【連載】Vinyl Forest vol.10 ── Begin「Velocity」

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今回は、私、Dee-Sが2010年9月初旬からリリースを心待ちにしていたアンダーグラウンドなレーベル“Begin”からの2枚目となる「Velocity」をピックアップする。

Vinyl Forestでは、WAVやMP3といった形式で購入できる作品も紹介しているが、今回の作品は残念ながらVinylオンリー。なおかつプレス枚数も極少でリリース即完売となる可能性が高いため注意してほしい。

このBeginというレーベル、公式Webサイトは存在しない。主宰のJames Holroydは以前、MySpaceに登録していたものの、現在はアカウントまで削除するという隠密主義に徹している。この隠密(?)マーケティングは、どうやらNu Disco / Re-Edit界隈で最近、常套手段となりつつある手法のようだ。

ではJames Holroydというアーティストは何者なのか? 日本では彼の存在を知る者は、恐らく過去に渡英経験があり、そしてマンチェスター周辺で遊びまくっていたと容易に推測できてしまう(笑)。実は彼は、1994年に産声を上げたマンチェスターのSankeysというクラブで大人気のパーティー<Bugged Out!>の初代Resident DJであり、その後はThe Chemical BrothersのツアーDJとしても活躍。さらに<Back to Basics>でもResident DJを勤めるベテラン中のベテランだ。

そんな彼がスタートさせたレーベル・Beginは、グッと大人びたBalearicサウンドを提案。前作「Optical Holiday」は日本でも即完売、本作品も期待を裏切らない素晴らしい世界を披露している。

タイトル曲となる「Velocity part1」は、爽やかなアコギ、幻想的で浮遊感あるシンセ、思わず口ずさんでしまう男性ヴォーカルの絡み、邪魔にならない程度のドラムが心地よく耳にしみわたる快作。少々うるさいクラブでの使用には躊躇してしまうかもしれないが、雰囲気のあるラウンジにはもってこい。

一方の「Velocity part2」は、爽快感の中に叙情的な雰囲気を漂わせるアレンジとなっており、別曲扱いしてもまったく問題ない仕上がりだ。こちらは「part1」より全体の音数は少なめになっているのだが、不思議な事にこれ以上減らせないし、足せない絶妙なバランスを保っている。聴いていて邪魔にならない音数で構成する音楽は、絵の世界でたとえるならば、「どこで筆を止めるか」という難しさと同義。このバランス感こそが重要なのだ。

さらに私が唸ったのは「Curbcrawler」という曲だ。新しさと懐かしさが同居する音楽は、いつの時代も最高だ。Oldschool全開の太いシンセに単調なフレーズ、そして最近Nu Discoシーンで密かに復活しているミドルテンポのBreakbeatsに合わせて展開するDeepな作風。これには思わずトロけてしまい、試聴の段階で「久しぶりに本物のElectroに出会えた!」と感動するしかなかった。

text by Dee-S

◆【連載】Vinyl Forest チャンネル
◆drumatrixx mag

──【連載】「Vinyl Forest」とは

筆者の私達は音楽好きなのは言うまでもないのだが、それでも年齢を重ねるにつれ不感症になりつつある。原因はハッキリしていて、テクノロジーの進化によって低価格、高品質な制作環境が容易に手に入る昨今にもかかわらず、楽曲のクオリティが退化の一途を辿っているからだ。低コストで在庫を抱えずに済むからレーベルは多くのリリースができる反面、現場ではとても使えないトラックも非常に多い。

そこで、データ音楽販売が主流となった昨今のダンスミュージック界隈の懐事情を鑑みて、

「私たちは、レーベル側が在庫リスクを背負い、インディながらも頑なにVinylをリリースするという行為そのものが、レーベルが充分な楽曲クオリティを保証しているのではないのか?」

という持論(フィルタリング)で巡り会えた珠玉の刺激物と、今では考えられない予算を投じてリリースされた名盤をご紹介していく。

text by Dee-S&Blue Eclair

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