「出演者ラインナップの理想と現実」フジロックのブッキング論

ポスト

■ 「なんでこのバンド呼ばないの?」という意見もよく見るけど
■「いや…何回も話しているけど」って(笑)

▲RED MARQUEE

▲GYPSY AVALON

──そうやってできた愛情とこだわりのラインナップですが、スタッフは当日ライブは観れるんですか?

石飛:あまり観られないですね(笑)。現場で色んな仕事がありますから。

──それは可哀想過ぎる。

石飛:ずっと楽屋にいるスタッフもいますし。そうですね…可哀想過ぎますよね(笑)。

──やっぱりお客さんが一番いいですね(笑)。去年は20周年という節目でしたが、振りかえるといかがですか?

石飛:前を向いて積み重ねてきたわけで、終わってみればという意味では“ひとつの節目”だったのかなと思います。「20回と謳ったからには成功させなくては」という思いもありましたし。日高(正博/SMASH代表取締役社長)がいつも言うように「何周年」だとか「バースデー」とか大嫌いなのでアレですけど(笑)、成功してよかったなと思います。

──成功というのは、チケットが売れるというビジネス上のことですか?

石飛:それも然り、たくさんの人が来たときにストレスなく過ごしてもらえるためのチャレンジングも細かくあるんです。橋を増やしたりトイレを増やしたりとか。

ジェームス:天気もよかったよね。

石飛:そうだね。こればっかりは手柄にできないけど(笑)、でも天気が良すぎて困りました。「来年またホコリが舞ったらどうするんだ?」って、新たな宿題ができるわけです。

──素晴らしい満足なフェスだったかどうかが、オーディエンスにとっての成功だと思いますが、その点はどう計るんですか? お客さんが帰っていく様子の笑顔を見る、とか?

石飛:顔を見るっていうのはありますよね。顔というか会場の雰囲気が伝わってきますから。

ジェームス:フェスの後、SNSは結構チェックします。「何故そう反応した人が多かったのか?」とか、反省もしますね。

石飛:今はそういう振り返り方があるよね。

──ユーザーの声は大事?

ジェームス:大事です。反省になります。

石飛:フェスって音楽そのものだけではなくて、大自然のなかでの衣食住も含めた総合文化だとすると、いかに音楽を最大限に楽しんでもらえるような環境を作れるかっていうことも我々の使命ですから。

──フジロックを知らない人は、ただステージを作ってブッキングしているだけだと思ってるかもしれないですね。

石飛:そうですね、そもそも“自然の中”ということがピンと来ないかも。

ジェームス:実は僕も、<グラストンベリー・フェスティバル>に行くまでは「いや…ああいうのは参加しない」って思っていたタイプなんですよ。

石飛:都会派だ(笑)。

ジェームス:ロンドンという大きい街で育った人間として、「長い期間あんな田舎のつらい環境なんて耐えられない」と思ってましたから。でも友達に来いと言われて行ったら「確かに最高だった」という経験をしたんです。もともとは「フェスは最高!」という人ではなかったし、良さを伝えるのってとても難しい。もしかしたら、主宰者ではなくて友達から教わることかもしれないですよね。こちらから「すばらしい」って何回言っても、受け入れられない人もいると思います。

──ヘッドライナーの最後のひと枠として発表されたゴリラズの出演発表には、「キター!」って、ぼくは歓喜したけど。

ジェームス:ゴリラズは、出演が決定する前にツイッターを見てたら「ヘッドライナー枠があとひとつ空いてるけど、それってゴリラズなんじゃないのかな」って言っているお客さんが結構いて…意外と鋭い。

▲GORILLAZ

石飛:情報戦ではオーディエンスのほうがウワテだったりしますからね(笑)。

──「ブッキングはそんな簡単じゃねぇ」って言ったほうがいいですよ(笑)。

ジェームス:はは(笑)、でも、そういうお客さんの声っておもしろいです。「なんでこのバンド呼ばないの?」という意見もよく見るけど、「いや…何回も話しているけど」って(笑)。でも今回は反応が結構いいので、嬉しいです。

──2017年のラインナップは、どのようなものと捉えていますか?

ジェームス:そもそもは“ロック”フェスですけど、最初からロック・ミュージックだけではなかったですし、さらに音楽的な幅を大きくして、20周年も終え新たなスタートとしてチャレンジしていこうと思っていたので、出演者が発表されて「2017年っぽいな」って言ってくれているお客さんの声をいくつか見て嬉しかったです。ジャンルの壁もないYouTubeの時代で、フジロックのスタイルを継ぎながら進化しなければならないという意識がありますから。アーティストとは長い付き合いをしたいんです。1回出てもらったらそれでアーティストとのリレーションシップが終わりというわけではないので。

石飛:SMASHができてから30数年になりますけど、そもそもそうやって進化してきましたし、マネージメントを経験してきた人間も多い会社ですからね。

ジェームス:アーティストとの関係性の大事さを理解していると思います。

▲ROOKIE A GO-GO

──ビジネス抜きに、その精神性は大事ですよね。

石飛:そもそも、お客さんが入らなくても「いいと思ったアーティストを呼びたい、紹介したい」というところでこの会社はスタートしていますから。

ジェームス:フジロックでバンドが育ち、他のフェスに出ても戻ってきてくれるのが理想です。The XXがいい例かもしれないですね。レッドマーキーに初めて登場した後、世界中でブレイクを果たし、海外でヘッドライナークラスのレベルになった。フジロックでも、今の世代のアーティストが大きなステージに立って欲しいと思っています。

▲THE XX

──一方で、超大物が小さな会場でパフォーマンスしてくれる自由度もありますよね。

石飛:そうですね。「(フェスを)一緒に作ろうよ」という願いがあります。ビジネスだけではないケミカルや絆が生まれたらいいですよね。

──2017年も間違いなく楽しい3日間になりますね。

石飛:そうですね。自分自身もそういう感じがあります。今年は、なんか平和な空気が流れそうな気がする。

──いい感じ?

ジェームス:はい。いい感じ。このワクワクって、すごい楽しいものなんです。緊張感もありますけど、お客さんの反応を結果として実際に見られることは楽しいです。

石飛:ライブの仕事をしていて一番いいのはそこじゃない? 直接リアクションを見られる。

ジェームス:そうです。そのためにこういう仕事をやっているんだなあと、実感します。自分で「この音楽はすごくいい」と思っているものだから、それが他の人とシェアできればさらによくなる。

石飛:ジャーンって始まった時に、「よっしゃ!」って鳥肌立ちたいよね。

◆インタビュー(3)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報