【インタビュー】ロス・デイズ、「この音楽を聴いて少しでも心を落ち着かせて、瞑想的な気持ちになれるように」

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アメリカ西海岸ストリート・シーンのカリスマ、 トミー・ゲレロがジョシュ・リッピとスタートさせた新プロジェクト、ロス・デイズのセカンド・アルバムが早くも完成した。太陽光発電のみで制作されたエコロジー、かつフリー・フォームなジャム・セッションをパッケージした話題作と言えるだろう。

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■砂漠のような場所にしばらくいると
■ボーッとしながらアイデアが湧きやすくなる

──そもそもお二人の出会いのきっかけは?

ジョッシュ・リッピ(以下、J) ニノ・モシェラというベイ・エリアのファンク・アーティストのメンバーとして演奏しているときに、トミーのライヴのフロント・アクトを務めたんだ。2007年の『Return Of The Bastard』のリリース・イベントだったと思う。お互いの音楽のファンだったんだ。ベイ・エリアの音楽シーンの中で、度々トミーと顔をあわせる機会が多かったんだ。当時、俺はアリス・ラッセルというアーティストと演奏していて、ノースビーチで毎週ジャム・セッションを開催していた。そこから友達になったんだ。2014年のトミーのヨーロッパ・ツアー直前にベーシストのハウスが出演できなくなって、俺が代打でツアーに参加することになった。

トミー・ゲレロ(以下、T) ジョッシュは素晴らしいミュージシャンだし、共通の友達が多かった。ハウスが怪我をして出演できなくなったときに、頭の中で「誰に声をかけられるかな?」と思って、ジョッシュのことをすぐに思い出した。ジョッシュは忙しくて参加できないかと思ったけど、参加できることになったんだ。それ以来、ずっと一緒に演奏してるよ。

──二人の演奏の相性は良さそうですよね。

T: ジョッシュはとても直感がすぐれているミュージシャンで、一緒に演奏しているときに、俺が何をやるのかを事前に予想してくれるんだ(笑)。俺の音楽的アプローチを理解できる人と演奏できるからラッキーだよ。俺は普段何も決めないで演奏することが多いからね(笑)。

J: トミーと演奏してみてわかったのは、二人とも似たようなバックグラウンドなんだ。俺は独学で音楽を学んで、そこから音楽を勉強していったんだけど、俺にとって一番大事なのは、グルーヴを保つことだ。二人ともジャズ、インプロヴィゼーション・ミュージックにインスパイアされているけど、別にテクニカルな演奏をしようとしているわけじゃないんだ。俺たちはヴァイブスを重要視しているんだ。

T: 二人とも似たような音楽を聴いているし、ジョッシュはファンク・バンドやラテン・ジャズ・バンドで演奏していることが多かった。俺もそういう音楽が大好きだから、似たようなスタイルなんだ。俺は元々ベーシストからスタートしているし、ジョッシュもベーシストだから、そういう意味でも共感しあえたんだ。


──ロス・デイズの出発点は、まずはジョッシュがワンダーバレーの家のオーナーと友達だったんですよね?

J: そう、サイケデリック・ファーズというバンドのギタリストのリッチ・グッドが友達なんだけど、その人がワンダーバレーの家のオーナーなんだ。ちょうど3年前くらいに、俺はサクラメントを離れて、リラックスするために人里離れた場所に行こうと思ってた。それで、ギターを何本かワンダーバレーのリッチ・グッドの家に持っていて、一人で遊びでレコーディングしようと思って。それをトミーに話したときも、「俺もしばらく都会を離れたい」と言ったから、二人で遊びに行くことにしたんだよ。特に新たにバンドを組もうとか、アルバムを作ろうという意図はなかった。ただリラックスして、遊び感覚で音楽を演奏しようと思っていた。その年は二人とも忙しかったから、静かな場所に行きたかったんだ。

T: 俺は砂漠の広大さに魅力を感じるんだ。ワンダーバレーに行くと、本当に何もなくて、それがインスピレーションになる。このエリアは時間の流れがゆったりしていて、暑くない時期に行ったから過ごしやすかったな。一人で静かな時間を楽しめるから、リラックスして、自然にアイデアが湧いてくるんだ。都会の喧騒の中にいると、周りにノイズやエネルギーに気を取られて、アイデアが湧きにくくなることがある。砂漠のような場所にしばらくいると、リラックスできて、ボーッとしながらアイデアが湧きやすくなる。ジョッシュと初めてリッチの家に行った時に、場所とロケーションも、まさに自分がその時に求めていたものだった。いろいろなインスピレーションが湧いてきたよ。ジョッシュとは前からすでに演奏していたから、一緒にレコーディングするのは自然だったよ。

──ロス・デイズの音楽を聴いていると、砂漠の荒野の景色を連想しますが、やはり、ワンダーバレーの砂漠の景色にインスパイアされることが多かったのでしょうか?

