【BARKS編集部レビュー】「IE8 meets Westone3」ゼンハイザーIE80は、ボンキュッボン

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2011年はイヤホンにとって刺激的な年だった。2010年はSHURE SE535やSONY MDR-EX1000といった名機が誕生したけれど、2011年も負けず劣らずの大豊作。2011年度カナル型ヘッドホン自分的MVPはなんだろなーと振り返れば、Westone4の登場も今年だったし、ファイナルオーディオデザインもあるし、Atomic Floyd SuperDartsも好きなモデルだった。そして何よりAKG K3003の登場には腰が抜けたし、SOUL by Ludacris SL99にはアドレナリンが噴出した。そしてオーディオテクニカ ATH-CK100PROがあまりに眩しすぎた。

◆ゼンハイザーIE80&IE60画像

▲ゼンハイザーIE80。ハウジングトップにアルミプレートが採用され、硬質でかっちりしたハウジングとなった。デザインやサイズはIE8と全く変わらない。

▲左がIE80。右がIE8。IE8はケーブルやジャック部分がグレーだったが、IE80になってブラックとなった。

SE215のような素晴らしいモデルも出てきたし、Creative EP-660やUE350といった低~中価格モデルの質の向上もめざましいものがあった。

何かひとつと言われると(誰にも言われてないけど)困るなー…なんてモソモソしているところに、颯爽と現れたのが、このゼンハイザーIE80。いや、まいった。もしかしてMVPはこいつか。IE80は、IE8の筐体素材変更+アルファと聞かされていたけれど、結果できあがったサウンドは、予想をはるかに超えて私にしてみればパーフェクトな出音になっていた。

IE8と比べれば、IE80は「鮮やか」で「現代的」だ。IE8に明るさを振りまぶしたような輝かしい鳴りを聞かせてくれる。そう、言わばIE8が抱え込んでいた暗さという唯一のウイークポイントをみごとにカバーしての登場なのだ。1.2KHz~2.4KHzあたりの中高域のヌケがぐっとよくなり、プロポーションのいいトーンとでも言うか、言わばボンキュッボンなサウンドになって、メリハリもぐっと出てきた。あれだけ素晴らしいIE8の低音が引き締まって、さらに上質になったようにも聞こえる。

機械的な分離感が抜群にいいわけではないのだけれど、音楽を音楽として存分に楽しむという意味では、このディテールの表現具合が絶品で、これ以上の分解能は欲しいと思わせないエロさに溢れている。とても音楽的な響きで、機材というよりも楽器のような暖かさに満ちているのは、IE8から脈々と受け継がれている揺るぎなき魅力だ。

さて、IE80のサウンドを掘り下げるべく、さらに聴き込んでみたが、何かと比較検討するならば、単純に肉薄するのはSONY MDR-EX1000だ。「IE80ってIE8+アルファでしょ?IE8とEX1000って全然違うけど…」とお思いだろうが、びっくりなことにIE80のサウンドはEX1000とガチンコとなっていた。それでいて、IE8の基本サウンドをそのまま踏襲しているのも紛うこと無き事実。だからといってIE8にEX1000的な几帳面さをまぶせばIE80になるのか?…というと、それもどうもピンとこない。

納得のポイントを探すようにいろいろと聞き込んでみた結果、共通項をたくさん見いだせたのは意外にも3ドライバーのWestone3だった。IE80を表現するのなら「IE8 meets Westone3」というキャッチコピーがいい。「Westone3が好きなIE8オーナーなら、こいつはどストライクですよ」という意味でね。

▲今回音を比較したモデル群。左上からオーディオテクニカATH-CKM1000、ソニーMDR-EX1000、Westone3、下段左よりセンハイザーIE80、IE8、IE60。ダイナミックドライバーのハイエンドとしてATH-CKM1000とも比較してみたが、こちらは低域も高域も非常に派手なサウンド。IE80とよく似たバランスを持っているのはMDR-EX1000であった。

実は、Westone3とIE80を直接比べると、そのトーンは明らかに違う。Westone3の方がキラキラ感が強いし、IE80の方がローに張りがあって色気があって肉感的だ。Westone3の方が写実的で細かいディテールにまで気が利くような鳴り方をする。でもどちらも低中高・各帯域の押し出しの心地よさが特徴的で、ハキハキとエネルギッシュな出音を聞かせてくれるバランスの良さと、その健康的なエネルギー感が、両者に共通するずば抜けた魅力として非常に際立っている。

極めて高い完成度を持って、IE80は多くの人のリファレンスモデルになることだろう。もちろん今もなお、IE系の弾力ある最高品質の低音は健在だ。深いところまで艶めかしく響きながらも、そのコード感がしっかりと伝わるのは、中域まで広がる濁りなき倍音表現の美しさによるもので、ここが「音楽的」と感じさせてくれる最大の肝だと思う。そしてSONY MDR-EX1000との決定的な違いもここにある。モニターライクではなくあくまで最高品質のリスニングモデルであることを高らかに宣言するかのようだ。ゼンハイザーここにあり、である。

