【インタビュー】Sentimental boys、翳りを帯びた美しい世界観を堪能できるフル・アルバム『Festival』

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■日本人であることが伝わる音楽を創っている自負がある
■だから、ゆくゆくは海外でライブをしてみたい


――「青春が過ぎてゆく」の歌は、今回の他曲とちょっと表情が違っていますね。

上原:本当ですか? それは、あまり意識はしなかったです。ただ今回は新しいバージョンということで、歌い直した感覚があったんですよ。さらに前作よりもキーがだいぶ低いのでもう別物ですよね。

櫻井:最初は、このキーじゃ歌えないよとか言っていたよね?

上原:うん。無理じゃないかなと思ったけど、だんだん慣れてきて、今回のアルバムは断然こっちでしょうと思うようになりました(笑)。

櫻井:アルバムの流れをすごく意識して1曲目から順々に作っていったので、アルバムの曲順どおりに聴いてほしいですね。今は1曲だけ購入して聴いたり、シャッフルして聴いたりする人もいますが、今作は楽曲の流れということも含めて一つの作品として捉えていて、曲間の時間とかも吟味して今の形に落とし込んだんです。なので、ぜひともフルで通して聴いてほしいです。

上原:俺も、そう思う。例えば、9曲目の「青春が過ぎてゆく」と最後の「誰もいない夏」は、「青春が過ぎてゆく」ありきの「誰もいない夏」なんです。その並びが“誰もいない夏”の意味を説明している。それに、いろんな物語を経て、最後にその2曲が出てくるということも重要だし。だから、せめて最初に聴くときだけでもいいから、曲順どおりに通して聴いてほしいですね。


――同感です。アルバムを締めるのが「誰もいない夏」というのは絶妙ですね。どこか民族音楽的かつドリーミーな世界で、なおかつ2分ほどで終わってしまう「誰もいない夏」が最後にくることで、強い余韻が残ります。

櫻井:「誰もいない夏」は元々はフル・コーラスあったんですよ。でも、今回はアナログで録っているので、エンジニアさんがテープ残量が2分くらいしかないと言ってきたんです。“ええっ?”と思ったけど、それも面白いかもしれないから、ちょっとやってみるかという気持ちになって。それで、最終的に今の形になったんです。レコーディングするときはちゃんとしたサイズは決めずに、テープが終わるまでリフレインして歌っていました(笑)。

堀内:しかも、今どき珍しいフェイドアウトという(笑)。

櫻井:そうそう(笑)。でも、それも含めて結果的にですけど、僕は今の形にして良かったなと思います。

――制限がある中で作ると、逆にいいものになるという話はよく聞きます。ほかにも、疾走感をフィーチュアした「蜻蛉になって」なども魅力的です。

櫻井:たしかに、「蜻蛉になって」みたいなテイストの曲はこれだけですね。

堀内:疾走感のある曲もほしいと、櫻井君にお願いしたんです。

櫻井:そう。これも3年前くらいから原形があったんですよ。それで、堀内君のリクエストに応えて、今の形に仕上げました。テンポが速いことで生まれるドライブ感ではなくて、体感的な疾走感を表現できたかなと思います。

堀内:Bメロに入ると、パッと雰囲気が変わる感じもいいなと思いますね。転調して、リズムも変わるというアレンジになっていて、それも僕らとしては新しい試みです。

櫻井:音像的にも当初はもっと普通に、“ジャーン!”みたいな感じだったんですよ。でも、最近の自分たちの好みに合わせて、スカスカな形で成立させました。


▲堀内拓也(Gt.)

――そこもSentimental boysの個性になっています。ギター、ドラムも埋める方向ではなくて、音の隙間を活かしていますね。特に、クリーン・トーンをメインにして、ディレイで空間などを演出しているギターのアプローチは個性的です。

堀内:ギターは作品を出すごとに、どんどん歪みを減らしているんです。歪ませるのとは別の手法で、音を歪ませるのと同じような効果を得たいなというのがあるので、ディレイを使ったり、空いているところを狙ってギターを入れたりしています。あと、僕はエヴァンスのテープエコーを使っているんです。それも今のスタイルになるきっかけになったと思っています。

上原:僕もローランドとエヴァンスのテープエコーを使っています。最近はデジタルでテープエコーをシミュレートしたのが沢山あるけど、やっぱり違うんですよね。テープエコーの返り音が崩れていく感じを再現しているエフェクターもあるけど、やっぱり本物の質感にはかなわない。ローランドのテープエコーを入手して、それを痛感しました。自分のギターに関しては、プレイや音色が誰かに影響を受けているというわけではなくて、自分の感覚を活かしています。今回のアルバムでいうと、コードをあまり弾いていなくて、歌の隙間を弾くアプローチが多いので、それを歌いながら弾くことがライブに向けた課題になっているんです。結構大変だけど新しい感覚になっていて、それを楽しめています。

藤森:ドラムに関しては自分でも気づいている部分があるんですけど、僕はドラマー向きではないんですよね。ドラマーは自分のリズムでバンドのグルーブを引っぱるという意識の人が多いと思うけど、僕は“俺に着いてこい!”みたいなドラムを叩くタイプではなくて。どちらかというと、“添える”という感覚のドラムのほうが僕の性格に合っているんです。だから、いつも周りの音や歌を聴きつつ、そこに合う1音を添えるという感覚でドラムを叩いています。


▲藤森聖乃(Dr.)

