増田勇一の欧州日記(7)

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▲6月11日のパリ公演会場となった<LE BATACLAN>のエントランス。両バンドの名前が長すぎて、看板の表示が“KSE DEG”と略されているのが笑える。知らない人には何がなんだかわからないだろうが、ファンならばわからないはずもない。まるで秘密コンサートだ。
▲サイン会が行なわれている店舗の外に並ぶファンの群れ。道行く人たちから「一体この群集は何なんだ?」という視線が集中するのは、どこの国でも同じ。
▲店内でDIR EN GREYのアイテムを物色するファン。しっかり『DOZING GREEN』のTシャツで完全武装している。
▲家電売り場では当然のごとくDIR EN GREYのDVDを上映中。日本でもなかなかお目にかかれない光景かも。
オランダはユトレヒトでの公演の翌日にあたる6月11日の早朝、僕はDIR EN GREYの敏腕マネージャー、井上氏の運転する車に同乗してパリへ。移動距離は450km以上。地図を見てもらえばわかると思うが、オランダを南下してベルギーを縦断し、フランスに入ることになる。一気にふたつの国境を越えることになるわけだ。

同日の午後、パリの中心部に近付くにつれて渋滞が酷くなってきた。メンバーたちはとっくに会場入りを済ませているはずだし、今日はサウンドチェックの前に、別の場所でサイン会が催されることになっていたりもする。このままだと彼らがサイン会の会場に向かう時刻に間に合わないかもしれない…とイライラがつのり始めた頃、なんとかギリギリのタイミングで今夜のライヴ会場<LE BATACLAN>に到着。とはいえ、その場で下車した僕はともかく、井上氏は駐車場探しのために、しばらく右往左往させられるハメになったのだが。

それから間もなく、メンバーたちも僕もサイン会が行なわれる某大型店舗へ。裏口から入ったためよくわからないのだが、市街にあるデパートみたいな建物の地下で、家電とCDやDVDを扱うフロアの一角に机が置かれ、サイン会用のスペースが設けられている。店の担当者いわく、「日本のアーティストを含め、サイン会を行なったことは過去に何度もあるけども、こんなにたくさん人が集まったのは初めて」だそうで、彼女によれば、正確な人数は把握できていないながらも、少なくとも600人以上は集まっていて、いわゆる徹夜組も出たのだそう。いや、明らかに600人どころじゃないと思う。「徹夜しなくてもサインはもらえるのに、信じられないわ」と、なかば呆れ顔の彼女に、思わず「ちょっと認識が甘いんじゃねえの?」と言いたくなる僕だった(が、大人なので我慢した)。

サイン会に集まったファンは、本当に多種多様。もちろんティーンエイジャーが多いし、比率的には明らかに女性のほうが多いのだが、彼らが2005年に同じパリの由緒正しき<OLYMPIA>劇場で自己初のフランス公演を行なったときに比べると、ロック然とした客層の割合が明らかに高まっている。なかにはどう見てもデス・メタルとかが好きそうな男性客もいるし、IRON MAIDENやSLAYERのTシャツを着たファンも見える。遠巻きにメンバーたちの姿を見つけただけで泣き出す少女や、失神とは言わないまでも、その場に崩れ落ちるように座り込んでしまう子の姿もあった。それもまた、このバンドに対する彼女たちの愛情の深さゆえ。とにかく単なるサイン会とは思えない熱さと緊迫感がそこにあったことは確かで、気がつけば僕は、そのさまを興味本位で撮影しようとする野次馬たちを追い払っていた。

想像していた以上に時間を要することになったサイン会を終えて<LE BATACLAN>に戻ってみると、さきほどサイン会で見かけたばかりの顔がたくさん入場列に混ざっていることに気付かされた。もしかしたら今夜のライヴ、ほとんどDIR EN GREYのファンばかりで埋め尽くされてしまうんじゃないだろうか? 結果は、これから数時間後には判明する。

増田勇一
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