J: リッチの家は壁一面が大きな窓になっているから、パノラマ的な砂漠の景色が見えるし、外の景色を見ながら演奏できるんだよ。煮詰まったら、外の景色を見れば、必ず何かインスピレーションになるんだ。

T: 家の半分が窓だから、砂漠にどうしても演奏が影響されるね。朝起きて、すぐに目に入ってくるのが広大な砂漠なんだ。精神的に癒されるし、クリエイティブな気持ちになりやすい。

J: それに、砂漠は景色が常に変化しているんだ。静かな日もあれば、強風が吹いて荒れた景色になることもある。カラフルな日もあれば、ダークな日もある。

T: 夕日、朝日の光の加減が本当に美しくて、都会では見れないような光景なんだ。あのエリアには光害がないから、自然界のライトショーを楽しめる。

J: 砂漠では、ゆっくりと変化していく景色を堪能できるんだ。都会では、どうしても一つのことに集中しづらい。何かをチェックしながら別の作業をしたり、どうしても落ち着きがなくなる。でも砂漠では何もしないで外で座って、30分かけて美しい夕焼けを見れるし、本当に美しいショーなんだよ。

T: そう、もっとゆったりした時間を過ごせる。

──初めて二人で砂漠に行った時は、ロス・デイズというバンド名も決まっていなかったんですよね?

J: そう、曲もまだ作っていなかったし、アルバムを作ろうという意図もなかった。ただ砂漠に行ってみて、遊びでレコーディングしてみようという感覚だった。砂漠で数日過ごして、6曲も完成していたから、「あと4曲作ったらアルバムになるね」ということに気づいて、どんどんレコーディングを進めたんだ。曲がどんどん自然に生まれたんだよ。事前に曲のアイデアを持ち込んだわけじゃなくて、その場でクリエイトしたんだ。

T: 実は、ロス・デイズのサウンドの要になっているのが、あの家に置いてある壊れたSilvertoneのアコースティック・ギターだった。ギターの背面が割れていて、とても演奏しづらいから、演奏するための楽器というよりか、どちらかというと飾り物なんだ(笑)。弦もボロボロだし。ジョッシュがそのギターを演奏し始めて、素晴らしいサウンドだったんだ。それ以来、そのギターがロス・デイズのサウンドの要になったんだ。ロス・デイズのリズムやトーンはあのギターのサウンドが出発点になっている。俺のソロの作品やジェイクの作品との違いは、そのギターのサウンドなんだ。あのギターがたくさんの曲のインスピレーションになった。

J: 砂漠の音楽といえば、マカロニウェスタンのサントラだけど、フォークミュージックがルーツにあって、孤独なカウボーイがギターをかき鳴らしているイメージがあるんだ。それを基盤にして、俺たちのサウンドを作り上げたんだ。Silvertoneのギターを使うことで、トミーの普段の曲作りとは違う方向性になったし、俺もそうだった。このSilvertoneのギターは、ロス・デイズのファーストとセカンドで使ったんだけど、俺たちのものではなく、リッチの家に置いてあるんだよ。

T: あのギターはすごく演奏しづらいし、背面が割れているんだけど、なぜか音がすごくかっこいいんだ(笑)。

──ロス・デイズという名前の由来は?

T: “Those days”とか”bygone days”というフレーズから思いついたんだけど、スパングリッシュ的な名前にしたかったんだ。


■昔からインスパイアされている音楽は変わらないけど
■今回は直接的に影響された音楽はないと思う

──ファーストは3年前にレコーディングして、なぜセカンドをこのタイミングでレコーディングしようと思ったのでしょうか?

J: ファーストと同じ理由で、音楽制作は大好きだし、砂漠に行くのが好きだからだね。ファーストの制作が楽しかったから、「またやろう!」ということになったんだ。

T: 街を離れて、1週間酒を飲む口実なんだよ(笑)。あとは、ゆっくり過ごすことができるんだ。一日中夜までレコーディングして、夜になるとバーベキューをするんだ。街にいるのとは違うマインドになれるんだ。砂漠では他にやることはないから、レコーディングをするしかないんだよ(笑)。俺たちみたいなミュージシャンが、機材を持って砂漠に滞在することになると、レコーディングしないわけないよね(笑)。計画的にレコーディングしてるんじゃなくて、遊び感覚で演奏してたんだ。「新しいアルバムを作ろう」とか、そういう意図はなかった。また砂漠に行ってレコーディングするかもしれないし、実現しなければそれは大したことじゃないよ。

J: 一つのアイデアを自由に追求できるところがいいんだ。プロのスタジオでレコーディングしている場合、お金を払っているし、時間制限もあるから、一つのアイデアを自由に追求しづらいんだ。トミーと俺は、お互いに自由に演奏して自分の世界に入ることもあるけど、どっちかが異次元に飛び過ぎたら、お互いに連れ戻すことができる(笑)。お互いに持っていないフィーリングを演奏に反映できるから、補い合えるんだ。トミーの作品、自分の作品にはないフィーリングがロス・デイズにはある。あと、自分たちが今までやっていないことをセカンドでやりたかったんだ。アイデアを交換しあって、普段はやらないような音楽を作れて楽しかったよ。

──セカンド『West Winds』も特にコンセプトは決めなかったんですか?

