栗コーダーカルテット、懐かしく楽しく ときどき感涙の7thアルバム『羊どろぼう。』大特集

ポスト

栗コーダーカルテット

7thアルバム『羊どろぼう。』2011.10.26リリース

INTERVIEW

──今作は糸井さんの著書のイメージテーマを作るというのが発端?

栗原正己(以下、栗原):発端というか、まずその「羊どろぼう。」という一曲があって、それが充実した一曲になったということもあって、それを中心にしっかり作ることができましたね。

川口義之(以下、川口):一曲が決まると、それが一緒に入ってて違和感がない曲っていうことになるから、ある程度、最初にできていた曲によって(アルバムの)トーンが決まるんですよ。

栗原:導かれるようなところはるよね?

川口:うん。もうひとつの側面としては、今年の初めにヨーロッパツアーをして、そんなところから来た心持ちも反映していたりとか。

──それで曲名にも旅っぽい雰囲気があるんですね。

関島岳郎(以下、関島):そうですね。曲名に出て来る地名もリスボンとか、ルーアンとか、リージェントパークとか、行ったところそのものなので(笑)。

近藤研二(以下、近藤):えっと、今作のトピックとしては、9日間、一日も休まずレコーディングしたことかな。その前に、ちょこちょこ始めたりはしていたんですけど、同じ人と連続して会うことはそんなにないですよね。ちょうど8月の終わりだったので、まるで夏休みの宿題に追われている小学生のような……(笑)。

関島:ヨーロッパツアーでは3週間一緒にいたしね、8月はレコーディングでずっと顔を合わせていて、ちょっとメンバーの顔を見飽きてきましたね(笑)。

──聞いていると、歌がないのに歌が聴こえてくるようなんですよね。例えば詩人の谷川俊太郎の世界のような。わかりやすく、子供でも大人でも伝わるというか。

関島:それはいつも言われたいなぁと思っているようなタイプの意見です(笑)。

栗原:僕らはインストゥルメンタルバンドの一つですけど、おそらく他のインストバンドとは違うところがあるんですね。それは、全員が歌のある音楽が好きなところなのかなと思ったことがあって。いわゆるインストバンドって演奏技術が非常に高いんですね。僕らもないわけではないんですけど(笑)。普通は曲の中にソロ回しがあったりしますけど、振り返ってみると、僕らの曲には意外とそういうのがない。

川口:そう。そこに重きは置いてないんだよね。歌モノっぽい作りっていうか。

栗原:そう。1コーラスあった後、ちょっとした場面転換程度に間奏みたいなのが入ることはあるんですけど。だから「歌が聴こえる」っていうのはとても嬉しい意見なんですよね。

川口:インストバンドの中では僕らスカパラに近いのかなぁ。

関島:でもスカって、ジャズみたいに、テーマがあってアドリブがあってという音楽だからちょっと違うんだよね。僕らの場合はテーマとアドリブではなく、一つのコーラスとコーラスの間に入る別の部分を間奏って呼んでます。インストだから間奏もなにもないのに(笑)。完璧に、歌モノのポップスのマナーの中で音楽を組み立てているんです。そういう意味では、似たようなインストバンドはあまりないかもしれませんね。

──たとえば4曲目「足」はカノンになっていたり、ユニゾンに戻ったり、まさにコーラスのようなんですよね。リコーダーの音も、コーラスでソプラノ、アルト、テノール、バスで作った和音に近いニュアンスだなぁと。

川口:あぁ。最近はあまりやらないけど、笛4本で作る曲っていうのはそれに近いと思いますね。例えば歌に振り分けても成り立つ。僕らは歌モノをそのまま笛に置き換えてやってるんだけど。

栗原:うん。ルネサンス時代の歌の曲とかね。ソプラノ、アルト、テノール、バスってあって、笛も同じで。もともと歌を模して作られてるんで、そういう感じはすごくフィットするし。旋律同士の絡み合いが効果的な楽器なんですよね。

