MUSIC LIFE+ Vol.2 THE BEATLES archives「ビートルズ・リマスター音源再入門」

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iPhone、iPad用の無料アプリとして好評配信中の「MUSIC LIFE+(ミュージック・ライフ・プラス)」。洋楽ロック雑誌の草分けである「ミュージック・ライフ(1951-1998)」のデジタル版として貴重な写真・記事の宝庫であるとともに新たなコンテンツもプラスした音楽ファン必見の内容だ。その記念すべきVol.01はザ・ビートルズの徹底特集。日本初のビートルズ単独取材に成功した同誌ならではの貴重なコンテンツが堪能できる。その記事の中では、数多くの作品がリリースされているリマスター音源についてもさまざまなトリビアが。


■ヒット曲なのに、なぜアルバムに収録されていない?

イギリスでのセカンド・アルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』以降、ビートルズは原則、シングル曲をアルバムに収録しなかった。「シー・ラヴズ・ユー」「抱きしめたい」「レヴォリューション」「ペイパーバック・ライター」「レディ・マドンナ」「ヘイ・ジュード」「ドント・レット・ミー・ダウン」などおなじみのビートルズ・ナンバーも、すべてアルバム未収録。また、シングル・カットされた曲も、大半が別テイク、リミックス、リエディットが施されており、「レット・イット・ビー」などはアルバム:フィル・スペクター、シングル:ジョージ・マーティンとプロデューサーも異なる。

イギリス発売の公式コンピレーション『オールディーズ』を始め、シングル曲を含めたさまざまな独自編集盤が各国で発売されていたビートルズ。だが、1987年の全アルバムCD化に際し、シングルAB面曲は『パスト・マスターズ』の2枚にすべて収められ、現在は全アルバム13枚+『パスト・マスターズ』(2枚組)を揃えれば、公式発売曲213曲すべてが揃うようになっている。

■アメリカ盤って内容がどう違うの?

デビュー前にドイツのハンブルグで修行期間を過ごし、「抱きしめたい」「シー・ラヴズ・ユー」などのドイツ語版を吹き込んでいたビートルズ。これは人口6000万人の島国イギリスに比べ人口も多く、クラシックからの長い歴史を持つドイツが、ヨーロッパ最大の音楽商圏だったため(デヴィッド・ボウイ、ピーター・ゲイブリエルなど、ドイツ語版を制作している英国のアーティストは多い)。

早期にアメリカに進出したのも、より広いマーケットに打って出るため。しかしアメリカでは、EMIの販売契約を所有していたキャピトルに、当初ビートルズは売れないと判断され、ヴィー・ジェーという弱小レーベルに販売権を譲渡。『Introducing the Beatles』という編集盤で、1963年に全米デビューを果たしている。ところがその間イギリスで、年間のチャート第1位をビートルズが独占。ブーム到来を目ざとく察したキャピトルは、次作から自社販売に切り替え、独自編集による再デビュー盤『ミート・ザ・ビートルズ』をリリース。これが大ヒットになったため、シングル曲を加えたさまざまなアメリカ独自編集盤が立て続けに作られた。イギリスでは4枚しかアルバムが出ていなかった1965年までに、アメリカではなんと9枚のアルバムが発売されている。

1964年のアメリカ初上陸は大歓待をもって迎えられ、ビートルズが出演した『エド・サリヴァン・ショー』は視聴率72パーセントという、米テレビ史上最高の記録を樹立。人口2億人強という巨大市場アメリカでのビートルズ旋風は、いち早く各国にニュースとして伝えられ、世界的ブームに波及していく。アメリカ盤『ミート・ザ・ビートルズ』に倣った独自編集盤『ビートルズ!』でデビューを飾った日本も、『リボルバー』以前の初期アルバムは、独自編集、独自タイトル、独自ジャケットでリリース。各国のビートルズ・ファンには、自国の編集盤のほうになじみのある世代も多い。

1987年の初CD化に際し、EMIは英国発売のタイトル、選曲を正式なオリジナル・アルバムと認定して世界発売。『サージェント・ペパーズ』以前は独自編集だったアメリカでも、現在はイギリス盤準拠となっている。

■モノーラル・アルバムが人気の理由とは?

