ロック・ドキュメンタリー映画、という同時映像体験

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僕の住んでいた地方都市では、アルバム(当時はLP盤)購入時に<上映イベント参加券>という特典が付いていた時期があった。1980年代中頃のことである。

会場となった一室にはテレビが設置され、約20~30人分の折り畳みイスが並べられていた。参加者は大抵10~20人くらい。やがて部屋の電気が消されると、当時人気だったアーティストのライブ映像がテレビ画面に映し出された。まるで<街頭テレビ>のように、僕たちはひとつのテレビ画面を凝視し、そこへ映し出される映像に見入っていたのだ。

まだビデオデッキが普及し始めた頃で、映像ソフトは1万円以上する高価な時代。テレビ放送以外で音楽に関する映像を観るのは困難だったのだ。

当時このようなイベントが開催された背景には、ビデオデッキの普及という“技術革新”の恩恵があった。つまり、ビデオテープに映像を複製することで、全国津々浦々で同じ映像体験が出来るようになったのである。

「ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間」(70)や「ラスト・ワルツ」(78)の時代から、ライブの様子を撮影したロック・ドキュメンタリー映画は観客を魅了してきた。

そこには海外アーティストの来日が現在ほど容易でなかった時代背景、同時に海外渡航自体が難しかったことなどから、映像の中でなければライブ体験が出来なかった点も要因に挙げられる。

アーティストの素顔や知られざる一面を描くということに対しては、昔からニーズがあった訳だが、ここ数年、日本のバンドを描いたロック・ドキュメンタリー映画が増えているのは何故だろうか?

ODS=非映画デジタル・コンテンツは、コンサートや演劇・スポーツなどを映画館で楽しむ作品のこと。映画館の急速なデジタル化によって映画以外の作品を上映するようになり、2012年頃から日本の映画界で話題となった経緯がある。

実は、音楽コンテンツが映画館上映に向いているのだ。

映画館の音響、特にシネマコンプレックスは常に最新の音響設備を導入しているし、大音響への耐久性・防音性も高いことから、“音”に関して映画館には優位性がある。

そして“技術革新”。急速なデジタル化の波によって映画自体がフィルムで撮影されなくなり、デジタル上映されるようになった。それにより予算が抑えられるようになったのだ。

また、撮影における“技術革新”も大きな要因。デジタルカメラの解像度が向上したことで大きなスクリーンでの上映に耐えうる画質になり、記録媒体がデジタルになって長時間の撮影が可能になったこともロック・ドキュメンタリー映画には大きく味方している。大量のフィルムを使用した「ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間」と比べると隔世の感がある。

更に興行的な背景として、「映倫審査を通過した作品でなければ映画館では上映し出来ない」という原則を、興行側が黙殺し始めたことも大きな要因のひとつに挙げられる。

それを裏付けるように、例えば昨年6月に公開された『劇場版BUCK-TICK ~バクチク現象~』(2013)、9月に公開された劇場版『パンドラ ザ・イエロー・モンキー PUNCH DRUNKARD TOUR THE MOVIE』(2013)、今年2月に公開された『T-BOLAN THE MOVIE ~あの頃、みんなT-BOLANを聴いていた~』(2014)等は、映倫の審査を受けずに映画館で上映されている。これは、これまでの映画業界の慣例からすると考えられないことである。

劇場側のビジネスチャンスとクリエイター側にとって発表の場が広がるという利益の一致によって、物語性のある映画以外のエンタテインメント作品、特にロック・ドキュメンタリー映画が映画館で数多く上映されるようになったといえる。

SNSの広がりによって、アーティストの存在をファンはより身近に感じられるようになった。しかし、そのイメージは操作され、作られたものかも知れない。そんな疑念が生まれると、ファンはより本当の姿を更に知りたくなるもの。

そんな欲求も、ライブの舞台裏を映し出したロック・ドキュメンタリー映画は満たせてくれる。

アーティストにとって素の姿を晒すことは、昔に比べて抵抗感が低くなった感がある。つまり、アーティストにとっても「本当の自分たちを知って欲しい」という欲求を満たす側面がロック・ドキュメンタリー映画にあるのだ。

