【BARKS編集部レビュー】Klipsch Mode M40はヘッドホン界のプリウス

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いろんなイヤホン/ヘッドホンと並行しての使用ではあるけれど、4週間近く使い込んだことで使用感と評価が安定してきたので、そろそろご紹介したいと思ったのが、このクリプシュMode M40だ。使い始めの当初はヌケの悪さが前面に出ていたので、第一印象に新鮮さや驚きはなかった。ショップでの試聴もそのような聞こえ方をしてしまうであろうことを想像すると、ちょっとの試聴でばっさり判断され、Mode M40はとても不当な評価を受けている機種なのではないか。

◆Klipsch Mode M40画像

▲質感高いアンバー・カラー。ブラウンとカッパーを基調としながらヘッドバンドはスケルトンでうっすら内部が見えるあたりがオシャレ。

▲心臓部分は2ウェイ2ドライバー設計。40mmと15mmのドライバーが同軸上に設置されているのが透けて確認できる。

▲付属品の質感も高い。キャリングポーチは革製で高級感たっぷり。布巻きケーブルは2本付属し、ひとつはアップル対応のコントローラーが付属する。

頭にセットしてまず思うのは非常に側圧が強いということ。当然個人差はあろうが、頭のでっかい私にとっては、この側圧は最高レベルの強さで、左右からみっちりと抑えつけられ大きな圧を強いられる。ただ、実はこの側圧が大きなポイントで、この装着感こそが、サウンド自体にも大きな影響を与えているような気がしてならない。そして今や、この使用感が不快にならない絶妙な設計がMode M40の真骨頂なのだとも思っている。

まず装着感だが、パッドには低反撥素材が使われているのがポイント。この適度な硬さが側頭にぴったりとフィットし、非常に高い遮音性が確保される。耳全体をすっぽりと覆う形状だが、周りの圧が均等なのは低反撥ならではの特性だと思われる。一か所に力が集中するようなことがないため、痛みが生じず、長時間でもそのまま変わらぬ使用感がキープされる。私の場合耳介に当たることもないので、耳がつぶされる痛みも全く感じない。

もちろん側圧は強い。ただこれが不思議なもので、頭を横からがっしりとホールドされている感触が、聴覚に意識を集中させてしまう効果を催すみたいで、聴かせてくれる音色に対し全力で脳内補正が施され、ほんの数分でパーフェクトなサウンドバランスが鳴り始めてしまう。自分のリファレンスにしているヘッドホンと聴き比べると、明らかに周波数特性が広いわけでもハイファイな音でもないことが分かるのだけど、一度頭にセットすると、あっという間に心地よい音空間だと思わせてくれる強力な説得力を発揮するのだ。開放型のヘッドホンなどは、いくら聞き込んでも脳内補正はかからず、不満点は不満のまま鳴り続けるんだけどな…。

冷静にサウンドをレビューするならば、中域に深さと厚みがあって安心してリスニングできる中庸なトーンだといえる。当たりは柔らかく、温かいサウンドで決してとげとげしかったり派手に演出する音ではない。開放型と対極にあるようなサウンド…とでも言うべきか、みっちりとまとわりつくような濃厚さがある。ハイファイな高品質開放型ヘッドホンが「シャキーンと冷え込んだ北欧の冬の空気のような音像」とするならば、Mode M40の音像は「相当の熱量を抱え込んだサウナのような質感で、身体にまとわりつくような中域と頭を揺らすような低域」という感覚だ。

ナチュラルではないので音の鮮やかさや新鮮さは希薄になるものの、押しの強さと粘り腰な低音は他のヘッドホンの追従を許さない。「バットでぶん殴るように引き締まった低域」を量感たっぷりに叩き出すモデルは他にもたくさんあるけれど、Mode M40のような「温度を感じるような熱量のある低音」はこのモデル独特のものだ。

このモデルに興味を持っていた人であれば、ノイズキャンセリングの機能を保有しているのはご存じのことだろう。密閉効果によるしっかりした遮音性があるので、ノイズキャンセル自体の効果は控えめだが、トータルでの静寂さは必要にして十分だ。ノイズキャンセリング機能が強すぎると、水の中にもぐっているかのような独特の圧迫感を生じてしまうので、ここは非常にいいバランスだと思う。単四電池たった一本で45時間駆動というロングライフも嬉しいが、ノイズキャンセリングを駆動させたときにONになるアクティブ回路によるサウンドの張りは現代的でとても気持ちよく、サウンド自体にも機能美のようなものを感じさせる。

デザインは好みだろうが、御覧の通りかなりおしゃれなフォルムを持っている。実物を見ると非常にスタイリッシュで、アンバーなカラーリングも上品ながらさりげない主張を感じさせるもの。個性的なフォルムと質感、色味を持っており、かなりオシャレ度は高いものの、不思議と使用者を問わない懐の広さを持っているようだ。オヤジ、若者、Tシャツ、スーツ、OL、カジュアルな女性…と、さまざまなシチュエーションで実際につけてもらったのだけど、はたから見ていずれも違和感ないという驚きの汎用性の広さを見せつけてくれた。TPOを問わない奇跡的な佇まいだ。

さて、Mode M40はどんな人が手にするのか。自動車で言うならば決してフェラーリのようなストイックさがあるわけでもないし、メルセデスのようなラグジュアリーさで魅了するわけでもないが、非常に燃費が良く高品位に設計された日本車のような…言わばプリウスのような使い勝手の良い非常に高い完成度を持っている現代的なヘッドホンだと思う。走ることに特化したスポーツカーでもなければ、気軽に手が届く低価格のファミリーカーでもない。庶民にとってはちょっぴり高価で背伸びが必要なんだけど、お高くとまった嫌味な高級志向には陥らない、機能美に溢れたプチ贅沢な愛すべき攻めの最新鋭モデル、それがMode M40だ。

text by BARKS編集長 烏丸

●Klipsch Mode M40
標準価格:オープンプライス(オフィシャル販売サイト:34,800円 配送料無料)
周波数特性:20Hz~20kHz
レベル:97.5dB
インピーダンス:32Ω
デュアルドライバ:ダイナミックムービングコイル40mm/15mmスピーカー
特性:パッシブ・クロスオーバー・ネットワーク、アクティブ・ノイズリダクション
ケーブル長:約160cm
差込プラグ:3.5mm
重量:356g
付属品
・標準布巻きケーブル&Apple製品互換3ボタンコントローラ布巻きケーブル
・革製キャリングポーチ
・マイクロファイバーキャリングケース
・航空機室内用アダプタ
・1/4サイズアダプタ
・単四乾電池

◆Klipsch Mode M40オフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)
◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)
◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)
◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)
◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)
◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)
■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)
■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)
◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)
◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)
◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)
■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)
■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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