【インタビュー】遊佐未森、ベストアルバムとライブDVDを基に25年を読み解く5つのキーワード

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■キーワード その3「森ガール」

──そして3つめのキーワードが「森ガール」。どうも遊佐未森は元祖・森ガールらしいという噂が…(笑)。けっこう言われてますよね。

遊佐:言われますね(笑)。

──当時はそんな言葉はもちろんないわけで。最近になって「そうだったのか!」と(笑)。

遊佐:森をテーマにして作った作品もありますしね。名前にも森がついてますし、字は違うけど杜の都出身ですし、何かとご縁があるような。でも、ふと思い返すと、すっごい忙しい時に、突然森に行きたくなることがあって。森林浴で癒されて、帰って来てまた歌うということはあったんですよ。あと太極拳を、森でやったりとか。

──それ、見た人はかなり驚くと思います。

遊佐:ちょっとヤバい感じですよね(笑)。当時、公園で太極拳をやっていたら、変なおじさんがついてきちゃって、困ったこともありました。関係ない話ですけど(笑)。

──ファッション的にも、森ガールぽかったですよね。でも当時の僕の印象は少し違って、ナチュラルだけどもっと芸術的というか。

遊佐:そうですね。もうちょっとプログレ寄りというか。

──ニューウェーブでしたよね。

遊佐:そういう気配もありました(笑)。森ガールというと、もっとナチュラルな感じですけど、ちょっとひと癖ある感じというか。まぁでも、森には何かとご縁がありますね。だから今そうやって言われるのは、うれしいです。

──そういうファッションもアートワークも含めて、オリジナリティを追求していたということですか。

遊佐:当時はそういうことで、「遊佐未森といえば」というものを印象づけるために、スタッフ一丸となってやっていたということだと思います。その大元は、私がこういうものが好きで、こういう世界をやってみたいということから派生してああでもないこうでもないって、意見をすごく戦わせるようなところもありました。支えてくれたプロデューサー、スタッフからいろんな意見が出てきて、それを作品にしていくという作業だったので、すごく時間がかかってたと思います。スタジオ時間も、今では考えられないぐらい長かったので。

──遊佐未森という、ひとつのコンセプチュアル・アートとして。

遊佐:そうですね。そういう時代があったからこそ、ここまで歌ってくることができたと思います。

■キーワード その4「ライブ/コンサート」

──キーワードその4は「ライブ/コンサート」です。今のコンサートでは、お客さんの層は変わってきていますか。

遊佐:いろんなタイプのコンサートをやっているんですけども、お子さんと一緒に来てくださる方もすごく増えてます。いろんなタイプのコンサートをやりながら、次に自分がやることを模索しているところもあるんですよ。毎年春にやっている<cafe mimo>というコンサートは、15年目になるんですけど、それはパーカッション(楠均)とギター(西海孝)と私の3人でやるコンサートで、“最小限で最大限のことをやる”というコンセプトでやり始めたんです。その時は今よりもコンサートの数が少なくて、もうちょっと身軽にいろんなところで、その時歌いたいことや実験したいことをやりたいということで、<cafe mimo>を始めたんです。ゲストの方にも来ていただいて、一緒に歌ったり、踊ったり。<cafe mimo>のコンサートが好きと言ってくださる方も多いので、私にとっての春の風物詩になっていますね。

──入りやすいですよね。アットホームと言いますか。

遊佐:そうですよね。メンバーとのやりとりも多くて、いっぱいしゃべるシーンもありますし。『mimo-real songs』にも、おふたりは出てくださっていますし。

──楠さんと西海さん、演奏もしてますけど、どっちかというとしゃべりがメインで(笑)。

遊佐:物販ブラザーズとかいって、宣伝してもらってます(笑)。そのために1年以上前からスケジュールを押さえさせてもらって、本当に申し訳ないと思ってるんですけど(笑)。

──ピアノ弾き語りのコンサートも定期的にやってますし、それと最近では“天文台コンサート”ですね。2014年も9月13、14日に仙台市天文台プラネタリウムで行われます。

遊佐:今年で5年目になります。栗コーダーカルテットの近藤研二さんとふたりでやってるんですけど、なにしろ天文台のスタッフの方が「面白いものを一緒に作り ましょう!」という態勢でいてくださるので色々チャレンジさせてもらっています。ここでしかできないコンサートという気持ちでやってます。

──フレンドリーな<cafe mimo>と比べると、天文台コンサートはもっと静かに楽しんでいただくというか。

遊佐:そうですね、ゆったり楽しんでもらうんですけど、お客さんがほぼ寝てる状態なんですよ。プラネタリムなので。しかも椅子がすごくふかふかしているので。

──まずいですね。寝る方が続出するんじゃないですか(笑)。

遊佐:そういう可能性もあるんですけど(笑)。歌いながら見ていると、すごく幸せな光景なんですよ。ところどころ「一緒に歌いましょう」というところもあるんですけど、みんな寝ながら星を見ながら歌っているという(笑)。

──不思議な光景ですねぇ。

遊佐:一回見ていただくと、「こんなことができるんだね」って、みんなびっくりしてくれるのが、すごくうれしいんですよ。びっくりさせる、驚かせるのが好きなので。天文台コンサートでは、映像を使って、アニメーションと連動したり、とても面白いことをやっていると思います。私が作ってきた歌が、より立体的にお客さんに届いているような気がします。

