【インタビュー】吉井和哉、ソロ活動10年を迎えた彼の目に映る音楽シーンの変化とは?

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2013年の幕開けと共にベストアルバム『18』(読み:エイティーン)をリリースし、全国ツアー<TOUR 2013 GOOD BY YOSHII KAZUYA>がいよいよ今月2月23日(土)山梨/コラニー文化ホールよりスタートする吉井和哉。ソロ活動をスタートさせて以来の10年間に、作品で表現してきた自身のコアな部分をベストアルバムに凝縮し、“次”の新たな地平へ向かおうとしている今、自分自身が身を置く音楽の世界を彼はどんなふうに見ているのか……。“音楽を取り巻く変化”をテーマにしたインタビューは、音楽シーンの最前線を走り続ける吉井和哉ならではの興味深い時間となった。

◆ちゃんとライブをやったり音楽を作っていれば、バカ売れはしないけど(笑)、聴いてもらえるっていうのは今も約束されてると思う。世界が平和であれば。

――昔と今とを比べて、音楽の世界のここが特に変化したなと感じるのはどんな部分だと思いますか? ご自身のことでも、周りを見て感じることでもかまわないんですが。

吉井:そうですね……。例えば、コンサートが土・日しかやれなくなったっていうような風潮があるような気はしますね。CDが売れているアーティストさんでも、日にちは土・日を選ぶみたいな風潮が。ていうような風潮になってきたのは、一番は、演る側が聴く側に歩み寄るパーセンテージが昔と今とでは明らかに変わってきたっていうことかもしれない。昔はもっと、ドSでしたよね(笑)。もちろん今もそういう世界はあると思うんですけど。昔は、平日でも人気のあるバンドが全然普通にやってたし。それこそバンド時代の僕らだって、1年に113本もライブを演っていたら土・日だけを選ぶなんて無理だし、平日でもチケットが即完してたり。それが今は、どんなに人気があっても土・日を選んでいくっていうのは、やっぱり聴く側に歩み寄っているからだと思うんですよ。

――お客さんがより来やすい日にちを選ぶっていうのは、ファンにとってはもちろん良いことですよね。でも、その裏では、集客のために色々なことをより考慮しなければいけない時代にもなってきているというか。

吉井:そうでしょうね。たくさんの方々が来やすいでしょうから、っていうのが前提にあるんでしょうけど、昔はそういう部分はあまり考えませんでしたよね。で、もっと言ったら、今はCDが売れなくなったって言いますけど……。もちろん、昔と比べたら、実際に売れなくなったんでしょうけど。それは配信もあるからとか、色々な理由で。でも、どんな時代でも売れるものは売れるし、そこは僕はあまり気にしていないところもあるんですけど、まぁ変わったといえばやっぱりそういうところなのかな。で、その変わったってういうのに繋がるのは、“人”が変わったっていうことなんじゃないですかね。例えば、“草食系”とか“ゆとり世代”とかね、なんかそういうふうに今は色々言うけど。“人”のジャンルっていうのが、僕が二十歳ぐらいのときの周りにいた人達と、今の二十歳の子達は、もう明らかに“人”が違うと思うんですよ。当たり前だけど。だから、そういう“人”の変化による音楽の変化は、もしかしたらあるかもしれないですね。

――その“人”の変化は、先ほど言われた配信っていうシステムが主流になってきたとか、環境の変化によるものもやっぱり大きい気がします。音楽を手に取るための選択肢が増えたことで、“人”と音楽との繋がり方が変わってきて。

吉井:うん。僕が若いころはお金がなかったから、レコードをそんなにポンポンと買えなかったし。頑張ってもひと月に買えるレコードは2枚、3枚が限度だったから、貸レコード屋さんに行ってカセットテープに録ったり。だけど、今は例えばアルバム単位じゃなくて欲しい曲だけ配信で買うとか、選択肢は色々あるでしょ。もしあの頃にiTunesがあったら、申し訳ないけど僕もたぶんそこで買ってるから、そういうことに関しては何も言わないけど……。でも、その反面、すごく好きなCDだったらやっぱり買うし、好きな音源だったら持っていたいと思うっていうことだけは何とか守られる世の中であってほしいなとは思うけどね。あと、例えば今はYoutubeでちょっと検索すれば映像も出てくるし、気になるミュージシャンがどんな格好をしているのかとかもすぐに分かるけど。僕らの若いころは、そういう情報を本屋さんに行って雑誌を買ったり、古本屋さんとか色んなところに行って雑誌のバックナンバーを見たりして知っていたいた時代だったけど、僕はそれを残念な時代だったとは思っていなくて。逆に、それがあったから良かったなと思っていて。両方を味わえてることが。

――今は、すぐに色んなものが手に入る便利さがあって。昔は、情報がすぐ手に入らないから自分から探しに行くのはめんどくさかったですけど、好きなアーティストのルーツとかをさらに掘り下げるために色々なところを駆けずり回る手間も楽しかったりして。

