【ライブレポート】ハンバートハンバート、二人ぼっちで見せたもの。

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「ロマンスの神様」のあとに第一部と第二部とのあいだの10分休憩が挟まれたことで、観客もじっくりと快適に時間を過ごしていく。そして第二部は、インターネット上でユーザー同士が知恵を教え合う投稿のおもしろネタを佐野が次々と披露していき、幕を開けた(笑)。



「もう……いいかな?」という感じで舞台に現れた佐藤とひと話をしてから行われたのは、それまでの雰囲気を一瞬で塗り替えた繊細な演奏だ。別れを歌う佐野の歌声が異様なほどに澄み切って聴こえる「今晩はお月さん」。そして佐藤がピアノを弾きながらメインをとった「おかえりなさい」。「おかえりなさい」という曲は、女性目線で別れを告げる歌詞で、シビアだが愛にあふれた心情がそこにはある。そしてこの曲の美しさには、たとえば吉田拓郎や中島みゆきの歌、さらには中島らもの文章のように、聴く度に新鮮な一撃を食らうようなショックを受けてしまう。この日も胸が痛くなった。だけど、客席からは無意識のうちにしていたような拍手が全体から湧き上がり、近くで座って観ていた大人しそうな青年が感極まったように大きな歓声を挙げていた。リスナーを安易に助ける音楽がポップミュージックとしていろいろな場所で重宝されている今、ハンバートハンバートの音楽はやはり貴重なんだ。今さらだけれど、そう実感した瞬間だった。誰も言ってくれなかった、誰も教えてくれなかったつらい気持ちも作品として表してくれるという意味でも、ハンバートはアーティストの中のアーティストだ。



ライブも後半戦に入っていき、今から10年前に発表された「おなじ話」へ。9月9日には、その10周年を記念するBOXセット『10年前のハンバートハンバート』もリリースされている。そんな、この日の主役である「おなじ話」の演奏だったが、この曲にまつわる思い出話をすることもなかった。いつも通りに素朴でいつも通りの味わいがあっただけだったが、だからこそこの曲の変わらない魅力が十分に伝わってくる演奏だった。

そして、ライブはクライマックスを迎えていく。「アルプス一万尺」では、小気味良く陽気なバイオリンの音色とみんなの拍手とともに二人は会場中を闊歩し、「アルプス一万尺」の手遊びをお客さんと向き合って一緒にやるというコミュニケーションを取った。アイリッシュでリズミカルなバイオリンが楽しい「ホンマツテントウ虫」、そして「アセロラ体操のうた」へ続き、「た・た・た・た・たいよう~」の繰り返しに会場中が熱狂し、本編ラストの「おいらの船」では、なんともいい調子で二人は歌い上げた。たった二人だけで、ハンバートならではの素敵な盛り上がり方を見せたその光景は、彼らのライブの経験値がダイレクトに物を言っていた。







アンコールに応えて登場した二人であったが、「あそこでやった曲に込められた本心は──」という歌の補足説明などはやっぱりしない代わりに、また楽しくおしゃべりをした。そして歌った「メッセージ」の歌詞はこうだ。<いつの日か僕の想いが君に 届くまで僕は歌うのさ 君が好きだって>。“君”というのが、曲を作った佐藤良成にとっての個人的な誰かを指すのか、もしくはリスナーに向けてなのか、そのあたりの真意については全然知らないが、ハンバートハンバートの音楽には一生ずっとそばで鳴っていて欲しいなという嬉しい気持ちになったのは、私だけではないと思う。次曲、カントリー調の「天使のハンマー」の心地いい演奏にも、心が軽くなるような楽しさがあった。

そしてこれが本当に最後、ダブルアンコールに応えて再び登場して演奏されたのが「明日の朝には」であったことが凄く二人らしかったと思う。<明日の朝にはきっと 消えているだろう 大事にしてたことさえ わすれるのだろう>と柔らかく悟るこの曲に、それまで思い切りいい時間を過ごした観客は切なさと強いリアリティを感じ、その演奏が終わるとそれぞれに帰っていったのだ。