■キーワード その5「未来」

──最後のキーワードは「未来」です。まだ歌いたいことや、歌いたい場所、やってみたいことについて、どんなイメージがありますか。

遊佐:私にとって歌は、まだまだ未知の世界なんです。歌えば歌うほど深い世界なので、少しずつ自分なりの歌い方を発見しながらやっていきたいです。歌を歌う友達とよく話すんですけど、これからまだ何年も歌っていかなきゃいけないから、体のケアも大事だし、歌う世界の広がりは果てしないし、精進精進、ということですね。

──気持ちの問題が大きいですか。

遊佐:ステージに乗せるものに関しては、お客さんに楽しんでもらって、私ももちろん楽しんで歌うんですけど、そこに乗せるまでの過程や、今後どういうふうに活動していくか?ということに関しては、“精進”ということでしょうね。天文台コンサートも、「こういうことができそうだ」ということがわかったのが5年前だし、まだまだ何かできることが隠れてる気がするんですよ。その時に自分が、それをやれる準備ができているかどうか。いろんな出会いを大事にしながら、チャレンジしていく姿勢でやっていきたいです。

──それこそ、本当に森の中でコンサートをやっても面白いかもしれないです。

遊佐:一回そういう話もあったんですけどね。結局それは、『Forest Notes』という映像作品になったんですけど。あれがあるから余計に、森ガールっぽいイメージになったのかもしれない(笑)。あれが一番最初の映像作品なので。

──ああ~、そうかもしれない。

遊佐:富士山の樹海に行ったんです。あの時の撮影はすごい体育会系で、夜中の12時から次の曲を撮ります、みたいな。怖いし、寒いし、霧は出るし、へろへろになって、確か「時の駅」を歌う時にはちょっと具合が悪かったんですね。しかも撮影場所に行くのに崖を降りなきゃいけなくて、マネージャーにおんぶされて降りて、それで歌ったこともありました。だからものすごい鍛えられてるんです。森ガールは意外と大変なんです(笑)。

──そんなに甘いもんじゃない(笑)。

遊佐:そう(笑)。今となっては、いい思い出ですけどね。「こういうこともやったなー」って。

──もうひとつ、最後に聞いていいですか。遊佐未森にとって、歌うこととは?

遊佐:小さい頃からとにかく、歌を歌って生きてきたようなところがあるんです。それは歌を歌うと周りの人が喜んでくれるのがうれしくて、という感じだったんですけど、だんだん歌う場が増えてきて、お客さんの前で歌うようになっていくうちに、自分が音楽にもらっている恩恵というものを感じるようになったんですね。私もそれに癒されてきたし、人生がもっと優しくなったり、優しくなるための強さに気づいたり、いろんなことがあるし、毎日毎日、うれしいことも悲しいこともあったりするんですけど、その中に音楽があることで「明日も頑張ろう」と思えるものだったりするので。私が歌った時に、たとえば歌を聴きながら寝てしまった人がいても、そこですやすや寝ててくれるのがうれしいし、起きた時に何かちょっと元気になったかなというような、そういうものであれば最高だなと思うんですね。コンサートの最初に硬い表情だった方が、最後に柔らかい表情になっているのを見ると、よかったなと思いますし、音楽にはそういう役割もあると思うので、自分が歌うことで、それを受け取ってもらえたらいいなという思いで歌ってます。だんだん歳を重ねてくると、より強くそういうことを思うようになるし、いつの頃からか、「これが最後かもしれない」と思って歌うようなところがありますから。

──そうなんですか。

遊佐:だからその時歌えるありったけの、できるだけのいいものを伝えられたらなと思います。あの、「これが最後かもしれない」というのは、そんなに深刻な感じではなくて、でもいつ何が起こるかわからないから、音楽の神様に「これで喜んでもらえるかな」というような感じですね。そういう気持ちは常にあります。

取材・文●宮本英夫

『VIOLETTA THE BEST OF 25 YEARS』
2013年9月11日
YCCW-10202-3
disc 1 <mimori's best sellection>
1. 瞳水晶
2. 地図をください
3. 0の丘 ∞の空
4. 僕の森
5. Silent Bells
6. Island of Hope and Tears
7. Floria
8. ポプラ
9. 眠れぬ夜の庭で
10. オレンジ
11. クロ
12. Tell me why
13. ミナヅキ
14. 欅 ~光りの射す道で~

disc 2 <new recording>
1. 暮れてゆく空は
2. 潮見表
3. 一粒の予感
4. poetry days
5. 街角
6. 桜、君思う
7. 君のてのひらから
8. ブルッキーのひつじ
9. Theo
10. 夏草の線路
11. I'm here with you

<遊佐未森 天文台コンサート ~銀河歌集Vol.5~>
2014年9月13日(土)・14日(日)
仙台市天文台プラネタリウム
13日 / open 17:45 start 18:15
14日 / open 17:30 start 18:00
全席指定 ¥6,180 (税込)
チケット発売日:7/5(土)
チケットぴあ 0570-02-9999 Pコード:234-027
ローソンチケット 0570-084-002 Lコード:27478
イープラス
藤崎
仙台三越
新星堂カルチェ5
[問]トップアート 022-344-9854

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