【インタビュー】トミー・ゲレロ「クリエイティブでいることを心がけてほしい。そうすれば、どんなに辛い状況でも乗り越えられるよ」

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80年代から90年代にかけてプロ・ストリート・スケーターとして一世を風靡したトミー・ゲレロは、ブルース、ジャズ、ファンク、ソウル、サントラ・ミュージック、インストゥルメンタル・ヒップホップを融合させた1997年のファースト・ソロ・アルバム『Loose Grooves & Bastard Blues』からミュージシャンとして音楽シーンで独自のポジションを築き上げてきた。そんな彼の通算11枚目となる最新作『Sunshine Radio』は、スピリチュアル・ジャズ、アフリカ音楽、マカロニ・ウェスタンの要素を取り入れ、コロナ禍、人種差別問題で苦しむアメリカ、そして世界中のリスナーを優しく包み込むようなアンビエントでエモーショナルなサウンドに仕上がっている。今もベイエリアに拠点を置くトミーが、サンフランシスコのロックダウン中にレコーディングされた『Sunshine Radio』の制作秘話と、アルバム制作に多大な影響を与えたアメリカの社会情勢について語る。

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■アルバム制作中にアメリカで起きた社会問題は
■主に曲のタイトルに影響を与えたね

──『Sunshine Radio』の制作はいつから始まり、どのくらいかかったのでしょうか?

トミー・ゲレロ(以下、TG): 確か、2019年の終わりから今年までレコーディングしていたよ。急にクリエイティブになってレコーディングに没頭したり、しばらくレコーディングしない時期もあったんだ。でも、このアルバムはもう完成して何ヶ月も経っているんだ。コロナ禍によるロックダウンが始まる前にレコーディングし始めたんだけど、大半の素材は昨年の終わりにレコーディングした。本当は『Sunshine Radio』を今年の7月にリリースして、日本でオリンピックのイベントに出演したり、ジャパン・ツアーをやるはずだった。10月からヨーロッパのツアーもする予定もあったんだけど、コロナのおかげで全てがキャンセルになったよ。

──2020年は世界中がコロナ禍に席巻され、アメリカでは人種問題や警察による黒人の暴行事件が続出しましたが、このような社会問題はこのアルバムにどのような影響を及ぼしましたか?

TG: 今の時代を反映させたサウンドを作り出したかったんだよ。今のような激動の時代を乗り越えるには、誰もが心の落ち着きを必要としているから、アンビエントの要素が増えたんだと思う。だから、落ち着いたサウンドの曲もあれば、張り詰めた緊張感が漂う曲もある。こんな社会情勢だから、誰もが少しは精神的に不安定になっているわけで、それが緊張感のあるサウンドとして現れている。だから、曲を作っている時に感じていたエモーションによって、サウンドが変化した。アルバムを制作している時に、アンビエントなアルバムを作ろうかと思った時期もあったくらいだよ。そうすることで、平和な気持ちをみんなに与えたかった。希望に満ちた曲も入っているから、多様性のあるサウンドやエモーションが表現されている作品に仕上がったと思う。アルバム制作中にアメリカで起きた社会問題は、主に曲のタイトルに影響を与えた。「Evolution Revolution」、「Of Things to Come」、「A Thousand Shapes of Change」、「Up from the Dust」、「Rise of the Earth People」、「The Road Under My Shoes」のタイトルは、アメリカで起きた社会問題と直接関係があるんだ。


──『Sunshine Radio』と同時に、あなたのツアー・バンドのベーシストであるジョッシュ・リッピとのユニット、ロス・デイズのアルバムもリリースされますが、その作品について教えてください。

TG: ロス・デイズのアルバムは、ソロ・アルバムの前にレコーディングしたんだ。南カリフォルニアにあるワンダーバレーという砂漠でレコーディングしたんだよ。友人の家がそこにあって、そこに機材を持ち込んで、事前に何も決めずにレコーディングし始めた。前もって作った曲はひとつもなくて、砂漠にいた1週間の間にすべて作り上げたんだ。ジョシュは素晴らしいミュージシャンだし、友達だから、アイデアを出し合って作る作業が楽しかった。来年の春になったら、ワンダーバレーにまた二人で行って、ロス・デイズのセカンドをレコーディングしようと話し合ってるんだ。

──ロス・デイズのサウンドは、非常にマカロニ・ウェスタンの影響が強く、その要素は『Sunshine Radio』にも反映されていますが、このふたつの作品に関連性はあるのでしょうか?

