【ライブレポート】NUL.、IKUO&Sakuraを迎え新たな一面を

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<NUL. live2023「Distorted Circle」>というタイトルを掲げ、3月2日、代官山Space ODDにてNUL.がライブを行った。

◆ライブ写真

サポートを務めるのはベースのIKUO(Rayflower,etc.)、ドラムのSakura (ZIGZO, Rayflower, gibkiy gibkiy gibkiy)は初顔合わせ。前回のライブで彼らの名前が発表された時、ファンから驚きと喜びの声が上がったことは記憶に新しい。そんな最強で最高のリズム隊、“イクラ”(IKUO+Sakura)がNUL.のHIZUMI、MASATO(G)、岸利至(Prog)の3人の音楽と出逢った時、どんな化学変化が起こるのか? まったくもって予想不能。それが注目の主軸であったことは間違いないが、今夜はコロナ禍以降、NUL.の東京公演では初のマスク着用での声出しOKライヴということで、メンバーもお客さんも色めき立っていたはず。ましてや、ライブ当日はHIZUMIの誕生日。これはトピック満載のライヴになるに違いない、とファンも胸躍らせて会場に集結していたことだろう。


暗がりのステージにNUL.の3人、IKUO、Sakuraがスタンバイ、拍手に包まれた会場に「Ground Zero」の静かで不気味なイントロが響く。ところどころに、Sakuraのシンバル、フロアタムの音が入り、IKUOのベースも加わって曲が持つ世界観を押し広げていく。“Ground Zero”の言葉の意味、サウンドの印象から、この曲に対して筆者はたびたび“無機質”という言葉を使ってきた。そんな本曲の世界観が、人が生み出す生きた音により増幅されるとは!というのがまず1つめの驚き。

続くファンの間でも人気の高い「死遊の天秤」では、今宵もHello1103のVJと相まってダークな世界観が広がる。死と向き合い、生きることを見つめて唄うHIZUMIの声、そこにIKUOとSakuraのグルーヴにより曲のポテンシャルが高まっていく。HIZUMIの唄も、MASATOのギタープレイも心なしかアグレッシブな気がする。それは「八咫烏-ヤタガラス-」も然り。リズムにのって岸が身体を揺らしコンピューターと鍵盤を操るのも、MASATOが攻撃的なギターを弾くのも、ドッシリとしたSakuraが叩くドッシリした4つ打ちドラムがあってこそ。初っ端の3曲を終えると、拍手と声援に包まれながらHIZUMIが話し出す。


「今日、東京でNUL.としては久々に声出しOKライヴです。バンバン、声出して盛り上がっていこうか! 唄っていこう、全員で! 暴れる準備はいいか!?」

そう煽ってダンサブルナンバー「Kalima」の演奏へ。スタンドに設置したエフェクトボイス用のマイクとハンドマイクを巧みに使い分け、ダークで激しい世界観の中で湧き上がる感情を言葉と唄で客席にぶつけていくHIZUMI。掲げた手をリズムに合わして揺らすオーディエンス、曲の世界観に陶酔しているようだ。一方、「SEED IN THE SHELL」など淡々と流れるように進んでいく曲でも、IKUO、Sakuraの的確なプレーがNUL.サウンドをしっかと支える。押し引きと、その塩梅はさすがとしか言いようがない。

「皆さん、どうですか? あの、今日…僕、誕生日なんです」とライブが始まって早々HIZUMIが自ら言い出すと、すかさず「おめでとう」という声が、あちらこちらから飛ぶ。「そんな日にお二方にきていただいて。素晴らしいグルーヴで、これはNUL.の曲なのか? 違うバンドの曲なのか?くらいに生まれ変わっているというか。今日、お二方のグルーヴに合わせた曲を選んでます。お二方のグルーヴに合わせてノリノリでいくんで、ドップリ浸ってください」とHIZUMIが言って始まったのは「Cube」。デジタルに寄った曲というイメージを、“イクラ”の2人は、見事なまでに覆してくれた。新たに引き出される楽曲の魅力を知り、思わず膝を打ってしまった。



そして、ガムランの音と若干意味不明な歌詞が印象的な「残光」では、その不気味な世界観がベースとドラムにより増幅されたことで、対照的なサビの甘いメロディーはより甘美さを増していたことにも感動。中間部にある“アンタの正解と オレの正解が”という唄と、IKUOのベースフレーズが、まるで“アンタとオレの対話”のように思えたのも興味をそそられる。…とIKUO、Sakuraのプレーによって今日が随所で変貌を遂げていたが、とりわけ衝撃を受けたのは「EVILA」かもしれない。グイグイと下から突き上げるような力強いビートで、楽曲とNUL.の3人を引っ張って行くSakura。HIZUMIが歌詞に込めた生への執着も、より強くオーディエンスに届いたのではなかろうか。

