映画『ぐるりのこと。』主題歌に抜擢! Akeboshiインタヴュー

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国境や文化を超えた郷愁を感じさせるアイリッシュ・トラッドのムードと、サンプリングを駆使したエレクトロニカ的手法で作り上げられたやわらかいビート。伝統と革新を兼ね備えたオリジナリティあふれるトラックの上で、朴訥なあたたかい歌声がシンプルで美しいメロディを歌う至福の瞬間。ポール・マッカートニーが設立したことで知られるLiverpool Institute For Performing Arts(LIPA)で学んだ音楽理論と、現地のアイリッシュ・パブなどで体感した素朴な演奏の楽しみとを共存させた唯一無二の音楽性の魅力は、2005年のメジャーデビュー以降に急速に熱烈なファンを増やしながら現在に至る。その音楽を愛する一人、映画監督の橋口亮輔の最新作『ぐるりのこと。』主題歌に「Peruna」が抜擢され、入門編として最適な初セレクション・アルバム『Roundabout』のリリースも決まった。Akeboshiの音楽の普遍的な魅力が、さらに多くの人の耳に届く舞台は整ったようだ。
取材・文●宮本英夫

――「Peruna」はそういう環境で生まれた曲だからこそ、暗い現状や悲しみの感情を描きながらも、希望が見える歌になっていると思います。

Akeboshi:暗く押し付けがましいところへ連れていこうとは思っていないので、絶対に希望の歌にしたかったんです。詞は尾上文さんと共作してるんですけど、たとえばさっき言った治安の悪い暗い話を、日本に帰って話してもやっぱりズレるんですよ。それで何かを伝えようとする時に、頭ごなしに“日本は平和ボケしてて、おまえらみんな世界へ出ていろんなところを見ろ”って歌っても絶対伝わらないじゃないですか。尾上さんはすごい面白い言葉をたくさん持ってる人なので、そこに気をつけながら一緒に作っていきました。

――この曲はミニ・アルバム『Yellow Moon』(06年)の中の曲として一度リリースされて、今回再び脚光を浴びることになって。大切な曲になりましたね。

Akeboshi:そうですね。映画よりずっと前にできていた曲なんですけど、映画のために作られたと思うほどぴったりハマッてるんで。日本語の重み、日本語でしか伝わらない深みがあるなということに気づかされた曲でもありました。

――『Roundabout』は、『ぐるりのこと。』を見て「Peruna」を聴いて、Akeboshiを初めて知る人のための自己紹介作と言っていいですか。

Akeboshi:そうですね。ライヴアレンジも入ってるし、これが入口のアルバムだと思います。

――Akeboshiの音楽は、エレクトロニカとアイリッシュ・トラッドの融合という紹介のされ方が多いと思うんですけど、自身ではどうとらえていますか?

Akeboshi:イギリスにいた頃、アイリッシュ・パブでひげもじゃのおっさんたちが楽しそうにアイリッシュ・トラッドを演奏してるのを見て、音楽を頭じゃなくて心でやっているというか、伝わってくるものがあったんですよ。アイリッシュ・ミュージックはコードもキーもシンプルだけど、そこにそれぞれの生き様がにじみ出るんですよね。エレクトロニカに関しても、シンセにプリセットされてる音やサンプル音源を使わないで、曲作りをしたいと思った所から始まって。ゴミ箱を叩いてバスドラの音にしたり、ドラムの代わりにダンボールやフライパンを叩いたり、お札を破いた音や鍵を落とした音とかをサンプリングしてループを作ったり。そうやって結果的に鳴った音がエレクトロニカに近かった・・・本当は違うんですけどね。だけどそれに近いものとしてくくれるんだと思うんですね。僕の音楽はそういうアイディアから生まれたものなので、オシャレだからとか、そういうことじゃないんですね。それが自分の中で大事なんです。今はニューウェーヴだとか、何々がきてるとか、そういうことで喰っていくんじゃなくて、自然な出会いがあったのが自分の中で大きかったと思います。そういうスピードで歩ける街なんですよね、リヴァプールは。情報が入って来ないのが良かったんです(笑)。

 
 
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