――楽曲に溶け込むドラムというスタイルは、Sentimental boysの音楽性にすごくフィットしています。それに、職人気質のドラムでいながら、スネアが後ノリという個性を持っているのもいいなと思いました。

藤森:バレました? 僕は後ノリでしか叩けないんです(笑)。でも、それが個性になっていることは自分でも感じているので、無理に矯正しなくていいかなと思っています。

上原:俺も、そう思う。ふっちゃん(藤森)のタイム感でSentimental boysのグルーブは成り立っているところがあるんですよ。だから、今のままでいてほしい。それに、櫻井君のベースもちょっと独特だと思いませんか?

――ルート弾きをほとんどされませんし、休符を多用することも特徴になっていますね。全体的にグルービィで、ベースのリズム楽器としての側面を大事にしている印象を受けました。

櫻井:僕は曲を作るとき頭の中で鳴ったベースを打ち込んで、後から生ベースに置き換えるんです。ベースを弾きながら考えたフレーズではないから、弾くのが難しいことが多くて。いつも難しいなぁ…と思いながら練習しています(笑)。

堀内:四人でスタジオに入って曲を作るときも、櫻井君は最初はベースを弾かないんですよ。ある程度アレンジが固まって初めてベースを持ってベーシストになる。彼の中ではベースは曲を表現するためのツールの一つなんだと思います。

櫻井:そう。だから、ベーシストとしてのエゴとかは、本当にどうでもいい。それぞれの楽曲が持っている世界を、どこまで引き出してあげられるかということを一番重視しています。ベーシストとしての欲みたいなものは全くないかもしれない。

――それぞれの曲調に合わせて細やかに音作りをしていますね。「気のあう二人」はフレットレス・ベース?

櫻井:ベース録りの当日に、エンジニアの人に「フレットレスあるけど、弾いてみない?」と言われて。それも面白そうだなと思って、「じゃあ、弾いてみまーす」みたいな(笑)。すごくこだわって、この曲はフレットレスじゃないと…と思っていたわけではないんです。


――さて、『Festival』は3年がかりの作品にふさわしい良質なアルバムになりましたし、さらにアルバム・リリースに伴って10月から11月にかけてツアーも行われます。

堀内:今まではライブでやっている演奏を、そのまま録ったような曲が多かったんですけど、今回のアルバムの曲たちはライブでは表情が変わると思うんです。それを、いい方向に活かしたいですね。CDを忠実に再現する良さと、ライブで変わる良さというのがありますが、『Festival』は前者ではなく、敢えて後者を目指したい。なので、ライブも楽しみにしていてほしいです。

上原:各地のライヴにも、今回の制作で出会った新しいものをしっかり引き連れていきたい。このバンドが持つ色がどんどん増えて行くのが嬉しいし、ライヴでお客さんと共有できるのもすごく楽しみです。地元長野ではワンマンなのでじっくりとより多くの色を出せたらと思いますし、大阪や東京の共演者発表も楽しみにしててもらいたいです。

藤森:『Festival』はパーカッションが入っている曲が多いので、それをどうライブで再現するかというのがあって。「情緒」はすでにライブで演奏していて、ドラム単体で表現しようとしているんですけど、まだちょっと納得できなくて。ツアーに向けて、そこを詰めていきたいです。大変だろうけど、そうすることで発見があったり、引き出しが増えたりすると思うので、前向きな気持ちでがんばります。

櫻井:秋のツアーは、そこに向けてひたすら練習だなと思っています。うちは元野球部もいるので、練習をビシビシやっていこうという(笑)。みんなで準備をしっかりやって、いい状態でツアーに臨みたいですね。僕の中には、このバンドで将来実現させたいと思っていることがあるんです。僕はほぼ洋楽しか聴かないんですけど、だからこそ日本人が創る音楽ということをすごく意識して曲を作っているんです。だから、ゆくゆくは海外でライブをしてみたい。日本人であることが伝わる音楽を創っているという自負があって、それを言葉が通じない人が聴いたら、どんな反応が返ってくるのかすごく興味がある。だから、それはぜひとも実現させたいと思っています。

取材・文●村上孝之


リリース情報

2nd Full Album『Festival』
2018.8.29 Release
SMB-008 / ¥2,300 (tax out)
1.ワイプアウト
2.蜻蛉になって
3.夜明けの夢
4.ユーモアを聴かせて
5.Festival
6.情緒
7.気のあう二人
8.アパート
9.青春が過ぎてゆく
10.誰もいない夏

ライブ・イベント情報

<『Festival』リリースツアー>
10/07(日) 長野 上田Radius
※ワンマン
10/22(月) 大阪 心斎橋Pangea
w/チャンポンタウン/裸体 and more...
11/09(金) 東京 下北沢BASEMENTBAR
※ツーマン(詳細後日)

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