【BARKS編集部レビュー】フィリップスSHE9000から妄想する、歓迎したいド変態の音世界

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以前執筆したSHURE SE215の試聴レポでも触れたことだが、イヤホン購買ゾーンは3000円以内のものがイヤホン市場全体の3分の2を占めるとか。さらに細かく調べてみると、イヤホン購入予算は1000円以下という購入者が全体の1割強を占めているようで、ここでは高価なイヤホンなど見向きもされない。ふむ、これが現実だ。

◆フィリップスSHE8000&SHE9000画像

いや、それもそうだろう。標準のイヤホンが壊れた、失くしたという理由から、やむなく購入する人も相当多いときく。その場合、当然価格が最優先で音や機能は二の次三の次。実際学生の自分がそうであったし、親戚や知人の多くもそう…というかそれが普通だ。もはや選ぶことすら面倒臭く「(一番安いのはさすがに不安だから)下から2番目のやつ、ちょうだい。色?…んじゃ青!」てなもんだ。そもそも標準のイヤホンで不便も不満もないのだから、これでOKなのである。

必要に駆られて購入するそんな層を取り除けば、逆に1000円~3000円という層は熱い。コストパフォーマンスを気にしながら、少しでも使い勝手や愛着の沸くものを手にしたいという思いを胸に秘めての購入層なのである。全体の50%を占めるこの価格ゾーンこそ、各ブランドの技術の粋と最大の企業努力が渦巻く、一番エキサイティングな商品が投入されるエリアだ。

もちろん魅力的な商品は数々あるが、そんな中でも今回紹介したいのはフィリップスのSHE8000とSHE9000だ。なぜ紹介したいのか、理由は簡単。3000円以下で飛ぶように売れ続けているSHE9700をはじめとして、抜群のコストパフォーマンスを誇る同社の最新モデルであり、期待を裏切らない完成度の高いモデルであることが試聴で確認できたからだ。

SHE8000はSHE9550の後継機種だが、2000円台後半という市場価格は、売れっ子SHE9700とガチンコ勝負になるところ。SHE8000のサウンド自体はSHE9700と同系統で、特性はほぼ同じといえるが、SHE8000のほうが多少肉厚なサウンドで、高域の量や低域の迫力なども存分に味わえる。音がぐわっと固まって届くので、音のひとつひとつの粒立ちを拾い聴くような目的には向かないが、どがんと音楽そのものを真正面から楽しむには、十分に満足できる迫力あるバランスで聞かせてくれる。

中域の厚みなどは望めずいわゆる弱ドンシャリ系だが、迫力の音像と共存させながら中域のボーカルもヌケよく聞かせてくれるので、耳にした第一印象もすこぶる良い。店頭での試聴で確認いただければ、その魅力もお分かりいただけると思う。

SHE9700よりも適度なしまりがありタイトに響かせてくれる特性は、イヤーピースによるものではないだろうか。赤と黒の配色も個性的だが、傘の黒い部分が超ソフトで、中央の赤い部分がハードなシリコンとなっている。黒の柔らかさが装着感と密閉度を向上させ、赤い中央の硬さは先端の崩れを防ぎ高域音の乱れを未然に防ぐ効果を持っているのだろう。外耳道に確実に密着してくれるため、低域の再生にも有利で、サイズだけちゃんと合わせれば効果は確かだ。アトミック フロイドも同様のカラーリングで硬さの異なる素材を組み合わせたイヤーピースを標準装備しているし、ソニーをはじめ多くのメーカーで起用されているハイブリッドタイプは、低域と高域のスムーズな再生と遮音性、そして付け心地と、いいこと尽くめの特性を持っている。

さて、同時に発売となったもうひとつのSHE9000、こちらは残念ながら価格がぐんと上がり市場価格は4000円台。なかなか手を出しにくい価格なのだが、実のところこちらが超お薦めだったりする。というのも、使っているうちにバッキバキに鳴ってきて、今や恐ろしいほどの音を聞かせるようになってしまったのだ。こいつの化けっぷりが、凄すぎた。

