グリーン・デイ 来日&グラミー受賞大特集!! 2005 アルバム解説編

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Green Day American Idiot






去る2月13日(現地)に発表された第47回グラミー賞において、パンク・ロック・バンドとしては初の快挙となる“最優秀ロック・アルバム賞”を受賞したグリーン・デイの『アメリカン・イディオット』。

すでに全世界で600万枚のセールスを突破しているこのアルバム。'04年のアメリカ……いや、アメリカという一国の状況に止まらず、現在の世界の状況と、そこで生活している人々の心情を見事に描き出した作品という意味で、まさに'04年を代表するロック・アルバムだった。

また、新作を作るごとにパンクの枠組みに囚われることなく、新たな表現に挑んできたグリーン・デイが、これまでにない飛距離で成長を遂げたという意味でも、まさに'04年を代表するロック・アルバムだったと言ってもいい。

今回、彼らが挑んだのは、アルバム全体が1つのテーマとストーリーに貫かれた、いわゆる“コンセプト・アルバム”という表現スタイルと、現代の政治と社会を、彼らなりの視点と語り口で切りとった“社会批評”だった。

そもそもコンセプト・アルバムというスタイルは、3分間のポップ・ソングでは伝えきれない壮大なドラマやメッセージ、あるいはイデオロギーを伝える表現手段として、ロックが“聴いて楽しむもの”から“聴いて考えるもの”に進化しはじめた'60年代後半に考え出され、'70年代前半までにビートルズビーチ・ボーイズキンクスザ・フーピンク・フロイドデヴィッド・ボウイといったアーティスト達によって、多くの傑作が生み出された。

そういう表現スタイルにグリーン・デイが今、敢えて真正面から取り組んだ理由の1つには、恐らく現代のパンク・ロックが、あまりにも楽しむことだけに終始するものになってしまったという先駆者ならではの想いや、「俺達は連中とは違うんだ」という誇りもあったにちがいない。また、'01年発表のベスト・アルバムで自分達のキャリアに一区切りつけた彼らは先駆者の意地にかけても次の作品では、さらに新しいことに挑んで、新たな方向性をアピールしたいと考えていたはずだ。

もちろん、訴えたいことも山ほどあった。あの「9.11」以降、多くのアメリカ人が自分と、自分を取り囲む社会、そして多くの“隣人”の存在について意識するようになっていった。それはグリーン・デイのメンバーにとっても同じだった。その中で彼らは“私欲の為”に戦争を始めた大統領への怒りを募らせ、反戦ソングを発表したり、反イラク戦争と反ブッシュを訴えたオムニバス・アルバム『ROCK AGAINST BUSH VOL.2』に参加したりと、積極的にポリティカルなメッセージを訴えるようになっていった。それは、これまでどちらかと言えば、パーソナルな事柄について歌ってきた彼らにとっては異例の出来事だった。

そして、彼らがたどりついたシンプル極まりない答え。それが「アメリカのアホにはなりたくない!」だった。

確かに『アメリカン・イディオット』は当初は、恐怖と宗教的恍惚で国を支配しようとするブッシュ政権への怒りや憤りからスタートした作品だった。しかし、激情にかられたままつっ走ってしまわないところが今の……つまり大人になったグリーン・デイ。彼らは“アメリカのアホ”という、ある意味シンボルに“世の中を知らない無知な人間”という普遍性を与え、アメリカ人のみならず、世界中の誰が聞いても理解できるストーリーを作り上げていった。

そのストーリー。簡単に言ってしまえば、理想と現実のギャップに悩み、家を飛び出した主人公“郊外の救世主”が旅の途中、出会いと別れを経験することで成長を遂げるというものだけれど、聴く人の受け止め方しだいで、青春ドラマにも、恋愛ドラマにも、あるいは自分探しのドラマにもなるはずだ。そういうさまざまな解釈が可能な幅と深さを持たせたストーリーテリングと、そんなストーリーを“語る”多彩なソングライティング(軽快なパンク・ロックあり、ハードコアあり、バラードあり……)、そして多彩な楽曲をシンプルなバンド・サウンドで饒舌に表現する演奏にバンドの成熟ぶりが窺える。中でも9分を越える組曲にもかかわらず、グリーン・デイらしさを失わずにドラマチックに展開する「ジーザス・オブ・サバービア」と「ホームカミング」は圧巻だ。

物語のラストは、ハッピーエンドともアンハッピーエンドとも受け取れるけれど、もちろん、どちらもありなんだろう。

本来のロックの聴き方ではないかもしれないけれど、この作品に限っては歌詞カード片手にじっくり聴きつつ、あなたなりの物語を、そこに見いだしてほしい。絶対に正しい、この世にたった1つの答えではなく、1人1人の自由な解釈を生み出す想像力こそが、ちょっと大袈裟に聞こえるかもしれないけれど、この世界を救う希望につながるんだと思う。

文●山口智男



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