【インタビュー】長澤知之、34曲収録アンソロジー完成「怒りも悲しみも肯定的に持っていけるエネルギーに」

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2016年8月、デビュー10周年を迎え、その4ヵ月後には実験精神にあふれる6作目のミニアルバム『GIFT』 をリリースしたシンガーソングライター、長澤知之。2006年8月にデビューを飾って以来、孤高の天才と謳われてきた彼が10年の活動から34曲を厳選して、CD2枚に収めた初のアンソロジーアルバム『Archives #1』を4月12日にリリースする。アコースティックギターを爪弾きながら弾き語りをするフォークシンガーの顔を持ったうえでバンドサウンドをはじめ、ありとあらゆる音楽に挑んできたこの10年の活動をタイトル通りアーカイブしながら、そこに懐古調はこれっぽっちもない。

◆「蜘蛛の糸」ミュージックビデオ

「今、自分がどういう人間なのか、どういうふうになりたいのか。それを伝えたかった」という長澤は今回、「享楽列車」のライヴヴァージョン、「風を待つカーテン」のデモヴァージョンといった貴重な未発表音源に加え、今のモードを象徴するものとして、「R.I.P.」「蜘蛛の糸」という新曲も収録している。長澤がヴォーカル&ギターで参加しているバンド、ALのメンバーが全員参加した前者は狂騒のロックンロール。後者は小さな自分の部屋から思考が宇宙に広がるさまが壮大なロックバラード。ドラマチックかつダイナミックな曲が持つ美しさが往年のデヴイッド・ボウイを連想させるので、その影響を聞いてみると、「デヴィッド・ボウイはそれほど通っていない」とちょっと意外な答えが返ってきた。が、今回のインタビューではリスナーとしての音楽との接し方も尋ねつつ、この10年を振り返ってもらったところ、表現に対する彼ならではの繊細なこだわりが伝わる話を聞くことができた。リリース後には3年ぶりとなるバンド編成のツアーを、大阪、福岡、東京の3ヶ所で行う。

   ◆   ◆   ◆

■雨が降っていても、晴れていても
■半永久的に天を見上げている姿に

──2016年8月にデビュー10周年を迎え、それまでの10年の軌跡を辿る2枚組のアンソロジー『Archives #1』がリリースされるわけですが、2016年12月に6thミニアルバム『GIFT』をリリースするタイミングでお話を伺ったとき、ご自分では「10周年って忘れているぐらいだったけど、周りから10周年を祝いたいと言ってもらえたことがうれしかった」とおっしゃっていましたよね。その気持ちって今回、『Archives #1』を作るにあたって、何かしら影響していますか?

長澤:影響はありますね。もちろん、それだけじゃないですけど、今のモードと言うか、やりたいことと感謝の気持ちを半々ずつ詰めた感じですね。

──モードっていうのは?

長澤:わかりやすく言えば、気分(笑)。今の気分はこういう感じだから、こっちのほうが素敵っていう。

──今の気分ですか。それは『Archives #1』の34曲を聴いて、リスナーそれぞれに想像すればいいと思うんですけど…。

長澤:そうしていただければ(笑)。

──いや、そんなことを言わずに(笑)。もうちょっと長澤さんの言葉で語ってもらうとしたら?

長澤:晴れやか、です。僕の曲の中には、人をがっかりさせちゃうような曲もあるかもしれないんですけど、何て言うんだろうな、すげえ鬱々としてんなみたいなね。そういうモードではないということです。ある程度、こうなりたいという理想があるから、キツいこととか、イヤなこととか、ムカつくこととか、たくさんあるんですけど、それを結果的に肯定的な方向に持っていけるエネルギーに変えられるという自負がある。だから、怒りも悲しみも肯定的に持っていって、最終的に光を見られるような流れにしたってことです。それが今の僕の気分だったり、モードだったりってことです。言葉が強くなるけど、“死ね!”っていうんじゃなくて、最終的に“生きましょう!”っていう(笑)。

──場合によっては“死ね!”ってモードで曲を作って、発表したい時もあるわけですか?

