世代を超えて愛される「うた」がある。歌唱したい「うた」がある──。

◆本人による歌唱アドバイス 動画

演歌・歌謡曲シーンから注目の作品を毎月紹介する連載企画「いま、聴きたい演歌・歌謡曲（本人歌唱指導付き）」の第24回目。

今回は瀬口侑希「二人傘」、羽山みずき「お湯割りで」、はやぶさ 「ときめきはチャチャチャ~スナックはやぶさへようこそ~」、木村徹二「ザ・カバーIII~すいません!アイアンマシマシで!~」、笛吹もも香「後朝の雨」を紹介する。

（協力：日本クラウン）

■瀬口侑希「二人傘」

今年でデビュー25年目。クラウンの生え抜きとして安定した活動を続けるベテラン。古風な世界観が似合う歌手もだいぶ少なくなってきた中で、着物が似合う演歌の世界を守り続けている印象がある人だ。

1年ぶりとなる新曲の「二人傘」もまた、これぞ演歌という古風なタイプの楽曲。傘の中で寄り添う風景が歌われるが、ある程度の長い人生を歩んできたからこその落ち着いた二人の関係性が感じられて、じんわりと温かさが伝わってくる曲だ。

カップリングの「奪うつもりで愛します」もまた古風なタイプの一曲だが、こちらはもっと情熱的。時代が変わっても、こういった楽曲の中に演歌らしい人と人のふれあいの世界観は残り続けるということを伝えてくれる。

■羽山みずき「お湯割りで」

今年でデビュー10周年を迎えた羽山みずきの1年ぶりの新曲。もともと巫女をやっていたという異色の経歴から、和装が似合うタイプではあったが、三十路を超えて年相応の包容力を感じさせるようになってきた。

10周年記念曲となった「お湯割りで」は、軽い曲調と羽山の柔らかな歌い口からほんのりと優しさが伝わってくるような酒場演歌。この軽さをしっとりと仕上げられるところに大人の粋を感じさせる。心の居場所を作ってくれるようないい歌だ。

対して、カップリングの「恋はリバーサイド」はなんとディスコ。しかも、シェリル・リン「Got to be Real」のようなスウェイ・ビートを取り入れたかなりガチめの作り。このジャケットのCDにまさかこんな曲が入っているとは誰も思わないだろう。DJ諸氏はいつこの曲を発見するだろうか。

■はやぶさ 「ときめきはチャチャチャ~スナックはやぶさへようこそ~」

ここ3年ほどのムード歌謡路線が好評のはやぶさ。自身のYoutubeチャンネルの「Hayabusa Official Channel」では、“Snackはやぶさ”と題してゲストを招いてのトーク企画を行なっているが、ここしばらくでリニューアルを行い、大滝ひかるがママに扮して登場するスタイルになった。

今回はそれに絡めて、ママ役のひかるとお客さんの駿河ヤマトという二人の掛け合いスタイルで、スナックでの会話のようなムード歌謡という、80年代頃によくあった少し懐かしいスタイルの歌になっている。もともと石原裕次郎のようなムーディーなスタイルが得意のヤマトの歌はバッチリはまっているが、ひかるのママキャラがこれからどこまで成長していくのか楽しみだ。

今回は2タイプ同時発売で、【タイプA】のカップリング曲「Dear My Love」はコンサートのラストに歌われているロック風の楽曲。【タイプB】の「戸締りトリオ」は、司会者の西寄ひがしをゲストに迎えて、ラップを取り入れた異色作。なかなかの冒険作だが、さて、結果はどう出るか？

■木村徹二「ザ・カバーIII~すいません!アイアンマシマシで!~」

若手の中でも今最も脂が乗った歌を聴かせているのが木村徹二。“アイアンボイス”といわれるほどに、その声だけで力押しできる歌い手は、最近の男性歌手の中では珍しい。『ザ・カバー』と題されたアルバムは、1枚目が『昭和演歌名曲選』、2枚目が『海とか山とか旅とか酒とか』ときて、3枚目となる今回は『すいません!アイアンマシマシで!』という謎のタイトル。これを読み解くと、“アイアン”はもちろん彼の声。“マシマシ”はラーメンの野菜やニンニクなどのトッピングマシマシというアレだろう。つまりは、あの声がもっとほしい！アンコール！的な感じだろうか。

そんなわけで、誰もが知っている昭和の名曲を歌うというのが今回のテーマ。男性・女性・新旧関係なくあらゆるタイプの楽曲から選ばれたことで、逆にどんな曲でも歌えるということが証明されたとも言える。中でも1曲取り上げるなら、欧陽菲菲「ラヴ・イズ・オーヴァー」だろう。女歌ということになるが、ピアノとストリングスだけをバックに切々と歌ってみせる様は、男らしいパワフルな声というイメージに反して、女性的な包容感も持ち合わせているようで、実によく馴染んでいる。

■笛吹もも香「後朝の雨」

こちらはデビュー21年目。新たな10年への第一歩を踏み出した笛吹もも香の新曲は、師匠の花笠薫から変わって、大御所、岡千秋の曲に挑戦。

タイトルになった「後朝」とは、一夜を共にした男女が明け方になって別れること。後ろ髪を引かれるような思いを少しハスキーな声で歌う様はなかなかの艶っぽさで、『枕草子』に出てくる「暁に帰らむ人は」の一節を思い出す。岡千秋自身も、これまでになかったメロディが書けたと自信を持って送り出した楽曲のようだ。カップリングの「ふるさと笛吹ふたりづれ」は作曲活動も行う笛吹自身が作曲した楽曲。笛吹は演歌の女性歌手には珍しく、自分が歌うだけでなく、ほかの歌手への楽曲提供も行っている。歌詞に自身の名字の笛吹を入れ込んでいることからも、テーマソング的な1曲となるのだろうか。

文◎池上尚志

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