【ライブレポート】上杉昇「ロックスピリットを持ったまま大人になった音楽リスナーへ」

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2014年から上杉昇がライフワーク的に開催しているライブシリーズ<black sunshine>が、2018年も東京・日本橋三井ホールで行われた。

◆上杉昇画像

これは、オリジナル楽曲をはじめ彼が敬愛するアーティストのカバーなどを弦カルテットとピアノ+生ギターによるアレンジで聴かせるもので、観客も着席して演奏と歌に聴き入るスタイルのライブ。ここ数年の上杉は、ロックバンド“猫騙”とソロとしての活動を並行して行っているが、猫騙ではバンドならではのビート感とアンサンブルを追求し、ソロでは歌を聴かせることに専念している。特に2018年は、12年ぶりのソロアルバム『The Mortal』もリリースされ、アコースティックツアーやエレクトリックツアーも行われた。それらを経て、今回の<black sunshine>で彼はどんな楽曲をどんな風に歌うのか非常に楽しみだったのだが、エレクトロニカにアプローチしたアルバム『The Mortal』の世界観を弦カルテットのリアレンジで表現しつつ、そこへカバー曲やWANDS、al.ni.coの楽曲も散りばめることで、上杉昇というボーカリストのアイデンティティーがはっきり理解できるライブとなったと思う。

『The Mortal』の1曲目でもあるインスト「Red Spider Lily」がSEとして流れ、導かれるように「青き前夜」がスタート。深みのある弦の響きと繊細なボーカルが楽曲の持つ哀しみや喪失感を増幅していく。続く「赤い花咲く頃には」も、新たな情感をもって迫ってくる。そして最初のMC。「こういうライブ形態は初めての人もいるかもしれないけど、リラックスして気持ち良くなって帰っていただければと思います」と挨拶し、「The Mortal」「Survivor's Guilt」を続けて。どちらもアルバムの重要な楽曲であり、誤魔化しのきかない剥き出しの歌が胸を揺さぶるナンバーだが、やはりこの編成だと曲への求心力がすごい。例えばピアノと歌だけの部分では、上杉のブレスまで感じられるし、音がピタッとブレイクする無音部分では、思わず息をのむほどの緊張感だった。


一息入れた後は洋楽のカバーを。まずは、以前から演奏しているレディオヘッドの「Exit Music」。アコギのカッティングにのせて紡ぎ出される力まないボーカルが逆に強烈なインパクトを放つナンバーで、言うなれば「打ちのめされた果ての悲しみの塊」のような感じの歌が圧巻。続いては友森昭一がアコギからエレキに持ち替えて、ミート・パペッツの「Oh,Me」。飾り気のないラフな感触のギターとボーカルを、サビではストリングスが包み込む。プリミティブなロック感とストリングスの暖かな響きとの取り合わせが、ゾクゾクするほど心地よい。

「俺が多感な時に聴いていたグランジのボーカリストはもうほとんどいなくて、クリス・コーネルも一昨年亡くなってしまって…次の曲は“Ativan”という、彼が飲んでいた精神安定剤の名前なんですが、彼の事を歌った曲です。もう一曲は、彼の遺作になった“The Promise”という曲を、原曲を崩さないように日本詞に書き換えたので、それを歌います」と説明して、クリス・コーネルにちなんだ曲を続けて。『The Mortal』に収録されていた「Ativan」はエレクトロニカなトラックだったが、弦アレンジになると曲のスケール感がひと味違って感じられる。そして「The Promise」。この曲はクリスの生前最後のMVにもなった曲で、同名の映画「The Promise/君への誓い」のサウンドトラックとして書き下ろされたナンバー。上杉が歌ったサビの部分の日本語詞は「忘れえぬ日 約束してくれたよ どんな苦難も打ち破って 夢を叶えてみせると」というもので、これは原曲の意図に忠実に、かつ日本語の歌詞としても絶妙な仕上がりだった。言葉の意味や曲の世界観もわかりやすく、いかに上杉の中でクリス・コーネルの作品が血肉になっているかが感じられる。同映画は今年2月に日本公開されたが、ストーリーとリンクした前向きなメッセージを歌って、ファン以外からも大きな注目を集めた。今後「The Promise」といえば、日本ではこの上杉バージョンがスタンダードな存在になっていくであろうと確信した。

