「百鬼夜行奇譚」第五夜:【幽鬼】~傀儡 Kugutsu~[参]

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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」第五夜
【幽鬼】~傀儡 Kugutsu~
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次の日。女の美しい横顔と、甘い薔薇の薫りが忘れられず、和雄はひとりで喫茶黒猫へと向かった。
高鳴る胸を押さえながら、白いドアを開ける。

ちりん、という鈴の音と共に、咽ぶほどの甘い薫りが和雄を再び包みこむ。
薄暗い店内には誰もいない。奥から女が静かに歩いてきた。

「ようこそ、いらっしゃいませ。…今日はお一人なんですのね。」
「あっ、はい…」
小さく答える。女はふふふ、と笑って、そしてじっと和雄を見つめた。
「うれしいわ、会いに来てくれて…。今日はお店を早締めにするわね。」

こちらへ、と女が案内したのは、先日の窓際の席ではなく、奥の小部屋だった。

「いま珈琲を淹れてくるから…少し座って待っていてね。」

女が去ったあと、部屋をぐるりと見回してみる。カフェの中とは違い、殺風景な部屋だった。窓はなく、濃い朱色のソファーがひとつ。そして隅に置かれた小さなテーブルには薔薇が一輪飾られていた。ランプの灯火に照らされ、あやしい影を壁に落としている。

視線をソファに戻そうとしたその刹那、壁に映った薔薇の影に違和感を覚えた。

振り返り、もう一度影を見つめる。気のせいか先程とは形が違っているような気がした。そればかりか、何やら花の影ではない、“他の何か”の影に見えるような――。

そうだ男、だ… 不思議なことに、薔薇の影が、男性の影に見えるのだった。見間違いだろうか。けれど確かに、影は男性の姿を壁に作り出していた。
不審に思って手を伸ばし、薔薇に触れると、指先に痛みが走った。

「うっ!」
声を聞きつけ、女が隣室から駆けこんできた。

「まぁ大変、見せてごらんなさい、ほらソファーに座って」
言われるがまま、ゆっくりとソファーに座る。
「じっとして…」
女は和雄の指にそっと唇を押し当てて小さく盛り上がった血を、吸い上げた。

「あら息が荒いわ、大丈夫?…ねぇ、そのまま横におなりになって……。」
女はそう言うと、次々と和雄の体中にくちづけてゆく。

指に、腕に、首に、胸に、足に。唇を這わせる。

全身の力が抜け、頭の中が真っ白になる。為す術もなく、ただ体を預けた。

体中の感覚が、初めて経験する快感に震撼し、そして溺れてゆく。
濡れた空気が和雄の喉へ、べったりと張りつく。
和雄はただ必死に、荒い呼吸を繰り返した。

――――そして、“変化”が始まった。

次回:【幽鬼】~傀儡 Kugutsu~[四] 10月25日公開予定

文:Kaya / イラスト:中野ヤマト

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・第一夜【不眠】~Psycho Butterfly~
・第ニ夜【鬼櫻】桜花
・第三夜【回顧】~Awilda~
・第四夜【来世】~Awilda~

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