【BARKS編集部レビュー】目線が変われば大穴ダークホース、PHONON SMB-02

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▲PHONONのSMB-02。市場価格はおよそ3万円前後。

ヘッドホンに限った話ではないけれど、時々ありますよね…過小評価のまま市場で埋もれている逸品って。イヤホンでは2011年10月に紹介したBauXar EarPhone Mもそうだし、いずれ紹介したいと思っているFischer Audio FA-002Wも突き抜けた個性と卓越した実力を兼ね備えながら、市場ではほとんど評価されていない不遇の名器のひとつだ。

◆PHONON SMB-02

そしてストイックに音質向上をハイレベルな領域にまで押し上げながらも、高額なスタジオモニター仕様というカテゴリの壁に阻まれ、その素晴らしさが一般オーディオリスナーにまで伝わっていないと思しきPHONONのSMB-02も、薄幸モデルのひとつだと思う。この品質の高さと心地よい音楽再生能力は、ULTRASONEやGRADO、Sennheiserの各フラッグシップといった現代の最高峰のモデル群に触手を動かすオーディオクラスタにこそ、是非とも知っておいてもらいたいところ。ハイエンド・サウンドをよく知る人であればこそ、SMB-02が一目置くべき卓越した完成度を誇ることは一聴してお分かりいただけると思うからだ。

PHONON SMB-02が登場したのは2011年の春なので、市場に並んでからすでに1年以上もの月日が流れているのだけれど、私がそのサウンドに初めて触れたのも、つい先日2012年5月12日に開催された<春のヘッドフォン祭2012>でのメーカーブースだった。騒がしい会場での慌ただしい試聴なので、その実力の程はほとんどつかみきれなかったのだけれど、それでも分厚く鳴る低域とスピード感あふれる高域に、それらに屈することなく抜けてくる中域の熱量はしっかりと伝わってきた。

メーカーは、SMB-02を「オーディオ研究で培ったノウハウを持つユニークな発明家とマスタリングエンジニアの出会いから生まれた」ヘッドホンとして、「精度の高いモニタリングを可能とするミキシングに最適なスタジオモニター仕様」であるとしている。もちろんそこには異論は何もないのだけれど、自ずとリファレンス系なのね?との理解から、次にはSONY MDR-CD900STやSHURE SRH940あたりと比較しよう…と、そんな立ち位置に置かれている気がする。

照準がエンジニア向けモニター・ヘッドホンに向けられているためか、「十分な低域を持ちリスニングにも楽しめるハイクオリティー・プロ用アイテム」というだけの狭苦しい評価に阻まれ、挙句「現場で使うには実勢価格3万円は高すぎる」という、木を見て森を見ないような不本意な評価に陥っているのが、現在SMB-02が置かれた微妙な状況ではないだろうか。

▲びっくりするほどオーソドックスな造作。ヘッドホンたるやかくあるべき、とでも言いたげな質実剛健な面構えだ。実際軽く丈夫で、可動部分にもブレやゆるみといった不安要素は皆無。

▲左がPHONON SMB-02、右がSHURE SRH940。比べてみるとSMB-02のハウジングの小ささが際立つ。側圧も適度でクッション性も悪くないが、どうしても耳介を抑え込んでしまうので、人によっては長時間の連続使用で痛みが出る可能性がある。

▲左からPHONON SMB-02、ULTRASONE Edition8、GRADO PS1000。サウンドのテイストも製品の性格も価格もバラバラの3モデルだが、共通するのは極めて高い解像度と、それを感じさせないくらい音楽を楽しく聞かせてくれる強い個性を持っているところ。どれも素晴らしい逸品だ。

確かに解像度は非常に高いレベルで研ぎ澄まされており、自然な定位にスピード感のある切れの良さも際立っているので、スタジオモニターとして求められる要素を最重要視した設計なのだろう。武骨でおしゃれ感ゼロのデザインも、その思想を端的に体現していると言えそうだ。でも、何の先入観も持たずサウンドだけに意識を集中すると、すぐに気付くのは、とてつもなく生々しく、肉厚で熱のある音を出している事実だ。

