【インタビュー】KAMIJO、重厚なオーケストラとロックの融合を追求する最新型エピックロック『Sang』

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KAMIJOの3年半ぶりとなるソロ・アルバム『Sang』が3月21日にリリースされた。メタル・チューンとオーケストラを有機的に融合させたドラマチックかつ華麗な味わいの楽曲を軸にしつつエモーショナルなナンバーも配した同作は、唯一無二の魅力を湛えている。さらに、『Sang』と共に、彼にとって初の試みとなる室内楽アルバム『Chamber Music Ensemble』(完全限定受注生産豪華盤のみ収録)を完成させたことも注目。KAMIJOの美意識で染め上げられた二作について、大いに語ってもらった。

◆KAMIJO~画像&映像~

■曲を作って最終的にそれがピタッとハマッた時というのは
■歌詞のメッセージと楽曲が完全にリンクした時ということ


――『Sang』の制作は、いつ頃から、どんな風に始められたのでしょう?

KAMIJO:僕がアルバムを作る時というのは、当たり前のようにコンセプト・アルバムになるんですよね。今回も僕の中に主軸になる物語があって、それはフランス革命が起こった頃のヨーロッパを舞台にしたオリジナル・ストーリーです。僕が今ブログで公開しているストーリーがありまして、それが今回の「Theme of Sang」の歌詞になっているので、それも読んでいただければと思います。そのストーリーを土台に音を作りました。作り始めがいつだったかと言うと、僕がソロ活動をスタートした時からです。その時から伝えたいものというのがあって、それは“過去の暗い歴史を、明るい未来に繋げよう”という想いです。ソロ活動を始めた時点でストーリーが完成していたわけではないですが、作品を作る時は次作のことも踏まえて伏線を張りながら作っていて、今回の『Sang』は2014年9月にリリースしたアルバムの中の「Heart」という曲から派生したものになっています。ただ、だからといって僕がソロで作ってきた作品を全部聴かないと意味が分からないというわけではなくて。それぞれの作品単体でも楽しんでいただけるものということを意識して作っていて、それは今回も変わらなかったです。

――良いリンクのさせ方といえますね。アルバムの骨格になるストーリーを先に考えたということは、曲作りもストーリーに合わせて作るというやり方でしょうか?

KAMIJO:そうです。基本的に僕が曲を作る時は映画のサウンドトラックを作るように場面ごとのスケッチを作って、そこに対して音を作っていくんです。昔は曲を作るところから始めていましたが、どれだけ曲を作っても歌詞を乗せるタイミングで歌詞がメロディーに“ビシッ”とハマらないと結局ボツにするんですよ。だから、一番最初に作るべきはメッセージだなと思うようになりました。それが最終的にコンセプトとなり、オリジナル・ストーリーへと発展していきました。僕が思うに、きっとどんなミュージシャンでも、どんなアーティストでも、曲を作って最終的にそれがピタッとハマッた時というのは、歌詞のメッセージと楽曲が完全にリンクした時だと思うんですよね。世の中にはサウンドさえカッコよければ良いという人もいるかもしれませんが、そういう音楽には限界がある気がするので、僕は音楽というものからさらに飛び出た視点で音楽を創りたいなと思っているんです。それで、映画音楽的な創り方をしています。


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――面白いです。それに、KAMIJOさんのソロ作品はメタルの要素とオーケストラを融合させた楽曲が軸になっていますが、単にメタル・チューンを作ってオーケストラを乗せているだけではないという印象を受けました。

KAMIJO:その通りです。一般的にメタルソングを作曲する時はギター・リフから入って、オケを作って、最後にメロディーを乗せるということが多いですが、僕はメロディーから入ります。それに、たとえばイントロでギターがメロディーを弾いていて、Aメロから歌が入るとしても、僕はギターで奏でるメロディーも、歌も同じように扱っています。つまり、歌とかボーカルということではなくて、主旋律をどのパートが受け持つのかという考え方をする。主旋律がしっかりと繋がることで、必ずリスナーの耳はそこにいくので。僕は元々ポール・モーリアが大好きで、彼の楽曲はバイオリンが主旋律を弾いていて、その裏でチェロがオスティナート(同じフレーズを反復させること)していたとしたら、その次のパートではチェロが主旋律を弾き出したりするんですよ。そういう感覚が自分の音楽にも活かされていると思います。

――ということは、自作曲のオーケストラ・アレンジも、ご自身でされているのでしょうか?