TG: いや、このサウンドはもともと俺が好きな音楽なんだ。「No Man’s Land」をリリースしてから、それ以降の自分の作品のマカロニ・ウェスタン的なアプローチが強くなったんだ。俺とジョッシュがレコーディングした時は、なるべくミニマルな機材でムードのあるサウンドをクリエイトしようとしたんだ。ロス・デイズのアルバムのサウンドやムードはとても視覚的でシネマティックだよ。マカロニ・ウェスタンのサウンドは、俺の音楽性の一部になっているんだ。自分の音楽の核となる音楽的要素は、サーフ・ミュージックやマカロニ・ウェスタンで、それを自分のベースやギタープレイと組み合わせているから、ユニークなサウンドをクリエイトできたんだと思う。様々なスタイルの音楽的要素を融合させているんだ。

──アルバム・タイトル『Sunshine Radio』の意味について教えてください。

TG: 希望に溢れたタイトルにしたかったんだ。どこか架空のラジオ局にチャンネルを合わせると、そこから俺のプレイリストが流れる、という物語も想像していたんだ。アーティストのブライアン・バーネクロと仲良くなって、彼がアルバムのアートワークを手掛けてくれることになった。それで、ラジカセをジャケのモチーフにして、『Sunshine Radio』というタイトルにしようと思いついたんだ。具体的にインスピレーションになったものはないんだ。アルバムにはいろいろなフィーリングの曲が入ってるから、ラジオ局をテーマにするのも面白いな、と思ったんだよ。

──このアルバム・タイトルを最初に見た時、こういう暗い時代だからこそ、みんなをポジティブな気持ちにさせるタイトルだと思ったんですが、そういう意図はあったんですか?

TG: それはあったね。こういう緊迫した時代だからこそ、ポジティブなメッセージを打ち出したかったんだ。希望や光を感じさせるようなタイトルにしたかったんだよ。暗闇から光が生まれるからね。

──ジャケを手掛けたブライアンには、トミーからアイデアを伝えて、それに基づいて描いてもらったんですか?

TG: そうだね。そのあとに彼からいくつかのスケッチや提案が来て、話し合いながら作ってもらったんだ。最終的に俺が思い描いていたビジョンがジャケで形になったよ。

──ラジカセというのは、10代からスケートしていたトミーにとって大切な存在だったのでしょうか?

TG:それは間違いないね。スケボーをやるときは、必ず音楽が必要だからラジカセは必需品だったよ。みんなとスケートセッションをやるときは、誰かがラジカセを持ってると嬉しかったのを覚えてる。Walkmanが登場した時も、どこにでも音楽を持って行けたから、革命だったよ(笑)。


■自分が音作りをし始めたときからもう28年間
■このスタイルでレコーディングしてる(笑)

──音楽的には、何かビジョンやコンセプトを持ってレコーディングし始めたんですか?それとも白紙の状態からスタートしましたか?

TG:レコーディングするときは、いつも白紙の状態から始めるんだ。以前日本でリリースした『Endless Road』は、海外では『Road to Knowhere』というタイトルでリリースし直したんだけど、それの続編になるようなアルバムを作りたかった。フィーリングは似ているし、ファンク、ソウル、サーフ、マカロニ・ウェスタン、アフロビート、デザート・ロックの要素が前作にも新作にも入ってる。そういう音楽的要素は自分の一部になっているから、それを自分というフィルターを通して、曲を作っているんだ。『Road to Knowhere』は多くの人に愛され、ヴァイニルだけで7000枚も売れたんだ。ちゃんと流通もしてないし、プロモーションもしていないし、レビューもどこにも載せてないんだけど、口コミでアルバムの評判が広がっていったんだ。自分の音楽や自分のことを知らない人、スケーターでもない人から、このアルバムについての問い合わせがくるから、そういう意味で作り甲斐があったよ。

──トミーが言った通り、『Sunshine Radio』には『Road to Knowhere』の要素も入っていますが、サウンド的に原点回帰しようという意図はありましたか?

