【異次元連載】トム・ハミルトンが語るエアロスミスの真実 Vol.18「2009年に訪れたバンド存亡の危機と、それを乗り越えたからこその現在」

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2009年の秋、毎日のようにエアロスミスのゴシップ記事が届いていた。その中心にあったのはスティーヴン・タイラーの脱退説。ソロ活動にしばらく専念することを望む彼に対し、バンドとしての活動停滞を回避したい他のメンバーたちは、“一時的、あるいは恒久的に”他のヴォーカリストを迎え入れることも視野に入れている、とのことだった。実際、レニー・クラヴィッツやポール・ロジャース、サミー・ヘイガーといった名前がその具体的な候補として報じられたこともあった。当時、筆者がジョー・ペリーに取材した際、「今、各メディアを賑わせていることはすべて真実なんですか?」と尋ねてみると「そう解釈してもらって構わない」というシンプルな回答が返ってきたものだ。とはいえ、そのお家騒動について語っていたのは主にスティーヴンとジョーであり、トム・ハミルトンも基本的には沈黙を守っていた。彼はあの頃、どんな思いを抱えていたのだろうか?「あれはバンド全体にとって辛い時期だった。まず僕自身、体調が思わしくなかった」と現在の彼は振り返る。当時の彼は、癌と闘っていたのだ。

◆エアロスミス画像

「2009年の初夏あたりには、バンドはツアーに出ていたんだけど、その前に受けていた定期検診で腫瘍が見つかってね。のちにそれを切除しなければならなくなった。だから、あのツアーで僕がプレイしたのは7公演ほどで、それ以外のライヴでは友達が代役を務めてくれたんだ。ところがその期間中、スティーヴンがステージから転落して負傷するという事故があって、バンドの事態はさらに悪化することになった。みんなヘコんでいたよ。せっかく僕自身はツアーに戻れるようになったのに、そのために残りの公演すべてをキャンセルしないとならなかったわけだからね。他のメンバーたちはみんな、とても怒っていた。しかもその怒りをどこにぶつけたらいいのかがわからない状態にあった。それで、新たな行動を起こす代わりに、一度立ち止まることにしたんだ。そして結果、お互いが連絡を絶つようになった。スティーヴンとは完全に音信不通状態だったよ。あれはとても辛かったな」

トムは「それ以外に当時の自分たちには選択肢がなかった」と言う。そしてご存知の通り、事態はさらに悪化していくことになる。

「そうして数ヵ月が経った頃、ようやくライヴを再開することになったんだけど、スティーヴンは僕らに対して何故だか腹を立てていた。その時点でお互いがすべてを話して解決すべきだったんだろうけど、僕はどのみち話ができる状態じゃなかったんだ。喉から腫瘍を取り除く手術をしたために、1分間以上、継続的に話すことができない状態が何週間も続いていてね。でも、不思議なことに、誰もがスティーヴンとコミュニケーションがとれない状態のまま続けていたショウが、とても良かったんだ。僕自身は“ここで間違いが起きたら、何がどうなるかわからない”とひやひやしていたけど(笑)、いざステージに上がってプレイしてみると、まるで夢のようにすべてが通常通りになっていたんだ。たった4回のショウではあったけどね。だけど、それが終わると僕らはまた辛い状況に逆戻りすることになった。結局、当時のスティーヴンはソロ活動することを望んでいたんだよ」

トムの説明はさらに続く。

「ソロをやってみたかったとか、ソロ・アルバムを作りたいとか、彼がそんなことを前々から語っていたのは確かだよ。それが彼自身の、バンドに対する回答でもあったんだろう。あの問題が起こった当時、僕自身は、もうこのバンドはおしまいだと思っていた。完全に解散することはないかもしれないけど、事態がすごく悪化しているのは明らかだったからね。もちろんバンドがいつか元通りの状態に戻ることへの期待は捨てていなかったけど、正直、“これからの数年間、どうすればいいんだ?”という感じだったよ。現実的にそのことを考えなければならなかった。なにしろ僕たちの知る限り、スティーヴンはもう僕たちと一緒にやりたがっていなかったからね。だから、他の誰かをヴォーカルに据えて何かやらないといけないと思っていたんだ」

そうしてなんとかバンドを転がし続けようとはしてみても、やはりそこには葛藤があった。スティーヴンの存在抜きにエアロスミスが成立し得ないことを、誰もが知っていたからだ。

「仮に誰か他の歌い手を迎えることがあったとしても、そこで僕らはエアロスミスを名乗りはしなかっただろうと思う。スティーヴン抜きでエアロスミスが成立するはずなんてないからさ。そんなの馬鹿げているよ。ただ、サイド・プロジェクト的な動きはできるかもしれないと僕らは考えた。実際、話をしていたシンガーたちもいたしね。だけど、そのプロセスが具体的に進む前に、スティーヴンから間に人を介して連絡があって、彼が3ヵ月間にわたってリハビリに入ることを世間に公表したんだ。これまたショッキングな出来事ではあったけど、あれが終わったことで、ふたたびエアロスミスには希望が湧いてきた。で、改めて大掛かりな話し合いの場を持つことになったんだ。これがかなり怖いミーティングでね(笑)。弁護士だのマネージャーだのが、たくさんいたよ。本来はバンドだけでやって、すべてをうまく進めていくべきなのに。結局、これほどのキャリアになってくると、各々にマネージャーがいて、弁護士がいる。みんなお互いに腹を立てているわけで、ろくに話が進まないのはわかっているから、形式立てて話を進めてくれるプロの人間が必要になってくるんだ。なんか、おかしな状況だったよ。5人で話をすれば済むはずのことなのに、手紙を書いてみたりとかさ。まさにバンドは断崖絶壁に向かっている感じだったよ。でも結果的に、なんとか僕らは崖っぷちのところで立ち止まることになったんだ」

つまり、そのときに断崖絶壁から転げ落ちていたら、『ミュージック・フロム・アナザー・ディメンション!』は誕生し得なかったということでもある。

「結果、その“恐怖のミーティング”に出席していた全員、つまりバンドのメンバー以外も含めたすべての人間が、ひとつの明らかな結論に達したんだよ。それは、このバンドをやること以上にイカしたことをやるなんて、僕たちひとりひとりには不可能だということ。だからバンドをまたやって、行けるところまで行こうじゃないか、とね。その結論に到達したところで、その話し合いの場はお開きになったんだ」

そしてもうひとつ、改めてトムに確かめておきたいことがある。現在の彼は、健康面についてはもはや不安のない状態にあるのだろうか? ストレートにそう尋ねてみると、彼は「ご心配なく」と嬉しそうに語った。

「実は最近また検査をしたんだけども、医者の総合的判断によると、すべて問題ないみたいだ。お陰様で体調はとてもいいよ。二度にわたって癌を患ったことで精神的にもだいぶ打ちのめされたし、日常的に留意しないといけないこともいろいろと出てきたけども、僕はとても幸運だった。そんな経験をしてきたにもかかわらず、結果的にはこうして以前と変わらない生活を送ることができているんだからね。だからツアーに出るのも、アルバムを作るのも、毎回が僕にとってはスペシャルな出来事だといえるんだ」

さて、この連載もいよいよ大詰めに近付いてきた。次回の更新をお楽しみに。

取材/文:増田勇一

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