増田勇一の『フィンランド特集(2)』アリ・コイヴネン編part.2

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「これこそが本当の意味での1stアルバム」──アリ・コイヴネン

いよいよ6月25日に国内発売を迎えたアリ・コイヴネンの第2作、『ビカミング』。実はこのシンプルな表題こそが、彼の現在の気持ちを何よりもストレートに物語っている。さっそくこの作品について彼自身に語ってもらおう。

――新作、『ビカミング』は2枚目のアルバではありますけど、アリ・コイヴネンという“バンド”としての第1作とも言えるんじゃないですか?

アリ:そうだね。これこそが本当の1stアルバムだと自分でも思ってるよ。『フューエル・フォー・ザ・ファイア』については、「他の誰かによって作られたもの」とまで言ったら言い過ぎだけど、敢えて言うなら「まだ誰も歌ったことのない曲ばかりで構成されたカヴァー・アルバム」みたいなところがあったと思う。正直、あんまり自分の作品という実感が持てなかったんだ。それに今の指摘の通り、今回のは“バンド”として作ったアルバムでもある。そこが大きな違いだね。

――ライヴでも「I am~」じゃなく、「We are ARI KOIVUNEN!」と自己紹介してましたよね。

アリ:うん。僕はいつもそう自己紹介してる。アリ・コイヴネンは僕の名前ではあるけど、バンドの名称でもあるんだ。僕自身、バンドで活動してるという現実を楽しんでるしね。“他の誰かに手伝ってもらってる”という感じじゃなく、“バンドにいる”という状況でありたかったんだ。

――つまり『ビカミング』というタイトルは、「本当のアリ・コイヴネンになる」という意味であり、「バンドとして始まる」という意味でもあるということ?

アリ:まさしくその通り!これが僕のバンドの幕開けになるんだ。

――パンテラの楽曲に同タイトルのものがありますよね。それにインスパイアされて命名されたものだという噂も聞きましたけど。

アリ:それも間違いじゃないんだけど……本当のことを言うとね、最初、うちのキーボード奏者がこのタイトルを提案してきたんだ。ちょうど僕がタイトルを決めあぐねてて、いろいろと候補を提示してもレコード会社側に「そんなんじゃ駄目だ」と言われ続けてた頃にね(笑)。で、その言葉が出てきたとき、まさに今の自分たちにぴったりだと思って。で、僕が「じゃあ、せっかくだからライヴでパンテラの『ビカミング』でもやろうか?」って言ったら、彼は「そんな曲があるの?」って驚いてた(笑)。だから「パンテラの曲に触発されたタイトル」とまで言ったら嘘になるんだけど、パンテラが僕にとってのフェイヴァリット・バンドであること、あのバンド自体がインスピレーションになってることは事実だよ。ダイムバッグ・ダレルは僕にとっての永遠のヒーローだし。

――このアルバムのレコーディングは、かなり状況的にキツかったらしいじゃないですか。ツアーをしつつ、その合間に録っていたんですよね?

アリ:そうなんだよ! マジで具合が悪くなりそうだった(笑)。ツアーをしてるかスタジオに寝泊りしてるか、そんな毎日で。歌を録るべきときにはいつでも録れるような状態でないとならなかったから、ライヴのない日はいつもスタジオにいて、作業ができない時間帯はそこで寝てた。そうでもしないと、完全に不眠になってしまうからね。寝て、起きて、コーヒーでアタマをシャキッとさせて、それからシャウトするのさ(笑)。

――ファンはきっと、あなたほどのスターならレコーディングのときでも一流ホテルに泊まっているものと信じているはず。

アリ:かもね(笑)。実は昨日、メンバーたちと“母国における自分たちの現状”みたいなことについて話してたんだ。実際、あの国でアリ・コイヴネンを“バンド”として認識してるのは1000人くらいだと思う。それ以外の数百万の人たちは、僕を“メディアから飛び出してきた人気者”としてしか見ていない。そういう状況を僕は打破したいんだ。TVに出ることじゃなく、バンドとして音楽を作ること。そこに自分の気持ちのすべてを注ぎ込むこと。それが僕らのやりたいことなんだ。そもそも僕はTVってあんまり好きじゃないし、『IDOLS』(デビューの切っ掛けとなったオーディション番組)に出たのだって、たまたま酔っ払ってたときに友達にけしかけられたのが発端だった。そう、そこでまんまと乗せられたのが、そもそもの始まりだったんだ(笑)。

徐々に熱を帯びてきたアリとのインタビューは、まだまだ続く。次回の更新をお楽しみに。

増田勇一
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