ビートルズがデビューした60年代前半は、ステレオ再生装置が普及の途上にあり、アルバムはモノーラル、ステレオ別々にマスター・テープが作られ、先行してモノーラル盤、追ってステレオ盤というふうに、2種類のディスクが販売されていた。当時はモノーラル用、ステレオ用にそれぞれ別々にレコーディングされていたため、テイクが異なっており、ロック収集家の中には別ヴァージョン集として、モノーラル盤を珍重するコレクターも多い。

やがてモノーラル、ステレオの別録音は、60年代中期のマルチ・トラック・レコーダーの普及で行われなくなるが、モノーラル用、ステレオ用にミックスする2通りのマスター制作は継続して行われたため、『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』までの全タイトルに、モノーラル、ステレオの各マスターが存在している。

ステレオ再生装置の世帯普及率が低かった時代には、初期ビートルズ曲と言えばモノーラル・ヴァージョンで認知している人も多かった。そういったファンの意向を汲んで、1987年の初CD化では、『ハード・デイズ・ナイト』までの初期4タイトルはモノーラル版マスターを採用。しばらくこれがCD時代の標準となっていたが、2009年のリマスター発売に際し、初期タイトルもすべてステレオ・マスターに差し替え。現在は、同年に発売されたリマスター版『ザ・ビートルズ・モノ・ボックス』に、『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』に至るすべてのモノーラル音源が収められ、コアなビートルズ・ファン向けに提供されている(分売なし)。

■ビートルズの録音環境はどんなふうだったの?

世界に名だたるレコーディングの革命児、ビートルズとて最初から録音環境に恵まれていたわけではない。60年代のEMIスタジオ(後のアビイ・ロード・スタジオ)は質素な作りで、レコーディング設備は2トラック。デビュー・アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』では、スタジオ・ライヴのようにヴォーカル、演奏は1発録りで行われ、オーバーダブもほとんどされていない。

シングル「抱きしめたい」で4トラック・レコーダーが導入され、『ハード・デイズ・ナイト』から4トラック録音に。次作『ヘルプ』では、レコーディング素材に後から音を重ねる多重録音が試みられるようになり、ピアノの伴奏にジョージ・マーティン編曲の弦楽四重奏を重ねた「イエスタディ」などが生まれた。さらに『ラバー・ソウル』ではテープ・レコーダーの編集技を活かし、「イン・マイ・ライフ」ではジョージ・マーティンが弾くピアノの音を減速録音して早回しで再生し、ハープシコードの音を模すといったギミックも使われ始める。

ビートルズがサイケデリック時代に突入する『リボルバー』からは、4トラックのレコーダー2台を使って音を複雑に重ねていく“ピンポン録音”の手法を導入。実験音楽のミュージック・コンクレートにインスピレーションを受けたポールが、さまざまな効果音をテープ上で貼り合わせた、「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」などが作られた。次作『サージェント・ペパーズ』も同様に、手回しオルガンの音を模倣するために、録音済みのテープをバラバラに切り刻んで貼り合わせた「ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」、41人編成のオーケストラの音を重ねた「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」などの制作時のエピソードなどが知られている。1967年といえば、アメリカではサイモン&ガーファンクル『ブックエンド』が、16トラック・レコーダーで録音されていたころ。わずか4トラックの装置であの傑作を作り上げた、ビートルズの創造力には圧倒される。

『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』の録音途中で8トラック・レコーダーを導入。各パートバラバラでの録音が可能になり、4人メンバーが揃う必要がなくなったため、作曲家が主導権を握って集合離散するソロ・アルバム的な作り方に。楽器演奏に長けたポールは、ギター、ドラムなど八面六臂の活躍を見せた。そのため、録音途中で口論になりビートルズを一時的に脱退する一幕もあった、リンゴが参加していない「バック・イン・ザ U.S.S.R.」のような曲もある。

『アビイ・ロード』では、ジョージの私物だったモーグ・シンセサイザーを初めて導入。イエスやEL&Pら英国プログレ勢の登場に先駆ける、レコーディング革命児:ビートルズの面目躍如を果たした。最終作『レット・イット・ビー』は、『アビイ・ロード』以前に着手されながら中断していた、『ゲット・バック』という幻のアルバム用のマテリアルを、アメリカ人のプロデューサー、フィル・スペクターがまとめたもの。テープ上でオーケストラやコーラスをダビングし、フィルの十八番“ウォール・オブ・サウンド”をビートルズに於いて実践している。

ビートルズ解散後、レコーディング技術は急速に発展。ジョンが生前に残した1977年録音のカセットテープをノイズ処理し、残った3人が音を重ねて、1995年には「フリー・アズ・ア・バード」というビートルズの新曲も発表された。さらにプロ・トゥールズという、コンピュータ・ベースのワークステーションが導入されてからは、制作過程で残された4トラック素材をPC上で貼り合わせることで、過去音源の修復、加工が可能になり、1999年に映画『イエロー・サブマリン』の使用曲全曲をリミックスした『イエロー・サブマリン ~ソングトラック~』をリリース。ビートルズ世代ではない新鋭エンジニア、ピーター・コビンによるヴォーカルを前面に押し出したクリアなリミックスは、賛否両論を巻き起こした。こうしたPC上での作業環境の革命によって、フィル・スペクターに預ける以前の『ゲット・バック』素材をポールが復元した『レット・イット・ビー...ネイキッド』(2003年)、ジョージ・マーティンの子息、ジャイルズが制作した『ラヴ』(2006年)などの新作が、最新レコーディング技術の恩恵を受けて作られるようになった。

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