【インタビュー】いきものがかり、アルバム『I』を語り尽くす<後編> 「歌謡曲の重みを形にすることは、自分にとっても意味のあることだった」

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いきものがかりのニュー・アルバム『I』が、ついにリリースを迎えた。作品自体の全体像や音楽に取り組むスタンスなどについて訊いた前回に続き、今回はいくつかのアルバム収録曲をピックアップしながら、より具体的に話を掘り下げていきたいと思う。実際にアルバムを聴いたうえでこれらの発言に触れてもらえたならば、『I』という作品の違った一面が見えてくることになるかもしれない。そしてもちろんアルバムを未聴の読者にとっては、ここが『I』への入口になる可能性もある。とにかく3人の、真摯な言葉に耳を傾けてみて欲しい。

◆期間限定「笑顔」ミュージックビデオ

■2人の曲のほうが自分自身の基準になってるところがあるんだなと──吉岡
■尻込みせずに“愛”という言葉を使えるようになってきましたね──山下

──さて、具体的な収録曲について聞かせてください。できれば各々にアルバム中から1曲ずつピックアップして話していただければと思うんですが。吉岡さんには是非、自作曲の「東京」について。これはさきほどの山下さんの発言からすると、前々から温められていた曲なんですよね?

吉岡:そうですね。温まり過ぎてたぐらいかも(笑)。ストックのなかの、かなり最初のほうからあった曲で、なんかこのタイミングで「この曲がいいんじゃない?」ということになったんです。あれは……2005年のことになるのかな。デビューする前の年ぐらいから、地元の神奈川から車で東京に出てきて、渋谷のスタジオで作業をしていた時期があって。曲作りを何回もやり直して、歌も駄目出しを受けながらしごかれまくって(笑)。で、ふと防音扉の外に出てみると、昼間にそこに入ったはずなのに、もう夜が明けてきつつあったり。そんな頃、ディレクターから「自分でも曲を作ってみれば?」と言われていて、ノートを常に持ってたりもして。そもそもは、そこでなんとなく鼻歌まじりに作ったものなんです。心情的にはやっぱり、これからどうなるかわからないというのと、東京に出てきてるという興奮が入り混じっていて。隣の神奈川だから近くはあるんですけど、なんかそういうシチュエーション自体にも憧れがあったというか。

──なんだか神奈川県がえらく遠くに感じられてしまう発言ですが(笑)。

吉岡:よく言われます(笑)。おかしいですよね、全然遠くないのに。

──実際、昔の人たちが“夜行列車で東京へ”みたいな歌詞を書いていたのとは、感覚的に違うところもあるはずだと思うんですよ。

吉岡:そうですよね。

山下:なんか、いわゆる“神奈川あるある”みたいなのがあって。多摩川を超えるとアウェイ感が出てくるんですよ(笑)。あれ、なんなんですかね。横浜ともまた違う。

水野:横浜は別ものなんです。むしろ町田のほうがホームに近かったり(笑)。

山下:町田はホーム感がありますね。ただ、なんか“東京には勝てない”みたいな感覚が、あらかじめどこかにあって。学生の頃とかはそういうのがありましたね。

──ニューヨークに対するニュージャージーみたいな感覚なんですかね。川の向こう、遠くに見える摩天楼への憧れ、みたいな。

吉岡:うーん。ニュージャージーの気持ちはよくわからないですけど(笑)、憧れみたいなものはありますね、ずっと。こうして東京にいるはずなのに、ずっと遠くにあるわけでもないのに感じる憧れというか。特別感みたいなものがどこかにあるんです。

──前作に収録されていた自作曲の「白いダイアリー」では、自分自身の温度設定みたいな部分で吉岡さん自身が悩んで、結果的には“いきものがかりの吉岡聖恵に歌わせてみる”みたいな感覚で自分自身にディレクションするようなところがあったという話がありました。今回の場合も同じようなところはあったんでしょうか?

吉岡:今回はわりと、元々感じてた気持ちと、全体のトーンが自分からそう掛け離れたものではないと思っていて。ただ、メロディではちょっと苦労しました。この曲の持ってるメロディというのはそもそも鼻歌から出てきたものではあるんですけど、それをちゃんと歌おうとすると、難しいところがあるんです。やっぱり2人が作ってきた曲をずっと歌ってきたこともあって……。

──自分にとってはごく自然なものであるはずのメロディ。だけども理屈で作られていないものだからこそ、歌うのが難しい部分もあったということですか?

