【コンサート・レポート】荘村清志 meets さだまさし、フォークとクラシックが混ざり合う異色のデュオ・コンサート

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クラシック・ギタリスト荘村清志と、さだまさしのデュオ・コンサート<荘村清志 meets さだまさし>荘村清志スペシャル・プロジェクト vol.1が、3月8日(水)に東京オペラシティ コンサートホールにて開催された。

◆荘村清志 meets さだまさし~画像~

こんな異色なコラボレーションは、本当にめずらしい。荘村清志は、人気、実力の両面で日本を代表するクラシック・ギター奏者。自身のルーツであるスペイン音楽を中心に、幅広いレパートリーで活躍している。そのクラシック・ギタリストとフォーク歌手さだまさしのコラボ・コンサート。本来なら事前に配布されるパンフレットがなく、観客は演奏曲目を知らされることのないまま、これから何が起こるんだろうとワクワクしてコンサートに臨んだ。

まずは荘村清志のソロ演奏。荘村の登場で、会場が一気に引き締まる。ヴィラ=ロボス作曲の「プレリュード第3番」が演奏された。ヴィラ=ロボスはブラジルの作曲家。クラシックにブラジルの要素を取り込んだ独創的な作風で知られている。荘村は、繊細に、情感たっぷりに音を紡いでいく。続いてブローウェル作曲「11月のある日」。キューバの同名映画作品のために作られた哀愁あるメロディ。風景が眼前に開けていくようにロマンチックな演奏が披露される。


「今回のコンサートは、4年にわたるプロジェクトの第一回目。昨年に、さだまさしさんの伴奏をして以来、さださんの魅力にとりつかれました。今日はバンドではなく、二人だけの手作りコンサートを作ろうということで、二人きりでお送りします」

続いては、バリオス「郷愁のショーロ」とイルマル「バーデンジャズ組曲」を演奏。センチメンタルなメロディの「郷愁のショーロ」では、右手をブリッジ側で弾くなど音色を変えながら場面を転換。緩急自在に音を織り込んでいく。「バーデンジャズ組曲」はギターの音色の豊かさを感じさせてくれる楽曲。煌びやかな和音、そしてレガートとスタッカートでふくよかな演奏を披露してくれた。

そして、さだまさしが登場しソロの舞台となる。

「今日はクラシックはここまでですから。ここからは流行歌ですよ。あんなスゴいギターを聴いたあとで、どうやってギターを弾けばいいのか、、、。」

という挨拶のあと、「主人公」「飛梅」という大ヒット曲を披露。演奏曲を知らされていない観客は、次々と演奏されるヒット曲に大喜びだ。

変わらない伸びやかな声。歌詞の世界が聴く者の身体にグイグイと染み込んでくる。すごい説得力だ。「主人公」は、ファンの間では長く人気1位を誇っているという。「飛梅」ではホールが大宰府の風景に塗り替えられる。その力強い歌声に、観客は圧倒される。


20分の休憩を挟んで第二部が開始。ここからは、荘村清志とさだまさし2人による演奏。まずはさだまさしの曲「無縁坂」からスタート。さだはバイオリンでイントロと間奏、アウトロを担当。母の人生に思いをはせる歌詞を繊細に歌う。荘村はさだの歌を最大限生かすように、伴奏は決して出しゃばらず、控えめに確実にサポートしていく。

続いては「案山子」。イントロのフォークギターのアルペジオとクラシックギターの音色がきれいに交じり合う。そしてここでサプライズが起こった。2番の“元気でいるか、街には馴れたか」のフレーズを荘村がハモってきたのだ。これは貴重。美しい声のハーモニーに観客も大喜び。曲が終わるとマイクを一番遠い場所に遠ざける荘村。その照れくさそうな顔は、クラシックコンサートでは見られない、荘村の別の一面だった。