川口:あとは歌と同じで、吹き手によって、色が変わるんです。同じ曲でも、パートを交換したりすると相当印象が変わったりします。僕たち、譜面集も何冊か出しているんですけど、ファンの方がそれをそのまま演奏したものを録音したのを渡されたり、Youtubeに上げたので見てくださいって言われたりすることがあるんです。そういうのを聞いたりすると、吹き手によって曲が全然違うというのがわかる。

関島:デューク・エリントンがそうだったらしいんですけど、スコアのパート部に、1stトランペットとか2ndトランペットって書かずに、キャット・アンダーソンとか人の名前で書いてあったって聞いたんです。僕もアレンジするときに、これは川口くんのアルトがいいなぁとか、これは本当は近藤くんがギターを弾いたほうが曲が安定するんだけど、この曲は近藤くんにメロディを笛で吹いてもらおうとか、そういう風に考えていきますよね。1人ずつ、みんな違うから。同じ楽器を吹いても、唄い方が違うので、吹いているのは笛なんだけど、みんなそれぞれ違う歌手だなぁっていう。そういう風に思ってます。

──呼吸のものだからなんですかね。

川口:うん。息の強さとかもあるし、音程も人によって違うんですよ。たぶん歌でもそうだけど、ちょっとずつ、それぞれの個性があるので。

関島:本当はピアノでもなんでも、細かいレベルで音色の違いとか呼吸とかあるんですけど、吹くものはそれが出やすいんですよね。

栗原:最初の頃はさ、四本であたかも一つの楽器みたいに、オルガンみたいな感じに吹けないかな、なんて思ったけど無理無理。僕らはそれができなかった(笑)。それが今みたいな面白さに繋がっているんじゃないかなぁっていう感じがしますね。同じ笛でも、クラシックの人たちとはどうも違うようだと。

川口:結成当時に比べると随分良くなりましたけどね(笑)。そこからもう17~8年ですからねぇ。

──長いですよね。歌のようなリコーダーだからこそ、ギターやウクレレとのアンサンブルの面白さもありますしね。

栗原:ウクレレとかギターの相性が良かったんだよね。ピアノだとちょっと強いんです。

関島:ウクレレとの相性がいいっていうのは発見でしたよね。ウクレレは音域が狭いからリコーダーと合うのかなって気がします。僕が持っている長い笛(グレートバスリコーダー)は、一見低い音が出そうですけど、そんなに低い音は出ていなくて。ギターのほうが低い音が出るんですよ。ウクレレくらいの楽器とやるほうが、自分が低い音を出している気分になるんですよね。

──なるほど。タイトルはどんな風にしてつけるんですか?

近藤:インストで詞がないので、一行詩みたいなものですかね。関島さんなんかは、タイトルと曲がほぼ同時にできますよね。

関島:なるべく同時にありたいと思いますよね。昔書いた楽譜なんかを見ると、タイトルが決まる前に音を出した曲は全部「関島新曲」って書いてあったりして。どれが新曲かわかんなくなるんだよね(笑)。

栗原:僕も曲とタイトルが同時にあったらいいなぁと思うけど、なかなか難しい(笑)。曲作りの時に、最初から到達点がはっきりしている時はいいんですよ。でもおぼろげしか見えてない場合もわりとあって。そういう時に迷いますね。作って行くなかで、到達点にフィットしそうな言葉が浮かんできて、これも違う、あれも違うってやっているうちに、なんとなく残って行くものがあったりするかなぁ。

川口:今回、僕は特殊な作り方をしたよ。録音と並行して長い時間かけてアルバムタイトルを決めていたんですよ。その時に、相当な数のタイトル候補を作って。僕は先に「羊どろぼう。」という曲を作ってあったので、今回のアルバムには自分の曲はこれだけでいいかなぁって思ってたんですよ。でも、せっかくいろんなタイトルを考えたのに自分がタイトルを付けた曲が入らないのも癪だなぁと(笑)。「羊どろぼう。」は糸井さんの言葉だし。それで、「こんなの作っちゃったんだけど」って締め切りギリギリに曲を入れた感じかな。タイトルは割と浮かんじゃう方なので。