TG: いや、そういうことは意図してなかった。自然とこういうサウンドになったんだ。いつか、『Loose Grooves~』みたいなアルバムをまた作りたいとは思っていたけど、同じ作品を繰り返すんじゃなくて、そのスピリットを継承した作品を作りたかったんだ。だから、そのフィーリングが曲によって湧き出てくることもあるんだ。

──『Road to Knowhere』は口コミで広がったと言ってましたが、Youtubeであなたの過去の作品は、世界中から驚くほどの再生回数を獲得しています。Youtubeやネット上から火がついたローファイ・ヒップホップ・ムーヴメントを好む若いリスナーが、あなたの音楽に共感して聴いてるのだと思いますが、いかがでしょう?

TG:そうだと思うし、それはすごく嬉しいことだよ。俺の息子がローファイ・ヒップホップ・ムーヴメントに一時期ハマってたから、彼には「これは昔のインストゥルメンタル・ヒップホップと同じだよ」と教えたんだ(笑)。もともとヒップホップはローファイだったから、このネーミングが不思議だと思っちゃうんだけど、若い連中が、昔ながらのヒップホップ・サウンドの素晴らしさに気づき始めたんだと思う。若いプロデューサーたちが、ループ、サンプル、ブレイクを主体とした昔ながらのヒップホップの作り方を取り入れたり、メロウなヒップホップを作って、それが再評価されてるんだ。そこから、若い連中が俺らが聴いていたア・トライブ・コールド・クエスト、ギャング・スター、KRSワン、エリックB・アンド・ラキム、パブリック・エネミーなどのオールドスクール・ヒップホップに興味を持ってくれたら嬉しいね。今のヒップホップは、昔とあまりにもサウンドが違うから、息子にオールドスクール・ヒップホップを聴かせたら、「これってラップなの?」と訊かれたんだ(笑)。笑っちゃったけど、「ここからラップが始まって進化したんだよ」と教えたんだ。でも、そういうローファイ、チル系のサウンドがきっかけで、俺の音楽に興味を持ってくれる若者が増えているのは嬉しいよ。

──『Sunshine Radio』を作る上で、特にインスパイアされた音楽はありましたか?

TG: 前から聴いている音楽は変わらないけど、アフリカの音楽は結構聴いているし、ガボール・ザボ、マーク・リボー、ジョン・コルトレーン、マイルス・デイヴィスの『Bitches Brew』や『On The Corner』などのジャズは大好き。アフリカ音楽だと特に、フェラ・クティ、エボ・テイラー、ベンベヤ・ジャズ・ナショナル、Hailu Mergia & Dahlak Band、Orchestre Poly-Rythmo de Cotonouなどを気に入ってる。こういう音楽は大好きだけど、自分の音楽が同じサウンドになることはないんだ。『Sunshine Radio』の最後の曲は、コルトレーンへのオマージュとも言えるよ。スピリチュアル・ジャズっぽい曲に仕上がったんだけど、そういうアルバムをいつか1枚作ってみたいね。

──今回から取り入れた新しい楽器やレコーディング・テクニックはありますか?