さだの面白トークをはさんで披露されたのは、荘村のソロ演奏による「アルハンブラの思い出」。最初の一音でホールはスペインの空気になる。滑らかなトレモロ、哀愁のメロディ、アルハンブラの風景が目に浮かんでくる演奏だ。「歌を歌うより楽です」と、演奏後に観客を笑わせる。続くマイヤーズ作曲「カヴァティーナ」では、さだがバイオリンを途中でガットギターに持ち替えて、2人によるギターデュオが実現。さだが伴奏に回って荘村がメロディを弾くなど、いろいろなバリエーションで楽しませてくれた。


荘村「やっぱり、さださんはギター上手いですね」
と、最高の賛辞をさだに贈るのだった。

「いのちの理由」で命の讃歌を歌い、続く「関白宣言」では、サビで観客手拍子が起こる。終わりに近づくにつれて速度を増していく「ラララ~」の合唱と手拍子。これはさだのコンサートでは当然の風景だが、東京オペラシティ コンサートホールでこの光景を見るのはめずらしい。さだのバックで、時には控えめに、時には前面に出てサポートする荘村も楽しそうだ。

荘村「これ、弾いてもらいたかったんです。男の哀愁でしょ」

という紹介で始まったのがピアソラ「オブリビオン」。伸びやかに哀愁たっぷりにバイオリンを弾くさだ。荘村の繊細な演奏がしっかりとそれを支え、ホールの空気を変えていく。さだのバイオリンの上手さに誰もが驚く演奏となった。

荘村「これ一番良かったですね。今度は“チゴイネルワイゼン”もやりましょうよ」

さだ「それは無理ですよ(笑)。僕のバイオリンって“ヘタ限界”なんです。練習しても上手くならないけど、練習しなくてもこれ以上ヘタにもならないっていう(笑)」

ラストは「人生の贈り物」と「風に立つライオン」の2曲。さだの澄んだ声とギターが絶妙に交じり合って、しみじみと心に染み込む歌世界を作り上げる。「風に立つライオン」では打って変わって、さだの意志の強い歌詞と力強い歌声に圧倒。荘村の、控えめだがどんな曲想でもしっかりとサポートし、なおかつ存在感を随所に見せるギターは見事だった。


ホール全体が共鳴するほどの拍手に促されたアンコールでは、ピアソラ作曲の「リベルタンゴ」を演奏。聴きなれたイントロをギターが弾くのに続いて、さだのバイオリンがメインテーマを弾く。上手い! 荘村がかき鳴らす情熱的なギターと真っ向勝負のバイオリン。二人の火花が炸裂した演奏となった。

そして、最後に「北の国から」。あのメロディをマイクをはずしたさだの指揮で観客が歌う。これは要するに、荘村清志の伴奏で自分が歌うということ。ありえないほど信じられない貴重な体験といってもいいだろう。

歌に戻ったさだが、「ああーあああああー」と歌ったあとに、「川の流れのようにー」と続けて歌う。場内は大笑いに包まれる。そんな遊びも交えて、コンサートは幕を下ろした。

それにしても異色なデュオ。こんな組み合わせでコンサートが成立するなんて誰が予想しただろう。しかしコンサートを体験してみて分かったことは、フォークとクラシックというジャンルの違いなどは関係ない。どちらも相手への最大のリスペクトを持っているからこそ出来ることなのだと。音楽の楽しさを教えてくれた素敵な夜だった。

写真●©️池上直哉

<セットリスト>

●荘村清志ソロ
ヴィラ=ロボス:プレリュード第3番
ブローウェル:11月のある日
バリオス:郷愁のショーロ
イルマル:バーデンジャズ組曲

●さだまさしソロ
主人公
飛梅

さだまさし:無縁坂
さだまさし:案山子
タルレガ:アルハンブラの思い出
マイヤーズ:カヴァティーナ
さだまさし:いのちの理由
さだまさし:関白宣言
ピアソラ:オブリビオン
さだまさし:人生の贈り物
さだまさし:風に立つライオン

[アンコール]
ピアソラ:リベルタンゴ
さだまさし:北の国から


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