【ライブレポート】NUL.、ギャップを魅せつけたハロウィンナイト

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8月7日に行われた前回のライヴ<NUL. live 2021「MERGING IMPULSES」>で、10月31日のライヴが告知された時のファンの反応は今も覚えている。声に出さずとも“え、ハロウィン当日?”と一瞬色めき立つ人、“まさか、NUL.の3人がハロウィンに絡めて仮装する?”と思う人。その割合は、およそ半々だったよう感じた。

◆ライブ画像

キャリアのある元D’espairsRayのヴォーカル、HIZUMI(Vo)、defspiralのMASATO(G)、abingdon boys schoolなどで活躍中の岸利至(Prog)の3人によるバンド、それがNUL.。クールな彼らの在り方からすれば、ハロウィンの空気に呑み込まれるわけがないと予想するのが妥当だろう。

MASATOに限っていえば、defspiralで誕生日ライヴやハロウィンで様々なコスプレに挑戦しているから仮装するのも抵抗はなさそうだが、果たしてHIZUMIや岸が首を縦に振るのか? いやいや、そんな、ゾンビメイクなんてするわけない、たまたまライヴがハロウィンに行われるというだけで──そう予想しつつ10月31日、渋谷REXへと向かった。

ひとたび会場へ足を踏み入れると、ステージにはライヴタイトル<CLOSED CUBE -Phase of Halloween->の文字がオレンジ色に煌々と輝き、紫の照明とともにハロウィンムードを醸し出している。カラフルなライティングが、うずまく煙のような映像に切り替わりSEが流れると、暗がりのステージにサポートドラムの石井悠也、MASATO、岸が定位置に着き、少し遅れてHIZUMIも登場。


怪しげな「Cube」からライヴはスタート。照明が暗くてしっかり確認できないけれど…もしやメンバー全員、ゾンビメイク? それに気づいた人は心の中で歓声を上げたに違いない。冒頭でNUL.は仮装をするわけない、などと記したが、早くも撤回せねばならぬ事態が目の前で展開されている。それどころか、NUL.の醸し出す雰囲気、楽曲、これほどハロウィンにマッチしたバンドはないのでは?と思うほど。

今回に限って敢えてハロウィンになぞらえていうなら、「Seed in the Shell」のサビの地を這うような不気味なベースラインはゾンビが地底から這い上がってくる様を表現したかのようにも思えるし、おどろおどろしい地響きのような「Soulcage」のイントロのドラムは蘇ったゾンビたちが行進している姿を連想できる。ゆえに、この日(=ハロウィン)のために用意した楽曲、セットリストだと説明を受けても、ああそうですよね、と何の疑問も抱かず頷いたと思う。

「みんな楽しんで帰ってくれよ! 今日、ハロウィンパーティーを思い切り楽しもうと思ってるんで。声はまだ出せないけれど、気持ちを届けてくれれば、俺たち受け取るから!」──HIZUMI


「Black Swan」のノイジーなギターのリフに合わせてHIZUMIが頭を振れば、オーディエンスもリズミカルに拳を振り上げる。心を揺さぶるドラマティックなサビでは、ステージをぐるりと囲むスクリーンに黒鳥のもぎ取られた羽が舞い散るかのような画が映し出され、その視覚的な効果も相まって切なさと哀しみを増幅させる。「From Deep Underground」の荒々しいコーラスと激しいサウンドと、HIZUMIのシャウト。痛々しくオーディエンスにの心に刺さっていく。

「楽しんでますか? いやー、ハロウィンの空気に呑まれてますね、僕(笑)。見た目だけじゃなくて、いい意味で楽しめてるともいえるかな。こんな感じの雰囲気、どうですか? やるならとことんやろうと思いきりメイクをしてみたんですけど、どうですか? 今日はハロウィンパーティーってことも含めて、メンバーもお客さんも大いに楽しんでいきましょう。新曲も持って来たんで楽しんで!」──HIZUMI


そう言って独特なリフからスタートした「Karma-Agnostic」。ミドルテンポのドッシリ厳つい淡々としたリフに、絡みつく怪しげなストリングスのオブリガード、重心の低いこういったサウンド、淡々と進んでいく楽曲はNUL.の1つのスタイルと捉えている人も多いだろう。初めて聴くはずのオーディエンスもリズムに合わせて腰でノッているところをみると、恐らくNUL.にとって主要な曲になっていくのは間違いなさそうだ。続いて、チューニングの狂ったトイピアノの音から始まった「Halzion」で少しテンポを上げ、悲哀に満ちたサビとワーミーを駆使したギターの音で曲の世界へずるずると引き込んでいく。

前回8月7日のライヴからセットリストに組み込まれるようになった「expecting MERGING IMPULSES(仮)」。80年代のプログレッシヴロックを彷彿とさせる変拍子と空気感をもったこの曲、当初はインダストリアルを主軸にするNUL.で異質なものと筆者は受け取っていたのだが、2度目にしてNUL.のロックな一面を表現するライヴには欠かせない楽曲の1つになったと確信。


