力から逃れられなくなる。ULTRASONEってうかつに手を出してはいけない禁断の果実だったのかも。もう食べちゃったけど。

耳に飛び込んでくるサウンドはちょっと個性的で、各音が耳のまわりでコロコロと転がるような親密さというかリアリティがあり、鼓膜近くで響くカナル型イヤホンとも違い、開放型のヘッドホンのような広大な音場とも違う、ちょっとした箱庭的な響き方が非常に独特だ。これこそULTRASONE独自のS-LOGICという技術によるところなのかもしれないが、ポイントはその独特の響き方が、身体に染み込むようになんの違和感のないものになってしまうことだ。使い慣れるとともにその感覚はより身近になってきて、この聞こえ方に自分の脳ミソが最適化されてしまう。そうなるともうULTRASONEの生み出す音場の魅力から抜け出すことは困難だ。

▲側圧も適正でしっかりとした遮音性を持っているが、耳介をすっぽりと覆ってくれるのでオンイヤータイプのような痛みは全く生じない。

▲イヤパッドに使用されている材質は、エチオピアン・シープスキンレザー。これが猫の肉球もびっくりの心地よさで、肌に吸い付くようにフィットする。ヘッドパッドにも同材質がふんだんに使用されている。

▲右ヘッドバンド内側に刻印された「S-LOGIC」の輝かしきマーク。ULTRASONE独自の技術である。

▲左がedition 8。右が2010年10月に発売となった開放型のedition 10。同じeditionシリーズだが、コンセプトから設計まで全く異なるため、そのサウンドも大きく異なる。

S-LOGICという技術は、ドライバをわざと中心から外し、各帯域の音を耳介全体に当てるように設計したもので、これにより自然な定位を得るという。おそらくもっとも重要なのは耳介全体ではなく、耳穴の入り口の凹み部分…カスタムIEMがすっぽり入るコンチャと呼ばれるくぼみの部分なのではないかと思う。コンチャが凹んでいるのには重要な意味があって、音を反射させるためのパラボラのような形状をしていると考えられる。その理由のひとつは音源の上下位置を判別するためだ。

音の左右は簡単に知覚できるが、左右ふたつの耳で上下をどのように知覚するのか。鼓膜へ直接飛び込んできた音をダイレクト音とすれば、コンチャ内で反射して鼓膜へ飛び込んだ音は数cmの位相差が生まれていることで、ダイレクト音と干渉を起こし、可聴帯域内に複数のピークとディップを発生させる。音源の位置(高さ)が変われば音波のコンチャ内の反射角も変わり、それによって干渉域も変わりピークとディップの周波数も変化することになる。そこには、音源の上下位置と連動した確実な規則性が生まれるわけで、その時のピーク&ディップ干渉のパターンと視覚による高さ確認をマッチングさせ逐一学習していけば、音源の上下位置は容易に知覚可能となるであろうと考えられる。

一つの音源に対し複数のマイクで録音しそれらを合成するマルチマイクレコーディングを行なうと、フェイザーがかかったような独特のトーンが得られる。耳介で反射を受け鼓膜に到達した音も、位相ずれを起こし独特のフェイザーがかったトーンになっているはずだが、我々の意識ではノーマルな音として感じている。つまり、干渉によって発生したピークやディップは意識下に置かれ、通常の生活で我々が知覚するところではないけれど、ピークとディップの発生といったような様々な物理現象を利用して、多角的に情報を処理し空間認識を行なっているのが我々の脳ミソだ。そして音を知覚し音楽を聴いているのもその脳ミソである。我々の意識下に潜む知覚外の音要素も、いかにスポイルせずに脳へ届けるか…という視点でみれば、S-LOGICは生理学的アプローチという意味においても極めて理に適った、音楽をより自然に豊かに聞かせる正統的なアプローチであると評価できるし、事実、その効果は多くのユーザーが認めるところでもある。そして不思議ちゃんとでも言いたくなるような既存のヘッドホンとは一線を画す音質や二律背反の両立なども、本質を外さないミュージシャンシップを携えた技術者気質によって勝ち得てきたものであることは想像に難くない。