KAMIJO:しています。独学で始めて、いろいろなことを表現するためにオーケストラ・アレンジを勉強するようになりました。オーケストラで構築する場合は、主旋律をどの楽器で鳴らすかということ……たとえば、静かなパートでフルートとオーボエがユニゾンでオクターブでテーマ・メロディーを奏でているとなったら、第二バイオリンとビオラはスタッカートでいこうか…という風に考えることになる。そういう組合せの違いだけなので、どのパートにどういう役割を持たせるかということを考えるのは、僕にとってそれほど難しいことではないです。一般的なロックバンドでも、たとえばドラムとベースがキメをやっているなら、ギターはミュート・アルペジオにしよう…みたいなことを考えますよね。その延長でアプローチすると、自分なりのオーケストラ・アレンジはできます。

――あっけらかんと仰いますが、驚きです。『Sang』は楽曲によってオーケストラのフィーチャー加減が違っているので、アレンジャーと相当綿密にやり取りしたんだろうなと思いました。

KAMIJO:相当綿密に作るために、僕はデモを作る段階で全部の楽器を自分で打ち込むんです。ギターも、ある程度打ち込みで作りますし。全部の音がMIDIで並んでいるものが僕にとっての譜面で、その譜面上で構築していかないと自分がイメージしているものにはならないので。リフを弾いて、なんとなくこれで合ってそうだなということでは僕は済ませない。デモでそこまで作り込むから、今言われた“オーケストラのフィーチャー度”みたいなものも僕の中では明確なんです。

――さすがです。『Sang』を聴いて、メタリックな楽曲でいながらギターがあまり前に出ていないのも特徴になっているなと思ったんですね。今の話をお聞きして、その理由も分かりました。

KAMIJO:たとえば、Within Temptationは『ブラック・シンフォニー』という作品でオーケストラとコラボレーションしていますけど、その作品のギターはとことんパワー・コードだったりで、重さの部分に徹しているんですよ。で、Angraは、逆にギターが前に出ている。真逆なんです。どんなアレンジを採るにしても、バンドでやるとなるとギターが重要な役割を果たす方向に持っていかざるを得ないというのはありますよね。じゃあ、それが理想かというと僕の中ではまた違うところにあって。それを形にしているのが、僕のソロ作品です。Versaillesのメンバーもある程度僕に近い感覚というのは持っていますけど、細かいところまで作り込めるという意味では、この手法をソロでやったのは正解だったと思いますね。

――やり切りたかったんですね。それに、ここまでの話を読んで、とっつきにくい音楽という印象を持たれる方がいるかもしれませんが、『Sang』はすごくキャッチーで聴きやすいアルバムに仕上がっています。

KAMIJO:そう言っていただけると嬉しいです。というのは、僕はそこに関しては意識していないので。僕にとって『Sang』というアルバムは、今までで一番マニアックな作品なんですよ。

――マニアックという意味では、本当にマニアックです。でも、聴きやすいものになっているということは、KAMIJOさんの中にキャッチーであるということが自然と身についている証といえますね。

KAMIJO:どうなんでしょうね……。たしかに、『Sang』の楽曲はメロディーがキャッチーだし、構成とかもシンプルなんですよ。でも、実は2番に来た時はキーが違っていたりするんです。1曲の中で場面がどんどん変わっていくことで壮大なイメージになる楽曲って、ありますよね。いわゆるプログレッシブ・ロック的な手法というか。僕はそういうアプローチよりも密かにフックを効かせたりするのが好きなんです。たとえば、歌い出しのメロディーとサビのキーが全然違っていたとしても、そのサビに行きつくために何度でも転調したりとか。しかも、それをトリッキーに感じさせないようにすることに燃えたりします(笑)。

――スキルの高さを感じます。キャッチーということでは、『Sang』の最後に入っている「Sang I」から「Sang III」までの3曲は、組曲のようにして長尺の1曲にするのも“あり”だと思うんですね。でも、独立した3曲になっていることからも、KAMIJOさんの指向がうかがえます。

KAMIJO:それに関しては、まず「Sang III」に関しては全くの別曲だったんです。Cubaseのセッション上では「Ambition -Interlude-」と「Sang I」「Sang II」は一つのセッションなんですよ。「Sang III」は別物として作った後、前奏にストリングスのメロディーを加えたんですけど、そのメロディーが「Sang II」のメロディーなんですよね。「Sang I」はBPM=135で「Sang II」は180なので、テンポが違っているんですが、3連のフィルを入れることで自然とテンポ・チェンジできている。でも、「Sang III」は全く違うBPMの別曲だったので、ストリングスの前奏をつけることにしたんです。そういう意味では組曲ともいえますが、トラックは分けておくことにしました。そうすれば1曲1曲を独立した曲として聴きたい方にも、壮大な1曲として聴きたい方にも楽しんでいただけると思いまして。

