【BARKS編集部レビュー】至宝のじゃじゃ馬サウンド、ファイナルオーディオデザインAdagio

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2011年11月にファイナルオーディオデザインが発表した新たなカナル型ヘッドホンのアダージョ・シリーズに関しては、発売直前タイミングでアダージョIIIのレビュー(2011-11-26)を行なったが、12月初頭に3機種全てが無事同時発売となり、その後私も3モデルを入手した。レビュー記事にも記したとおり、発売直前まで起用されていたケーブルは見直され、ケーブルのタッチノイズは実用レベルまで改善されての発売となっていた。

◆ファイナルオーディオデザインAdagio画像

▲アダージョV

▲アダージョIII(上RED & WHITE、下BLACK)

▲アダージョII(上INDIGO、中CREAM、下BLACK)

既知の通り、アダージョはII、III、Vという3モデルが同時リリースとなっている。一番の焦点は3機種のサウンドの違いと、果たしてどれを購入すべきかという問題だろう。3機種ともしっかりと鳴らしじっくりと聴きこんできたが、一言でお薦めをチョイスするのはとても難しい。どんな音楽を聴いているのかにもよるところだが、他にどんなイヤホンを持っているのかにもよるからだ。

Adagio V●ステンレス削り出し●12,800円前後(キャリーケース付き)
Adagio III●ABS(BAM設計)●5,980円前後
Adagio II●ABS●3,980円前後

全て同じドライバーが搭載されているので、サウンドの違いはハウジングと中身の機構から生じたものだ。そして意外と大きいのが3機種の価格差である。着目ポイントは上記に列挙したところだが、「失敗したくない」「いわゆるいいモノが欲しい」「ずっと使っていきたい」と、1モデルに全予算を投入し愛用続けたいというのであれば、最上位機種のアダージョVをお薦めしたい。3モデル内で最も常識的なトーンバランスと幅広いキャパシティを持っているからだ。

アダージョVは、口悪く言えば一番無難なサウンドだが、中庸なバランスというのは非常に大事なことで、個性の強いものは好みにハマれば楽しいものの、そうでなければとても使用に耐えない悲劇となる。予算度外視でのお薦めとなってしまうが、国内生産のステンレス削りというスペックでこの価格は、実はコストパフォーマンスも相当高い。金属筐体大好き・金属を削り出してなんぼ!というファイナルオーディオデザインのブランドキャラを考えば、ファイナルをしかと堪能するという意味においても金属筐体のモデル=アダージョVに狙いを定めるのは、実はもっとも堅実な選択だと思う。

なお、サウンドを他社モデルと簡単に比較してしまえば、SOUL by Ludacris SL99の異常な低域を常識レベルに抑えた現実的なバランスを持った、キレの良いすっきりとしたトーンという感じだろうか。温かさは希薄なこともあってか、バランスドアーマチュアのような高域の繊細さをもっているイヤホンであるとの評判を受けているが、同時に耳を襲う芳醇な低域の質感はいかにもダイナミックドライバーのそれであり、小さなドライバーひとつでハイブリッドのような音質を実現している点が称賛すべき最大の着目点だと思う。

一方で、ヘッドホンワールドのめくるめく官能スパイラルに身を投じているイッちゃっているお兄さんには、是非アダージョIIをお薦めしたい。この価格で手に入れるモデルに無難さを求めるつもりも毛頭ないであろうし、そうであればこそ「安価にもかかわらずどれだけ個性的で魅力的な音を楽しませてくれるか」に焦点を当てた方が100倍楽しい。

ハウジング内でぶんぶん空気を共振させているかのアダージョIIの鳴りっぷりは、他のイヤホンでは経験することのできない独特のもので、私は、アダージョの中でIIが一番好きだ。これぞファイナルオーディオデザインのサウンド設計が存分に発揮されたピュアオーディオ・ブランドの真骨頂といえるものだとも感じる。変態とも言える低域の鳴りと、遠慮なく突き抜ける高域のヌケを両立させているこんな音には、なかなか出会えない。2年をかけて開発をしたという8mm径の新設計ダイナミックドライバーが搭載されているが、素で鳴らすダイナミックレンジをそのまま素直にアウトプットさせたかのような響きで、豪快で大暴れ、繊細さよりもワイルドさが勝る爽快なロック・サウンドだ。音がいいとか抜けがどうとか、そのトーンを分析・形容する以前に、なにより楽しい・面白いという表現の方が、アダージョIIの性格を表わすには適切だと思う。