栗原:浮かんだタイトルに対して(その数だけ)曲をちゃんと作れたら、アルバムが凄い出来になるということになるからねぇ(笑)。

──でもタイトルの付け方は絶妙ですよね。「気の毒なサイフ」って、本当にそんな感じですよね。色んな想像が膨らみます。高そうな財布に1円しか入っていないとか、お金がないのに、見栄張っておごっちゃって中身が無くなっちゃった財布とか。

川口:タイトルでいろんなイメージを想像していただくのは嬉しいですね。

栗原:これは私が作りましたけど、この曲はあまり気の毒な感じがしないように作ったつもりなんですけどねぇ。

近藤:気の毒な感じが出ていました?

──出てました(笑)。

近藤:きっと俺のギターに哀愁があったんだろうなぁ(笑)。

──悲しいというよりも、もうちょっと三枚目寄りな気の毒さですけどね。

栗原:じゃあ大丈夫かもしれない(笑)。気の毒だけど、それもまた楽しいなというような。

関島:寅さんっぽい感じですかね。笑いと哀愁が同時にあるという。

──関島さんが作った「足」とかは登山かなんかで、足を見ながら歩いてる感じがしましたし。

関島:ああ、実は登山好きなんですよ。

川口:大学時代、ワンダーホーゲル部でしたからねぇ、関島は。

栗原:うんうん、階段にしろ何にしろ、傾斜を登るときとかも、前の人の足だけ見ちゃうってあったりしますよね。そういう風に自由に聴いてもらうのが一番。

──「コトバ写真館」はどんな意味でつけたんですか?

近藤:これは……説明するのは簡単です。でも説明しないぐらいが楽しいかなと思います。一瞬、どういう意味かな?ってとどめたほうが。

──「青空節」は、子供時代に近所にチンドン屋さんが来たときのことを思い出しました。すごく不思議な想い出だったので、そういう記憶が呼び起こされた。

川口:これは栗コーダー初の「節」なんですよね。昭和を感じさせる曲を作らせたら関島岳郎はたいしたものですからね。

──ほっとするし邪魔にもならないんですけど、空気に馴染んでしまわないですよね。とてもキャッチーでキャラがあるから。

近藤:栗コーダーはそうですね。癒しとかって書かれていることも多いけど、割と引っかかりがある音楽だと思います。

関島:音数が少ない音楽は、一つ一つの音の影響力が強いんです。だからみんなですごく細かく吟味して作ってます。サラッと作ってあるように聴こえるんですけど、実は意外と頑張っている(笑)。

──ここから先、全国ツアーもありますね。

川口:全国どこに行っても、僕らのことを知ってる人が意外といるという、この状況だから、いろんな地方に行ってライヴが成り立つという恵まれた状況なんですよね。ライヴのあとにサイン会をやったりすると、僕らのライヴを見て、押し入れの中から楽器を引っ張り出しましたって人もいたりするし、そういうのも嬉しいですよね。公演本数が多くてもルーティーンにならないように気をつけるのが一番大切だと思うんだけど、ホールのコンサートもあれば、完全に生音ですぐ目の前にお客さんがいるっていう状況もあれば、行く町も違うんでね。そういうことに刺激されて、場合によっては曲ができることもあるだろうし。

関島:今回のツアーもかなり場所のメリハリがついてますよね。

川口:そろそろ、この新作からもやりますし。今回のアルバムではライヴでの再現性を重視したりとか、そういう意識は特にしていないけど、ある程度はできそうだし。まぁ、アルバムには入ってても、ライヴではやらないっていう曲が入っているのもいいと思うから。会場によってもトーンが違うと思うので、そういうところも楽しんでほしいです。

この記事をポスト

この記事の関連情報