――好みに合わせて聴けるというのは、リスナーは嬉しいと思います。それに、『Sang』はオーケストラを配さないマッスルなテイストの「Vampire Rock Star」や、エモーショナルな「Mystery」「mademoiselle」といったナンバーも収録されています。

KAMIJO:「Vampire Rock Star」は、単純に言葉から生まれました。“Vampire Rock Star”という言葉を、ファンのみんなと叫びたいと思って(笑)。じゃあ、どういう曲だろうというところから始めていったら、ストーリーの中でたまたま物語の登場人物がメディアに出演するシーンがあって。そのシーンに合う楽曲として作っていった結果、こういう曲になりました。この曲は「Sang I」や「Sang II」とはテイストとは違っているけど、それは僕の一部なんですよ。「Vampire Rock Star」や「Mystery」「mademoiselle」も自然と出てきたものなので、僕の中では違和感はない。ただ、「Vampire Rock Star」に関しては、敢えて“ハイブリッド感”というか、“現代感”みたいなことを意識しました。というのは、僕のメロディーはクサいんですよね。

――キャッチーだと思います。

KAMIJO:ありがとうございます。でも、僕の中では、一歩間違えると演歌や歌謡曲になってしまうという感覚があって。そこが良いところでもあるかもしれませんが、それを違う聴かせ方にしたいなというのがあって。それで、「Vampire Rock Star」は全編英詩でいくことにしました。そういう手法を採ることで、今までの自分にはないハイブリッド感を出せたかなと思います。「Mystery」は、鼻歌で作りました。メイクをしていただいている時になんとなく鼻歌で作ったので、メイクさんは作曲する瞬間を見ることになったという(笑)。この曲はメロディーが浮かんだ時から日本語ではなくて、英語のイメージでしたね。日本語にすると、あまりにも童謡のようになってしまうだろうということを感じたんです。それで、最初から英詩でいくことにして、それこそディズニー・ミュージカルのようなイメージで作りました。「mademoiselle」は日本語ですけれども、コード進行をジャジーに変えました。この曲は英語とかいう視点ではなくて、いかにコード・アレンジでメロディーを新鮮に聴かせるかというチャレンジをした曲です。

――いろんな引き出しを持たれていますね。メロディーは変えずにいろいろなテイストを出す辺り、ちょっと料理人を思わせます。

KAMIJO:アハハ(笑)。自分を料理人に例えるとしたら、コース料理を手掛けた時の料理の出し方はすごく大事にしていますね。曲展開のドラマチック性というのは、自分が一番大事にしているところです。

――それは楽曲単体に限らず、アルバム全体にもいえますね。『Sang』は構成が絶妙ですし、セクションごとに織り込まれた3曲の「Interlude」も重要な役割を果たしています。「Interlude」が入ることで楽曲の繋がりがスムーズになり、さらにアルバムの世界観を深めていますので。

KAMIJO:僕の理想は、映画のサウンドトラック全部を作ることなんですよ。だから、「Interlude」を作ることは、最大の楽しみの一つになっています。適当なビート・パターンを流して、雰囲気物のシンセを鳴らして…みたいなもので済ませるということは絶対にない。かといって、サイズが長過ぎる「Interlude」も違うなと思って。一気に世界が変わる深みがありつつ、サッと終わるというのが好きですね。あとは、「Castrato」の前に入っている「Delta- Interlude-」はシングルで出した時に「Castrato」の一部として収録してあったのですが、アルバム単位で聴こうとした人が、パッと「Castrato」を聴けるようにしてあげたくて。それでマーカーを付けたというのもあります。

――そこにもリスナーを思う気持ちが表れているんですね。それに、「Interlude」を聴いていると、映画の中でBGMに合わせて様々なシーンがコラージュされるような場面を連想しました。

KAMIJO:そう感じてもらえたなら良かったです。特に、「Ambition -Interlude-」の6/8拍子になるところとかは、時代の変遷を表現したかったんです。それに6/8拍子のパートは、ピラミッドが見えてくるイメージだったんですよ。そこは、ナポレオン・ボナパルトがエジプト遠征をするシーンなので。それを表現するメロディーを作って譜面にしたら、音符がピラミッド型になっていたんです。譜面上もピラミッドという(笑)。改めて、音楽は面白いなと思いましたね。

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