野音の会場を出ると、近くを歩いていた女の子が「あぁ、現実にもどる~」と、名残り惜しそうにしてたのだけれど、でもそのあとに「がんばろーっと。」と、さりげなく言ってくれた。本当にそんな感じで、好むと好まざるとにかかわらずに進んでいく毎日だけれど、こうして1日1日、確かに人生という道を進んでいくことはなんて力強いのだろうと思うことができるライブだった。

text by RYOKO SAKAI
photo by Wataru Goto, Takehiro Funabashi
  ◆  ◆  ◆

2015年9月19日(土) 日比谷野外大音楽堂公演
<二人でいくんだ、どこまでも> セットリスト

[第一部]
1. いついつまでも~夜明け
2. 長いこと待っていたんだ
3. バビロン
4. 枯れ枝
5. 一粒の種
6. コックと作家
7. さようなら君の街
8. 虎
9. おべんとう
10. ロマンスの神様

[第二部]
11. 今晩はお月さん
12. おかえりなさい
13. まぶしい人
14. ぼくのお日さま
15. おなじ話
16. アルプス一万尺
17. ホンマツテントウ虫
18. アセロラ体操のうた
19. おいらの船
~Encore1~
20. メッセージ
21. 天使のハンマー
~Encore2~
22. 明日の朝には

3枚組BOX『10年前のハンバートハンバート』

2015年9月9日(水)発売
MDCL-1550 ¥6,480(税込み)
※紙製BOX、紙ジャケット、高音質SHM-CD仕様、ブックレット(歌詞・解説付)

[DISC1](CD)
■11のみじかい話 特別篇(再ミキシング&マスタリング)+当時のライブ(10曲)
1.おなじ話
2.旅の終わり
3.虹
4.桜の木の下で
5.からたちの木
6.一粒の種
7.道の標べに
8.Waltz op.2
9.てまりうた
10.天井
11.明日の朝には

ボーナストラック
12.桜の木の下で[LIVE 2005]
13.天井[LIVE 2005]
14.しろつめくさ[LIVE 2005]
15.遠国[LIVE 2005]
16.明日の朝には[LIVE 2005]
17.喪に服すとき[LIVE 2005]
18.おなじ話[LIVE 2005]
19.夜明け[LIVE 2005]
20.ライブの日[LIVE 2006]
21.Farewell Song[LIVE 2006]

12~18:2005年3月19日渋谷 7th FLOOR/19:6月25日吉祥寺 STAR PINE'S CAFE/20~21:2006年4月22日青山月見ル君想フ にて収録

[DISC2](CD)
■道はつづく 特別篇(再ミキシング&マスタリング)+当時のライブ(7曲)
1.願い
2.林檎
3.1時間
4.もったいないけど
5.合奏は楽しい
7.怪物
8.日が落ちるまで
9.今晩はお月さん
10.おかえりなさい
11.この街
12.長いこと待っていたんだ

ボーナストラック
13.からたちの木[LIVE 2006]
14.メッセージ~天使のハンマー[LIVE 2006]
15.陽炎[LIVE 2006]
16.gone[LIVE 2006]
17.喪に服すとき[LIVE 2006]
18.さがしもの[LIVE 2006]
19.生活の柄[LIVE 2006]

13:2006年9月27日 大牟田nei/14:9月29日 高千穂Cat's/15:9月30日 大分AT HALL/16:10月19日松江 artos Book Store/17:10月28日直島カフェまるや/18~19:10月29日岡山禁酒会館 にて収録

[DISC3](DVD)
■道はつづくよ、クアトロへ。(2006.10.5 渋谷クラブクアトロ公演/13曲・50分)
1.合奏は楽しい
2.林檎
3.もったいないけど
4.今晩はお月さん
5.長いこと待っていたんだ
6.一粒の種
7.願い
8.てまりうた
9.日が落ちるまで
10.アメリカの恋人
11.メッセージ~JIG
12.おなじ話
13.1時間

◆ハンバートハンバート オフィシャルサイト
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