フラットで解像度高く、癖のないサウンドバランスなのは間違いないけれど、耳にしてそこで鳴り響く音楽は、常夏の天国のような肉感的なサウンドである。そしてそれは、非常に甘い音だ。ここでいう甘いとは「ゆるい」「ぬるい」「はっきりしない」というネガティブな意味ではなく、文字通り「Sweet」でテイスティであり心地よくとろけさせてくれるような恍惚感と濃厚さを意味する。誤解を恐れずに言うならば、GRADOが放つようなちょっぴりヤバい匂いがするのだ。「こいつ、ちょっと普通じゃねえ…」というあれだ。

バランスはフラット…と言いたいところだが、低域の押し出しはかなり強い。上質な質感とその量の多さは、ULTRASONE Edition8やGRADO PS1000と肩を並べるような低域で、それでもバランスが崩れているわけでもないと感じるのは、それに匹敵するほどのシャープな高域や艶めかしい中域が遠慮なく主張するからで、その持って生まれたキャラは、ずいぶんと“ナチュラルでテンション高い奴”に聞こえる。

冷静沈着なモニタリングが目的であれば、こんな天真爛漫なサウンドで、暑苦しいほどに温度の高い音を出す必要もないわけで、SMB-02の素顔は「屈託なくぶっとくてキレがある」という、音楽を存分に楽しむためのアイテムなのではないか。ついでに言ってしまえば、この野太さと熱量こそ、実はこれ、高級ハンドメイドの楽器的素養と100%合致するものでもある。極上のサウンドを追い求める設計・開発のその姿勢は、まるで至高の弦楽器を作り出すルシアーのそれと同じ道をたどっていたのかもしれない。いい大人が採算度外視でモノづくりを追及すると、往々にしてこの世界へ突入するものだ。

リファレンス・モニターの持つ正確さや際立つ解像度を持ちながらも、それ以上に音楽を楽しく聞かせるキャラを持ち得ているという意味で、SMB-02は、ULTRASONEやGRADOのフラッグシップが持つ圧倒的で呆れるほどの魅力的なキャラの濃さに追従する魅力を湛えている。

一方で、SMB-02には残念な点も散見される。まず、オーバーイヤーながらもハウジングが小さ目なので、耳を完全に覆うことができず時間によってオンイヤータイプのような痛みが耳介に残る。個人差は大きく開きがありそうだが、私は2時間が限界だ。側圧はさほど強くないので、ちょっとした形状や角度によってよりよい使用感を探す必要がある。なお、音漏れはほとんどないようだが、遮音性は高いわけではなくごく標準的。頭部のフィット感でずいぶんと変わる部分かもしれない。

目線が変われば大穴ダークホースであることをどうにかお伝えしたく、本稿を執筆した。外観はどうにも冴えないが、そのサウンドは望外のクオリティ。ぜひご自身の耳でお確かめいただきたい。10万円を超えるような銘ブランドのフラッグシップと同等とは言わないが、名器がワンアンドオンリーの圧倒的魅力を携えるように、SMB-02にもマニアを引き付ける素養と個性が確実に備わっている。

使用感と質感を重ね合わせ、あなたなら市場実勢価格3万円をどうとらえるだろうか。

text by BARKS編集長 烏丸

●PHONON SMB-02
・オープンプライス(市場実勢価格おおよそ30,000円)
・型式:密閉ダイナミック型
・ドライバー:Φ40mm
・出力音圧レベル:100dB/mW
・再生周波数帯域:20~20,000Hz
・最大入力:1,600mW
・インピーダンス:25Ω
・質量(コード、プラグ含む):271g
・プラグ:Φ6.3 / Φ3.5mm 金メッキ ステレオ2ウェイプラグ
・コード長(素材):約4.3m片出し(OFCリッツ線)

◆PHONON SMB-02オフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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