その点でいえば、アダージョIIIは、奥行きのある立体的な空間表現と豊かな低音再生を実現するというファイナル独自のBAM(Balancing Air Movement)機構を搭載している点がIIとの唯一の相違点だ。見事にサウンドが整理され、IIに比べれば中域の押し出しも良好となっている。すっきりとまとまったサウンドで、暴れ馬をちょっぴり調教したような使いやすさが表れている。

当然のようにIIよりもIIIの方が上質で、サウンドもコントロールされていると感じるが、その分コストがかかり、価格差が発生する。もちろん余裕があればIIIのほうがいいとは思うのだけど、IIの価格でこのサウンドが味わえる驚きに価値を見出してしまうので、最もコストパフォーマンスが優れていると感じるのはIIだし、私のお気に入りもそういう意味でIIとなる。

IIの「ぶん回すような裸のサウンド」がいかにも貴重で、最高に面白いと感じていただけそうな危ないお兄さん、全国にたくさんいますよね?アダージョ兄弟を未だ未体験であれば、是非一度ご体験を。SONOCORE COA-803が面白いと思う人であれば、これには更なる興奮を味わえると思います。

最後に老婆心ながら注意点を2つ。ひとつは、イヤーパッド(S、M、L)のセレクションは慎重に。他社のイヤーピースを使用しても、その材質とフィット感でサウンドは驚くほど変わってしまう。逆に自分好みのトーンバランスに変更することも、イヤーピースでコントロール可能だ。人によっての評価が大きくばらつくのも、この点に要因がある気がする。上記の感想は、全てデフォルトのイヤーパッド使用(私の場合はMサイズ)時のものだ。

そしてもうひとつは、一聴して早々に評価を下さない方が良さそうなこと。いわゆるエージングに対し何かを特別にする必要もなく、ただ普通に使っているだけで良いのだけれど、最初に感じた曇りや高域の騒がしさなどは、じきに整いさらに心地よくメリハリのある明瞭なサウンドになってくるはずだ。試聴時の印象や最初に耳にしたときの第一印象は、時間を追うにつれどんどん変化し、その変化量が非常に大きいモデルだと思う。使っているうちにいつしか印象も変わり、気付けばアダージョにどっぷり惚れている状況になるよ、きっとね。

text by BARKS編集長 烏丸

●Adagio V
・オープン価格(市場想定価格12,800円前後)
・2011年12月初旬予定
・筺体素材:ステンレス削り
・感度:100dB
・インピーダンス:16Ω
・コード長:1.2m
・重量:16g
・同梱品:キャリーケース、イヤーパッド(S/M/L)、保証書
・保証期間:購入日より1年間

●Adagio III(RED & WHITE、BLACK)
・オープン価格(市場想定価格5,980円前後)
・2011年12月初旬予定
・筺体素材:ABS
・BAM(Balancing Air Movement)設計※
・感度:100dB
・インピーダンス:16Ω
・コード長:1.2m
・重量:10g
・同梱品:イヤーパッド(S/M/L)、保証書
・保証期間:購入日より1年間

●Adagio II(CREAM、INDIGO、BLACK)
・オープン価格(市場想定価格3,980円前後)
・2011年12月初旬予定
・筺体素材:ABS
・感度:100dB
・インピーダンス:16Ω
・コード長:1.2m
・重量:10g
・同梱品:イヤーパッド(S/M/L)、保証書
・保証期間:購入日より1年間

◆ファイナルオーディオデザイン・オフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー
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◆AKG K550(2011-12-20)
◆SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
◆DUNU(2011-12-14)
◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
◆オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
◆REALM IEM856(2011-12-02)
◆ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)
◆Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
◆Reloop RHP-20(2011-11-22)
◆オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
◆SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
◆Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)
◆SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
◆JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
◆BauXar EarPhone M(2011-10-10)
◆SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)
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