S-LOGICは単なる技術のひとつだが、そもそもULTRASONEには、プロフェッショナルへ向けた妥協なきプロダクトを追及する姿勢が常に貫かれている。ことeditionシリーズにおいては、採算度外視で信念と情熱だけで信じるものを徹底して作るというULTRASONE社CEO Michael Willberg氏の好き放題プロダクトでもあり、いわばULTRASONE社のアイデンティティが具現化したものとも言える製品だ。

とにかくedition 8の真実は、突き抜けたクオリティーが全力で叩き放たれるというところにある。何かと比較しての相対評価ではなく、一聴して絶対的にいい音であると思わせる桁違いの品質と、その感想がどれだけ経っても色褪せないという安定感が、私にとって圧倒的だった。ULTRASONE edition 8のサウンドは、自分のツボにぐさりと突き刺さった。

なお、ULTRASONEの新製品開発においては、クリアすべき目的と達成したい目標があってこそ、そこに向かって開発がスタートするわけで、課せられた全てが達成されて初めて新製品の誕生となる。つまり、新製品のリリース時期などというものもなければ、リリースのためのリリースなどはあり得ないという。モノづくりに根差すブランドとして、揺るがぬポリシーだ。彼らは常に「革新的」であらねばならないと、自らを律していると聞く。

▲宇多田ヒカルが「Goodbye Happiness」のミュージックビデオでedition 8を使っているのは有名なエピソード。

結果、edition 8は「オンリーワン」でもあり「ナンバーワン」となった。そしてULTRASONEは最高峰を所有し存分に堪能する喜びも我々庶民に与えてくれる存在でもある。宝飾や自動車、オーディオにおいても「最高峰」の世界は、宝くじでも当たらなければ一生縁がないものだけど、音楽を十二分に楽しむことができるヘッドホンというカテゴリーであれば、実勢価格十数万円程度で、世界最高峰の工業製品を手にすることができる。No.1の世界を享受できるという充足感もまた、何にも代えがたき夢と幸せを創出してくれるものだ。

アルバイトして、コツコツためて、倹約して…、頑張って働いてボーナスをドガンと貰って…ULTRASONE edition 8を買おうじゃないか。そこは有無を言わさぬ世界一の音が手招きして待っているのだから。

text by BARKS編集長 烏丸

●ULTRASONE edition 8
ルテニウム:128,000円(税込)
パラディウム:142,000円(税込)
・型式:密閉ダイナミック型ヘッドフォン
・インピーダンス:30Ω
・ドライバー:40mm チタンプレイテッド
・再生周波数帯域:6-42000 Hz
・出力音圧レベル:96dB
・重量:260g(コード含まず)
・ケーブル長:ストレート1.2m、4.0m延長コード付属
・USC OFC ストレートケーブル採用(超柔加工無酸素銅)
・プラグ形状:3.5mm 金メッキ・ステレオミニプラグ(3.5mm→6.3mm 変換アダプター付)
・S-LOGIC テクノロジー
・ULE テクノロジー
・エチオピアン・シープスキンレザー・ヘッドパッド
・エチオピアン・シープスキンレザー・イヤパッド
・フルメタル・ヘッドバンド(アルミニウム)
・付属品:クリーニングクロス、仏製マドラスゴートスキン・キャリングバッグ
※edition 8はひとつひとつ手作業で組み上げられており、細部のフィニッシュには微妙な差異がございます。エチオピアン・シープスキンの厚みが均一でなかったり、染色ムラがみられたりする場合がありますが、本革本来の性質ですのでご容赦下さい。また、磨きあげの際に発生する細かなヘアライン傷など製造過程上許容せざるを得ない程度の場合は仕様の範疇としてご理解いただけますようお願い申し上げます。
※シリアルナンバーのご指定にはお応えできません。
※仕様については予告なく変更することがあります。予めご了承下さい。

◆ULTRASONE edition 8オフィシャルサイト
◆edition shopサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(音茶楽2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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