吉井:そうそう。まぁ、今僕が言った好きなCDを持っていたいっていう価値観も、もしかしたら古いものかもしれないから……。大事なものはパソコンに入れときたいっていう時代が、10年後には来てるかもしれないし。CDで手に取るっていうこと自体が無くなって。でも、僕も、昔は持ってたレコードを全部売っちゃった時代もあったりしたけど、それをまた今アホみたいに集めたりしてね(笑)。時代は色々変わっているけど、今は逆に、レコードはちゃんとレコードの価値が守られていたりするようになっているのがすごく良いなって思いますし。

――ここ数年、アナログレコードの生産数が増えているっていうデータも実際に出ていますね。音の感触が好きとか、ジャケットも含めて好きな作品を手元に置きたいとか、色々な理由があると思いますけど。

吉井:そうですね。だから、なんていうんだろうな……。やっぱり、ちゃんとライブをやったり、ちゃんと音楽を作っていれば、バカ売れはしないけど(笑)、可能な限り一般的なところの方々に聴いてもらえてライブにも来てもらえるっていうのは今も約束されてると僕は思うから。世界が平和であれば、っていう前提の上でね。そういう中で、例えば良い曲ができたから聴いてくれる人がちょっと増えたね、とか、逆に変な行ないをしてしまったら聴いてくれる人が減ったね、とか(笑)、それくらいのことなのかなって気はするんですけどね。あと、単純に、昔の人は音楽で儲けすぎたよね(笑)。僕らの世代の人は。ミュージシャンが儲ける分には良いけど、周りが儲けすぎだった(笑)。

――(笑)いわゆる“バブル”の時代とかは、音楽の世界も羽振りが良かったですよね。

吉井:うん。90年代に入ってからも、そういう時代はまだあったし。“音楽のゆとり世代”って言ってますけど、よく(笑)。だって、ありましたよ! まだなんにも分かんない若いヤツが、「お前がなんでそんな儲かってんだ!?」みたいな時代が。そういうことがなくなったのは、ある意味では正しい時代になったとは思う。ただ、その反面、音楽業界の今の色んな落ち込みによって、才能のある人がどっかに飛ばされちゃったりするのが僕は嫌だけど。でも、それこそポップミュージックが盛んになった1950年代だって、レコード会社の数だってそれこそ今と変わらないし。レコードが売れる枚数だって、今と同じように誰だって売れる時代じゃなかったしね。優秀な歌い手と、優秀な曲と、優秀な演奏と、優秀な会社がヒットするっていう、それはある程度守られるんじゃないかなって気はします。そのためにも、自分自身のことで言えば……、今は音楽を作るのもより簡単にできる時代でもある分、音楽を手に取るのも簡単になった時代だけど、許せる限りはちゃんと行くべきところに行って、眉間にしわを寄せてちゃんと作品を作らなきゃだめだなって感じましたね。本当はアメリカに行って録りたいんだけど、色んな事情を考えて今できる日本の環境でやった、みたいな時期も、ソロを始めてからのこの10年の間には。で、そういう色々違う環境の中からできた曲をアルバムとかで曲順にしたときに、自分の中ではすごい差が出たなって感じたりもして。後々までちゃんと残る作品っていうのは、やっぱりそういうことなんだなっていうのは、非常に感じてます。

◆「HEARTS」と「血潮」で良い“GOOD BY”ができるんじゃないかと思ってます。なので(新作は)また色々勉強しながら、ゆっくり、丁寧に作りたいですね。

――今回のベストアルバムは、その色々な時期の吉井さんをパッケージした作品で。だからこそ、まさにさっきのお話の通り、好きな曲だけを聴くのももちろん良いですけど、吉井さんの歴史を追うように聴いてもらうためにもアルバム全体を曲順通りに聴き込んでもらいたいです。「現在の吉井和哉を、昔のYOSHII LOVINSONとちょっと前の吉井和哉で挟むのが良いんじゃないか」と、ベスト盤の選曲に関して武道館ではお話されていました。

吉井:はい。そもそもは、えぇっと……。僕、普段、釣りをするんですけど。その釣り仲間って、正直、音楽にそんなに詳しくない人もいっぱいいて。吉井和哉ってどういう音楽をやってるのかっていうのを知らない人もいるわけですよ。そういう、いわゆる音楽ファンじゃない人って、そんなに掘り下げてCDを買ったりしないじゃないですか。じゃあ、そういう人用に、自分の聴いて欲しい曲を集めてプレゼントしようと思ったときがあって。「あれっ? 俺、そろそろベストアルバム作った方がいいんじゃないかな……」って(笑)。で、その曲をいざ並べてみると、吉井和哉の楽曲とYOSHII LOVINSONの楽曲って結構温度差もありますし、素直に並んでくれないところもあるので、ちょっと試行錯誤したんですけど……。これはきっと、YOSHII LOVINSONと、ちょっと前の吉井和哉で、今の吉井和哉を挟むのが一番良いのかなと。で、それは、自分の名刺的なものを、活動歴が10年っていうこともあって今、一枚ベストアルバムとして出しておきたいなっていうのがきっかけのひとつだったんですけどね。

――ベストアルバムのきっかけが、お友達へのプレゼントも想定されていたとは(笑)。

吉井:まぁ、だからといって実際にあげませんけどね。買ってくれ!(笑)

――(笑)ベスト盤に続くオリジナルの作品も待ち遠しいです。「自分にとって革新的なオリジナルアルバムを作りたい」とも、武道館のMCでありました。今年最初のツアー<吉井和哉TOUR 2013 GOOD BY YOSHII KAZUYA>が間もなく始まりますが、ライブと曲制作を並行して?