TG: いや、特にないけど、今回は今までよりFarfisaのオルガンを多用した。今までとは違うテクスチャーを入れたかったら、メロディを結構Farfisaで演奏したんだ。このアルバムは俺が所有しているスタジオではなく、少ない機材を使って自宅でレコーディングしたんだ。部屋にミニ・ドラムセットを設置して使ったよ。家では、DIY的な方法でレコーディングしたんだけど、ミックスはRuminator Studioのモンティ・ヴァリエにいつものようにお願いした。ミックスするときに新たな生命が作品に吹き込まれるから、モンティはある意味バンド・メンバーみたいなものだよ。モンティとミックスの作業するのはすごく楽しくて、アイデアを出し合ったり、音を追加したりするんだ。彼とスタジオに入る時点で、自分がどういう風に曲を仕上げたいかはノートに書いておくんだ。完全に彼に任せているわけではなくて、ミックスするときに、自分もいろいろなアイデアを出して、一緒に作っていく感じだよ。彼はエンジニアだから、低音を削ったり、EQをかけたり、音質をよくするためにいろいろな技術的なことを担当してくれる。

──今回は全て楽器をひとりで演奏したのでしょうか?

TG: 基本的にそうだよ。何曲かでブラックトップ・プロジェクトのチャック・トリースとマット・ロドリゲスが参加してくれてる。最初は自分でコンガを叩いたんだけど、後でマットにRuminator Studioに来てもらって、自分が叩いたコンガを彼のコンガの演奏と入れ替えたんだ。他のパーカッションは自分で叩いたよ。楽器はすべて生楽器やアナログ機材で、MIDI機材は使っていない。MIDIは未だに使い方もわからないよ(笑)。ミニ・ドラムセットもセッティングして、何曲かは自分で生ドラムを叩いたんだ。ドラムは結構上手くなってきたよ(笑)。チャックはフィラデルフィアに住んでいて、なかなかカリフォルニアに来れないから、彼が昨年遊びに来た時に、モンティのスタジオで彼のドラムをレコーディングしたんだ。その中らループを作って、1曲で使ったんだ。

──以前あなたのサンフランシスコのスタジオに行ったことがありますが、そこでレコーディングしなかったわけですね?

TG: そうなんだ。ロックダウンになってから、自宅からサンフランシスコのスタジオに行ったり、DLX(トミーが関わっているスケートボード流通会社)に行かなくなったから、自宅でレコーディングするしかなかったんだ。俺が住んでいるエリアからサンフランシスコまで15マイルしかないんだけど、渋滞すると1時間半くらいかかることもある。行って帰ってくるだけで2〜3時間かかるから、それだったら家でレコーディングしようと思ったんだ。自宅のスタジオでレコーディングしたけど、そんなに機材は必要ないんだ。アンプを使わずに、ギターなどは全部ダイレクトでレコーディングした。モニタリングはヘッドホンでやってるし、自分が音楽を作り始めた頃とほぼ同じセットアップだよ(笑)。

──最近は“ベッドルーム・ポップ”というジャンルがネット上で人気がありますが、トミーは何十年も前から宅録ですよね。

TG:そうだよ。自分が音作りをし始めたときからこのずっとこのスタイルでレコーディングしてるから、もう28年間も経ってる(笑)。俺が初めてソロでリリースした曲は25年前だったんだ。New Breedというレーベルから95年にリリースした『Fat Jazzy Grooves』というコンピレーションが初のリリースなんだよ。当時、トミー・ゲレロ名義で活動する前は、ビーツ・オブ・サンフランシスコという名義でトラックを作っていたんだ。もう25年前の話だけど、初のソロ・トラックのリリースだよ。このシリーズのコンピレーションに何枚か参加したんだけど、ソロ・アーティストとして活動し始めたのはその前からだから、90年代初期だった。当時から、ベッドルームで曲作りをしていたから、もうかなりこのスタイルでのレコーディング歴は長いよ。


──2020年のアメリカは、コロナだけではなく、大統領選もあって、かなり社会的に荒れていましたが、何が原因だと思いますか?