T: ファーストとはある程度の連続性は持たせたかったけど、今回はさらにディープなサウンドにしたかった。でも、そういうことは事前に話し合ったわけじゃない。今回は、レコーディングしながら、エモーションの世界をさらに深く掘ったと思うし、面白い作品に仕上がったよ。

──レコーディング時期は?

J: 2021年の3月22日から6日間でレコーディングしたんだ。リッチ・グッドが家を使わせてくれたお礼に、彼にも1日レコーディングに参加してもらった。

T: 彼は前作にも参加してるよね。

J: そう、ファーストとセカンドにそれぞれ1曲にギターで参加してる。

──誰がレコーディングのエンジニアを務めたんですか?

T: 俺とジョッシュが交互にやったんだ。誰かが楽器を演奏していたら、誰かがレコーディングを担当するという感じだった。

J: ラップトップを持ち込んでレコーディングしたんだ。今回の方がもう少し機材の量が多かったね。二人でレコーディングしていると、どっちかが何かを演奏して、「そのフレーズいいね!」って誰かが言って、それを録音することが多いんだ。一人で演奏していると、自分で演奏しているフレーズが大したことがないと思ってしまうこともあるからね(笑)。トミーがゾーンに入ると、面白いフレーズがどんどん出てくるんだよ。

──今回使用した楽器は?

J: 小さいドラム・セット、ベース、ギター各種、バリトーンギター、アンプ、古いドラム・マシン、古いシンセ、ギター・ペダル、パーカッションなどだね。

T: 曲によっては、ジョッシュがドラムを叩くこともあれば、俺が叩くこともあった。あとはドラム・マシンも使った。ルイ・セニョールというドラマーが1曲で参加している。彼は俺のバンドで演奏したこともある。砂漠でレコーディングをしてから、モンティ・ヴァリエのスタジオで追加レコーディングを少ししたんだけど、そこでルイのドラムをレコーディングしたんだ。

J: 砂漠でビールを飲みながらレコーディングしていたから、たまに音質が悪いところがあって、そういうところをエンジニアのモンティに直してもらった(笑)。

──アルバム・タイトル『West Winds』の意味は?

T:ちょうど砂漠に行った時期に、4日間はずっと強風が吹いていたんだ。前作『Singing Sands』は、砂漠で起きた現象をそのままタイトルにした。今回は、強風が吹いていたし、西部にいたから、このタイトルにしたんだよ(笑)。


──今回特にインスパイアされた音楽はありますか?

T:特にないね。ジョッシュには、50年代や60年代の音楽を送ったんだけど、それはあくまでも音色を参考にするためだった。俺たちは色々な音楽を聴いているから、自分たちのフィルターを通して、それが演奏の中で反映されるんだよ。そんなにテクニックがないから、そもそも他の人の音楽は真似できないしね(笑)。

J:それは嘘だよ(笑)。昔からインスパイアされている音楽は変わらないけど、今回は直接的に影響された音楽はないと思う。ギターの音色を参考にしたり、雰囲気にインスパイアされることはあったけど。俺は個人的に、昔のイタリアの西部劇の作曲家が大好きだし、このジャンルの音楽を代表するアーティストだよね。エンニオ・モリコーネ、ピエロ・ウミリアーニとかが好きだよ。直接的に影響されたというよりかは、オマージュなんだ。

──ワンダーバレーにたくさん楽器を持って行ったみたいですが、曲によって誰が何を演奏するかは変化するのでしょうか?

J: そうなんだ。実はこのアルバムでは、トミーの方が俺よりベースを演奏しているよ。アコースティックギターはトミーが演奏することが多くて、それをこのアルバムの一貫した要素にしたかったんだ。日によっては、トミーが起きてすぐに曲のアイデアを思いついて、トミーが大半のレコーディングをしてから、俺がそこに演奏を重ねることもあった。それか、俺が先にレコーディングして、トミーがそこに楽器を追加していくこともあった。

──ワンダーバレーに行く前は何も決めずに、現場で即興で曲を作ったのでしょうか?

