【インタビュー】熊木杏里「自分探しはずっと私のテーマ。『群青の日々』でやっぱりまだ私は旅の途中なんだなって思いました」

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■「群青の日々」は“靴”をテーマにしたら一気に曲が出てきたんです
■今の私を象徴する思いかないうことでアルバムのタイトルにもなった


――「しにがみてがみ」はファンの方が送ってくれた手紙が元になっているということですが、歌詞を見ながら聴いていたら、感情移入して鳥肌が立ちました。

熊木:両親の離婚で離れて暮らしていたお父さんが亡くなったというお手紙だったんですけど、私の気持ちにも寄り添えるものだったんです。ファンの方が、この気持ちを私に手紙として送ってくれたのは意味があるんだろうなと思って、忘れられなくて。自分の中の気持ちだけじゃない何か、誰かの気持ちっていうのも歌で表現できないかなぁと思っていたので、それが「しにがみてがみ」という歌になったんです。

――曲調もそうですが、熊木さんのフィルターを通ったことで、「死」を歌っていても重すぎなくていいですね。でも染みる。

熊木:ちょっと明るめのアレンジっていうのもいいのかもしれないですね。ギターで刻んでいる感じがドップリ行かない。

――感情的には切なくなる3曲ですが、「しにがみてがみ」ではサウンドが明るくなるから、次の「花火」のポップなところにもスルッと繋がっていきます。この流れはすごく考えられている感じがしました。

熊木:考えましたね。「花火」をどこで打ち上げるかという問題は。サウンドがちょっとおしゃれになって、雰囲気がガラッと変わるんです。私のレパートリーの中にライブで盛り上がれるような曲って数少ないから、この曲はライブを意識して作りました。最初、武藤さんにアレンジをしてもらうまでは、もっと4つ打ちっぽい感じだったんですけど、ちょっとオシャレなリズムに変わって、より自然に唄いやすい感じになりました。

――自然に体が動いてしまいますよね。ここから「fighter」へはずっと体が動く流れ。

熊木:この曲順はライブ的な流れになってますよね。

――ライブでもお馴染みのメンバーでレコーディングしていますし。

熊木:はい。去年のツアーのメンバーでレコーディングしました。こういう力強い感じで歌いたかった曲が出来てすごく嬉しくて。自然に「イエイイエイ」って言ってるんですよ。これって、今までになくて(笑)。


▲『群青の日々』【初回限定盤】


▲『群青の日々』【通常盤】


▲『熊木杏里LIVE TOUR 2016 “飾りのない明日”~An’sChoice~』

――イメージなかったです(笑)。「花火」にも「イエイイエイ」って入っていますね。

熊木:初めて聴いた人は普通に聴いたくれるのかもしれませんが、今まで知ってる人はどう思うんでしょう(笑)。でも、不自然ではないと思うんですよ。自然に出てきたので。今までやってみたかったけど出来てなかったことが出来た曲です。「fighter」では、変な掛け声を入れてみたいと思って、「ハッ!」とかも言ってみたんです。この曲ではいろいろ試しました。その中で「イエイイエイ」が残ったんです。今までそういう取り組みがなかったので、遊び心でもあって。「花火」もそうでしたけどね。楽しくやってみようということで。今までよりも、聴いているときに「楽しそうだな」とか自由な息吹を感じてもらえたら嬉しいですね。

――1曲を作りながら組み上げている感じが伝わってきますね。それを楽しんでいるというか。この曲を最初に聴いた印象って、歌い方が全然違うということだったんですよね。発声も変えていますよね?

熊木:変えています。声にあまりリバーヴもかかっていないので、メキメキした声が出ていると思います。ライヴでもしっかり歌えたらなと。

――「雨宿り」から、またしっとりとしたゾーンになっていきます。

熊木:弓木さんのアレンジなんですが、しっとりと「ザ・熊木杏里」な感じです。今まで聴いてくれていた人も安心するような。

――プロデューサー的には、「安心」みたいなところは意識的なんですか?

熊木:ふふふ(笑)。「プロデューサー的には」って言い方、面白いですね。この曲は、安心感はあるんだけど、ピアノじゃないんだというところがミソなんです。ギターとオルガンなんですね。雨みたいな音も入っているし。ハモの部分でも面白く取り組んでみたり。「花火」「fighter」ときて、ここにきてフワッとした雰囲気を作りたくて。

――「国」という曲のメッセージもいいですね。国という大きなテーマで歌っているけど、あくまで日常が隣にあるという。

熊木:これは3年くらい前に出来てた曲なんです。ずっと出したいと思っていたんですけど、こういうテーマなので、なかなか出せず。重い感じになってしまうとちょっとなぁと。でも、今作のようなテイストだと意味が出るんじゃないかなって。