TG: 人々のコミュニケーション不足。批判的思考を持っている人が減っているから、問題の根源がどこにあるのかを考えなくなっている。人を理解するには、その人が歩んできた人生に自分も身を置いてみないといけない。そうすることで、その人が置かれている状況やその人の言動が理解できる。例えば、トランプの熱狂的信者は、こっちからしてみれば、カルト教団のリーダーに洗脳された人たちに見えるんだけど、彼らがなぜそうなったのかは俺らにはわからない。彼らと実際に会話してみて、彼らの人生の歴史を聞けば、なぜトランプを信奉するようになったかを理解できるかもしれない。そこから対話が始まり、アメリカはやっと傷を癒せるかもしれない。でも今は、現実を見る方が辛いから、みんなは現実に背を向けているんだ。

──トミーがパウエル・ペラルタの1989年に発表されたスケート・ビデオ「Ban This」に出演した時に、“End Racism”(人種差別を撤廃しろ)というメッセージが殴り書きされたスケボーに乗って話題になりました。このメッセージは、BLMムーヴメントが盛り上がった2020年にも通用しますが、なぜアメリカではなかなか人種差別が消えないのだと思いますか?

TG:無知から始まった問題だよ。人々は真実を無視しようとしているし、過去に目を向けたがらない。そういう人たちは、奴隷制が存在していたことすら否定するし、有色人種が白人と同じ権利を持っていなかった時代があったことも否定しようとする。過去に有色人種が迫害されたから、今の現状があるんだ。なぜ貧富の差がここまであるのかというと、有色人種には、白人と同じ特権が与えられていなかったからなんだ。黒人、ヒスパニック系の人々は、白人と同じ選択肢を与えられていなかった。黒人やヒスパニック系の人々が社会進出するチャンスを奪う法律が実際にあったんだ。だから、白人と有色人種の貧富の差の原因は、歴史を辿ればわかる。白人には特権が与えられ、奴隷制によって大金持ちになった白人がたくさんいた。奴隷を利用することで、白人は無料で労働者を働かせることができた。アメリカの富裕層の白人はそう言った過去の事実に目を背け、彼らの多くは、先祖をたどっていくと、奴隷制を利用していた人たちなんだ。そういう人たちが、アメリカにおける抑圧、憎しみ、怒りの原因を作っている。誰も現実に目を向けたくないし、批判的思考を持とうとしない。すべてのレベルにいる人間が現実に目を向けなければ、何も変わらない。アメリカにおける構造的人種差別を崩さないための法律がたくさんあったんだ。このような法律があったから、有色人種は白人と同じことができなかった。そんな状況では、有色人種は白人と同じ成功を手にすることができるわけがない。

──トミーのインスタグラムで、最近また“End Racism”のグラフィックがプリントされたスケートボードに乗っている写真を見ました。また、あなたが関わっているDLX傘下のスケートボード・ブランド、REALも“End Racism”のメッセージがプリントされたスケートボードを発表しましたね。なぜこのようなスケートボードを作ったのでしょうか?

TG: 世の中がそれを必要としているからだよ(笑)。自分たちが固く信じているメッセージだからなんだ。ジム・シーボーと一緒にこの会社を立ち上げたけど、彼の最初のREALのスケートデッキは、クークラックスクランのメンバーが首吊りをしているグラフィックだった。これは1992年のデッキだったけど、このメッセージは昔から俺らが強く信じているものなんだ。社会を変化させたかったら、まずこの問題が存在していることを認めないと始まらない。アメリカの警察官による人種差別事件が多発しているけど、この問題があることをまず認めないと、変えることはできないんだ。俺らはメッセージを打ち出して、みんなを考えさせることで、変化を生み出したいんだ。

──人種差別に反対するメッセージが入ったスケボーは、チャリティのためにも作ったんですよね?

TG: そうなんだ。REALは750枚の“End Racism”のデッキを作って、それを全て無料で全国のスケートショップに配布したんだ。それぞれのスケートショップが好きな値段で販売して、その売り上げを全て地元の地域団体に寄付したんだ。自分が個人的に作った“End Racism”のスケートボードについては、それに乗っている様子をクローディーン(トミーのパートナーでありカメラマン)に写真で収めてもらって、それをプリントとして販売したんだ。その売り上げは、NAACP(全米有色人種地位向上協議会)に寄付された。


──パンデミック、人種差別問題、アメリカの大統領選など、重苦しい問題が今年のアメリカで目立ちましたが、そんな状況でも音楽は人々に癒しを与えるパワーを持っていると思いますか?