MCを挟んでの「From deep underground」のAメロではリズム隊の16分の刻みが不気味さを増幅させ、それと対比するサビでのハジけっぷりもパワーアップ。本曲のプログレッシブ要素のある間奏はIKUO、Sakuraの元々得意とするジャンルのアンサンブルではないかという予想どおり、しっくりくる。そしてバンドサウンドを意識してMASATOが作った「ジル」では、生感を大事にした5人スタイルでの演奏がハマッていたことは言うまでもない。反抗期の少年が抱えきれないパワーを発散するように、HIZUMIは叫び、MASATOはエッジの効いたギターをザクザク鳴らし、岸は要所要所でスティックや素手で激しくパットをぶっ叩く。音だけでなく、メンバーのアクションも曲が持つヒリヒリ感を強めていた。



「GREEDY BLOOD FEUD」のシャッフルのノリに合わせて、HIZUMIが踊ればオーディエンスもその場で跳ねて、“Yeah! Yeah!”の掛け声ではオーディエンスも声を上げ、拳を振り上げる。明るい未来を感じさせる「Plastic Factory」の演奏でも思い思いに声を上げ、身体を揺らして踊る。この3年間、雁字搦めになっていた禁止事項から解き放たれたことがメンバーやオーディエンスの心の解放へと導いたことは、言うだけ野暮というものだ。

本編終了後、HIZUMIへ向けてファンが“Happy birthday to you~”と唄を繋げる。アンコールを求める声が聞こえるのも本当に久々だと思っていると、間もなくしてNUL.の3人がステージに登場。上手からMASATO、HIZUMI、岸の順番で前方に座り、オーディエンスが見守る中、誕生日によせてHIZUMIが母親への感謝を述べたり、NUL.からのサプライズプレゼントがあったり。誕生日ならではのあれやこれやで、ひとしきり盛り上がった後、アコースティックギターのストロークから「MABOROSHI」へ。音数の少ないアコースティックバージョンでは、よりHIZUMIの唄に込めた想いが染みてくる。


続いて岸がシンセサイザーで空気を作ると、MASATOのアドリブのフレーズから「灯願華」がスタート。突然空の彼方へ旅立った人へ向けて書かれた歌詞を情感たっぷり唄い上げたHIZUMIの目には涙がうっすら浮かんでいた。「3人で目を合わせて(曲に)入るじゃない? あ、バンドだなって思う瞬間だね」と岸が話した後、披露された「SUNBREAK」では、岸がパットを叩いてパーカッショニストと化し、この3人ならではのアレンジで曲を披露。このアコースティックバージョンの演奏で、既存曲のあらたな面が見られ、感極まる唄が聴けたことは、今夜の注目すべき最大のトピックだったかもしれない。

2度目のアンコールに応えて出てきた3人が再びサポートのIKUO、Sakuraを呼び込むと、Sakura、IKUOからはサポートとして迎えてもらった感謝と、HIZUMIへのお祝いの言葉が贈られる。抜粋すると、HIZUMIは少年時代Sakuraに衝撃を受け、いつしか一緒のステージに立ちたいと夢見ていたとか。プラス、メンバー同士の関係性やリハーサルのエピソードを聞いていると、NUL.にとっても本日の主役であるHIZUMIにとっても、またとない貴重な一夜、最高な時間が持てていることは十分に理解できた。そして、この5人で「I don't seek I find」「XStream」を演奏してステージを去った後も、拍手は鳴り止まず。急遽、トリプル・アンコールまで。ステージ上で選曲を一任されたSakuraは、「演奏していて気持ちいいから」という理由で「ジル」をチョイス、パワーダウンすることなく最後の最後まで駆け抜け、オーディエンスを笑顔にしてくれた。


NUL.にとって初顔合わせのIKUO、Sakuraと共にバンドスタイルで、はたまたアコースティックアレンジでと、いろんな表現方法で楽曲を魅せてくれた今夜のステージ。オーディエンスの声の後押しもあってなのか、よりバンドらしさ、ライブ感を味わえた気がしたし、よりNUL.がバンドになってるな、と感じた。このレポートに書き切れなかったMCでのノリ突っ込み、間合い、表情、その日しかないアレンジでの演奏、誕生日ドッキリのMASATOの名演技……トピック満載のこのライヴ、ステージ上で起きたすべてのことをアーカイブ配信でぜひ観ていただきたい。


これまでも、3人体制という自由度の高さを武器に、数多くのミュージシャンらとも一緒に音を出し、同じ楽曲の違う側面を見せてくれていたNUL.。今夜のライブを観ていると、大きな樹が四方に枝葉を伸ばし、広く深く根を這わせるように、NUL.の音楽の可能性、表現方法は四方八方に広がっていくと確信した。それは木の幹の部分、NUL.3人が生み出す音楽がしっかりとしているからこそ見えてくる未来の姿でもある。それゆえ、6月から始まるNUL.の全国ツアーで、どんな枝振りになっているのか、もしくは幹の部分を太くするのか、と期待は高まる。


取材・文◎増渕公子[333music]
写真◎@Lc5_Aki、Wanda Proft

<LIVE TOUR 2023>

2023年
6月9日(金)柏PALOOZA
6月17日(土)姫路Beta
6月18日(日)梅田Zeela
6月25日(日)仙台ROCKATERIA
7月8日(土)代官山SPACE ODD

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