――それこそ、陽水さんの歌詞にも共通する気がしますけどね。

熊木:「最後のニュース」とかですかね。

――そう、まさに。

熊木:あぁ。陽水さんの曲を聴いていても感じることなんですが、すごく大きなテーマではあるんですけど、あくまでも個人的な意見っていうのが大事なのかなぁって。前回インタビューしていただいた時に、「大きなテーマのものを歌ってもマザーアースみたいな雰囲気にならないのがいいですね」っておっしゃってくださったと思うんですけど、それがずっと残っていて。これもそういう感じなんですよね。


――すごく思いました。

熊木:アレンジは武部聡志さんなんですが、まさに「みんなに言うんじゃなくて、たった一人にわかってもらえればいいっていう気持ちで歌おうよ」と言われたんです。一人に向かって歌った曲ですね。

――個人的だからこそ、より多くの人に届くんですよ。陽水さんの曲もそうですからね。

熊木:そうそう。「最後のニュース」とかも、世の中の、世界のことを言ってるんだけど、「今 あなたにGood-night ただ あなたにGood-Bye」っていう、現実に戻るところがすごく良くて。世界のことだけ言われても「何言ってるの?」ってなっちゃう。こういう表現に対して、すごい憧れがあるんですよ。音楽って、どんなに言ったって、個人が受けるものですからね。

――うん。大きなことを言われても受け止められない。

熊木:ですよね。

――この「国」も、たくさんの人が住んでいる大きな括りの国じゃなく、個人が生きてるというか、一人一人の国というか。

熊木:そうなんですよね。一人一人がイメージできる、良心に働きかけるというか。その象徴となるような国があったらいいよねっていう。ラブソングって、本当に個人的な想いの曲ですよね。この「国」もそういうラブソングだなって思っていて。だから、愛を持って歌っています。

――最後にタイトル曲の「群青の日々」ですね。この曲があったから、アルバムのタイトルが「群青の日々」になったんですか?

熊木:はい。この曲には「靴」というテーマがあるんです。人が想いを寄せやすいものとして「手」があると思うんですけど、それと同じように「靴」もそうかなって。「手」をテーマにした曲は書いたことがあったけど、「靴」はないなと。

――靴って意味がありますよね。いつも自分と一緒にいるとか、前に歩くためのものだったり。

熊木:そう。すり減っても行きますしね。そこから派生して、だんだん歩いて歩いて自分になっていくというか。で、「靴」をテーマにしたら、一気に曲が出てきたんです。思いのほか、歌詞がすごくよく書けたんですよね。今の私を象徴する思いかなぁということで、アルバムのタイトルにもなったんです。

――「今の私を象徴する思い」というのをもう少し詳しく聞かせてください。

熊木:「群青の日々」って、過去の青く燃えてきた日々という象徴もあるんですが、この曲の歌詞をよく読むと、「自分になっていくために」っていうことが描かれているんです。「自分探し」というのは曲を通してずっと私のテーマなんです。自分のことはわかるようでわからない部分もまだまだいっぱいあるけど、改めてこの曲で「自分になってゆく」と書いた時に、やっぱりまだ私は旅の途中なんだなって思えて。アルバムのテーマとしてもいいテーマだなぁと。

――なるほど。最終的には未来を見ている感じで終わりますね。

熊木:そうなんですよ。結構切なく、過去に囚われている部分も多かったんですけど、結局、未来を見ているんだなっていうことが、うっすらわかる曲なんですよね。しかも、見ているのは遠い未来じゃない。

――一歩先くらいですよね。それが今の時代に見るちょうどいい未来だし、日常っていう感じがします。今の若い人、夢が見られないってよく言いますけど、一歩先の未来でも前向きだし、一歩先なら見られると思うんですよね。

熊木:そう。本当にそう思います。

――自分探しをしているというところで言うと、今作は相当自分が探せたんじゃないですか?

熊木:そうですね。だいぶ探せましたね。それもあって、重みがあると言うか、できたなぁと言う気持ちが強いですね。かつセルフプロデュースということもあり、やりたいと思っていた音楽を「やりなよ!」って言ってくれた環境もあったことが大きいですし、とても大事な一枚になったと思っています。

――しかも、これまで声のことを言われることが多かったと思うんです。でも、15周年にして、歌い方を変えてみたり、発声でもチャレンジがあって。そこがヴォーカリストとしても攻めているんだなと伝わりました。

熊木:そうなんですよ。7月26日に麻枝准さんとのコラボレーション企画の作品『Long Long Love Song』で純粋にヴォーカリストとして参加させていただいているんです。12曲すべてを歌わせていただいたんですが、かなりヴォーカル力を鍛えられたお仕事で。それがあっての今作だったので、その体験が生かされているというか。『Long Long Love Song』のレコーディングでとてもいいものをもらったんです。『群青の日々』とはまったく違う世界なんですけど、すごく生かされている。聴き比べると面白いと思いますよ。