TG: もちろん、音楽は人々を癒す力を持っているよ。パンデミック中に音楽を聴くことで、多くの人々は正気を保つことができた。こんな状況でも、ファンがアーティストの音源を買うことで、アーティストをサポートしているし、俺もそれに感謝している。音楽で生計を立てている多くのミュージシャンは、ツアーができなくなって、職を失ってしまった。今の音楽業界は配信が主体になっているから、配信の印税だけでなかなか生活できるミュージシャンは少ない。だからツアーやライセンスに頼って生計を立てるミュージシャンが多い。ファンがアーティストを直接サポートしたい場合は、ヴァイナルを買ってあげるのが一番効果的だよ。

──昔と比べて、スケボーとの関係性は変わりましたか?

TG:もちろん。昔のようにいつもスケートできないからね。スケートできる日が続くと、スケボーのことばかり考えるんだけど、スケートしてないと、メンタリティが変わるんだ。1ヶ月前くらいに、連続でスケボーに乗ってる夢を睡眠中に見たんだ。スケボーに乗りたいのに、体が言うことを聞かないから、鬱憤がたまってたんだと思う。体が思うように動かないと、その日はスケボーに乗れない。昔と同じスケートボードのトリックをやろうとしても、体が思うように動かないから、フラストレーションを感じてしまう。そういう時は、音楽に没頭するようにしているよ。昔も、足首を骨折してスケートできなかった時は、音楽を1年間くらい作ってた。音楽という別の表現方法を持っていたから、ラッキーだったよ。

──今後の予定は? 次の作品の構想も決まっているのでしょうか?

TG: 俺の次のアルバムは、すでにレコーディングしていて、全く新しいアプローチになるよ。サウンド的に美しい作品にしたいんだ。バリトンギターを使ったんだけど、ギターとベースのちょうど中間の音域の楽器なんだ。普通のギターは1曲でしか使っていなくて、あとはベース、ドラムマシン、キーボードが入ってる。次のアルバムは、これまでとは全然違うものになるよ。マニーマークとコラボレーション作品を作る予定だったけど、スケジュールの関係でなかなか会えないから、1年くらい彼とはレコーディングしてないんだ。またジョッシュとロス・デイズのレコーディングを来年の春にやる予定だよ。それまでにコロナのワクチンが完成していることを願ってる。ブラックトップ・プロジェクトと2年前にモンティのスタジオでレコーディングした素材があるんだけど、そのセッションにはレイ・バービーが参加していないから、レイのパートをレコーディングしないといけない。EPくらいの素材があるけど、まだ色々と編集をしないといけない。

──今は世の中が大変な状況ではありますが、日本のファンにメッセージをお願いします。

TG: クリエイティブでいることを心がけてほしい。そうすれば、どんなに辛い状況でも乗り越えられるよ。

取材・文: バルーチャ・ハシム廣太郎 (Hashim Kotaro Bharoocha)
写真:Claudine Gossett



『Sunshine Radio』

2021年1月20日(水) TOO GOOD/RUSH PRODUCTION/OCTAVE-LAB OTLCD2530 2,400円+税

■TRACKLIST
1. By the Sea at the End of the World
2. Evolution Revolution
3. Of Things to Come
4. Descendent of Memory
5. Down Thru Light
6. A Thousand Shapes of Change
7. Future Deserts
8. Up From the Dust
9. Quiet Heat
10. Rise of the Earth People
11. Mysterious Frequencies
12. The Road Under My Shoes


『Singing Sands』

2021年1月20日(水) TOO GOOD/RUSH PRODUCTION/OCTAVE-LAB OTLCD2531 2,400円+税

■TRACKLIST
1. Starlight Lullaby
2. Expanding Night
3. Twilight
4. Floating Fire
5. Traveling Light
6. Below the Black Canopy
7. Painted Hills
8. Broken Plains
9. Wonder Valley
10. Agua Morena
11. Rain Shadow

◆トミー・ゲレロ オフィシャルサイト
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