【2015年グラミー特集】グラミー賞「第57回新人賞」のゆくえを徹底検証

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さぁ今年も、楽しい予想に頭を悩ます季節がやってきた。2015年2月9日午前9時(日本時間)から行われる、第57回グラミー賞授賞式。すでに発表されたノミネートを見ると、主要四部門の中にテイラー・スウィフト、ビヨンセ、ファレル・ウィリアムス、ベックなど日本でも人気の高いアーティストの名前が多く、洋楽ファンのみならず、例年以上に注目度の高いグラミー賞になりそうだ。

◆イギー・アゼリア画像

その中でも特に旋風を巻き起こしそうな、いや、すでに巻き起こしている若きシンガーがいる。サム・スミスだ。男性アーティストとしては34年ぶりの主要4部門ノミネート(ちなみに前回はクリストファー・クロス。結果は、4部門すべて制覇)で、英国人としては初の快挙となる。彼の名前は、今後随時書いてゆく部門別のコラムの中でも主役になっていくはずだが、果たしてどうなるか。まずは一生一度のチャンス、最優秀新人賞にノミネートされた5組のプロフィールを紹介することからはじめよう。

最初に紹介するのは、イギー・アゼリア。1990年オーストラリア生まれ。十代前半でヒップホップ(しかも2PAC、バスタ・ライムスなどハードなヤツ)にハマり、高校中退→単身渡米→異国の白人女性ながら本場で絶賛→シングル「Fancy feat.Charli XCX」がビルボード7週連続1位、アリアナ・グランデの曲に参加した「Problem」も同時期に2位という快挙を達成。ラップは歯に衣着せぬハードコア・スタイルで、勢い余ってスヌープ・ドッグやエミネムなど大御所と場外乱闘の舌戦を繰り広げたのも大いに話題になった。確かなスキル、強い女性の象徴、モデルとしても活動する濃いめの美貌。キャッチーな要素をいくつも持った彼女のブレイクは、必然だったと言っていい。

ハイムとは、カリフォルニア出身のハイム三姉妹が組んだグループの名前。インディー・ロックとして紹介されるが、デビュー・ヒット「Forever」をはじめ、キーボードを入れたエレクトロ・ポップの要素もあり、聴き心地はクールでさわやか。全英1位、全米6位の大ヒットを記録したデビューアルバム『Days Are Gone』は、ざらついたアメリカンロックの肌触りとポップな浮遊感、姉妹ならではの息のあったハーモニーが融和して、日本人の感性にもマッチする叙情性を持った完成度の高い作品だ。

もうひとり、アメリカ人女性アーティストでノミネートされたのはブランディ・クラーク。日本盤はまだ出ていないので知名度は低いと思うが、アメリカの心の歌として、時代を超えて脈々と流れるカントリーミュージックの新たな担い手のひとり。77年生まれということはそれなりに遅咲きだが、アルバム『12 Stories』に収められた12曲は、都会人でもセレブでもない大多数の市井の人々に寄り添った、悲しくも余韻の残る短編小説のような物語集。独特の深みのある声で淡々と歌う、年輪を経たからこその説得力ある稀有な歌い手であることは間違いない。

そしてイギリスからは、4人組のポップバンド、バスティルがノミネートされている。イギリスの伝統と言ってもいい繊細なエレクトロ・ポップを取り入れた、独特の軽みとケルト音楽風のコーラスが印象的なヒット曲「POMPEI」を収録したデビューアルバム『BAD BLOOD』はいきなり全英チャート1位。ホラー映画やヨーロッパのカルト映画の熱心なマニアだというソングライター、ダン・スミスのキャラクターも現地では受けているようで、歌詞を含めたシネマティックな表現力が注目される若き逸材バンドだ。

そしてあらためて紹介しよう。彼の名はサム・スミス。ほんの2年前に“ロンドンのバーでトイレ掃除をしていた”というシンデレラ・ストーリーの体現者だが、その音楽性は誠実そのもの。幼少の頃からブルーアイド・ソウルやジャズに傾倒し、アカデミックな作曲や歌唱法を学んだのち、ダンスミュージック系の楽曲にゲスト参加して一躍名を挙げる。デビューアルバム『In The Lonely Hour』が達成した英米それぞれでCDセールス100万枚という記録は、2014年では彼ただひとり。聖歌隊の美しいコーラスを伴ったセンチメンタルなバラード「Stay With Me」は日本でも大きな話題となり、レディ・ガガは“天使のような歌声”、ケイティ・ペリーは“男性版アデル”と評した美声は、主要4部門制覇をうかがう最短距離につけていることは間違いない。

ヒットの規模や話題の多さで言えば、最優秀新人賞を射止めるのは、おそらくサム・スミスとイギー・アゼリアのどちらかだろう。昨年の受賞者であるマックルモアー&ライアン・ルイスのように、過激なメッセージを売りにするラッパーか、はたまたオーソドックスで誠実な歌のみで勝負するシンガーか。まったく両極端のスタイルが覇を競う、とても面白い賞レースになりそうだ。

Photo:Getty Images

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