増田勇一のライヴ日記 9mm Parabellum Bullet@Zepp Tokyo(5/26)

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『揺るぎない“個”と、止まらない進化』

「ありがとう!」
5月26日、午後8時46分。ステージ上、すでにギターから解放された状態にあった菅原卓郎(Vo、G)は、両手をメガホンのようにしながらマイクを通さずに、Zepp Tokyoをぎっしりと埋め尽くした群集にそう呼びかけ、その場から姿を消した。その瞬間、3rdアルバム『Revolutionary』のリリースを経て去る5月20日に名古屋で幕を開けた全国ツアー、『Revolutionary Tour 2010』の三番目の夜が終わった。

◆9mm Parabellum Bullet画像

単純に言えば、熱く激しいライヴだった。しかもすべてが鋭利に研ぎ澄まされていて、過剰な混沌感ではなく、ある種の爽快感を味わうことができた。もう少し正確に言うと、どんなに混沌が渦巻くようなサウンドを聴かせようと、曲が終わったときに余韻として残るのは爽快感に等しいものだった、ということ。そうした感触そのものが、まさに9mm Parabellum Bulletならではものなのだと僕には感じられる。もちろん“らしさ”という安直な言葉で彼らを束縛するつもりは一切ない。が、今後このバンドの音楽がいかなるカタチの進化を遂げようとも、そこだけは変わらないのではないか。少なくとも今現在の僕はそう思っている。

このバンドの音楽には、とても一言では形容しがたいところがある。たとえばこの夜の2曲目に披露された「エレヴェーターに乗って」の展開が僕に連想させるのは、初期のメタリカ。しかしもちろん彼らはメタル・バンドではないし、他の特定のカテゴリーにすっぽりと行儀良く収まっているわけでもない。しかも異種ジャンルの融合具合の斬新さを自分たちの存在理由とするようなバンドでもない。いわば、4人のメンバーたちがこれまでの音楽人生のなかでスポンジのように吸収してきたさまざまな音楽要素が、計算ではない次元で混合され、完全にはすべてが融けきらない状態のまま放流されているに過ぎない。が、音楽としてはとてもイビツな形状をしているはずなのに、その不思議なカタチのまま、鋭く磨き抜かれているところに彼らの勝因がある。実際、過去の作品たちを踏まえたうえで『Revolutionary』に触れたときに僕が感じたのは、そうした意味合いでの進化だった。つまり、常識的に考えれば邪道かもしれないものが、このバンドにとっての王道として確立されたことを実感させられたということ。そしてこの夜のライヴ・パフォーマンスを通じて僕が確認することになったのも、まさにその事実の揺るぎなさだった。

最新作が『Revolutionary』と銘打たれていることも、当然ながらそうした事実と無関係ではない。筆者が行なったアルバム完成後のインタビュー(『GiGS』誌6月号に掲載)のなかで、かみじょうちひろ(Dr)は次のように語っている。

「このタイトルにしても、単語自体は革命的とか画期的という意味ですけど、僕はむしろ、そういう強いタイトルを付けたこと自体に意味があると思っていて。革命的なことをやったと言いたいわけじゃなく、“自分たちに恥じずにコレをやったことについて、ちゃんと堂々としていたい”という気持ちの表れとして、こういう堂々としたタイトルが付いてると考えているんです。僕らは基本的に、相手に解釈の余地を与えないような態度をとるのが大嫌いなので、あんまり強いことを言ってこなかった。でも今回は、こういう強い言葉が欲しかったんです」

もちろん彼らがこの局面において、ここまであからさまな“強い言葉”を欲した理由は、彼ら自身の確信がさらに揺るぎないものとなり、これまで“正しいと信じたかったこと”が“本当に正しかったこと”を確認するに至ったからこそでもある。言い換えれば、この『Revolutionary』という作品を成立させている機能性こそが、他の誰にも真似することのできない彼らなりの“様式”であり、それが借りものでもハリボテのものでもないことを示す機会として設けられたのが今回のツアーということになるだろう。

この夜、ステージ上の4人はとても堂々としていた。中村和彦(B)は身体を折り曲げながらグロウルし、滝善充(G)はギターと戯れるように暴れまわっていた。が、せわしなく動きまくっているようでありながら、常に胸を張って堂々と仁王立ちしているように見えた。まだまだツアー自体がこの先も続いていくだけに、その具体的な演奏内容などについてはこの場では語らずにおきたい。が、あなたがこの記事を目にする頃に中盤を迎えているこのツアーは、ライヴを重ねるごとによりいっそう揺るぎないものとしての説得力を増しているはずだし、6月30日、横浜BLITZでの追加公演をもってこのツアーが着地する頃には、僕も、彼ら自身も、さらなる進化/深化を体感することになるに違いない。その前に、今月下旬に予定されている名古屋、大阪、東京での“椅子の並ぶホール”での公演で、どのような風景を味わえることになるのかが、今はとても楽しみでならない。より具体的で詳しい内容のレポートは、その際にでも改めてお届けしたいと思う。

文●増田勇一
撮影●橋本 塁

<Revolutionary Tour 2010>
6月13日(日)福岡・Zepp Fukuoka
6月20日(日)名古屋・名古屋市公会堂
6月21日(月)大阪・NHKホール
6月24日(木)東京・NHKホール
6月30日(水)横浜・BLITZ(追加公演)

◆9mm Parabellum Bulletオフィシャルサイト
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