「浅川マキさんも近年亡くなられましたけど、彼女は洋楽のカバーをする時に日本語の歌詞をつけるんですが…原作に敬意をもってカバーする作り方は見習わなきゃなと思います」と浅川マキへのリスペクトを語り、彼女の「セントジェームス病院」をカバー。今夏のアコースティックツアーでも演奏していたが、今回のアレンジだと雰囲気が全く変わって面白い。ブルージーというよりはジャズっぽい感じになっていて、暗い曲調ではあるがボーカルも自由で気持ちよさそう。そして、派手なエフェクトギターがサイケな「Blindman's Buff」、明るく柔らかな「Sleeping Fish」、ギターの不穏なコードとハイトーンシャウトがインパクト大の「雨音」と、ロックなナンバーを続けて。

「先日iPad Proを買って、1万2,000曲くらい入ってるんですけど、その中でも3本の指に入るくらい大好きな曲があって。もし俺がくたばってあの世に行く時に、この曲をかけてくれたらすぐ成仏します(笑)」と語って、レディオヘッドの「Motion picture soundtrack」を。この曲も上杉は以前からカバーしているが、今回も完成度が素晴らしい。ノン・ビブラートの真っさらな声が空間に溶けていくと同時に、観客の心にもしみ渡っていく。こんな絶妙な色合いを醸し出せるボーカリストは滅多にいないはず。そして、WANDSの「Blind To My Heart」、al.ni.coの「晴れた終わり」と、力強く暖かいナンバーを2曲続ける。特に「晴れた終わり」ではアコギ・リフのシンプルなイントロから徐々に熱量を上げていくアレンジ、そしてアウトロでのチェロのソロ→ビオラソロ→2ndバイオリンソロ→1stバイオリンソロへと続くソロ回しが素晴らしい迫力で。深く豊かな音色と、ライトの照らす柔らかな光に包まれて、心の底から癒されるような幸せな体験を味わった。


「毎年毎年、このメンバーでステージに立てることを楽しみにしてます。今年はアルバムを出したこともあって周りを見ずに突っ走ってきましたけど、来年は地に足を着けて一歩ずつマイペースでやっていけたらと思ってます」と抱負も語り、最後に演奏されたのは「FROZEN WORLD」。ギターとピアノの気負いのない音、そこへ上杉がナチュラルな佇まいの歌を載せていくのだが、視覚的なイメージで例えるなら、美しく透き通るガラス片をていねいに重ねていって淡く微妙な色彩が生まれる瞬間を見ているような。それぞれの細かいニュアンスも美しく、音と歌の混ざり具合も絶妙。弦が入ってからはさらにボトムがしっかり支えられ、どこか懐かしく優しい曲調とも相まって、欠けていた何かが満たされていくような安らぎを感じられた。アウトロで上杉は何度もシャウトを聴かせたが、思いのすべてを完全燃焼できたのだろう、ラストは観客に向けて両手を広げ、満足げな微笑みを浮かべながらステージを後にした。アコースティックギターとピアノ、チェロ、ビオラ、バイオリン×2という編成から、クラシック調のサウンドを想像する人も多いかもしれないが、<black sunshine>のアプローチはそこだけにはとどまらない。生弦楽器の品格は保ちつつも、ある曲ではジャズ的に酔わせ、ある曲ではグランジ/オルタナ的な狂気すら漂わせる。ロックスピリットを持ったまま大人になってしまった音楽リスナーにこそ響く、エネルギーに満ちた演奏会なのである。

終演直後の22時には、上杉の公式SNSなどで<ELECTRIC TOUR The Mortal>の追加公演が発表された。今年の同ツアーは高倍率だったので、チケットが取れなかったという人には何よりのクリスマスプレゼントになったのではないだろうか。『The Mortal』の世界観とその表現が今後ますます進化・深化していく様を見届けていきたいと思う。

取材・文:舟見佳子
撮影:朝岡英輔

<上杉昇ELECTRIC TOUR 2019 The Mortal>

2019年3月31日(日)@福岡 UTERO>
2019年4月14日(日)@新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE
2019年4月28日(日)@東京 新代田FEVER
OPEN 17:30 START 18:00
ADV 5,000yen DOOR 5,500yen
TICKET 2019.1.1 AM10:00 ON SALE
オール・スタンディング、未就学児入場不可
INFO http://wesugi.net
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