さらに今回は、前回のライヴで「俺も参加したいな」と言っていたHIZUMIの言葉どおり、ストロボ照明の中、HIZUMIはステージに居残り、ドラムがフィーチャーされるタイミングで「ドラム、石井悠也!」とメンバー紹介、曲の後半はギターと合わせて唄も披露されたのだ。まったくのアドリブで唄っているのかと思ったが、ライヴ後、確認をとってみると、メロディーの場所やリズムはフィックスしたものだそう。ただ、今夜の演奏が完成形ではなく、今後も進化していく、とのこと。ライヴのたびに楽曲がどう進化して行くのか、これからファンにとって楽しみの1つになりそうだ。

「まだまだ盛り上がっていくか!」というHIZUMIの煽りに続いて「KaliMa」へ。バンド結成当初より演奏されてるお馴染みのナンバーにオーディエンスも定位置で踊り狂う。さらにダンサブルな「Plastic Factory」をたたみ掛け、フロアを揺らし続ける。この巧妙な曲の並び、オーディエンスを休ませないつもりだろうか。

「キミらももっと声出したいんだよね? その苦しみ、スッゲーわかるよ。でも声が届かなくてもなんか届くものあるよ」──HIZUMI

そのほか、ハロウィンにまつわるほっこりエピソードが披露されるなどMCで楽しませた後は空気を一新、おどろおどろしいイントロから「Another Face」へ。“常時NUL.ゾンビ・メイク案”にお客さんの賛同は得られなかったけれど、ちょっぴりホラーな歌詞も不気味に唸る間奏ギターソロも、ゾンビメイクにしっくりくる。再びテンポを上げて「I don’t seek」、そしてラストのアッパーな「abnormalize」と立て続けに演奏し、本編を駆け抜けた。


アンコールを求める手拍子が鳴り続ける会場。しばらくすると、汗を拭ったメンバーが登場。「こういうテンションどうですか? ね、石井さん」とHIZUMIが問いかけると、石井悠也は「最高です」と。MASATOは「今回の<CLOSED CUBE>ってタイトル、元々、このタイトルでライヴを組んでいたのが延期になり、中止になり。報われないタイトルが、今日やっと報われました」と語る。

そして「そうだね。配信の方も楽しんでくれてるんですかね? ココに来ている方も、あとで配信でも観てくれれば…。この配信、1週間残るんでしょ? 1週間後もハロウィン…それも含めて楽しんでください(笑)。じゃ、そろそろトバしていくぞ!」とHIZUMIが伝え、汗で崩れかけたメイクで演奏を始めたアンコール1曲目は、疾走感の溢れる「POISON EATER」。

サビのMASATO&岸のコーラスとHIZUMIの唄との掛け合い、それに合わせてステージに向けて手を掲げるオーディエンス。心の中ではMASATOや岸と「Wow wow wow」と叫び、“吐き出せよ”という歌詞に促されるように、鬱屈した日常でのストレスを思い切り吐き出していたに違いない。そしてラストの「XStream」が始まってまもなく、HIZUMIがストップをかける。

「今、岸さんに何かしゃべって(場を繋いで)、というつもりで合図を出したら曲が始まっちゃって…(笑)」──HIZUMI

「そんなのわかるかっつーの(笑)! まだね、結成してからライヴもそれほどできていないしツアーもやってないんでね…ツアー、いつやる?」──岸

「来年はきっとできるんじゃないですかね。早めに、また音源も作って東名阪とか回れたらいいな、と思います。ということで最後、ぶっ飛ばしていきますか! もう曲はわかってるよね?」──HIZUMI


思わぬハプニングを告知の話題に繋げ、仕切り直してスタートした「XStream」。疾走感溢れる激しく切ないNUL.の代表曲ともいえる人気ナンバーでライヴを締め括る…はずだったが、鳴り止まないアンコールの拍手に応え、再々登場したメンバー。HIZUMIによると、「いや、楽しい! だからもう1回出てきた(笑)」ということらしい。ダブルアンコールで演奏したのは新曲「Karma-Agnostic 」。

ハロウィンということでゾンビメイクや、とびっきりの楽しいハロウィンエピソードもありで、クールとは逆ベクトルのキャラクターの一面も見せてくれたNUL.の面々。特別な一夜だったことは、ライヴ会場に足を運んだ人、配信ライヴを観ていた人にとって特別な一夜だったことは間違いないだろう。クスッと笑いが起こるような一幕もあったものの、ひとたび音を出せば圧倒的な存在感のある音で空気一変できる、そこはやっぱりプロフェッショナル集団だな、と感心すると同時に、そのギャップもNUL.の魅力なんだと今夜再認識した。

ライヴの後、具体的な活動スケジュールの発表はなかったものの、彼らから今後新たに生まれる楽曲も、開催されるであろう東名阪ツアーにも期待は高まるばかり。またNUL.のライヴが観たい、早く新曲を聴きたいとはやる気持ちもあるけれど、コロナ禍からいまだ抜け出せていない今はピリピリせず温かい目で彼らを見守りつつ、発表の時を待とうではないか。ひとたび音を鳴らせば、瞬時にピリッとダークな世界へ導いてくれるのだから。

文◎増渕公子
写真◎加藤和可女

◆NUL. オフィシャルサイト
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