長澤:ありますあります。ただ、それはニュアンスと言うか、英語の“Fuck”みたいに怒りを端的に表すのに適切な鋭い言葉が欲しいというだけで、本当に死んでほしいと思っているわけじゃない。そこはわかっていただけますよね?

──それはもちろん。読者もわかっていると思います。

長澤:そういう状況から、怒りを最終的に肯定に向けられるように思考が変わってきたんですよ。ここ数年ぐらいで。

──そういうふうに変わるきっかけが何かあったんですか?

長澤:ひとつは凄くパーソナルなことなので言えないんですけど、もうひとつはカール・ミレスってスウェーデンの彫刻家が作った『神の手』って銅像が福岡に、箱根彫刻の森美術館にもあるんですけど、それが以前、僕が入院した九州大学病院に置いてあって、大体4メートルぐらい、いや、5、6メートルぐらいあるのかな。筒の上にデカい手があって、その上で人間が天を見上げているんですけど、天から見ないと、顔が見えない構造になっているんですよ。散歩中にそれを見上げたら、見上げても顔は見えないんですけど、周りがどんなにはしゃいでいても、雨が降っていても、晴れていても、半永久的に天を見上げている。周りの人達のことなんて関係なく、自分が思っている方向だけを見つめつづけるその姿が美しく見えて、すごく心に響いて、いたく感動したんですよ。それからちょっといい感じに自分のモードを持っていけるようになっていきました。人間がこういうふうにいられたら最強だと思ったんです。それがいいヒントになった。まぁ、そうはなかなかなれないんですけど、なれたらいいなと言うか、ひとつのゴールに思えたんですよ。

──なるほど。最終的に光を見られるように持っていきたいというモードで選んだ曲が2枚組で34曲。なかなかのボリュームだと思うんですけど、どうしてもそれだけ入れたかったんですか?

長澤:聴ききれなくてもいいからガツンと入れようと思いました。基本的に自分の曲って好きなんですよ(笑)。潔く10曲ぐらいにして、すんなり聴けるようにしてもよかったんですけど、タイトルが『Archives #1』なんだから、そんなに気取ることもないだろうって、入れられるだけのものを入れようって、この形にしました。

──今回、ベストアルバムではなく、アンソロジーアルバムと謳っていますが、理由ってあるんですか?

長澤:ベストって言いたくなかったんですよ。いつもアルバムを出す時に思うんですけど、僕の中では常に最新作がベストなんです。毎回毎回、進歩していきたいと思うから、過去の曲を集めたものをベストと言ったら違うと思って、“今までです”って括り方にしたかった。これが最高ですと言ってしまうと、終わりっぽいじゃないですか。それはイヤだと思って、アンソロジーアルバムに。タイトルも『Archives #1』にしました。

──選曲は大変だったと思うのですが、どんなところが一番大変でしたか?

長澤:たとえばモーターヘッドみたいに全曲が似通っているっていうのも一つ芯が通っていて好きなんですけど、僕はそれだと飽きちゃうタイプなんです。だから、いつもリズムの遅い曲、ミッドテンポのバラード、速い曲っていうふうにいろいろ入れて、サウンドもごちゃごちゃしたものからミニマルなものまで、いろいろ手をつけちゃうんです。手をつけちゃうもんだから、とっちらかってしまうんですけど、そういう曲を、歌詞の内容も含め、アルバムごとにコンセプトを決めて、聴きやすいようにまとめていたつもりだったんです。それを今回、アンソロジーとしてまとめるとき、そのコンセプトから外すわけじゃないですか。そうやって、改めて並びかえると、これでいいんだろうか。これで聴きやすいんだろうかっていう迷いはたくさんありました。でも、まぁ、いいか。とりあえず並べてみようってやっていって、自分が好きな感じを、スタッフと話し合いながら見つけていったんです。自分が主観的になりすぎてもと思って、スタッフからもいろいろ意見をもらったんですけど、違う窓から見る視点が新鮮だったんで、それも取り入れていきましたね。もちろん、最終的に決めなきゃいけないのは自分なので、最初は年代ごとにみたいなことで並べたりもしたんですよ。でも、それじゃよくあるベストアルバムと変わらないからつまらない。せっかくなんだから、好きなように並べようってなりました。

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