また、IE80にはどんな環境でもいい音を鳴らしてくれる大きな包容力がある。プレイヤーが多少ダサくても、音源の圧縮品質が多少悪くとも、すべてひっくるめて、気持ちいいバランスとワクワクする音楽表現を提供してくれる稀有なアイテムだ。オーディエンス側に無理を要求しない懐の深さは特筆すべき美点で、そんなイヤホンは他にはなかなか思い当たらない。ワン&オンリーとはまさにこのことで、何かひとつ選べと言われれば、ポップス好きもクラシックマニアも、ロックフリークもアニソンフェチも、IE80は必ずや高い満足度を提供してくれると思う。

▲左がIE80、右がIE60。市場価格は大よそ36,000円と18,000という倍ほどの開きがあるが、サウンドは両者肉薄するクオリティ。IE60のコストパフォーマンスは驚異的だ。

さて、最後の最後に、ちゃぶ台をひっくり返すような話で申し訳ないのだけど…、実のところIE80に負けず劣らずIE60が異常な素晴らしさだったことをお伝えしなくてはいけない。正直あまり眼中になかったので、IE60の音を聞いたときは、そのサプライズのカウンターを真正面から受けてしまい、イスから転げ落ちた(←うそ)。小ぶりのハウジングは耳の小さな女性にもOKだろうし、男性にとっても装着感が控えめで使い心地がいい。嬉しい誤算で、サウンドはIE80に遜色なく素晴らしいバランスで艶良く鳴らしてくれる。「規格外のできるヤツ」それが、私のIE60に対する素朴な感想だ。IE80を購入しに行ったら、必ずIE60も試聴してほしい。

なお、残念ながらIE8は既に生産完了となっており現在出回っている市場在庫がなくなれば、そのままIE8は販売終了となる。既に世界中に確固たるファンを持つ名機IE8だけに、今さら語ることは残されていないが、IE80が次世代を席巻しようとIE8の魅力にかげりが出るものではないのは皆さんご存じの通りだ。むしろしっとりとした落ち着きや中低域に魅力のある音楽…例えば2CELLOSのようなサウンドは、IE8の真骨頂でもあるし、IE80との使い分けも可能だし、やはりIE8の方が好きという人もたくさんいることだろう。IE8は今が手に入れる最後のチャンスなので、多少の無理をしてでもIE8はゲットしておいたほうが吉だ。

text by BARKS編集長 烏丸

●SENNHEISER IE80
・価格:オープンプライス(予想実売価格36,000円前後)
・型式:ダイナミック、カナル型
・周波数特性:10~20,000Hz
・インピーダンス:16Ω
・音圧レベル:125dB
・質量:約16g
・接続ケーブル:ケーブル長1.2m(Y型・着脱可能) 3.5mmステレオミニプラグ(L型)
・付属品:イヤーアダプターセット(標準S/M/L、ラメラS/M/L、ウレタンS/L、モールドS/L)、キャリングケース、イヤーフックケーブルクリップ、クリーニングツール

●SENNHEISER IE60
・価格 :オープンプライス(予想実売価格18,000円前後)
・型式:ダイナミック、カナル型
・周波数特性:10~18,000Hz
・インピーダンス:16Ω
・音圧レベル:115dB
・質量:約14g
・接続ケーブル:ケーブル長1.2m(Y型)、3.5mmステレオミニプラグ(L型)
・付属品 :イヤーアダプターセット(標準 S/M/L、ラメラ S/M/L)、キャリングケース、イヤーフック、クリーニングツール

◆ゼンハイザー・オフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー
◆DUNU(2011-12-14)
◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
◆オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
◆REALM IEM856(2011-12-02)
◆ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)
◆Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
◆Reloop RHP-20(2011-11-22)
◆オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
◆SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
◆Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)
◆SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
◆JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
◆BauXar EarPhone M(2011-10-10)
◆SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)
◆AKG K3003(2011-09-18)
◆Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
◆Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
◆Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)
◆ORB JADE to go(2011-08-22)
◆YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
◆NW-STUDIO(2011-08-09)
◆NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
◆Westone ES5(2011-07-21)
◆SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
◆クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
◆GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◆SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
◆フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
◆ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
◆フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
◆アトミック フロイド(2011-05-26)
◆モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
◆SHURE SE215(2011-05-13)
◆ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
◆ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
◆ローランドRH-PM5(2011-04-23)
◆フィリップスSHE9900(2011-04-15)
◆JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◆フォステクスHP-P1(2011-03-29)
◆Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
◆ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
◆Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
◆Westone4(2011-02-24)
◆Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
◆KOTORI 101(2011-02-04)
◆ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
◆ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
◆SHURE SE535(2011-01-13)
◆ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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