そして何よりも、全国津々浦々で同じ映像体験が出来るということ。

音楽やアーティストの世界観に没頭したいと思うファンの欲求が、映画館での上映という形態によって日本全国同時に満たせる時代となったのである。

かつての僕が、遠い存在だったアーティストたちのライブ映像に熱中したように、知られざるアーティストの姿をファンが“観たい”という想いは、いつの時代も変わらないもの。

このような手軽さや身近さは、アーティストのファンならずとも、その作品に触れる敷居を下げてくれる。昨今上映されているロック・ドキュメンタリー映画をライブ感覚で触れることによって、新しいエンタテインメントの熱をぜひとも感じてみて欲しい。

文●松崎健夫(映画文筆家 WOWOW公認・初代映画王Twitter @eigaoh)

WOWOWゴールデンウィーク特別企画
「ロックバンド ドキュメンタリー映画&ライブ特集」
1990年代にヒットを連発し、今もなおカリスマ的な人気を誇る伝説の3バンド、BUCK-TICK・T-BOLAN ・THE YELLOW MONKEY。WOWOWでは、ゴールデンウィーク特別企画として、3バンドの劇場版ドキュメンタリー映画とライブを一挙に放送する。

●BUCK-TICK

▲BUCK-TICK
「劇場版BUCK-TICK ~バクチク現象~ I+II」
放送日時:5月4日(日・祝)午後0:00【WOWOWライブ】
2012年にデビュー25周年を迎えたBUCK-TICK初の劇場版ドキュメンタリー映画をテレビ初放送。

「BUCK-TICK ライブスペシャル」
放送日時:5月4日(日・祝)午後3:00【WOWOWライブ】
劇場版で密着した25周年プロジェクトの、2011年~2012年の武道館公演および「BUCK-TICK FEST」より、選りすぐりのライブ映像をお届け。

●T-BOLAN

▲T-BOLAN/Photo by Tanaka Seitaro
劇場版「T-BOLAN THE MOVIE ~あの頃、みんなT-BOLANを聴いていた~」
放送日時:5月4日(日・祝)午後4:45【WOWOWライブ】
T-BOLAN初のドキュメンタリー映画をテレビ初放送!90年代のライブやドキュメント素材を中心に、見事に復活を遂げた彼らの栄光と苦闘の歴史が今、明かされる。

「T-BOLAN LIVE HEAVEN 2014 ~Back to the last live !!~」
放送日時:5月4日(日・祝)午後6:30【WOWOWライブ】
劇的な復活を果たしたT-BOLANが再びの活動休止宣言。19年ぶりのライブツアー、渋谷公会堂公演をWOWOWで独占放送。

●THE YELLOW MONKEY

▲THE YELLOW MONKEY/Photo by Mikio Ariga
「HISTORY OF THE YELLOW MONKEY」
放送日時:5月5日(月・祝)午後0:00【WOWOWライブ】
2013年に20周年を迎えた伝説のバンド、ザ・イエロー・モンキーを貴重なライブ映像で振り返る特別番組。

劇場版「パンドラ ザ・イエロー・モンキー PUNCH DRUNKARD TOUR THE MOVIE」
放送日時:5月5日(月・祝)午後1:30【WOWOWライブ】
バンド史上最大の本数を展開したイエモンの全国ツアー「PUNCHDRUNKARD TOUR」。そのツアーの秘蔵映像で構成されたドキュメンタリー映画をテレビ初放送。

「THE YELLOW MONKEY PUNCHDRUNKARDTOUR FINAL 3.10 横浜アリーナ ~WOWOW Edition~」
放送日時:5月5日(月・祝)午後3:30【WOWOWライブ】
ザ・イエロー・モンキー、バンド史上最大の本数を展開した1998/99年の伝説のツアーから、最終日の模様をWOWOW Editionとして放送。





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