【ライブレポート】進化したNUL.。2ndアルバム『EVILA』ツアー完走

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NUL.が8月20日からスタートした<LIVE TOUR 2022 “EVILA”>のファイナル公演を、10月1日に横浜Bronthで行なった。

HIZUMI(Vo.)、MASATO(G)、岸利至(Prog)のメンバー3人プラス、KOHTA(B/Angelo)、石井悠也(Dr)が加わった5人体制で全国を回ってきたツアーの集大成となるステージを、その目で確かめようと詰めかけたファンで会場は満杯。ツアー初日の模様は、その後に続くツアーを考慮しつまびらかにリポートすることを控えたが、ツアーファイナルでは出し惜しみせずたっぷりとお届けする。

◆ライブ写真

ツアーを回るたび、音をあわせるたびにバンド感は増していくものだ、とバンドマンたちは口を揃える。新譜発表後のツアーや、新たにメンバーが加わってのライヴにおいては、ことさらそれを実感できるのだと。その点でいえば、<LIVE TOUR 2022 “EVILA”>はその両方とも当てはまる。それだけに、ライヴを重ね、サポートメンバーを含めた5人の音の変化はどうなるのか? ツアー初日を観た筆者はかなりの期待を寄せていた。

ただ、単純比較は難しいということも承知していた。何しろ、ツアー初日は2ndアルバム『EVILA』発売前夜。にも関わらずライヴ本編は、ほとんど新譜の曲という、お客さんに優しさのカケラもないものだったから。けれど、あのライヴを観た人、またアルバムを聴いてツアーへ足を運んだ人は気づかされただろう、『EVILA』はライヴを意識した作品だということに。というのは、セットリストは、およそアルバムの曲順になぞられていたからである。


スタートから10分ほど押して、ミディアムテンポのドスドスドスと腰に響く4つ打ちのリズムが会場に鳴り響く中、メンバーは静かに登場。『EVILA』を聴いているファンなら、このSEから「EVILA」へと流れ込むと気づいたかもしれない。スタンバイOKとばかりにSEからリズムに合わせてオーディエンスの体がリズミカルに動いている。そして我々の予想どおり、本ツアー、本アルバムのテーマである“生と死”を表現した「EVILA」を初っ端に演奏、一気に世界観を創り上げる。

「横浜! 盛り上がっていこうか!」とHIZUMIがファンに吼えて一発シャウトをかました後は、一気にテンポをグインと上げてスリリングな「ジル」へ。テンポが上がればメンバー、ファンの脈拍も体温も上昇。ここまでロック色の強い楽曲はこれまではなかったが、間違いなくライヴのカンフル剤になっているのは一目瞭然。岸も演奏しながら踊り、時にスティックでパッドを叩く。間奏部分ではMASATOの無骨なギターソロが会場の緊張感を高めていく。めまぐるしい曲の展開、トリッキーな曲のブリッジは、まるでジェットコースターに乗ってるような感覚。


「横浜、アガッていこうか!」HIZUMIの投げた言葉に続き、ノイジーなギターリフと石井悠也のドラムが導いたのはNUL.の初期の曲、「BLACKSWAN」。これまで幾度も演奏されているライヴの定番曲も『EVILA』の世界観に難なくハマり、さらにはこの位置に配されることでパワーアップしてるとすら感じられる。続いて「From deep underground」へ。実は、この3曲目と4曲目、ツアー初日のセットリストとは入れ替わっている。こういった微調整が施され、ライヴがより完璧な形へと進化していったことは想像に難くない。

「遂にファイナル、やってきましたね。楽しみにしていたけど、今日で終わりなのか…っていう気持ちもちょっとある。今日は後悔ないよう盛り上がってくれよ!」(HIZUMI)

胸中を打ち明けたHIZUMI。ちょっと感傷に浸りそうになった自分を鼓舞するようにMCで荒々しく煽った後は「Karma-Agnostic」でドップリとディープな世界に引きずり込む。その重々しい空気を一脚したのはNUL.にとって初めてのシャッフル曲「GREEDY BLOOD FEUD 」。リズムの持つ脳天気なノリに合わせてファンは拳をふり上げ、みんなで叫ぶことを想定していたであろう“Hey! Hey!”という歌詞に記載はされていない掛け声では、声の代わりにステージに向かって手を上げるファン。