T: そう、何も決めていかなかった。その場で即興で曲を作っていった。

──2020年から続いているパンデミックの状況は、このアルバムのサウンドに何らかの影響を及ぼしましたか?

T: パンデミックの状況は、俺たちのエモーションに確実に影響を及ぼしているから、それは何らかの形で反映されていると思う。いつもの環境とは違う場所に行きたいという気持ちも大きかったね。場所を変えるだけで、気持ちを切り替えられるんだ。ここ数年間の世の中の状況によって、誰もが暗い感情をどこかで抱えているから、そこから逃避できる音楽を作りたいという気持ちはあったね。音楽というのは、クリエイトする人の精神状態を反映するものなんだ。だから、今の世の中の状況に対して懐いている感情は、必ず入ってるよ。俺の新作のソロアルバムも、2020年に感じた孤独、恐怖がすごく反映されていて、そんな状況で、何か美しいものをクリエイトしたい残したいという気持ちになった。

J: ロス・デイズのファーストをリリースしたときは、パンデミックがちょうど始まったばかりの時期で、しばらくファンがアルバムを無料でダウンロードできるようにしたんだ。リスナーにこの音楽を聴いて少しでも心を落ち着かせて、瞑想的な気持ちになれるようにしてあげたかったんだ。

──ロス・デイズとしてのツアーは考えていますか?

J: やりたいけど、二人では曲を再現できないから、他のミュージシャンが必要だね。

T: 1月にBandcampのサイトでライヴ配信をするかもしれないんだけど、どうやって再現するか考えないといけない。曲が結構複雑だから、再現が難しいんだ。

J: 日本で要望があればすぐに行くよ(笑)。

──トミーはこれからヨーロッパ・ツアーに出るみたいですが、二人ともこの2年間はコロナに影響でツアーできなくて、フラストレーションは感じましたか?

T: ツアーもそうだけど、旅ができなかったのは、残念だったよ。一つの場所にずっといるより、色々な場所を冒険して新しい体験をすることが大好きなんだ。それができなかったのは、フラストレーションを感じたけど、他の人が経験していることに比べたら、小さな問題かもしれない。若い頃からずっとスケーターとしてツアーをしてきたし、ジョッシュ、マット、チャックたちと演奏する時は必ず楽しいから、そういう意味では残念だったよ。

J: 俺の場合は、過去10年間はずっと他のアーティストとツアーしっぱなしだったから、ある意味少し休むことができてよかった。ロサンゼルスに移住して、しばらく一箇所に住んで、音楽制作に没頭できた。俺はツアーの仕事を少し減らして、もっとレコーディングのセッションワークの仕事がしたかったんだ。今後はツアーの仕事をする時は、なんでもやるんじゃなくて、トミーのように本当に大好きなアーティストとだけツアーしたいんだ。だから、少しツアーを休んで、家族や仲間と過ごす時間を増やすことができてよかった。ただ、Facetimeばっかり使っていたのが嫌だったけどね(笑)。いつもツアーばかりしている忙しい生活から、ゆっくりとした時間を過ごせるようになったのはよかった。それに、時間があったから、このアルバムもレコーディングできたよ。ツアーに出ていたら、このアルバムを作るまでにさらに1年間くらいかかったかもしれない。

──今後の予定は?

T: 俺のソロ・アルバムが完成しているんだけど、2022年の後半にリリースすると思う。

J: ジョッシュ・リッピ・アンド・ザ・オーヴァータイマーズ名義で、アコースティックEP「In Quarantine」をパンデミック中にレコーディングしてリリースしたんだ。ロジックというラッパーの次のアルバムのレコーディングにも参加したよ。彼の前作にも参加したんだ。

──日本はツアーしたいですか?

T: もちろん!

J: 今すぐにでも行きたいよ!

──最後にメッセージはありますか?

T: いつもサポートしてくれてありがとう!早くみんなと会いたいよ。

J: 早くジャパン・ツアーをしたね。焼き鳥を食べたいよ(笑)。

インタビュー・翻訳:バルーチャ・ハシム廣太郎 Photo:Claudine Gossett


『ウエスト・ウインド』

2022年1月19日(水)
TOO GOOD/RUSH PRODUCTION/OCTAVE-LAB
OTLCD2576 2,400 + 税

■TRACKLIST
1. Tierra De Sombre
2. West Winds
3. Honey Colored Hills
4. Ancestral Light
5. Sorrow Moon
6. Centuries of Fire
7. Magnetic Expanse
8. Floating Against the Night Sky
9. Tempestʼs Journey
10. Drifting Away
11. As the Earth Relinquished
12. El Carro Del Sol
13. The Cloak of Night

◆ロス・デイズ Bamdcamp
◆トミー・ゲレロ オフィシャルサイト
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