一聴して中低域の充実が際立っているため、しっとりと落ち着いたサウンドにも聞こえ、地味と思われるかもしれない。イヤーパッドがしっかり耳にフィットしないとエッジを失うのでもっさりモコモコに聞こえてしまい店頭では極めて不利だろう。きっと試聴では「なんだこれ、う×こ」でばっさり切り捨てられるのが目に浮かぶ。あー、だめだめ、判断早過ぎっす。頼むから耳にしっかりはめて30秒くらい聞いてくれれば、印象も変わると思うんだけど…。

これでもかという中低域の豪快な唸り具合は、純粋に感動を覚えるもので、至近距離で象をみて「うわーでけぇ」と感嘆する理屈なき感動と似ている。その上できちんとハイも抜けて出ており、どんな音源も発熱量の多いパワフルなサウンドで聞かせてしまう激烈な個性を持っている。生々しく肉感的なその音は、外耳道をなめ回すようにまとわり付いて、イヤホンマニアもにっこりさせるに違いない。ぶっかき回すように鳴らす刺激的な原体験だった。

もちろん高級モデルのような解像度は持ち合わせていないし、分離だってさほど良いわけではない。でもハイエンド・イヤホンでも得られない暴力的なワイルドさがある。それが何よりもたまらなく心地よかった。

果たしてこれはなんなのか。勝手な妄想だが、おそらく5000円を超える高級モデルになると、エントリーモデルには無い「高い解像度と分解能」を獲得すべく設計され、よりデリケートな表現力を手に入れると同時に、屈託の無い豪快さを失うことになるのかもしれない。二律背反、全てはバランスの問題だが、高級志向に突入するぎりぎりの境界線エリアとなる5000円あたりの商品群は、オール5の優等生にはなりきれない、やんちゃな個性派が最も色濃く現れる価格帯なのではなかろうか。

SHE9000は、背油がたっぷり入った濃厚なとんこつラーメンのようなサウンドで、一度くせになったら他では満足できない類の魅力あふれるサウンドである。この価格帯には、もっともっと面白くエグイ音を叩き出すモデルが潜んでいる気がする。メガ盛りのカツ丼のようなサウンド、激辛カレーのようなトーン…ここのエリアは、イヤホン・ジャンキーにとって格別なスイートスポットなのかもしれない。5000円の個性派ド変態アイテムよ、隠れていないで出てらっしゃい。いやー、やはりイヤホンの世界は奥が深い。

text by BARKS編集長 烏丸

フィリップス SHE8000
想定価格:2980円
・装着方式:カナル型
・構造:密閉型
・再生周波数帯域:10-23,500Hz
・インピーダンス:16Ω
・感度:100dB
・スピーカー径:10mm
・最大入力:10mW
・接続端子:3.5mm ステレオ
・ケーブル:1.2m Y型
・コネクタ仕上げ:金メッキ
・本体質量:12.6g

フィリップス SHE9000
想定価格:4980円
・装着方式:カナル型
・構造:密閉型
・再生周波数帯域:6-23,500Hz
・インピーダンス:16Ω
・感度:102dB
・スピーカー径:10mm
・最大入力:15mW
・接続端子:3.5mm ステレオ
・ケーブル:1.2m Y型
・コネクタ仕上げ:金メッキ
・本体質量:32.3g

◆フィリップス・オフィシャルサイト
◆BARKS ヘッドホンチャンネル

BARKS編集長 烏丸レビュー
◆アトミック フロイド(2011-05-26)
◆モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
◆SHURE SE215(2011-05-13)
◆ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)
◆ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
◆ローランドRH-PM5(2011-04-23)
◆フィリップスSHE9900(2011-04-15)
◆JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◆フォステクスHP-P1(2011-03-29)
◆Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
◆ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
◆Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
◆Westone4(2011-02-24)
◆Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)
◆KOTORI 101(2011-02-04)
◆ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
◆ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
◆SHURE SE535(2011-01-13)
◆ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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