間奏部分に近づくと、シャッフルビートにのってKOHTAのベースのネックの動きが徐々に激しさを増していき、どんどん前面へと移動。そして、手招きするかのように指をクイクイッと動かした後、MASATOとユニゾンする。そんなステージングも、弦楽器隊2人による息の合ったプレーも、ツアー初日よりブラッシュアップされ、KOHTAもより大胆に魅せてくれるようになってる気がした。独特の間合いのリズムから始まる「Noname SPECter」では音数の少ないAメロでHIZUMIは唄声を響かせる。こういった重々しい音、ダークな世界観こそNUL.のコアな部分であることは揺るがない。

「楽しんでますか? 日にちは空きましたけど、俺らもメッチャ(気分が)上がってます。お前ら付いてこいよ! 暴れちまおうぜ!」

中近東を彷彿させるオリエンタルなイントロが導く「KaliMa」。さらに、似たようなアジアの雰囲気を漂わせる音を用いた「残光」へと繋がれたのは、流れ的にとても美しい。聴感儚く美しいサビのメロディーにノイジーな痛々しいギターサウンド、それを岸が柔らかな音が包み込む。多すぎず、かといって物足りなくもない絶妙な音数、サウンドのセレクト、混ぜ方、すべてにおいてハイセンスだ。


そんな独特の世界観が突然ぶった切られるように終わって、ハッとなるものの、その終わり方が次の「灯願華」の歌詞ともリンクしていることにハタと気づかされる。というのは、「灯願華」は突然亡くなった大切な友を想い唄っているから。歌詞、悲哀に満ちたメロディー、消え入るようなHIZUMIの唄声が心に刺さる。加えて、唄にこめたHIZUMIの感情を増幅するかのように副旋律を奏でるMASATOのギターが鳴き、岸のピアノが涙を誘えば涙腺は崩壊寸前。死を意識し生きるを考える、というアルバム『EVILA』のメインテーマを、ライヴのヘソの部分でしっかりと印象づけたように思えた。


次の「SEED IN THE SHELL」では、安定した石井悠也の16分の刻み、派手ではないがしっかとサウンドを支えるKOHTAのプレーが冴え渡り、NUL.の3人で演奏したものとは、また一味違ったものになっていたことを記しておこう。プログレッシヴな「Dictate」も、初披露された時のインストゥルメンタルから進化し、HIZUMIが唄、シャウトが加わって曲のポテンシャルもアップ。それをライヴで体感したオーディエンスの気持ちも上がったのは間違いないだろう。そしてアルバムの並び同様、「八咫烏」へと進めていく。どっしりとしたリズムで重心を低くドスドスと進んでいくこの感じもまたNUL.のコアな部分にあるサウンド。


「ヤバいっすね。楽しいですよ。なんていったらいいんだろう…やっぱライヴやるってウチらにとっては、飯食うのとかわらなくて。なくてはならないというか。そういう場がこうやってまた持てたのはスゴく嬉しいです。ツアーでウチらの曲もどんどん育っていって、ついにファイナルを迎えましたが、なんか…複雑な気持ちですね。これファイナルだと思うと、しんみりしちゃうというか。ツアー楽しかったですよね。KOHTAさんはまるでメンバーかのように、いや、メンバー以上に、いろいろかましてくれたりしたので。どうですか? MASATOは」(HIZUMI)

「せっかくKOHTAさんと仲良くなれた頃に終わるっていうね…今後ともよろしくお願いします、KOHTAさん!」(MASATO)
その発言を受けて、うんうんと頷きながらマイクの位置を直すKOHTA。その様子を見て「もう、しゃべる気満々じゃないですか?(笑)」とHIZUMIが突っ込む。もちろん、オーディエンスもKOHTAからどんな言葉が発せられるか?固唾を呑んで見守る。

「初日から、ヌラー(KOHTAが名づけたNUL.ファンの呼称)という言葉を授かりましたから(笑)」(HIZUMI)

「いやいや、あれも考えてたわけではなく。MCでは、その時に降りてきたものを大事にしてたんで」(KOHTA)