――人の作った曲を歌うと勉強になるとはみなさんよく言いますけど、まさにそうだったんですね。

熊木:はい。声の使い方からブレスの入れ方まで変わりますので。だから、声とか発声のことを言っていただいて、そういえば『群青の日々』の前に、そういう経験をしていた!それだ!と、自分で思い出しました(笑)。

――ちなみに、『群青の日々』の初回限定盤には「熊木杏里 LIVE TOUR 2016〝飾りのない明日〟」の特典DVDが付いていますが、これはライブアルバムとはどういう差別化になっているんですか? 135分ってオマケじゃない充実ぶりですよね。

熊木:かぶっている曲もあるんですけど、ドキュメンタリー映像がたくさん入っているんですよ。しかもそこに副音声で、私とスタッフ二人によるコメンタリーが入っています。自分で自分に対して突っ込んだりしているところもすごくあるので、そういう裏の部分も楽しく見ていただけるような内容です。

――ライブアルバムを聴いてDVDのドキュメンタリー映像を見たら、裏側が見えるという感じなんですね。

熊木:はい。だいぶ見られます(笑)。それは言わないほうが……みたいなことも言っていますので。あとは中国のライブ映像はないんですけど、中国の様子もドキュメント映像には入っているので、そこもうっすらと見ていただける感じです。

――6月27日から東名阪ツアーもあるんですね。

熊木:アルバムの発売日が6月28日なので、聴いてから来られない人続出なんですよ(笑)。

――これは<An's meeting~歳歌抄~初夏篇>というタイトルだから、15周年の一貫のライヴなんですね。

熊木:そうです。だから、昔の曲もやりつつ、新曲はちょこっとという感じで。アルバムのツアーはのちほど改めてという感じで考えております。だから、アルバムを聴けてなくても大丈夫なので、ぜひ良かったら、遊びに来てほしいです。

取材・文●大橋美貴子


リリース情報

オリジナル・アルバム
『群青の日々』
【初回限定盤】CD + DVD
¥6,500(本体価格)+税 YCCW-10305/B
特典DVD (約135分):『熊木杏里LIVE TOUR 2016“飾りのない明日”』より、東京キネマ倶楽部、ヤマハホールでのライブ映像から抜粋して収録。(ドキュメント映像、オーディオ・コメンタリーあり)
【通常盤】CD¥2,750(本体価格)+税 YCCW-10306
CD 収録楽曲:10曲(初回・通常共通)
01.怖い
02.カレーライス
03.僕たちのカイト
04.蛍
05.しにがみてがみ
06.花火
07.fighter
08.雨宿り
09.国
10.群青の日々

ライブ・アルバム
『熊木杏里LIVE TOUR 2016 “飾りのない明日”~An’sChoice~』
CD¥2,500(本体価格)+税YCCW-10307
CD 収録楽曲:14曲
01.PIANO INTRODUCTION
02.まよい星
03.風の記憶
04.誕生日(読売テレビ『かんさい情報ネットten.』めばえテーマソング)
05.雨が空から離れたら(2009年JRAブランドCMソング)
06.景色
07.咲かずとて(日本テレビ『AX MUSIC-TV』エンディングテーマ)
08.やっぱり(ロッテ『紗々京物語』イメージソング)
09.君の文字(麻枝准×熊木杏里名義TVアニメ『Charlotte』最終話歌唱曲)
10.飾りのない明日
11.メンバー紹介~ノラ猫みたいに
12.今日を壊せ
13.心のまま
14.君(南日本放送開局50周年キャンペーンソング)
※01, 02, 04, 05, 07, 08, 14 from ヤマハホール2016年7月16日
※03, 06, 09~13 from 東京キネマ倶楽部2016年5月8日

ライブ・イベント情報

<An’smeeting ~歳歌抄~初夏篇>
◆6月27日(火)名古屋・ボトムライン
開場18:30 / 開演19:00
お問い合わせ:サンデーフォークプロモーション
TEL:052-320-9100http://www.sundayfolk.com
◆6月28日(水)大阪・あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール
開場18:30 / 開演19:00
お問い合わせ:キョードーインフォメーション
0570-200-888(毎日10:00 ~18:00)http://www.kyodo-osaka.co.jp
◆7月1日(土)東京・日本橋三井ホール
開場17:00 / 開演18:00
お問い合わせ:SOGO TOKYO
03-3405-9999 (月-土12:00~13:00 / 16:00 ~19:00 ※日曜・祝日を除く)http://sogotokyo.com/


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