【BARKS編集部レビュー】Etymotic Research ER-4S、タッチノイズも使用者次第
シュアーのSE535、ソニーのMDR-EX1000、ゼンハイザーIE8…と、各ヘッドホンブランドのフラッグシップモデルを試用しているうちに、どんどん気になるヘッドホンが出てきてしまった。耳は頭の左右にひとつずつしか付いていないので、試聴はひとつずつしかできない。あー、耳がたくさんあったら楽しいのになーと思いながら、Etymotic Research(エティモティック・リサーチ)の最高機種ER-4Sを入手した。
◆Etymotic Research ER-4S画像
いやーまいったな、これも音いいなあ。
ご存知の人には常識なお話だが、ER-4Sは発売されて優に10年以上の年月が経つ、カナル型ヘッドホンの定番にして、未だ最高評価をほしいままにしている最高品質を誇るモデルである。ここで「最高にいい音です」と声を大にして主張するまでもない存在だけに、いまさらのレビューに頭ぽりぽり状態だ。
しかし、実際に手にして気付くことはいろいろあった。まず特徴的なのは、この特異なルックス。ペンネって言うの?ニョッキだっけ?おしゃれなパスタを耳に突っ込む感覚だが、使用感も見た目どおりで、耳の穴にずっぷりとぶっささってしまう。こんな奥まで突っ込んじゃっていいの?という最初の不安さえ払拭できれば、そこから先に広がっているのは音の桃源郷だ。
3フランジ・イヤーチップ…いわゆる3段キノコという形状もあってか、外耳道にはまると恐ろしいほどのフィット感と遮音性が確保される。目の前でしゃべられても何を言っているのか分からない状況で、外界から完全にシャットアウトされ、聴こえてくるのは自分の鼓動や体内に響く呼吸音くらいだ。驚くべき遮音性を誇るので、安易に外で使用するのは気をつけたほうがいい。自転車に乗ったりするのは論外だ。
そして、そこから鳴り響くサウンドのバランスの心地よさ。伸びやかで不純物のないクリアな高音は、クリスタルグラスに反射する光のシャワーのようで、何だか身体までも清らかに昇華されていくかのようだ。そして特筆すべきは中域の音の粒立ちで、様々なサウンドが混在する音域ながら全ての音像がきっちりと鳴り響き、綺麗にしかも生々しく息吹をもって分離してくれている。ギタープレイなどはちょっとしたタッチや微細なニュアンスが面白いほど耳に届く。プレイヤーの心情までもが見えるようで、ヘッドホンひとつで音楽の持つ表情が大きく左右されてしまうという驚きの現実を、掛け値なしで突きつけてくれる。至宝のサウンド環境を確保できる喜びはかけがえのないもので、ER-4S愛用者の所有満足度が高いのは、音楽が持つ本来の表情をわい曲させることなくそのまま伝えてくれる圧倒的な再現性の高さだろう。
しかし、短所もある。残念ながらタッチノイズがでかい。耳せんのごとく外耳にフィットしているからなのか、ケーブルの素材の問題でもあるのか…ケーブルが触れる音、風を切る音がガサゴソと大きく響くのだ。自宅での使用では全く問題ないが、ひとたび外で歩きながら使用すると、猛烈にタッチノイズが気になってしまい、サウンド自体が素晴らしいだけにガッカリ度も大きい。
んー、これは使用環境を選ぶのかな…と半ば納得しかかっていた時、ふとひらめいた。そうだ、耳の後ろからくるっと…いわゆるシュアー掛けならどうだろうか。
そもそもそのような使い方は想定されていないので、多少無理があるかもしれないが、耳に突っ込まれたまま180度ぎゅるっと回転させて、ケーブルを上向きにし耳に引っ掛けてみた…ら、どうでしょう。それまでうるさくて仕方なかったノイズが霧が晴れたように消え失せた。「え?うそでしょ?」とあまりの変わりっぷりに目が泳いでしまった。一気にノイズ95%カットの効能を発見し、嬉しくて嬉しくて、心はスキップする少女のごとし。
これをヒントに、どこがタッチノイズを出していたのか、よくよく確かめてみると、本体から135度で突き出したケーブル付け根の部分が、耳介や耳垂に接触していることが原因だと分かった。ヘッドホンを耳の穴にぶっ挿し、そのまま固定するかのごとくケーブルを真下に向けていたのだけれど、些細ながら耳たぶに接触していたようで、そこががそごそノイズを多量に発生させていたようだ。もっとラフに着けるだけでタッチノイズも激減することが発見できた。
1週間ほど使用したが、5日目あたりから、中域の量感と低域のふくよかさが増してきたような気がする。いわゆるエージングが進んできたのか、愛着からのプラシーボ効果なのかは分からない。でも、自分でさらにいい音になってきたと感じている時点で、私にとってそれは事実なのだ。
オープンプライスだが、2011年2月時点で2万円~3万円台で市場に並んでいる。抜群のコストパフォーマンスを誇るという点においても、ER-4Sの素晴らしさは別格だ。もちろん、そんなことは超ロングセラーという歴史が端的に証明しているのだけれど。
text by BARKS編集長 烏丸
◆Etymotic Research ER-4Sオフィシャルサイト
◆BARKS ヘッドホンチャンネル
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