どうやら、初日に限らず全国各地でKOHTA語録を産み落としてきたらしい。続いて岸がツアーを振り返る。

「毎回、(ライヴの内容を)更新してましたよね。でも初日のドキドキと緊張感は今回、絶対忘れられない。その日の感覚が今日に繋がって、ここまできたんだなってひしひしと感じます。コロナの大変な時期に皆さんの協力もあり、無事にココまで来れて。皆さんに本当に感謝してます」(岸)

「全箇所、参加させてもらって楽しかったです。追加公演お願いします!」(石井悠也)


シリアスなサウンドとは逆ベクトルのほっこりMCを挟み、後半は「Another Face」「死遊の天秤」と繋げていく。こと新譜に収録された「死遊の天秤」は淡々と繰り返される楽器陣の無機質なフレーズと、大サビで唄から溢れ出るHIZUMIの感情の落差、VJ“Hello1103”が創り出す映像が相まって観客の心を大きく揺さぶった。

「カメラも(ステージ上に)乗ってこいよ」というHIZUMIの煽りをきっかけに、「abnormalize」でメンバーも観客も無礼講モード。MASATOもステージを縦横無尽に動き回る。テンションがさらに上がったところで演奏されたのは、NUL.にとって始まりの曲「XStream」。HIZUMIは想いの丈を唄に込め、客席に感情をぶちまけた。

会場から沸き起こるアンコールの拍手に応え、再びメンバー登場。メンバー紹介を兼ねて、また1人1人にマイクを向ける。そこで再びイジラレ役になっていたのはKOHTA。HIZUMIに「じゃ、次は村田ブロンテ康太さん」と、物販用に書いた色紙のサインをネタにされる(会場ごとに、ネタを仕込んだサインが当たりとして入っていたが、今回は会場名をミドルネームとして使用していた)。「それ言うのやめてって言ったじゃない?(笑)」とKOHTA。そんな楽屋ノリのやりとりは、もはやちちくりあっているようにしか見えない(笑)。というのは、メンバーすら知らない2人の関係性があることが明かされるたからでもある。


「石井悠也は前からサポートしてもらってたけど、今回はKOHTAさんにも参加してもらって。実は、KOHTAさんとのエピソードで、他のメンバーにも言ってないことがある。俺、音楽を一度、辞めたじゃないですか。で、そんな俺が唄をまた始めようと思ったきっかけをくれたのがKOHTAさんなんです。先輩から、やりたいんだったらやればいいじゃんって言われたって話したことあるけど、その先輩=KOHTAさん。いわば、NUL.を始めるきっかけを作ってくれたのはKOHTAさんなんです」(HIZUMI)

そう言い終わるかどうかくらいのタイミングで、MASATOと岸が「ありがとうございます」とすかさずKOHTAに礼を述べる。以前からプライベートでも10年以上、交流のあるKOHTAとHIZUMI。失意のどん底から救い、シーンに呼び戻してくれた恩人=KOHTAと共に全国ツアーを回ることは、HIZUMIにとって長年の夢でもあったのだ。助言により再び訪れた人生の日の出。MCに続いて演奏された「SUNBREAK」の歌詞と彼の人生がリンクし、より我々の心に響いた。ちなみに“サンブレイク”はゲーム『モンスターハンター』のシリーズ名にも用いられているワードで、数年間、このゲームを通じで2人は親睦を深めた、という裏エピソードも添えておこう。

涙あり笑いありの計2回のアンコールで4曲を披露し、サポートメンバーのKOHTA、石井悠也と共に、NUL.は有終の美を飾った。


アルバム『EVILA』の制作で、HIZUMIは心に溜まったおりを吐き出し、新しい自分に生まれ変わることができた。また、KOHTA、石井悠也に支えられながら本ツアーを完走したこで、NUL.は一回りも二回りも大きなバンドへと進化した。

そんな彼らのライヴが年明け1月27日、渋谷DIVEで行われることが発表された。“追加公演”と銘打っているので、今回と同じメンバーによるステージでもある。ちょっと先の話だからこそ、その頃には、もっと自由にライヴが楽しめる世の中になっているように、と願わずにはいられない。

取材・文◎増渕公子[333music]
写真◎@Lc5_Aki

◆NUL. オフィシャルサイト
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