吉井:いやぁ、もう、やらんよ! 制作期間は、他の仕事はやらん!

――(笑)それは、スタッフの皆さんへの宣言とか? 今からちゃんと言っておこう、みたいな。

吉井:(笑)大丈夫です、もうみんな分かってくれてるから。いつもそのつもりなんですけど、もちろん、納得いかないものは出さないんで。それに、今はせっかく良い状態にあるので……。ツアーでも、「HEARTS」と「血潮」で良い“GOOD BY”ができるんじゃないかと思ってますし。なので、また色々勉強しながら、ゆっくり、丁寧に作りたいですね。

取材・文●道明利友

◆【インタビュー】吉井和哉、10年のソロキャリアを総括するベスト盤『18』完成「10年の片づけをして、ようやく綺麗になって“次の場所”へ行きます」


BEST ALBUM
『18』
2013年1月23日発売
【通常盤】(2CD)
TOCT-29115 ¥3,500(tax in)
【DISC-1】
1. TALI
2. CALL ME
3. FINAL COUNTDOWN
4. WANTED AND SHEEP
5. トブヨウニ
6. HATE
7. 20 GO
8. BEAUTIFUL
9. MY FOOLISH HEART
10. BELIEVE
11. 朝日楼(朝日のあたる家)[新録・カヴァー]
12. HEARTS [新曲]
【DISC-2】
1. 点描のしくみ[新録]
2. 煩悩コントロール[新録]
3. 血潮[新曲]
4. 母いすゞ
5. ノーパン
6. ビルマニア
7. ONE DAY
8. バッカ
9. WINNER
10. Shine and Eternity
11. LOVE & PEACE
12. FLOWER

【初回限定盤】(3CD+DVD)
TOCT-29112 ¥5,800(tax in)
【DISC-1】【DISC-2】通常盤と同内容
【DISC-3】【DVD】詳細未定

【完全生産限定アナログ盤】
(180G HEAVY VINYL/アナログ盤4枚組+3CD+DVD)
※レコードバッグ、ポスター付:TOJT-29112 ¥12,000(tax in)
【アナログ盤4枚組】通常盤と同内容、【3CD+DVD】初回限定盤と同内容

<吉井和哉TOUR 2013 GOOD BY YOSHII KAZUYA>
2月23日(土)山梨/コラニー文化ホール(山梨県立県民文化ホール)
2月27日(水)東京/府中の森芸術劇場どりーむホール
3月2日(土)山形/山形県県民会館
3月7日(木)兵庫/姫路市文化センター 大ホール
3月10日(日)徳島/鳴門市文化会館
3月13日(水)大阪/高槻現代劇場 大ホール
3月15日(金)鳥取/とりぎん文化会館 梨花ホール
3月17日(日)岐阜/土岐市文化プラザ・サンホール
3月20日(水)群馬/桐生市市民文化会館 シルクホール
3月23日(土)長野/長野ホクト文化ホール
3月29日(金)長崎/長崎ブリックホール
3月31日(日)大分/大分IICHIKOグランシアタ
4月5日(金)茨城/茨城県民文化センター
4月7日(日)秋田/秋田県民会館
4月12日(金)北海道/苫小牧市民会館 大ホール
4月14日(日)北海道/旭川市民文化会館 大ホール
4月20日(土)山口/下関市民会館 大ホール
4月21日(日)佐賀/佐賀市文化会館
4月27日(土)福井/福井フェニックスプラザ
4月29日(月)島根/島根県民会館
5月4日(土)静岡/富士市文化会館ロゼシアター 大ホール
5月6日(月)愛知/一宮市市民会館
5月11日(土)和歌山/和歌山県民文化会館大ホール
5月12日(日)奈良/奈良県文化会館 国際ホール
5月18日(土)福島/あづま総合体育館

映画プログラム『YOSHII CINEMAS』
2013年1月11日(金)全国ロードショー
TOHOシネマズ六本木ヒルズほか日本全国の映画館
出演:吉井和哉ほか
・「点描のしくみ Queen of Hearts」予告編
・「YOSHII KAZUYA .HEARTS TOUR 2012」
・「LOST -誰が彼を殺したか-」
http://yoshiicinemas.com

◆オフィシャル・サイト
◆EMI Music Japan
◆吉井和哉 オフィシャル YouTube チャンネル
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