【インタビュー】K、641日間の兵役を経てミニアルバム『641』が完成「人として得たものや感じたことが音楽へ直接的に繋がった」

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■軍隊のテントでブルースハープを鳴らすと歌が下手なやつまでアドリブで歌い始める(笑)
■“これが僕です”と手渡せる名刺代わりのものがようやくできた気がしています

──このミニアルバムはKさんのサウンド的なこだわりがそこかしこに詰まっていると感じたのですが?

K:生楽器が大好きなので、今回は自然とそういう音が多くなりましたね。打ち込みが主流の時代かもしれないけど、「What's your problem?」(通常盤のみに収録)を友だちに聴かせたら、「どんどん時代をさかのぼってる」って言われるくらい僕は1960年代や1970年代の音や録り方が好きなんです。過去の音をそのまま作ることはできないけど、それに近い音を再現するソフトならある。自分が弾いたオルガンの音をローズ(ヴィンテージのエレクトリックピアノ)の音を再現するソフトを通してエアーで録るというように、リアンプ的な行程を踏むことで温かみのある音にするとか。「幸せを数える。」はそういう行程でレコーディングしました。ホンモノのヴィンテージもあったんですけど、あえてソフトを使ったほうが繊細だったんですよね。

──機材周りの話をする時は特に熱がこもりますね(笑)。

K:あはは(笑)。もっと細かい話をすれば、弾いてる段階でトレモロを掛けるか、リアンプ時に掛けるか、ProToolsで最終的に掛けるのかとか、もうメッチャこだわってます。自分の家で作業しながら細部まで試行錯誤して僕らしい音を作るということが、今回は特に楽しかったですね。

──2年間できなかった制作の面白さを存分に味わったようですね。

K:ホントに。あとは……ハーモニカの音が好きなので、それも今作に入れましたよ。「ハラポジの手紙」でクロマチックハーモニカを、「What's your problem?」ではブルースハープを入れました。実はね、軍隊のテントの中では楽器を持ってはいけないんだけど、ハーモニカは小さいからOKで。ブルースハープを鳴らすと、まるで映画みたいにみんなが楽しくなってきて、歌が下手なやつまでアドリブで歌い始める(笑)。生楽器にはそういう力があるんだなって感じましたね。

──「ハラポジの手紙」は、以前うかがったことのある号泣エピソードが、ついに歌になりました。

K:やっとこうして形にできて、うれしいですね。歌詞に書かれていることは全部本当で。ガンコ親父を絵で描いたような、おっかないおじいちゃんでしたが、亡くなったおばあちゃんに宛ててずっと手紙を書き続けていたんです。手紙を読ませてもらったことがあるんですけど、そこには1日の何気ない出来事や季節の花について書かれていました。特に印象的だったのは、「(素直に気持ちを伝えられなくて)ごめん」じゃなく、「今までありがとう」って言葉で、これには衝撃を受けました。「ハラポジの手紙」はKの作品だけど、自分がメインじゃなく、ストーリーテラーとして物語を語ってるんですよ。そこも新しいし、不思議な感覚で歌えましたね。

──ミニアルバムには「641」や「スニーカー」をはじめ、寺岡呼人さんと共作している楽曲もいくつかありますね。

K:寺岡さんとはイベントや番組などでご一緒する機会があって、話が合うから「飲みにいこう」ってことになって(笑)。それが2009年ごろ。すでにそのとき「スニーカー」のテーマになるような話を考えてて、「どう思いますか?」って相談してたんです。そうしたら、すごく乗り気になってくれて1曲作り上げた。その流れで「dear...」(2010年10月発売のデビュー5周年記念シングル)ができて…という感じです。

──そんなにさかのぼる話とは(笑)。

K:ふふふ(笑)。本当に寺岡さんとは気が合って、そこから「ハラポジの手紙」や「641」、「Directors' Cut」ができていったんですよ。僕は歌詞を先に作って、そこに曲を乗せることにハマってたんですね。呼人さんもそのほうが好きだからってことで、余計にいろんな曲を作れたということもありますね。僕は日本で活動を初めて以来、ずっと自分の力で音楽を発信したいという気持ちが強かったんですけど、「dear...」という楽曲でやっと自分が納得できるところに達したかなって思えた。そして今回は、作品を通してすべての歌詞と作曲を手がけることができた。この作品でまた新たなスタートが切れます。もしこのミニアルバムを聴いて“嫌い”と感じる人がいたとしても仕方がないというか。今の自分を出し切ったものがこれだし、自分にとって“これが僕です”と手渡せる名刺代わりのものがようやくできた気がしています。

──歌詞を先に作るということですが、母国語でない日本語ありきで曲作りするのは結構なチャレンジだったのでは?

K:そうかもしれませんね。ただ、メロディから先に作ると、そこに言葉をあてはめていかなきゃいけないから、言いたいことが言い切れない感覚があって。その悩みをある機会に槇原敬之さんに相談してみたら、「歌詞から先に作ってみれば」ってアドバイスしてくださって。それから先に歌詞を書くようになったら、腑に落ちるというかすっきりしたんです。最近は、歌詞だけじゃなく、感じたことを書くようにしてますね。ベッドサイドにも『僕だけ見るノート』という名前の小さなノートを置いてあって(笑)。

──ヒミツが詰まってそう~。

K:中身は教えられませんねぇ(笑)。友だちと電話してて、なんかギクシャクしたムードで終わったとして、その後のモヤモヤした気持ちをノートに書くんです。不満を書いていたつもりなのに、途中で“僕も悪かったな”って思えたり、問題点も分かるから、着地点が見えてくるんですよね。それも軍隊にいたときに習慣になったのかもしれない。毎日、チームで円になって日記を書く時間があったんですよ。隣りに居る、年下だけど先輩……僕の場合はほとんどが年下でしたが、その人たちの理不尽さに対する怒りや不満、ときには悪口なんかもでこっそり書いて(笑)。ハングルやひらがなだとわかっちゃうから、カタカナで書いてましたね(笑)。

──ははは(笑)。まさに『僕だけ見るノート』。

K:むしろ文字にして発散するっていう方法を見つけるまでが苦しかったんですよ。それと、隊にいたときに本をよく読みましたが、そこで改めて日本語の表現っていいなと思いました。細かなニュアンスや繊細な表現がすごいよくて、今改めて日本語を勉強したりもしてるんです。といっても、レベルとしては小学生の漢字ドリル程度ですけど(笑)。

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