吉岡:そうかも。やっぱり2人の作ったものというのは、自分から出てきたものじゃないので、ある程度客観的に“ああ、この主人公はこういう人なのか”という解釈に基づいて歌うわけなんですけど、そこが自分の曲の場合は違ってくる。あと今回、自分では気づかなかったんですけど、メロディ的に鍵盤に当てはまらない音階が含まれている部分があって。仮歌の段階ではそれを自然に歌えてたんですけど、ちゃんと歌おうとするとうまくいかなかったりとか。

水野:ピアノで弾くように歌ってしまうと、この雰囲気が出なかったりするんです。この、ちょっと気怠い感じというのが。

吉岡:それをきちんと歌おうとすると余分に力が入ってしまったり、感情的になり過ぎてしまったり。そこが大変でした。

水野:結果的には引き算の発想と、敢えてフラット気味に歌うことで解決しましたね。

吉岡:そういう歌い方は普段あまり取り入れたことがなかったので、難しくもありましたけど、それもまた新しかったというか。あと同時に、やっぱり2人の曲のほうが自分自身の基準になってるところがあるんだなと気付かされましたね。

──なるほど。山下さんはどの曲を?

山下:じゃあ僕は、いちばん最後の「ぬくもり」を。それこそこの曲も、テーマは“上京”なんですよ。一筆書きみたいにワン・コーラスをササッと書いたのを憶えていて。歌詞もそのとき、ワン・コーラス分だけを書き上げてるんですけど、そこはその当時のまんま変えずに使ってます。“ふるさと”という言葉が出てきたりするんですけど、地方出身の友達がいて話をしてたら、やっぱり東京というところにすごく憧れてたし、だからこそ大学進学とともに出てきた、と。で、なかなか地元には帰れない。そういう状況というものに関して、神奈川県民としてはピンとこないところもあるんですけど(笑)、ここでは地方から出てきて東京で暮らしてる人を主人公とした曲を書こうと思ったんですよね。だから実体験というよりは、友達のそういう発言を受けて、“きっとこういう主人公が都会と呼ばれる場所にいっぱいいるんだろうな”というところから書いていって。新たに2コーラス目からの歌詞を書くときには、よりそういった世界観を強く意識してみたんです。たぶん、作った当初はそんなにも深く考えて書いてはいなかったんですよ。出てきた言葉をそのまま拾って繋げていってた感じで、あんまり“上京”という感じの歌でもなかった。でもそこで友達の発言を受けてからは、そういう主人公の歌を書いてみようかな、と。

──そしてこの曲にも“笑顔”という言葉が出てくる。

山下:それは今回、アルバムのタイトルを考えようとしていたときに、『SMILE』っていう候補があったからだと思う。

水野:今回、レコーディングの順番でいうと僕の曲のほうが早く終わっていて、後半に山下の曲を主にやってたんですね。で、途中でタイトルを考えてるときに『SMILE』という案が出てきて、わりと有力だったんです。それが山下の意識のなかに喰い込んだというか。

山下:ああ、うん。そういう感じですね。

吉岡:しかもこの歌詞、“I(愛)”も入ってる。

山下:結果的に『I』というタイトルになって、そのあとで歌入れをする曲とかもあったんで、それを受けて“愛”という言葉を敢えて入れてみた曲もありましたね。それこそ「笑顔」もそうなんですけど、アルバム全編を通して“愛”という言葉が入ってる曲がまた多くて(笑)。それもまた、このタイトルにどれだけ納得できてるかを物語ってると思うんです。昔、あんまり“愛”とか“愛する”とか、書きたくなかったんですよ。なんかね、気恥ずかしさみたいなのがあって(笑)。最近それがなくなってきたんで、どんどん書いてみてたりするんですよね。やっぱりこうして多少は年齢も重ねてきて、感覚的に変わってくるところもあるのかなあと感じながら書いてるんですけど。まあいろいろ、社会も世相も変わってきて、自分たちも大人になってきて……。そんなに尻込みせずにこの言葉を使えるようになってきましたね。確かに高校生とか大学生とかの頃だと“愛”とか言うのはなんか恥ずかしかったりすると思うんだけど(笑)。

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