「百鬼夜行奇譚」第七夜:【娼婦】マダムローザの娼館[参/最終話]

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Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」第七夜
【娼婦】マダムローザの娼館
・[壱]
・[弐]
●[参]最終話

   ◆   ◆   ◆

時は十七世紀、華やぐフランス。とある街の外れにひっそりと佇む古びた館があった。
漆喰で塗り固められた白亜の壁には幾重にも濃い緑色の蔦が巻きつき、出窓には白いレースのカーテンが飾られている。庭には色とりどりの華が咲き誇り、赤く大きな薔薇の花が一際美しく、風に揺れている。夢売り女が集う城――ここは娼館。

夢売り女3:娼婦オフィーリアの場合~Ophelia

夜の果て。波のように押し寄せる沈黙が、孤独を助長する。過ぎた夜の記憶を確かめるように、オフィーリアは冷たいシーツをそっと指で撫でてみる。

彼と初めて出逢ってから、もうどれほどの月日が経ったことだろう。
月に一度だけの、逢瀬。他の男達と違い、彼はいつも優しかった。

「いつか、一緒に暮らしたいね」

やわらかな微笑で、優しい声で、繰り返す、無邪気な嘘。
あてのない約束が、毎晩彼女を切り刻むことを、きっと彼は知らない。

お願い、どうかこれ以上、優しくなんてしないで
もう疲れたから、答えをください

胸の中で、渦巻く感情は言葉にもならずに、毎夜彼女の吐息とともに、シーツの白い闇へ葬り去られてゆく。
そんな朝と夜を幾晩も繰り返し、彼女はさながらミレーの描いたオフィーリアのように、夜を流れていくのだった。

ある晩。

彼女は夢売り仲間の女から、彼の噂を聞いた。

「彼、結婚するんですって!海を越えた街へ引っ越してしまうのですって。」

その瞬間、溢れ続ける想いが、致死量を超えて彼女を飲み込んだ。

忘れさりたい
忘れられない
忘れたくない

矛盾して繰り返す感情に、静かに飲み込まれてゆく。

それから、幾晩か。
最期の逢瀬のため、「マダムローザの娼館」のドアを叩く彼の影があった。
薔薇色の闇の中、彼は手探りをしながら、ゆっくりとオフィーリアのベッドに近づく。

オフィーリアは、冷たいシーツの中で、右手に握るナイフにそっと力を込めた――。

文:Kaya / イラスト:中野ヤマト

   ◆   ◆   ◆

Kaya 短編小説連載「百鬼夜行奇譚」バックナンバー
・第一夜【不眠】~Psycho Butterfly~
・第二夜【鬼櫻】桜花
・第三夜【回顧】~Awilda~
・第四夜【来世】~Awilda~
・第五夜【幽鬼】~傀儡 Kugutsu~
・第六夜【旋律】~Je te veux~

★「百鬼夜行奇譚」…ビジュアル系シンガーKayaが自らの作品をベースに新たに書き下ろした短編集。今回のモチーフはKaya single「Opelia」(2011年4月20日発売ニューアルバム「QUEEN」収録)。

Kaya New Album
『QUEEN』
2011年4月20日発売
【CD+DVD】DDCZ-1748 ¥3,500(税抜)
【CD+ボーナストラック】DDCZ-1749 ¥3,000(税抜)

◆Kaya オフィシャル・サイト「薔薇中毒」
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